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第2話「魔の森の主」
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雨が止み、森には濃い霧が立ち込めていた。
カイルは重い体を引きずるように、当てもなく森の奥へと歩を進めていた。もはや生きる希望などなかったが、ただ無為に死を待つことだけができなかった。
「いっそ、魔物に喰われた方が楽になれるだろうか……」
自嘲的なつぶやきが漏れる。
しかし、不思議なことに、魔物の気配はあれど、一向に襲いかかってくる様子はなかった。
低く唸る声が聞こえたかと思えば、カイルの姿を認めた途端、まるで何かを恐れるかのように後ずさり、闇の中へと消えていく。
最初は偶然かと思った。だが、それが何度も続くと、カイルもさすがに違和感を覚えざるを得ない。魔物たちは、明らかに自分を避けている。
***
まるで目に見えない何かに導かれるように、カイルは森の最深部へと足を踏み入れていた。
瘴気が渦を巻き、木々は禍々しくねじ曲がっている。空気は重く、肌を刺すようだ。普通の人間ならば、この瘴気に触れただけで正気を失うだろう。
やがて、霧の向こうに巨大な城のシルエットが浮かび上がった。
黒曜石を切り出したかのような、壮麗でありながらもどこか退廃的な雰囲気をまとう古城。城壁には枯れた茨がびっしりと絡みつき、まるで巨大な生き物が眠っているかのようだった。
「城……? こんな場所に、誰が……」
吸い寄せられるように、カイルは固く閉ざされた城門に手を触れる。その瞬間、重々しい音を立てて、門がひとりでに開いた。
城内は静寂に包まれていた。埃っぽく、ひやりとした空気が漂っている。カイルは警戒しながらも、大広間と思われる場所へと歩を進めた。
広間の最奥。ステンドグラスから差し込む月明かりが、そこに鎮座する一つの玉座を照らし出していた。
そして、カイルは息をのんだ。
玉座に、一人の男が座っていた。
夜の闇を溶かし込んだような漆黒の髪、雪のように白い肌、そして彫刻のように整った顔立ち。その存在感は圧倒的で、人間離れした美しさを放っていた。
だが、その表情は苦悶に歪んでいた。彼の全身には、まるで生きているかのように茨の形をした黒い紋様が浮かび上がり、脈打つように禍々しい光を放っている。
それは、一目でわかる強力な呪いだった。
男はゆっくりと顔を上げた。月光を反射する、血のように赤い瞳がカイルを捉える。その視線は凍てつくように冷たく、尋常ではない魔力がビリビリと肌を焼いた。
「……何者だ、貴様。我の眠りを妨げる愚か者は」
地を這うような低い声。それは紛れもなく、この魔の森を統べる主の声だった。
恐怖で足がすくむ。目の前にいるのは、伝説やおとぎ話で語られる存在――魔王その人なのだと、カイルは直感で理解した。
カイルは重い体を引きずるように、当てもなく森の奥へと歩を進めていた。もはや生きる希望などなかったが、ただ無為に死を待つことだけができなかった。
「いっそ、魔物に喰われた方が楽になれるだろうか……」
自嘲的なつぶやきが漏れる。
しかし、不思議なことに、魔物の気配はあれど、一向に襲いかかってくる様子はなかった。
低く唸る声が聞こえたかと思えば、カイルの姿を認めた途端、まるで何かを恐れるかのように後ずさり、闇の中へと消えていく。
最初は偶然かと思った。だが、それが何度も続くと、カイルもさすがに違和感を覚えざるを得ない。魔物たちは、明らかに自分を避けている。
***
まるで目に見えない何かに導かれるように、カイルは森の最深部へと足を踏み入れていた。
瘴気が渦を巻き、木々は禍々しくねじ曲がっている。空気は重く、肌を刺すようだ。普通の人間ならば、この瘴気に触れただけで正気を失うだろう。
やがて、霧の向こうに巨大な城のシルエットが浮かび上がった。
黒曜石を切り出したかのような、壮麗でありながらもどこか退廃的な雰囲気をまとう古城。城壁には枯れた茨がびっしりと絡みつき、まるで巨大な生き物が眠っているかのようだった。
「城……? こんな場所に、誰が……」
吸い寄せられるように、カイルは固く閉ざされた城門に手を触れる。その瞬間、重々しい音を立てて、門がひとりでに開いた。
城内は静寂に包まれていた。埃っぽく、ひやりとした空気が漂っている。カイルは警戒しながらも、大広間と思われる場所へと歩を進めた。
広間の最奥。ステンドグラスから差し込む月明かりが、そこに鎮座する一つの玉座を照らし出していた。
そして、カイルは息をのんだ。
玉座に、一人の男が座っていた。
夜の闇を溶かし込んだような漆黒の髪、雪のように白い肌、そして彫刻のように整った顔立ち。その存在感は圧倒的で、人間離れした美しさを放っていた。
だが、その表情は苦悶に歪んでいた。彼の全身には、まるで生きているかのように茨の形をした黒い紋様が浮かび上がり、脈打つように禍々しい光を放っている。
それは、一目でわかる強力な呪いだった。
男はゆっくりと顔を上げた。月光を反射する、血のように赤い瞳がカイルを捉える。その視線は凍てつくように冷たく、尋常ではない魔力がビリビリと肌を焼いた。
「……何者だ、貴様。我の眠りを妨げる愚か者は」
地を這うような低い声。それは紛れもなく、この魔の森を統べる主の声だった。
恐怖で足がすくむ。目の前にいるのは、伝説やおとぎ話で語られる存在――魔王その人なのだと、カイルは直感で理解した。
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