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第11話 兄の助言と、揺れる婚約
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サイラスが王都を離れて一ヶ月ほどが経った。彼の不在によって訪れた平穏にもすっかり慣れた頃、俺は新たな問題に直面していた。
リリアナとアルフォンス王子の関係が、少しギクシャクし始めたのだ。
きっかけは些細なことだった。学園の中庭で、エリアナが魔術の練習中に転んで怪我をした。そこに居合わせたアルフォンス王子が、彼女を心配して医務室まで運んでいった。ただそれだけのことだ。
しかし、その光景を遠くから見てしまったリリアナは、深く傷ついていた。友人であるエリアナを心配する気持ちと、婚約者である王子が他の令嬢に優しくする姿への嫉妬。二つの感情の間で、彼女の心は揺れていた。
ゲームのシナリオであれば、ここからリリアナはエリアナへの嫌がらせをエスカレートさせ、闇落ちルートへと突き進んでいく。しかし、今のリリアナは違った。
その日の夜、リリアナは俺の部屋を訪ねてきた。そして、目に涙を浮かべながら、一人で抱え込まずに、俺にすべてを打ち明けてくれたのだ。
「わたくし、エリアナ様のことは好きですわ。でも、殿下がエリアナ様と親しくされているのを見ると、胸が苦しくなるのです……。こんな醜い気持ちを抱いてしまう自分が、嫌になりますわ」
そう言って泣きじゃくる妹を見て、俺は心から安堵した。俺の教育は、間違っていなかった。彼女は、自分の感情に正面から向き合い、それを相談できる強さを持ったのだ。
「リリアナ、それは醜い気持ちなんかじゃない。好きな人が他の誰かと仲良くしていたら、不安になるのは当たり前のことだ。お前は何も悪くないよ」
俺は彼女を優しく抱きしめ、その背中をゆっくりと撫でた。
「でも、その気持ちを、エリアナ嬢に向けてはいけない。わかるね?」
「……はい、お兄様」
「問題は、殿下の配慮のなさにある。兄として、少し話をしてくるよ」
翌日、俺はアルフォンス王子を中庭の東屋に呼び出した。サイラスの時のように面倒なことにはなりたくなかったが、可愛い妹のためだ。
「アルフォンス殿下。本日はお時間をいただき、ありがとうございます」
「アシェル殿か。どうしたのだ、改まって」
俺は穏やかな表情を崩さずに、しかし、はっきりと本題を切り出した。
「殿下がエリアナ嬢を気に掛けていらっしゃることは、存じております。彼女は優しく、素晴らしい女性ですから、殿下が惹かれるお気持ちも理解できます」
俺の言葉に、王子は少し気まずそうな顔をした。
「しかし、殿下。あなたには、リリアナという婚約者がおります。あなたが他の女性に優しくすれば、彼女がどれほど心を痛めるか、お考えになったことはおありでしょうか」
「それは……」
「エリアナ嬢とリリアナは友人です。しかし、友人だからこそ、リリアナは自分の気持ちを押し殺している。殿下の行動は、二人の友情に亀裂を入れかねない、危険なものなのです」
俺の言葉は、決して王子を責めるものではない。ただ、事実を淡々と伝えただけだ。
「婚約者への配慮が足りない、と。そう言いたいのだな」
「恐れながら。殿下が真に国の未来を思うのであれば、まず、隣に立つべき一人の女性の心を、大切になさっていただきたいのです」
アルフォンス王子は、しばらくの間、何かを考えるように黙り込んでいた。
そして、やがて顔を上げると、決意を秘めた目で俺を見つめた。
「……わかった。君の言う通りだ。私は、リリアナの気持ちを考えていなかった。これからは、もっと彼女と向き合おう」
その真摯な言葉に、俺は深く頭を下げた。
「ご理解いただき、感謝いたします」
これで、リリアナと王子の間の問題も解決に向かうだろう。
ゲームのシナリオという抗いがたい引力が働いているのかもしれないが、一つ一つ丁寧に対処していけば、未来は必ず変えられる。
俺は再び手に入れた平穏を噛み締めながら、遠い国境の地にいる、あの氷の騎士の顔を、なぜかふと思い浮かべていた。
リリアナとアルフォンス王子の関係が、少しギクシャクし始めたのだ。
きっかけは些細なことだった。学園の中庭で、エリアナが魔術の練習中に転んで怪我をした。そこに居合わせたアルフォンス王子が、彼女を心配して医務室まで運んでいった。ただそれだけのことだ。
しかし、その光景を遠くから見てしまったリリアナは、深く傷ついていた。友人であるエリアナを心配する気持ちと、婚約者である王子が他の令嬢に優しくする姿への嫉妬。二つの感情の間で、彼女の心は揺れていた。
ゲームのシナリオであれば、ここからリリアナはエリアナへの嫌がらせをエスカレートさせ、闇落ちルートへと突き進んでいく。しかし、今のリリアナは違った。
その日の夜、リリアナは俺の部屋を訪ねてきた。そして、目に涙を浮かべながら、一人で抱え込まずに、俺にすべてを打ち明けてくれたのだ。
「わたくし、エリアナ様のことは好きですわ。でも、殿下がエリアナ様と親しくされているのを見ると、胸が苦しくなるのです……。こんな醜い気持ちを抱いてしまう自分が、嫌になりますわ」
そう言って泣きじゃくる妹を見て、俺は心から安堵した。俺の教育は、間違っていなかった。彼女は、自分の感情に正面から向き合い、それを相談できる強さを持ったのだ。
「リリアナ、それは醜い気持ちなんかじゃない。好きな人が他の誰かと仲良くしていたら、不安になるのは当たり前のことだ。お前は何も悪くないよ」
俺は彼女を優しく抱きしめ、その背中をゆっくりと撫でた。
「でも、その気持ちを、エリアナ嬢に向けてはいけない。わかるね?」
「……はい、お兄様」
「問題は、殿下の配慮のなさにある。兄として、少し話をしてくるよ」
翌日、俺はアルフォンス王子を中庭の東屋に呼び出した。サイラスの時のように面倒なことにはなりたくなかったが、可愛い妹のためだ。
「アルフォンス殿下。本日はお時間をいただき、ありがとうございます」
「アシェル殿か。どうしたのだ、改まって」
俺は穏やかな表情を崩さずに、しかし、はっきりと本題を切り出した。
「殿下がエリアナ嬢を気に掛けていらっしゃることは、存じております。彼女は優しく、素晴らしい女性ですから、殿下が惹かれるお気持ちも理解できます」
俺の言葉に、王子は少し気まずそうな顔をした。
「しかし、殿下。あなたには、リリアナという婚約者がおります。あなたが他の女性に優しくすれば、彼女がどれほど心を痛めるか、お考えになったことはおありでしょうか」
「それは……」
「エリアナ嬢とリリアナは友人です。しかし、友人だからこそ、リリアナは自分の気持ちを押し殺している。殿下の行動は、二人の友情に亀裂を入れかねない、危険なものなのです」
俺の言葉は、決して王子を責めるものではない。ただ、事実を淡々と伝えただけだ。
「婚約者への配慮が足りない、と。そう言いたいのだな」
「恐れながら。殿下が真に国の未来を思うのであれば、まず、隣に立つべき一人の女性の心を、大切になさっていただきたいのです」
アルフォンス王子は、しばらくの間、何かを考えるように黙り込んでいた。
そして、やがて顔を上げると、決意を秘めた目で俺を見つめた。
「……わかった。君の言う通りだ。私は、リリアナの気持ちを考えていなかった。これからは、もっと彼女と向き合おう」
その真摯な言葉に、俺は深く頭を下げた。
「ご理解いただき、感謝いたします」
これで、リリアナと王子の間の問題も解決に向かうだろう。
ゲームのシナリオという抗いがたい引力が働いているのかもしれないが、一つ一つ丁寧に対処していけば、未来は必ず変えられる。
俺は再び手に入れた平穏を噛み締めながら、遠い国境の地にいる、あの氷の騎士の顔を、なぜかふと思い浮かべていた。
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