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第5話「深海の森と騎士の影」
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雪山を下りた俺は、次なる目的地、東の海へと向かった。
狙うは『虹色サーモン』。深海に生息し、その身は七色に輝くという幻の魚だ。
港町で小さなボートを借り、沖へと出る。釣り竿を垂らして半日。しかし、一向に当たりはない。
焦りが募る中、海面が不気味に黒ずみ始めた。
嵐が来る。
空があっという間に鉛色に変わり、激しい雨と風が俺の小舟を襲った。
「うわぁっ!」
高波にさらわれ、俺は冷たい海へと投げ出された。
必死に泳ごうとするが、荒れ狂う波に揉まれ、上下の感覚すら失う。息が続かない。視界が暗転していく。
薄れゆく意識の中で、俺は自分を呼ぶ声を聞いた気がした。
『ルエン!』
それは、焦燥に満ちたクラウス様の声に似ていた。
まさか。こんな海の上に彼がいるはずがない。幻聴だ。
そう思った次の瞬間、強い力で腕を引かれた。
誰かに抱きしめられる感覚。そして、唇に柔らかいものが触れ、空気が送り込まれてくる。
俺は激しく咳き込みながら目を開けた。
目の前にあったのは、ずぶ濡れになりながらも、鬼気迫る表情で俺を見つめるクラウス様の顔だった。
「ク、クラウス、様……?」
「喋るな! 海水をのんでいる!」
俺たちは、いつの間にか大型の軍船の甲板に引き上げられていた。
クラウス様は俺を強く抱きしめたまま、離そうとしない。彼の体温が、凍えた俺の体に伝わってくる。その震えが、寒さからくるものではないことに、俺は気づいた。
彼は、震えている。俺を失うことを恐れていたかのように。
「なぜ、こんな無茶をした……!」
「俺は、どうしても手に入れたい食材があって……」
「食材のために命を捨てる気か! お前がいなくなったら……誰が俺に、あの夜食を作ってくれるんだ」
その言葉の裏に隠された意味を、俺はまだ理解できていなかった。
ただ、彼がこれほどまでに感情を露わにしている姿を見るのは初めてだった。
嵐が過ぎ去った後、俺たちは船室で向かい合っていた。
クラウス様は任務で海賊討伐に来ており、偶然俺のボートを見つけたのだという。
俺は正直に、虹色サーモンを探していることを伝えた。ただし、オメガになるためとは言わずに、「究極の料理を作るため」とだけ。
「虹色サーモンか。……ならば、協力しよう」
「えっ? でも、任務が」
「海賊は片付けた。それに、俺もその究極の料理とやらを食べてみたい」
彼の申し出を断れるはずもなかった。
こうして、俺とクラウス様の奇妙な共同作業が始まった。
彼の指揮する軍船のソナーと、俺の魚の習性に関する知識を組み合わせ、ついに虹色サーモンの群れを発見した。
釣り上げた魚体は、宝石のように美しく輝いていた。
二人で網を引き上げた時、俺たちの手が重なった。
ビクリと肩が跳ねる。
クラウス様が、真剣な瞳で俺を見つめていた。
「ルエン。お前は、もっと自分を大事にしろ。お前は……俺にとって、得難い存在なのだから」
その言葉は、まるで告白のように甘く、俺の胸を締め付けた。
だが、これは違う。彼は優秀な部下、あるいは気に入った料理人として俺を見ているだけだ。
俺がオメガになれば。
そうすれば、この言葉を、愛の言葉として受け取ることができるのに。
虹色サーモンを見つめながら、俺の決意は揺らぐどころか、より一層強くなっていった。
狙うは『虹色サーモン』。深海に生息し、その身は七色に輝くという幻の魚だ。
港町で小さなボートを借り、沖へと出る。釣り竿を垂らして半日。しかし、一向に当たりはない。
焦りが募る中、海面が不気味に黒ずみ始めた。
嵐が来る。
空があっという間に鉛色に変わり、激しい雨と風が俺の小舟を襲った。
「うわぁっ!」
高波にさらわれ、俺は冷たい海へと投げ出された。
必死に泳ごうとするが、荒れ狂う波に揉まれ、上下の感覚すら失う。息が続かない。視界が暗転していく。
薄れゆく意識の中で、俺は自分を呼ぶ声を聞いた気がした。
『ルエン!』
それは、焦燥に満ちたクラウス様の声に似ていた。
まさか。こんな海の上に彼がいるはずがない。幻聴だ。
そう思った次の瞬間、強い力で腕を引かれた。
誰かに抱きしめられる感覚。そして、唇に柔らかいものが触れ、空気が送り込まれてくる。
俺は激しく咳き込みながら目を開けた。
目の前にあったのは、ずぶ濡れになりながらも、鬼気迫る表情で俺を見つめるクラウス様の顔だった。
「ク、クラウス、様……?」
「喋るな! 海水をのんでいる!」
俺たちは、いつの間にか大型の軍船の甲板に引き上げられていた。
クラウス様は俺を強く抱きしめたまま、離そうとしない。彼の体温が、凍えた俺の体に伝わってくる。その震えが、寒さからくるものではないことに、俺は気づいた。
彼は、震えている。俺を失うことを恐れていたかのように。
「なぜ、こんな無茶をした……!」
「俺は、どうしても手に入れたい食材があって……」
「食材のために命を捨てる気か! お前がいなくなったら……誰が俺に、あの夜食を作ってくれるんだ」
その言葉の裏に隠された意味を、俺はまだ理解できていなかった。
ただ、彼がこれほどまでに感情を露わにしている姿を見るのは初めてだった。
嵐が過ぎ去った後、俺たちは船室で向かい合っていた。
クラウス様は任務で海賊討伐に来ており、偶然俺のボートを見つけたのだという。
俺は正直に、虹色サーモンを探していることを伝えた。ただし、オメガになるためとは言わずに、「究極の料理を作るため」とだけ。
「虹色サーモンか。……ならば、協力しよう」
「えっ? でも、任務が」
「海賊は片付けた。それに、俺もその究極の料理とやらを食べてみたい」
彼の申し出を断れるはずもなかった。
こうして、俺とクラウス様の奇妙な共同作業が始まった。
彼の指揮する軍船のソナーと、俺の魚の習性に関する知識を組み合わせ、ついに虹色サーモンの群れを発見した。
釣り上げた魚体は、宝石のように美しく輝いていた。
二人で網を引き上げた時、俺たちの手が重なった。
ビクリと肩が跳ねる。
クラウス様が、真剣な瞳で俺を見つめていた。
「ルエン。お前は、もっと自分を大事にしろ。お前は……俺にとって、得難い存在なのだから」
その言葉は、まるで告白のように甘く、俺の胸を締め付けた。
だが、これは違う。彼は優秀な部下、あるいは気に入った料理人として俺を見ているだけだ。
俺がオメガになれば。
そうすれば、この言葉を、愛の言葉として受け取ることができるのに。
虹色サーモンを見つめながら、俺の決意は揺らぐどころか、より一層強くなっていった。
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