隠れオメガの整備士は自由になりたい。なのに暴走する最強騎士を身体を張って止めたら、運命の番だとバレて過保護な専属契約を結ばされました

水凪しおん

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第11話「深淵からの呼び声」

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 ゼクスの逮捕により、軍内部の腐敗が一掃されるかと思われた。
 だが、事態はそう単純ではなかった。
 ゼクスが使っていたジャミング装置。あれはただの妨害兵器ではなく、汚染獣を活性化させる周波数を含んでいたのだ。

 その影響が、最悪の形で現れようとしていた。

「緊急警報! 外壁エリアに超大型の熱源反応! クラスS……いえ、測定不能です!」

 基地のサイレンが鳴り止まない。
 モニターに映し出されたのは、山のように巨大な汚染獣だった。
 無数の触手を持ち、全身から黒い霧を噴き出している。
『深淵の王(アビス・ロード)』。
 過去の文献にしか存在しないはずの伝説級の怪物が、ゼクスの撒いた餌に釣られて目を覚ましてしまったのだ。

「全機出撃! なんとしても食い止めろ!」

 だが、一般兵の機装では歯が立たない。
 触手の一撃で装甲が紙のように引き裂かれていく。
 ドーム都市の外壁が軋みを上げ、崩壊寸前だ。

「クレイド! 俺たちも行くぞ!」

 俺は整備ドックで叫んだ。
 銀狼の調整は完璧だ。俺仕様にサブシートも増設してある。
 もう隠れる必要はない。俺は彼のパートナーとして、同じコクピットに乗る。

 しかし、クレイドの表情が優れない。
 彼は銀狼の足元で立ち止まり、拳を震わせていた。

「……だめだ」

「え?」

「お前を乗せるわけにはいかん。相手が大きすぎる。同調率を最大まで上げれば、俺の精神汚染が逆流してお前を壊してしまうかもしれない」

 彼は俺を守ろうとしていた。
 番になったことで、俺を失うことへの恐怖が、彼の枷になっているのだ。

「ふざけるな!」

 俺は彼の胸倉を掴み、力いっぱい揺さぶった。

「あんたは一人で死ぬ気か!? 俺を守って死なれるのが、一番辛いってなんでわかんないんだよ!」

「エリアン……」

「俺はオメガだ。あんたの精神を受け止めるために生まれたんだ。それに、俺たちは番だろ? 痛みも苦しみも半分こにするって決めたんじゃないのかよ!」

 俺の目から涙が溢れた。
 クレイドは驚いたように目を見開き、やがて苦笑した。

「……口の減らないパートナーだ」

 彼は俺の手を取り、その甲に口づけを落とした。

「わかった。命を預ける。その代わり、絶対に手を離すなよ」

「当たり前だ!」

 俺たちは共にリフトへ飛び乗った。
 ハッチが閉まり、閉鎖空間に二人きりの熱が満ちる。
 俺はサブシートに座り、神経接続コネクタを首筋に差し込んだ。

「同調開始(シンクロ・スタート)。……クレイド、愛してるぞ」

「ああ、俺もだ。行くぞ、エリアン!」

 銀狼が咆哮を上げた。
 今までとは次元の違う力が、機体の隅々まで駆け巡るのを感じた。
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