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第4話「恋のライバルは、やっかいな貴公子」
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僕とカイの関係は、学院内で完全に「異質なもの」として定着していた。学院一の優等生が、出来の悪い劣等生に付きっきりで世話を焼いている。その光景は多くの生徒、特にカイに憧れる者たちにとっては面白くないことこの上ないらしかった。そして、その不満の矛先は当然のように僕へと向けられた。
その筆頭格が、ゼノン・アークライトだった。彼は高名な公爵家の嫡男で、カイに次ぐ実力者と目されているプライドの高い男だ。カイに対して強いライバル心を燃やしており、何かにつけて張り合っていた。
「おい、劣等生」
その日も、僕が一人で図書館に向かっていると、ゼノンが取り巻きを連れて行く手を塞いだ。僕は面倒なことになった、と内心で舌打ちする。
「カイ様は、お前のような出来損ないのそばにいてやるほど暇ではないはずだ。一体、どんな汚い手を使ってあの方をたぶらかした?」
ゼノンの目は、僕を汚物でも見るかのように冷え切っていた。彼の言葉は、僕が心の奥底で感じていた不安そのものだった。そうだ、僕なんかといてもカイにとっては何の得もない。むしろ、彼の評価を落とすだけだ。
「……別に、たぶらかしたりしてない」
「ほう、しらばっくれる気か。いいだろう。ならば、力ずくで思い出させてやる。お前がどれだけカイ様に不釣り合いな存在であるかをな!」
ゼノンが杖を構え、その切っ先から魔力の光がほとばしる。まずい、と思った瞬間、僕の腕がぐいと引かれ、背中が誰かの硬い胸板にぶつかった。
「俺の婚約者に、何か用か?」
背後から聞こえたのは、氷のように冷たいカイの声だった。いつの間にか現れた彼は、僕を背中にかばうようにしてゼノンの前に立ちはだかっていた。その肩は広く、僕からはゼノンの姿が完全に見えなくなる。
「カイ様……! なぜこのような男をかばうのですか! こいつはあなたの名誉を汚すだけの存在だ!」
「俺の名誉を汚すかどうかは、俺が決めることだ。君ではない」
カイの声には一切の感情が乗っていない。それが逆に、彼の静かな怒りを物語っていた。
「アキトは、俺が選んだ人間だ。彼への侮辱は、俺への侮辱と見なす。それでも続けるというのなら、相応の覚悟をしてもらう」
カイが一歩前に出ると、ゼノンと彼の取り巻きたちが気圧されたように後ずさった。普段は穏やかなカイが見せる圧倒的な覇気。それは実力と自信に裏打ちされた、王者の風格だった。
ゼノンは悔しそうに顔を歪め、唇を噛んだ。
「……覚えていろ、劣等生」
彼は僕を睨みつけ、捨て台詞を残してその場を去っていった。
嵐が去った後、カイがゆっくりとこちらを振り返った。その顔にはもう怒りの色はなかった。代わりに、心配そうな表情で僕の顔を覗き込んでくる。
「怪我はなかったか、アキト」
「……うん。ありがとう、助かった」
僕は俯きながら、かろうじてそれだけを言った。彼が助けてくれたことは嬉しい。けれどそれ以上に、ゼノンの言葉が重く心にのしかかっていた。
「僕、やっぱりあんたの迷惑になってる」
僕がそう言うと、カイは眉をひそめた。
「なぜそう思う」
「だって、今の見たろ? 僕といるせいで、あんたまで悪く言われるんだ。僕なんかと関わらない方が……」
「黙れ」
僕の言葉を遮ったのは、静かだが有無を言わせぬ強い口調だった。僕は驚いて顔を上げる。カイは、見たこともないほど真剣な顔で僕を見つめていた。
「いいか、アキト。誰が何を言おうと関係ない。君のそばにいると決めたのは俺だ。他の誰の許可も必要ない。迷惑だなんて、二度と言うな」
彼の青い瞳が、僕の心の奥まで見透かすように射抜く。その視線から、僕は逃れることができなかった。
「でも……」
「でも、じゃない。俺は、君がいいんだ。君じゃなきゃ、だめなんだ」
それは、まるで告白のようだった。あまりにも真っ直ぐな言葉に、僕の心臓が大きく跳ねる。顔に熱が集まっていくのが分かる。
カイは、僕が何も言えずにいると、ふっと表情を和らげ困ったように微笑んだ。
「……すまない。少し、熱くなった」
彼はそう言って、僕の頭を優しく撫でた。大きな手のひらが、僕の髪をくしゃりと掻き混ぜる。その感触が、なぜかひどく心地よかった。
「さあ、行こう。図書館だったな。俺も付き合う」
彼は当たり前のように僕の隣に並んで歩き出す。僕はまだ心臓がうるさいまま、彼の半歩後ろをついて歩いた。
カイは、僕を守ってくれた。誰に何を言われようと、僕のそばにいると断言してくれた。僕じゃなきゃだめだと、言ってくれた。
その言葉が、僕の胸の中で何度も反響する。自己肯定感なんてほとんど持ち合わせていなかった僕の心に、カイの言葉が温かい光を灯していく。
ゼノンのような人間がいる限り、これからも嫌な思いをすることはあるだろう。僕がカイの隣にいることを快く思わない人間はたくさんいる。でも、それでもいいのかもしれない。カイが僕を選んでくれたのだから。
僕も、彼の隣にいたい。初めて、心の底からそう思った。
僕の中でカイへの感情が、また一つ名前のない形へと変わっていく。それは友情や感謝だけでは説明できない、もっと甘くて少しだけ切ない感情だった。カイの横顔を見つめながら、僕はその正体に気づかないふりをして、ゆっくりと彼との歩幅を合わせた。
その筆頭格が、ゼノン・アークライトだった。彼は高名な公爵家の嫡男で、カイに次ぐ実力者と目されているプライドの高い男だ。カイに対して強いライバル心を燃やしており、何かにつけて張り合っていた。
「おい、劣等生」
その日も、僕が一人で図書館に向かっていると、ゼノンが取り巻きを連れて行く手を塞いだ。僕は面倒なことになった、と内心で舌打ちする。
「カイ様は、お前のような出来損ないのそばにいてやるほど暇ではないはずだ。一体、どんな汚い手を使ってあの方をたぶらかした?」
ゼノンの目は、僕を汚物でも見るかのように冷え切っていた。彼の言葉は、僕が心の奥底で感じていた不安そのものだった。そうだ、僕なんかといてもカイにとっては何の得もない。むしろ、彼の評価を落とすだけだ。
「……別に、たぶらかしたりしてない」
「ほう、しらばっくれる気か。いいだろう。ならば、力ずくで思い出させてやる。お前がどれだけカイ様に不釣り合いな存在であるかをな!」
ゼノンが杖を構え、その切っ先から魔力の光がほとばしる。まずい、と思った瞬間、僕の腕がぐいと引かれ、背中が誰かの硬い胸板にぶつかった。
「俺の婚約者に、何か用か?」
背後から聞こえたのは、氷のように冷たいカイの声だった。いつの間にか現れた彼は、僕を背中にかばうようにしてゼノンの前に立ちはだかっていた。その肩は広く、僕からはゼノンの姿が完全に見えなくなる。
「カイ様……! なぜこのような男をかばうのですか! こいつはあなたの名誉を汚すだけの存在だ!」
「俺の名誉を汚すかどうかは、俺が決めることだ。君ではない」
カイの声には一切の感情が乗っていない。それが逆に、彼の静かな怒りを物語っていた。
「アキトは、俺が選んだ人間だ。彼への侮辱は、俺への侮辱と見なす。それでも続けるというのなら、相応の覚悟をしてもらう」
カイが一歩前に出ると、ゼノンと彼の取り巻きたちが気圧されたように後ずさった。普段は穏やかなカイが見せる圧倒的な覇気。それは実力と自信に裏打ちされた、王者の風格だった。
ゼノンは悔しそうに顔を歪め、唇を噛んだ。
「……覚えていろ、劣等生」
彼は僕を睨みつけ、捨て台詞を残してその場を去っていった。
嵐が去った後、カイがゆっくりとこちらを振り返った。その顔にはもう怒りの色はなかった。代わりに、心配そうな表情で僕の顔を覗き込んでくる。
「怪我はなかったか、アキト」
「……うん。ありがとう、助かった」
僕は俯きながら、かろうじてそれだけを言った。彼が助けてくれたことは嬉しい。けれどそれ以上に、ゼノンの言葉が重く心にのしかかっていた。
「僕、やっぱりあんたの迷惑になってる」
僕がそう言うと、カイは眉をひそめた。
「なぜそう思う」
「だって、今の見たろ? 僕といるせいで、あんたまで悪く言われるんだ。僕なんかと関わらない方が……」
「黙れ」
僕の言葉を遮ったのは、静かだが有無を言わせぬ強い口調だった。僕は驚いて顔を上げる。カイは、見たこともないほど真剣な顔で僕を見つめていた。
「いいか、アキト。誰が何を言おうと関係ない。君のそばにいると決めたのは俺だ。他の誰の許可も必要ない。迷惑だなんて、二度と言うな」
彼の青い瞳が、僕の心の奥まで見透かすように射抜く。その視線から、僕は逃れることができなかった。
「でも……」
「でも、じゃない。俺は、君がいいんだ。君じゃなきゃ、だめなんだ」
それは、まるで告白のようだった。あまりにも真っ直ぐな言葉に、僕の心臓が大きく跳ねる。顔に熱が集まっていくのが分かる。
カイは、僕が何も言えずにいると、ふっと表情を和らげ困ったように微笑んだ。
「……すまない。少し、熱くなった」
彼はそう言って、僕の頭を優しく撫でた。大きな手のひらが、僕の髪をくしゃりと掻き混ぜる。その感触が、なぜかひどく心地よかった。
「さあ、行こう。図書館だったな。俺も付き合う」
彼は当たり前のように僕の隣に並んで歩き出す。僕はまだ心臓がうるさいまま、彼の半歩後ろをついて歩いた。
カイは、僕を守ってくれた。誰に何を言われようと、僕のそばにいると断言してくれた。僕じゃなきゃだめだと、言ってくれた。
その言葉が、僕の胸の中で何度も反響する。自己肯定感なんてほとんど持ち合わせていなかった僕の心に、カイの言葉が温かい光を灯していく。
ゼノンのような人間がいる限り、これからも嫌な思いをすることはあるだろう。僕がカイの隣にいることを快く思わない人間はたくさんいる。でも、それでもいいのかもしれない。カイが僕を選んでくれたのだから。
僕も、彼の隣にいたい。初めて、心の底からそう思った。
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