心を閉ざした元天才ピアニストのルームメイトの氷を、寮長の僕が絶対溶かしてみせる。

水凪しおん

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第6話: 嵐の夜に壊れた心

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 その夜、学園は激しい嵐に見舞われた。
 ごうごうと唸る風が窓を揺らし、稲光が走るたびに、部屋の中が一瞬、白く染まる。遅れて轟く雷鳴は、まるで空が裂けるような凄まじい音を立てていた。
 晶はベッドの中で、本を読みながら嵐が過ぎ去るのを待っていた。だが、隣のベッドで横になっていた結の様子が、どうにもおかしいことに気づく。
 浅い呼吸を繰り返し、シーツを握る指先が白くなっている。雷が鳴るたびに、その肩がびくりと大きく跳ねた。
「雪村、大丈夫か? 雷、怖いのか?」
 晶が声をかけるが、返事はない。ただ、呼吸だけがどんどん荒くなっていく。
 その時、ひときわ大きな雷鳴が、すぐ近くで轟いた。
「―――っ、ひっ!」
 結が、短い悲鳴を上げて飛び起きた。その瞳は恐怖に見開かれ、焦点が合っていない。まるで、雷鳴が過去の恐ろしい記憶の引き金を引いてしまったかのようだ。
「はっ……はっ……いや、やめて……こないで……っ」
 彼は何かから逃れるようにベッドの隅に後ずさり、頭を抱えて蹲ってしまった。その姿は、いつも気丈に振る舞い、人を寄せ付けない氷の少年とは思えないほど、幼く、怯えきっていた。
 見ていることなんて、できなかった。
 晶は考えるより先に、ベッドから飛び降りていた。結のベッドに駆け寄り、震えるその体を、躊躇なく腕の中に閉じ込める。
「っ……!?」
 結の体が硬直する。拒絶される。突き飛ばされる。それを覚悟して、晶はさらに腕の力を強めた。
「大丈夫だ。大丈夫。俺がここにいる」
 耳元で、何度も繰り返す。まるで、幼い子供をあやすように、ゆっくりと、優しく。
「何も怖いものなんかない。ただの嵐だ。すぐに通り過ぎる」
 背中を優しく撫でてやると、腕の中で強張っていた結の体から、少しずつ力が抜けていくのが分かった。
 抵抗をやめた結は、晶の胸に顔を埋める。やがて、その肩が小さく震え始め、晶のシャツがじわりと温かいもので濡れていくのを感じた。
 声にはならない、嗚咽。
 ずっと一人で耐えてきたのだろうか。誰にも見せずに、たった一人で、こんな風に怯えていたのだろうか。
 晶は何も言わずに、ただ強く、優しく、壊れ物を抱きしめるように、結を抱きしめ続けた。
 外ではまだ嵐が吹き荒れている。だが、この302号室の中だけは、二人の体温が混じり合い、不思議なほど静かで、穏やかな時間が流れていた。
 拒絶されることを覚悟した晶の腕の中で、結は初めて、その心の壁の向こう側にある、脆くて柔らかな部分を、ほんの少しだけ見せてくれたのだった。
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