「役立たず」と追放された神官を拾ったのは、不眠に悩む最強の騎士団長。彼の唯一の癒やし手になった俺は、その重すぎる独占欲に溺愛される

水凪しおん

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番外編「副団長は知っている」

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 俺、竜騎士団副団長ジークには、最近の悩み……いや、微笑ましい懸念事項がある。
 それは、俺たちの上官であり氷の鬼神とまで恐れられたエヴァン・ライオネル団長の、変わりようについてだ。

 原因は、分かっている。あの穏やかで心優しい青年、ルカ君の存在だ。
 彼がこの騎士団に来る前の団長は、まさに氷の塊だった。笑うこともなく、眠ることもなく、ただひたすらに己を責め戦いに身を投じていた。我々部下は、いつか団長の心が壊れてしまうのではないかと、本気で心配していたのだ。

 だが、ルカ君が現れてから、全てが変わった。
 団長は、眠れるようになった。笑うようになった。そして、とんでもなく嫉妬深く、過保護になった。

 今日も、訓練場でそれ(・・)は起きた。
 若い騎士が、任務中に負った呪いの相談をルカ君にしていた。少し距離が近かったのだろう。どこからともなく現れた団長が、その騎士とルカ君の間に氷の壁のごとく割って入った。

「ルカに気安く触るな。五メートル以上離れろ」

「ご、五メートル!?」

「不満か?」

「いえ、滅相もございません!」

 鬼神の眼光に射抜かれ、若い騎士は蒼白になって逃げていった。そして団長は、何事もなかったかのようにルカ君の手を取り、「休憩にするぞ」と甲斐甲斐しく日陰へ連れて行く。
 ……団長。子供じみた嫉妬も大概にしてください。あなた、この国の英雄でしょうが。

 またある時は、執務室でのこと。
 溜まった書類仕事に追われる団長の元へ、ルカ君がお茶を淹れて持ってきた。

「エヴァンさん、お疲れ様です。少し、休んでください」

「……ああ」

 口ではぶっきらぼうに返事をしながらも、団長の口元は緩みっぱなしだ。
 そして、何を思ったか団長は椅子から立ち上がると、ソファに座るルカ君の膝に、ごろんと頭を乗せたのだ。いわゆる、膝枕というやつだ。

「えっ、エヴァンさん!?」

「……少し、疲れた」

 驚くルカ君の手をとり、自分の頭を優しく撫でさせる。そして、書類の山を放置したまま、本当に幸せそうに目を閉じてまどろみ始める。
 ……団長。仕事はどうしたんですか。その書類、昨日徹夜して俺がまとめたやつですよね?

 思わず天を仰ぐ俺に気づいたルカ君が、困ったように、でも本当に嬉しそうな顔で、「ごめんなさい、ジークさん」と微笑みかけてくる。
 君が謝ることじゃないんだ、ルカ君。悪いのは全部、あのデレデレの鬼神なんだ。

 最初は、団長が特定の誰かに執着することに戸惑いもあった。だが、ルカ君がこの騎士団に来てから団全体の雰囲気が明るくなったのは事実だ。
 彼の穢れ祓いの力はもちろん、その穏やかで優しい人柄が荒くれ者の騎士たちの心を癒やしている。皆、ルカ君のことを団の宝物のように、弟のように大切に思っている。

 彼こそ、我々竜騎士団の本当の意味での「聖域」なのかもしれない。

 ルカ君に膝枕をしてもらい、数年ぶりに見るような穏やかな寝顔を晒す上官の姿を眺めながら、俺は心の中でそっとつぶやいた。

(団長、本当に良かったですね)

 まあ、そのせいで俺の仕事が三倍くらいに増えていることは、今は忘れておくことにしよう。
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