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第7話 氷の騎士のアプローチが止まらない
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ヒロイン・エリアナとの友好関係も無事に築け、俺の学園生活は、まさにスローライフそのものだった。
授業が終われば家庭菜園の世話をし、時々リリアナや友人たちとお茶をする。穏やかで、波風の立たない、理想的な日々。
――のはずだった。一人、不穏分子を除いては。
「アシェル」
学園の食堂で昼食をとっていると、なんの前触れもなく、その男は俺の向かいの席に腰を下ろした。
「……サイラス殿。どうしてここに」
隣国からの長期滞在も、そろそろ終わりに近づいているはずの氷の騎士様、サイラス・エインズワース。彼はガルニア騎士団との合同訓練という名目で、いまだに王都に留まっていた。そして、なぜか俺に会うたびに、こうして声をかけてくる。
彼は俺のプレートに乗っているサンドイッチを一瞥すると、おもむろに口を開いた。
「その野菜。お前の畑で採れたものか」
「ええ、まあ……」
俺が持参した弁当のレタスが自家製であることになぜ気づいたのか。彼の観察眼に若干引いていると、サイラスはこともなげに続けた。
「美味そうだな」
「はあ」
「今度、俺にも食わせてくれ」
「……」
これはもう、ただの偶然の遭遇ではない。彼は明らかに、意図的に俺に接触してきている。
俺はついに、この謎の行動について、本人に直接問いただす覚悟を決めた。
その日の放課後、俺はいつものように家庭菜園へ向かった。案の定、そこには先客がいた。漆黒の騎士服ではなく、簡素なシャツ姿のサイラスが、腕を組んで俺の畑を眺めている。
「……サイラス殿。単刀直入にお聞きします。なぜ、俺に構うんですか?」
俺はクワを片手に、できるだけ平静を装って尋ねた。
「俺は公爵家の長男ですが、しがない一学生で、あなたのような隣国の騎士団長と、これほど親しくする理由が見当たりません。何か、俺に目的があるのですか?」
俺の問いに、サイラスはゆっくりとこちらを振り返った。夕陽を背にしたそのアイスブルーの瞳が、まっすぐに俺を射抜く。
「目的、か」
彼は少しだけ考え込むような素振りを見せた後、静かに、しかしはっきりとした口調で言った。
「お前が、面白いからだ」
「……は?」
またしても、予想の斜め上を行く答えだった。
「面白い……ですか?」
「そうだ。お前は公爵家の人間でありながら、土にまみれることを厭わない。貴族の面倒な慣習を嫌い、自分の手で何かを生み出すことに喜びを感じている。それでいて、守るべきもののためには、誰よりも冷静に、狡猾に立ち回ることもできる」
彼の言葉に、俺は息を呑んだ。彼は、俺の本質を、かなり正確に見抜いている。
「俺の周りには、お前のような人間はいなかった。だから……」
そこで彼は一度言葉を切り、一歩、俺に近づいた。その真剣な眼差しから、目が離せない。
「もっと、お前のことを知りたい」
その静かな、しかし力強い告白に、俺の心臓がどきりと音を立てた。なんだ、この雰囲気は。まるで、恋愛ゲームのワンシーンのようだ。
(いやいやいや、待て待て! 断じてBLゲームじゃないんだぞ、これは乙女ゲームだ!)
俺は必死に心の中で叫んだ。スローライフを送るためには、こんな面倒なイケメンに好意(?)を寄せられては困るのだ。
しかし、彼のあまりにも真摯な瞳に、「迷惑です」とはっきり拒絶することはできなかった。
そして同時に、これまでただの「厄介な存在」としてしか見ていなかった彼のことを、少しずつ無視できなくなっていく自分に気づき始めていた。
俺のスローライフ計画に、恋愛という名の、最大級の変数が追加された瞬間だった。
授業が終われば家庭菜園の世話をし、時々リリアナや友人たちとお茶をする。穏やかで、波風の立たない、理想的な日々。
――のはずだった。一人、不穏分子を除いては。
「アシェル」
学園の食堂で昼食をとっていると、なんの前触れもなく、その男は俺の向かいの席に腰を下ろした。
「……サイラス殿。どうしてここに」
隣国からの長期滞在も、そろそろ終わりに近づいているはずの氷の騎士様、サイラス・エインズワース。彼はガルニア騎士団との合同訓練という名目で、いまだに王都に留まっていた。そして、なぜか俺に会うたびに、こうして声をかけてくる。
彼は俺のプレートに乗っているサンドイッチを一瞥すると、おもむろに口を開いた。
「その野菜。お前の畑で採れたものか」
「ええ、まあ……」
俺が持参した弁当のレタスが自家製であることになぜ気づいたのか。彼の観察眼に若干引いていると、サイラスはこともなげに続けた。
「美味そうだな」
「はあ」
「今度、俺にも食わせてくれ」
「……」
これはもう、ただの偶然の遭遇ではない。彼は明らかに、意図的に俺に接触してきている。
俺はついに、この謎の行動について、本人に直接問いただす覚悟を決めた。
その日の放課後、俺はいつものように家庭菜園へ向かった。案の定、そこには先客がいた。漆黒の騎士服ではなく、簡素なシャツ姿のサイラスが、腕を組んで俺の畑を眺めている。
「……サイラス殿。単刀直入にお聞きします。なぜ、俺に構うんですか?」
俺はクワを片手に、できるだけ平静を装って尋ねた。
「俺は公爵家の長男ですが、しがない一学生で、あなたのような隣国の騎士団長と、これほど親しくする理由が見当たりません。何か、俺に目的があるのですか?」
俺の問いに、サイラスはゆっくりとこちらを振り返った。夕陽を背にしたそのアイスブルーの瞳が、まっすぐに俺を射抜く。
「目的、か」
彼は少しだけ考え込むような素振りを見せた後、静かに、しかしはっきりとした口調で言った。
「お前が、面白いからだ」
「……は?」
またしても、予想の斜め上を行く答えだった。
「面白い……ですか?」
「そうだ。お前は公爵家の人間でありながら、土にまみれることを厭わない。貴族の面倒な慣習を嫌い、自分の手で何かを生み出すことに喜びを感じている。それでいて、守るべきもののためには、誰よりも冷静に、狡猾に立ち回ることもできる」
彼の言葉に、俺は息を呑んだ。彼は、俺の本質を、かなり正確に見抜いている。
「俺の周りには、お前のような人間はいなかった。だから……」
そこで彼は一度言葉を切り、一歩、俺に近づいた。その真剣な眼差しから、目が離せない。
「もっと、お前のことを知りたい」
その静かな、しかし力強い告白に、俺の心臓がどきりと音を立てた。なんだ、この雰囲気は。まるで、恋愛ゲームのワンシーンのようだ。
(いやいやいや、待て待て! 断じてBLゲームじゃないんだぞ、これは乙女ゲームだ!)
俺は必死に心の中で叫んだ。スローライフを送るためには、こんな面倒なイケメンに好意(?)を寄せられては困るのだ。
しかし、彼のあまりにも真摯な瞳に、「迷惑です」とはっきり拒絶することはできなかった。
そして同時に、これまでただの「厄介な存在」としてしか見ていなかった彼のことを、少しずつ無視できなくなっていく自分に気づき始めていた。
俺のスローライフ計画に、恋愛という名の、最大級の変数が追加された瞬間だった。
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