劣等生の俺を、未来から来た学院一の優等生が「婚約者だ」と宣言し溺愛してくる

水凪しおん

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第6話「明かされた真実と、未来からの来訪者」

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 意識が浮上したとき、最初に感じたのは消毒薬の匂いだった。ぼやける視界に映ったのは、見慣れない白い天井。どうやら僕は、学院の医務室のベッドに寝かされているらしかった。

「アキト!気がつきましたか!」

 そばにいた女性の治癒魔術師が、安堵の声を上げた。体を起こそうとすると全身に鈍い痛みが走ったが、大きな怪我はないようだった。

「遺跡は……みんなは……?」

「大丈夫よ。遺跡の崩壊は最小限に食い止められたし、他の生徒たちも軽傷で済んだわ。あなたのおかげよ。最後、あなたの力が遺跡の崩壊を修復したって、先生方が……」

 修復? 僕の力が? 覚えがない。僕はただ、暴走していただけのはずだ。
 混乱する僕の頭に、意識を失う直前の記憶が鮮やかに蘇る。僕をかばって、瓦礫の下敷きになったカイの姿が。

「カイは!? カイはどうなったんだ!」

 僕はベッドから跳ね起きた。治癒魔術師が慌てて僕を止めようとするが、僕はそれを振り払って叫んだ。

「カイはどこだ!」

 彼女は悲しそうに顔を伏せ、隣のベッドを指差した。そこには白いシーツに包まれ、たくさんの医療器具に繋がれたカイが、血の気の失せた顔で眠っていた。

「カイ……」

 僕はふらふらと彼のベッドに歩み寄った。彼の体は包帯で覆われ、その呼吸はか細く今にも消えてしまいそうだった。僕のせいで。僕を守ったせいで、彼はこんなことに。

「ごめん……ごめん、カイ……」

 涙が、あとからあとから溢れてきた。彼の冷たい手を握りしめ、僕はただ泣きじゃくることしかできなかった。

 それから、僕は医務室に泊まり込み、必死にカイを看病した。濡れたタオルで彼の体を拭き、治癒魔術師に教わって微力ながらも僕の魔力を彼に注ぎ続けた。僕の魔力は、ほんの少しだけれど彼の傷を癒す効果があるらしかった。
 何日も、カイは意識を取り戻さなかった。ただ時折、朦朧とした意識の中でうわ言を口にすることがあった。

「……アキト……」

 彼の唇が、僕の名前を紡ぐ。僕は彼の口元に耳を寄せた。

「……また……守れなかった……」

 守れなかった? どういうことだ。

「創成……魔法……あんなに素晴らしい力が……なぜ……君を、孤立させる……」

「……俺が……もっと早く……君の苦しみに……気づいていれば……」

 彼のうわ言はいつも途切れ途切れで、意味がよく分からなかった。でも聞いているだけで、胸が張り裂けそうになるほど彼の後悔と絶望が伝わってきた。

 ある夜、カイがひどくうなされ始めた。

「やめろ……! アキトは悪くない! 彼を追い詰めるな!」

 彼は苦しそうに何かと戦っているようだった。

「……世界が……終わる……君の涙が……世界を、溶かしていく……」

「……時間を……戻すんだ……禁断の魔術でも……かまわない……もう一度……もう一度だけ、君に……」

 その言葉を聞いた瞬間、僕の中で今までバラバラだったパズルのピースが、一つの形を成していくのが分かった。
 カイが時折見せる、未来を知っているかのような言動。僕の「創成魔法」のことを、なぜか詳しく知っていたこと。そして僕に対する、異常とも言えるほどの執着と保護欲。
『未来で……君を一人で苦しませたことに比べれば……』
 遺跡で彼が言った言葉が、頭の中でこだまする。

 まさか。そんな、ありえない。
 でも、そう考えれば、すべての辻褄が合う。

 ――カイは、未来から来たんだ。

 僕が「創成魔法」を制御できずに世界を崩壊させてしまった未来から。
 その絶望的な未来を変えるために。孤立し、力を恐れられ、暴走してしまった僕を、救うために。

「……あ……あ……」

 声にならない声が、喉から漏れた。真実の重みに立っていられなくなり、僕はその場に崩れ落ちた。
 カイ。あんたは、そんな途方もないものを一人で背負って、僕のところに来てくれたのか。僕があんたに守られてばかりいる間に、あんたはたった一人で未来の絶望と戦っていたのか。

 涙が止まらなかった。彼への申し訳なさと感謝と、そして愛しさで胸がはち切れそうだった。
 僕は、カイの手をもう一度強く握りしめた。今度は僕が君を守る番だ。だから、お願いだ、カイ。目を覚ましてくれ。そして君の口から、全部聞かせてくれ。僕が君と一緒に背負うから。
 僕の涙が、彼の手にぽたぽたと落ちていった。その時、握りしめた彼の手が、ほんの少しだけぴくりと動いたような気がした。
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