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第04話「触れ合う手と、伝わる温もり」
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あの一瞬の変化以来、ルカとギルベルトの間には、どこかぎこちない空気が流れていた。
ルカの力が、ギルベルトの鎧の呪いに効果があるかもしれない。その可能性は、二人にとって大きな希望であると同時に、新たな戸惑いも生んでいた。
数日後、ついに沈黙を破ったのはギルベルトの方だった。彼は執務室にルカを呼び出すと、重々しく口を開いた。
「ルカ。……俺の、この呪いを浄化することは可能か」
それは問いかけの形をしていたが、彼の瞳の奥には、長年抱え続けてきた苦しみと、藁にもすがるような切実な願いが宿っていた。
ルカはまっすぐにギルベルトを見つめ返すと、こくりとうなずいた。
「正直、やってみなければ分かりません。でも、可能性があります。僕に、やらせてください」
こうして、鎧の呪いの浄化が正式に始まった。
しかし、すぐに問題が判明する。鎧越しに力を注いでも、あの時のような明確な変化は起きないのだ。試行錯誤を繰り返すうち、二人は一つの結論にたどり着いた。浄化を進めるには、鎧ではなく、ギルベルトの肌に直接触れなければならない、と。
ギルベルトはためらった。呪いの影響で、彼の肌は常に氷のように冷たい。そして何より、生まれてから今まで、誰かに素肌で優しく触れられた経験など、彼にはほとんどなかった。
だが、ルカの真摯な瞳に見つめられ、彼は意を決した。
「……わかった」
そう言うと、ゴツゴツとした黒銀の手甲を、ゆっくりと外した。現れたのは、鍛え上げられた、傷の多い無骨な手。しかし、その手は微かに震えていた。
「失礼します」
ルカは厳かな面持ちで言うと、ギルベルトの前にひざまずき、差し出されたその大きな手を、自分の両手でそっと包み込むように握った。
ひやりとした感触が、ルカの手のひらに伝わる。それはまるで、命の温もりが失われたかのような冷たさだった。ルカは、彼がどれほど長い間、この呪いの冷たさの中で孤独に耐えてきたのかを思い、胸が締め付けられるような気持ちになった。
「【聖癒(アフェクション)】」
ルカが静かに祈りを込めると、合わせた手と手の間から、金色の温かい光が生まれ、ギルベルトの手へと流れ込んでいく。
びくり、とギルベルトの肩が揺れた。冷え切った体に、まるで溶けた陽だまりが流れ込んでくるような、生まれて初めて感じる温かさ。その温もりは、血流に乗って鎧へと伝わり、内側から呪いの紋様をじりじりと焼き消していく。ギルベルトを常に苛んでいた鈍い痛みが、確かに和らいでいくのが分かった。
それから毎日、決まった時間に浄化を行うことが二人の日課になった。
最初はただ手を握るだけ。言葉少なな二人の間に、気まずい沈黙が流れることもあった。しかし、浄化の光が灯るたび、二人の間には確かな温もりが生まれ始めていた。
ルカは知った。ギルベルトはただの無愛想な人物なのではない。他者を傷つけないようにと常に神経を張り詰めさせ、深い孤独と痛みを、たった一人で抱え込んできた、誰よりも優しい人なのだと。
そしてギルベルトもまた、知り始めていた。
ルカという青年が持つ、底抜けの優しさと、全てを受け入れるような温かさを。呪われた自分に何の偏見も持たず、ただひたすらに救おうとしてくれるその姿に、ギルベルトの心の氷壁が、少しずつ、しかし確実に溶かされていくのを感じていた。
触れ合う手から伝わるのは、浄化の力だけではなかった。それは、二人の孤独な魂を繋ぐ、優しい温もりそのものだった。
ルカの力が、ギルベルトの鎧の呪いに効果があるかもしれない。その可能性は、二人にとって大きな希望であると同時に、新たな戸惑いも生んでいた。
数日後、ついに沈黙を破ったのはギルベルトの方だった。彼は執務室にルカを呼び出すと、重々しく口を開いた。
「ルカ。……俺の、この呪いを浄化することは可能か」
それは問いかけの形をしていたが、彼の瞳の奥には、長年抱え続けてきた苦しみと、藁にもすがるような切実な願いが宿っていた。
ルカはまっすぐにギルベルトを見つめ返すと、こくりとうなずいた。
「正直、やってみなければ分かりません。でも、可能性があります。僕に、やらせてください」
こうして、鎧の呪いの浄化が正式に始まった。
しかし、すぐに問題が判明する。鎧越しに力を注いでも、あの時のような明確な変化は起きないのだ。試行錯誤を繰り返すうち、二人は一つの結論にたどり着いた。浄化を進めるには、鎧ではなく、ギルベルトの肌に直接触れなければならない、と。
ギルベルトはためらった。呪いの影響で、彼の肌は常に氷のように冷たい。そして何より、生まれてから今まで、誰かに素肌で優しく触れられた経験など、彼にはほとんどなかった。
だが、ルカの真摯な瞳に見つめられ、彼は意を決した。
「……わかった」
そう言うと、ゴツゴツとした黒銀の手甲を、ゆっくりと外した。現れたのは、鍛え上げられた、傷の多い無骨な手。しかし、その手は微かに震えていた。
「失礼します」
ルカは厳かな面持ちで言うと、ギルベルトの前にひざまずき、差し出されたその大きな手を、自分の両手でそっと包み込むように握った。
ひやりとした感触が、ルカの手のひらに伝わる。それはまるで、命の温もりが失われたかのような冷たさだった。ルカは、彼がどれほど長い間、この呪いの冷たさの中で孤独に耐えてきたのかを思い、胸が締め付けられるような気持ちになった。
「【聖癒(アフェクション)】」
ルカが静かに祈りを込めると、合わせた手と手の間から、金色の温かい光が生まれ、ギルベルトの手へと流れ込んでいく。
びくり、とギルベルトの肩が揺れた。冷え切った体に、まるで溶けた陽だまりが流れ込んでくるような、生まれて初めて感じる温かさ。その温もりは、血流に乗って鎧へと伝わり、内側から呪いの紋様をじりじりと焼き消していく。ギルベルトを常に苛んでいた鈍い痛みが、確かに和らいでいくのが分かった。
それから毎日、決まった時間に浄化を行うことが二人の日課になった。
最初はただ手を握るだけ。言葉少なな二人の間に、気まずい沈黙が流れることもあった。しかし、浄化の光が灯るたび、二人の間には確かな温もりが生まれ始めていた。
ルカは知った。ギルベルトはただの無愛想な人物なのではない。他者を傷つけないようにと常に神経を張り詰めさせ、深い孤独と痛みを、たった一人で抱え込んできた、誰よりも優しい人なのだと。
そしてギルベルトもまた、知り始めていた。
ルカという青年が持つ、底抜けの優しさと、全てを受け入れるような温かさを。呪われた自分に何の偏見も持たず、ただひたすらに救おうとしてくれるその姿に、ギルベルトの心の氷壁が、少しずつ、しかし確実に溶かされていくのを感じていた。
触れ合う手から伝わるのは、浄化の力だけではなかった。それは、二人の孤独な魂を繋ぐ、優しい温もりそのものだった。
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