悪役令息(Ω)に転生したので、破滅を避けてスローライフを目指します。だけどなぜか最強騎士団長(α)の運命の番に認定され、溺愛ルートに突入!

水凪しおん

文字の大きさ
12 / 13

番外編「独占欲の在り処」

しおりを挟む
 俺、カイ・ヴァレンシュタインは、物心ついた時から、ずっと何かを探していた。

 ヴァレンシュタイン公爵家の嫡男として生まれ、αとしての優れた才を授かり、若くして騎士団長の地位に上り詰めた。
 誰もが俺を羨み、敬ったが、俺の心は常にどこか満たされない乾きを抱えていた。

 父も母も、政略によって結ばれた、愛のない夫婦だった。
 体が弱く、儚げな笑みを浮かべることしかできなかった母は、俺に「運命の番」の存在を教えてくれた人だった。

『カイ。この世界にはね、魂で惹かれ合う、たった一人の相手がいるのよ。その人に出会えたら、きっと、あなたの心も満たされるわ』

 母の言葉を信じ、俺は永い間、運命の番を探し続けてきた。
 数多のΩと出会ったが、心が動くことは一度もなかった。
 俺の魂が求める、特別な相手はどこにもいなかった。
 諦めにも似た感情が、俺の心を氷のように冷たく閉ざしていった。

 そんな俺の前に、リヒト・アシュフィールドは現れた。

 王家の夜会。
 きらびやかな人々の群れの中で、彼はひっそりと、まるで自分の存在を消すかのように佇んでいた。
 みすぼらしい礼服、うつむきがちな翠の瞳。
 だが、なぜか俺は、彼から目を離すことができなかった。

 そして、彼とすれ違った瞬間、ふわりと、今まで嗅いだことのない甘い香りがした。
 それは、俺の心の奥底に眠っていた何かを、揺り動かすような香りだった。

 確信があったわけではない。
 ただ、猛烈に、彼に惹きつけられた。
 彼をもっと知りたい。
 その思いだけで、俺はアシュフィールド領へと足を運んだ。

 領地で再会した彼は、夜会で見た時よりも、ずっと生き生きとしていた。
 領地改革について語るその姿は眩しく、彼が作る素朴だが心のこもった料理は、俺の乾いた心をじんわりと潤してくれた。

 そして、俺は気づいてしまった。
 彼に近づくたびに、あの甘い香りが濃くなることに。
 彼は、何かを隠している。

 その正体が、王城の書庫で明らかになった時、俺は歓喜に打ち震えた。
 ヒートを起こし、潤んだ瞳で俺を見上げるリヒト。
 彼の体から立ち上る、むせ返るような甘いフェロモン。

 ああ、やっと見つけた。
 俺が、永い間探し続けていた、俺だけの番。

 彼を腕に抱いた時、パズルの最後のピースがはまったように、俺の心は完璧に満たされた。
 この温もりを、この香りを、誰にも渡したくない。
 俺だけのものにしたい。

 だが、彼は俺から逃げた。
 俺の想いを、ただのαの本能だとでも思ったのだろうか。
 必死にアプローチをしても、するりとかわされてしまう。
 そのもどかしさが、俺の中の独占欲をさらに掻き立てた。

 エリアスが現れた時は、本気で殺意を覚えた。
 あの男が、リヒトに不躾な視線を向けた瞬間から、俺は奴を敵だと認識した。
 リヒトは俺の番だ。
 誰にも指一本触れさせるものか。

 彼が、俺をかばって嘘の自白をしたと知った時は、胸が張り裂けそうだった。
 愚かで、そして、どうしようもなく愛おしい人。
 必ず助け出す。
 俺のすべてを賭けてでも、お前を取り戻す。
 その一心で、俺はシルヴァーナの闇を暴いた。

 地下牢で再会したリヒトが、俺の胸で泣きじゃくった時、俺は神に感謝した。
 彼を守れたことを。
 そして、彼が俺を信じてくれたことを。

 ようやく、名実ともに俺の番になったリヒト。
 俺の腕の中で、幸せそうに眠る彼の寝顔を見ていると、どうしようもないほどの愛しさがこみ上げてくる。

 もう二度と、この手は離さない。

 俺の独占欲は、きっとこの先も、彼を少しだけ困らせるのだろう。
 だが、それも仕方がないことだ。
 なにせ、永い間探し続けた俺の半身なのだ。
 この愛の重さを、存分に受け止めてもらうとしよう。

「……愛している、リヒト」

 眠る彼の額にキスを落とす。
 俺の人生は、彼という光を見つけたことで、ようやく始まったのだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

悪役令息(Ω)に転生した俺、破滅回避のためΩ隠してαを装ってたら、冷徹α第一王子に婚約者にされて溺愛されてます!?

水凪しおん
BL
前世の記憶を持つ俺、リオネルは、BL小説の悪役令息に転生していた。 断罪される運命を回避するため、本来希少なΩである性を隠し、出来損ないのαとして目立たず生きてきた。 しかし、突然、原作のヒーローである冷徹な第一王子アシュレイの婚約者にされてしまう。 これは破滅フラグに違いないと絶望する俺だが、アシュレイの態度は原作とどこか違っていて……?

婚約破棄で追放された悪役令息の俺、実はオメガだと隠していたら辺境で出会った無骨な傭兵が隣国の皇太子で運命の番でした

水凪しおん
BL
「今この時をもって、貴様との婚約を破棄する!」 公爵令息レオンは、王子アルベルトとその寵愛する聖女リリアによって、身に覚えのない罪で断罪され、全てを奪われた。 婚約、地位、家族からの愛――そして、痩せ衰えた最果ての辺境地へと追放される。 しかし、それは新たな人生の始まりだった。 前世の知識というチート能力を秘めたレオンは、絶望の地を希望の楽園へと変えていく。 そんな彼の前に現れたのは、ミステリアスな傭兵カイ。 共に困難を乗り越えるうち、二人の間には強い絆が芽生え始める。 だがレオンには、誰にも言えない秘密があった。 彼は、この世界で蔑まれる存在――「オメガ」なのだ。 一方、レオンを追放した王国は、彼の不在によって崩壊の一途を辿っていた。 これは、どん底から這い上がる悪役令息が、運命の番と出会い、真実の愛と幸福を手に入れるまでの物語。 痛快な逆転劇と、とろけるほど甘い溺愛が織りなす、異世界やり直しロマンス!

虐げられΩは冷酷公爵に買われるが、実は最強の浄化能力者で運命の番でした

水凪しおん
BL
貧しい村で育った隠れオメガのリアム。彼の運命は、冷酷無比と噂される『銀薔薇の公爵』アシュレイと出会ったことで、激しく動き出す。 強大な魔力の呪いに苦しむ公爵にとって、リアムの持つ不思議な『浄化』の力は唯一の希望だった。道具として屋敷に囚われたリアムだったが、氷の仮面に隠された公爵の孤独と優しさに触れるうち、抗いがたい絆が芽生え始める。 「お前は、俺だけのものだ」 これは、身分も性も、運命さえも乗り越えていく、不器用で一途な二人の成り上がりロマンス。惹かれ合う魂が、やがて世界の理をも変える奇跡を紡ぎ出す――。

希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう

水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」 辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。 ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。 「お前のその特異な力を、帝国のために使え」 強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。 しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。 運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。 偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!

過労死転生した悪役令息Ωは、冷徹な隣国皇帝陛下の運命の番でした~婚約破棄と断罪からのざまぁ、そして始まる激甘な溺愛生活~

水凪しおん
BL
過労死した平凡な会社員が目を覚ますと、そこは愛読していたBL小説の世界。よりにもよって、義理の家族に虐げられ、最後は婚約者に断罪される「悪役令息」リオンに転生してしまった! 「出来損ないのΩ」と罵られ、食事もろくに与えられない絶望的な日々。破滅フラグしかない運命に抗うため、前世の知識を頼りに生き延びる決意をするリオン。 そんな彼の前に現れたのは、隣国から訪れた「冷徹皇帝」カイゼル。誰もが恐れる圧倒的カリスマを持つ彼に、なぜかリオンは助けられてしまう。カイゼルに触れられた瞬間、走る甘い痺れ。それは、αとΩを引き合わせる「運命の番」の兆しだった。 「お前がいいんだ、リオン」――まっすぐな求婚、惜しみない溺愛。 孤独だった悪役令息が、運命の番である皇帝に見出され、破滅の運命を覆していく。巧妙な罠、仕組まれた断罪劇、そして華麗なるざまぁ。絶望の淵から始まる、極上の逆転シンデレラストーリー!

氷の騎士と浄化のオメガ~「出来損ない」と追放された僕ですが、最強の騎士団長様に拾われて、運命の番としてとろとろに溺愛されています~

水凪しおん
BL
「お前のような出来損ないは、我が家の恥だ!」 公爵家の不義の子として生まれ、フェロモンも弱く「出来損ないのオメガ」と虐げられてきたユキ。 18歳の誕生日に濡れ衣を着せられ、真冬の夜、着の身着のままで実家を追放されてしまう。 行き倒れかけたユキを救ったのは、隣国の英雄であり、冷徹無比と恐れられる『氷の騎士団長』レオンハルトだった。 「行く当てがないなら、俺のところへ来い。お前を保護する」 最強の騎士様に拾われたユキだったが、彼を待っていたのは冷遇……ではなく、とろとろに甘やかされる溺愛生活!? しかも、ただの「出来損ない」だと思っていたユキには、国を救い、レオンハルトの「呪い」を解く『聖なる浄化の力』が秘められていて……? 【不器用で一途な最強騎士団長(α) × 健気で料理上手な追放令息(Ω)】 どん底から始まる、運命の救済シンデレラ・オメガバース。 もふもふ聖獣も一緒です!

冷酷なアルファ(氷の将軍)に嫁いだオメガ、実はめちゃくちゃ愛されていた。

水凪しおん
BL
これは、愛を知らなかった二人が、本当の愛を見つけるまでの物語。 国のための「生贄」として、敵国の将軍に嫁いだオメガの王子、ユアン。 彼を待っていたのは、「氷の将軍」と恐れられるアルファ、クロヴィスとの心ない日々だった。 世継ぎを産むための「道具」として扱われ、絶望に暮れるユアン。 しかし、冷たい仮面の下に隠された、不器用な優しさと孤独な瞳。 孤独な夜にかけられた一枚の外套が、凍てついた心を少しずつ溶かし始める。 これは、政略結婚という偽りから始まった、運命の恋。 帝国に渦巻く陰謀に立ち向かう中で、二人は互いを守り、支え合う「共犯者」となる。 偽りの夫婦が、唯一無二の「番」になるまでの軌跡を、どうぞ見届けてください。

出来損ないと虐げられ追放されたオメガですが、辺境で運命の番である最強竜騎士様にその身も心も溺愛され、聖女以上の力を開花させ幸せになります

水凪しおん
BL
虐げられ、全てを奪われた公爵家のオメガ・リアム。無実の罪で辺境に追放された彼を待っていたのは、絶望ではなく、王国最強と謳われるα「氷血の竜騎士」カイルとの運命の出会いだった。「お前は、俺の番だ」――無愛想な最強騎士の不器用で深い愛情に、凍てついた心は溶かされていく。一方、リアムを追放した王都は、偽りの聖女によって滅びの危機に瀕していた。真の浄化の力を巡る、勘違いと溺愛の異世界オメガバースBL。絶望の淵から始まる、世界で一番幸せな恋の物語。

処理中です...