悪役令嬢の兄に転生!破滅フラグ回避でスローライフを目指すはずが、氷の騎士に溺愛されてます

水凪しおん

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第12話 騎士の帰還と、告げられた陰謀

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 リリアナとアルフォンス王子の関係も修復に向かい、俺の心に再び平穏が訪れたある日の夕暮れ。自室で読書をしていると、扉が控えめにノックされた。

「アシェル様、お客様がお見えです」

「お客様? こんな時間に誰だろう」

 侍女の言葉に首を傾げながら応接室へ向かうと、そこに立っていたのは、旅の疲れを滲ませながらも、以前と変わらぬ鋭い眼光を放つ漆黒の騎士――サイラスだった。

「サイラス……殿?」

 彼の姿を認めた瞬間、俺の心臓が大きく音を立てた。忘れていたはずの胸の高鳴りが、一瞬で蘇る。

 彼は帰ってきていたのだ。あの国境の地から。

「……久しぶりだな、アシェル」

 彼の声は、長旅のせいか少しだけ掠れていた。俺は動揺を悟られまいと、必死に平静を装う。

「お帰りなさい、サイラス殿。調査、ご苦労様でした」

「ああ」

 彼は短く応えると、まっすぐに俺の元へと歩み寄ってきた。
 そして、開口一番、あまりにも率直な言葉を投げかけてきた。

「お前に、会いたかった」

 その真摯な言葉と力強い視線に、俺の心は激しく揺さぶられた。
 ただ会いたかった、と。それだけを言うために、彼は城への帰還報告もそこそこに、このヴァイス家の屋敷まで、その足でまっすぐやってきたというのか。

「……な、何を言っているんですか」

「言葉通りの意味だ」

 俺が言葉に詰まっていると、彼はふっと表情を和らげ、少しだけ困ったように微笑んだ。彼がそんな顔をするのを、俺は初めて見た。

「……少し、話をしてもいいか。お前にだけ、打ち明けておきたいことがある」

 彼のただならぬ雰囲気に、俺はゴクリと唾を飲んだ。そして、彼を自室へと招き入れた。

 二人きりになった部屋で、サイラスはソファに深く腰掛け、重々しく口を開いた。

「国境の魔物は、何者かが人為的に引き寄せたものだった」

「なんだって?」

「魔物を引き寄せる性質を持つ、禁忌の魔道具が使われた形跡があった。おそらく、国境の緊張を高め、軍備を増強させるための口実作りだろう」

 彼の言葉に、俺は背筋が凍るのを感じた。そんなことをして、一体誰が得をするというのか。

「犯人の目星はついているのか?」

「まだ確証はない。だが、この国の貴族の中に、黒幕がいることは間違いない」

 そして、彼は鋭い目で俺を見つめ、言った。

「その陰謀に、ヴァイス家が巻き込まれる可能性がある」

「……どういうことだ?」

「黒幕は、現体制の転覆を狙っているのかもしれない。そうなれば、王家に近い有力貴族であるヴァイス家は、邪魔な存在になる」

 国を揺るがす、巨大な陰謀の影。平和なスローライフを望んでいた俺にとって、それはあまりにもスケールの大きい、悪夢のような話だった。

「なぜ、その話を俺に?」

 俺が尋ねると、サイラスは静かに答えた。

「お前は、俺が信頼できる唯一の人間だからだ」

 その言葉は、どんな甘い囁きよりも、深く俺の胸に突き刺さった。彼は、この国の誰でもなく、俺を頼ってくれたのだ。

「……わかった。俺に協力できることがあるなら、何でも言ってくれ」

 俺は、気づけばそう答えていた。リリアナを守るため。そして、俺を信頼してくれた、目の前のこの男のために。

 俺がそう告げると、サイラスは安堵したように息をつき、そして、ほんの少しだけ優しい顔で俺を見つめた。

「ありがとう、アシェル」

 この日を境に、俺が望んだスローライフは終わりを告げた。
 そして、俺とサイラスの、危険で、秘密の多い、新しい関係が始まったのだ。
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