隠れオメガの整備士は自由になりたい。なのに暴走する最強騎士を身体を張って止めたら、運命の番だとバレて過保護な専属契約を結ばされました

水凪しおん

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第10話「晩餐会の断罪」

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 上層区画のホールは、クリスタルのシャンデリアと正装した人々で埋め尽くされていた。
 俺は慣れない礼服に身を包み、クレイドの少し後ろを歩いていた。
 首元まで詰まった襟は、番の痕を隠すためでもあるが、息苦しい。

「顔を上げろ。堂々としていればいい」

 クレイドが小声で囁く。
 彼の登場に、会場の視線が一斉に集まる。
 畏敬、羨望、そして嫉妬。様々な感情が入り混じったドロドロとした空気だ。

「やあ、クレイド君。無事の帰還、おめでとう」

 ワイングラスを片手に近づいてきたのは、軍の重鎮である将軍と、その横に控えるゼクスだった。
 ゼクスは薄ら笑いを浮かべ、俺をジロリとねめつける。

「そちらの整備士君も無事で何よりだ。しかし、平民がこのような場にいるのは少々場違いではないかね?」

「彼は私の功労者です。彼がいなければ、私は戻れなかった」

 クレイドは冷淡に返す。
 将軍は鼻を鳴らした。

「ふむ。ところで、君の機体に関する妙な噂を聞いたよ。なんでも、未登録のオメガを乗せていたとか」

 会場がざわめいた。
 ゼクスが勝ち誇ったように口を開く。

「そうなんです、閣下。私の調査によると、このエリアンという整備士、実は身分を偽ったオメガだという疑いがありましてね。神聖な機装ドックを穢す重罪人です」

 やはり、ここで仕掛けてきたか。
 俺は拳を握りしめた。
 ゼクスの合図で、数名の憲兵が俺を取り囲もうと動く。

「直ちに拘束し、身体検査を行うべきです。もしオメガなら、即刻処分を……」

「触れるな」

 会場の空気が凍りついた。
 クレイドの声は決して大きくなかったが、そこに含まれる殺気は凄まじかった。
 彼は一歩踏み出し、俺と憲兵の間に割って入った。

「ク、クレイド君? 軍規に逆らう気か?」

「彼がオメガであることは事実だ」

 クレイドの告白に、悲鳴のような声が上がる。
 ゼクスが「見たか!」と叫ぼうとした瞬間、クレイドは続けた。

「だが、彼は私の『番』だ。すでに刻印も済ませている」

 彼は俺の襟を引き下げ、首筋の痕を晒した。
 鮮烈な所有の証に、周囲は息を呑む。
 番となったオメガは、アルファの所有物とみなされ、法的な保護下に置かれる。手出しはできない。

「ば、番だと!? 貴様、いつの間に……!」

 ゼクスが狼狽する。
 クレイドは冷ややかな目で彼を見下ろした。

「それに、今回の事故の原因についてだが……ゼクス、貴様の機体から発信されたジャミング波の記録がここにある」

 クレイドが懐からデータチップを取り出し、空中にホログラムを展開した。
 そこには、ゼクスの不正の証拠が明々白々と映し出されていた。

「なっ……これは捏造だ!」

「解析班と監査局の署名入りだ。言い逃れはできんぞ」

 将軍の顔色が変わり、ゼクスから距離を取る。
 形勢逆転だ。
 だが、追い詰められたゼクスは狂気を孕んだ目で俺を睨んだ。

「おのれ……その汚いオメガさえいなければ! 俺が筆頭になるはずだったんだ!」

 彼は隠し持っていたナイフを抜き、俺に向かって突進してきた。
 あまりに唐突な凶行。
 だが、クレイドの方が速かった。

「愚か者が」

 一閃。
 クレイドの手刀がゼクスの手首を打ち抜き、ナイフが床に落ちる乾いた音が響いた。
 次の瞬間、ゼクスは床にねじ伏せられていた。

 騒然とする会場の中で、クレイドは俺を抱き寄せ、誰に言うともなく宣言した。

「エリアンは私の命だ。彼を害する者は、この私が許さない」

 その力強い言葉に、俺は涙が出そうになった。
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