悪役令嬢の兄に転生!破滅フラグ回避でスローライフを目指すはずが、氷の騎士に溺愛されてます

水凪しおん

文字の大きさ
9 / 24

第8話 男と男のダンスは波乱の幕開け

しおりを挟む
 学園主催の夜会が開かれた。きらびやかなシャンデリアがホールを照らし、優雅なワルツの調べが流れる。生徒たちの楽しげな話し声が、心地よく耳に響いていた。

 ――響いていた、のだが。

 俺は壁際で、一人ため息をついていた。
 原因は、ホールの中心で踊る二人の男女。アルフォンス王子と、ヒロインのエリアナだ。

 エリアナは身分こそ低いが、特待生として学園の顔でもある。王子が彼女と一曲踊るのは、いわば当然のことで、何の他意もないはずだ。しかし、その光景は他の生徒たちの目には違って映る。

「お兄様……」

 隣に立つリリアナが、不安そうな声で俺の服の袖を掴んだ。彼女の視線も、王子とエリアナに注がれている。その顔には、寂しさと、ほんの少しの嫉妬の色が浮かんでいた。

 まずい。いくらリリアナとエリアナが友人関係だとはいえ、婚約者が他の女性と親しげにしているのを見れば、不安になるのは当然だ。これが、ゲームのように彼女の闇落ちの引き金にならないとも限らない。

「リリアナ」

 俺は優しく妹の名を呼び、彼女に向かって手を差し伸べた。

「一曲、俺と踊ってくれるかい? 俺の可愛い妹が、壁の花になっているのは我慢ならないからな」

 俺の言葉に、リリアナはきょとんとした顔をしたが、やがて花が咲くように微笑んだ。

「はい、お兄様!」

 俺たちはホールの中心へと進み出た。兄妹で踊ることは、別に珍しいことではない。
 ぎこちないながらも、なんとかリードを取り、リリアナをエスコートする。俺の腕の中で、リリアナは安心したように、先程までの不安な表情を消していた。

(よしよし、これで少しは気分も晴れただろう)

 曲が終わりに近づき、俺が安堵しかけた、その時だった。

 スッと、俺たちの前に一つの影が差し、俺の目の前に片膝をついたのだ。

「アシェル殿。次の一曲、私と踊っていただけないだろうか」

 漆黒の騎士服、冷たいアイスブルーの瞳。そこにいたのは、今夜もなぜか学園のパーティーに姿を現している、サイラス・エインズワースその人だった。

 彼の突然の申し出に、俺は完全に固まった。周囲の音楽や話し声が、一瞬で遠のいていく。

(は……? なんて言った、今この人?)

 男が、男に、ダンスを申し込む? 前代未聞だ。いや、ありえない。
 ホール中の視線が、一斉に俺たちに突き刺さるのがわかった。リリアナも、アルフォンス王子も、エリアナも、皆が信じられないといった顔でこちらを見ている。

「さ、サイラス殿、ご冗談を……。男同士でダンスなど……」

「なぜいけない? 私は、お前と踊りたい」

 彼の瞳は、冗談など言っているようには見えなかった。まっすぐで、真剣で、有無を言わせぬ力強さがあった。
 断れば、この場で彼に恥をかかせることになる。それは、隣国の騎士団長に対して、あまりにも無礼だ。

 進むも地獄、退くも地獄。俺は覚悟を決め、震える手で、彼の手を取った。

「……光栄です」

 次の曲が流れ始める。サイラスは慣れた手つきで俺の腰に手を回し、力強くリードし始めた。彼の動きに翻弄されながら、俺はただステップを踏むことしかできない。

 顔が近い。近すぎる。
 彼の纏う、冷たい冬の夜のような、それでいてどこか熱を帯びた香りが、俺の思考を麻痺させる。

 耳元で、彼の低い声が囁いた。

「……ようやく、捕まえた」

 その言葉の意味を理解するより先に、俺の心臓が、今までにないほど大きく、激しく音を立てた。
 ホール中の注目を浴びながら、俺はただ、この奇妙で、恐ろしく、そしてどこか甘美な時間が、一刻も早く終わることだけを願っていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

身代わり召喚された俺は四人の支配者に溺愛される〜囲い込まれて逃げられません〜

たら昆布
BL
間違って異世界召喚された青年が4人の男に愛される話

悪役令息に転生したのに、ヒーローもヒロインも不在で、拾って育てた執事が最強なんだが……なんで?!

はぴねこ
BL
前世の弟が好きだったゲームの世界に、悪役令息として転生してしまった俺。 本来なら、ヒロインをいじめ、ヒーローが活躍するための踏み台になる…… そんな役割のはずなのに、ヒーローともヒロインとも出会えない。 いじめる対象すら見つけられない新米悪役令息とか、ポンコツすぎないだろうか? そんな俺に反して、子供の頃に拾って育てた執事は超優秀で、なぜか「悪役執事スキル」を着実に磨いている。 ……いや、違う! そうじゃない!! 悪役にならなきゃいけないのは俺なんだってば!!! 

悪役会計様に転生した俺は、生徒会長に媚び売って生き残る

桜城 寧
BL
処刑された記憶とともに、BLゲームに登場する悪役会計に転生したことに気付く。処刑されないために、チャラ男としての仮面を被り、生徒会長に媚び売ったり、どうにか能力を駆使したりして生きてたら、色々な人に構われる話。

【新版】転生悪役モブは溺愛されんでいいので死にたくない!

煮卵
BL
ゲーム会社に勤めていた俺はゲームの世界の『婚約破棄』イベントの混乱で殺されてしまうモブに転生した。 処刑の原因となる婚約破棄を避けるべく王子に友人として接近。 なんか数ヶ月おきに繰り返される「恋人や出会いのためのお祭り」をできる限り第二皇子と過ごし、 婚約破棄の原因となる主人公と出会うきっかけを徹底的に排除する。 最近では監視をつけるまでもなくいつも一緒にいたいと言い出すようになった・・・ やんごとなき血筋のハンサムな王子様を淑女たちから遠ざけ男の俺とばかり過ごすように 仕向けるのはちょっと申し訳ない気もしたが、俺の運命のためだ。仕方あるまい。 クレバーな立ち振る舞いにより、俺の死亡フラグは完全に回避された・・・ と思ったら、婚約の儀の当日、「私には思い人がいるのです」 と言いやがる!一体誰だ!? その日の夜、俺はゲームの告白イベントがある薔薇園に呼び出されて・・・ ーーーーーーーー この作品は以前投稿した「転生悪役モブは溺愛されんで良いので死にたくない!」に 加筆修正を加えたものです。 リュシアンの転生前の設定や主人公二人の出会いのシーンを追加し、 あまり描けていなかったキャラクターのシーンを追加しています。 展開が少し変わっていますので新しい小説として投稿しています。 続編出ました 転生悪役令嬢は溺愛されんでいいので推しカプを見守りたい! https://www.alphapolis.co.jp/novel/687110240/826989668 ーーーー 校正・文体の調整に生成AIを利用しています。

この俺が正ヒロインとして殿方に求愛されるわけがない!

ゆずまめ鯉
BL
五歳の頃の授業中、頭に衝撃を受けたことから、自分が、前世の妹が遊んでいた乙女ゲームの世界にいることに気づいてしまったニエル・ガルフィオン。 ニエルの外見はどこからどう見ても金髪碧眼の美少年。しかもヒロインとはくっつかないモブキャラだったので、伯爵家次男として悠々自適に暮らそうとしていた。 これなら異性にもモテると信じて疑わなかった。 ところが、正ヒロインであるイリーナと結ばれるはずのチート級メインキャラであるユージン・アイアンズが熱心に構うのは、モブで攻略対象外のニエルで……!? ユージン・アイアンズ(19)×ニエル・ガルフィオン(19) 公爵家嫡男と伯爵家次男の同い年BLです。

妹を救うためにヒロインを口説いたら、王子に求愛されました。

藤原遊
BL
乙女ゲームの悪役令息に転生したアラン。 妹リリィが「悪役令嬢として断罪される」未来を変えるため、 彼は決意する――ヒロインを先に口説けば、妹は破滅しない、と。 だがその“奇行”を見ていた王太子シリウスが、 なぜかアラン本人に興味を持ち始める。 「君は、なぜそこまで必死なんだ?」 「妹のためです!」 ……噛み合わないはずの会話が、少しずつ心を動かしていく。 妹は完璧令嬢、でも内心は隠れ腐女子。 ヒロインは巻き込まれて腐女子覚醒。 そして王子と悪役令息は、誰も知らない“仮面の恋”へ――。 断罪回避から始まる勘違い転生BL×宮廷ラブストーリー。 誰も不幸にならない、偽りと真実のハッピーエンド。

処理中です...