過労死研究員が転生したら、無自覚チートな薬草師になって騎士様に溺愛される件

水凪しおん

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第10話「薬草園の誓い、二人で歩む未来」

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 目を覚ますと、そこは見慣れた研究所の自室のベッドの上だった。窓の外は、もう夜の闇に包まれている。

(僕……助かったんだ……)

 体を起こそうとすると、ひどい倦怠感に襲われた。スキルを限界以上に使った反動だろう。それでも、命があるだけ儲けものだ。

「気がついたか」

 そばから、優しい声が聞こえた。見ると、リオネスさんが椅子に座って、心配そうな顔で俺を見つめていた。あの戦いの後、ずっと看病してくれていたのだろうか。

「リオネス……さん……」
「無理に話すな。三日も眠り続けていたんだぞ。」

 三日も。そんなに眠っていたのか。俺は、ぼんやりとする頭で、戦場でのできごとを思い返した。

「あの……僕、叫びませんでしたか?」
「ああ。聞こえた」

 彼は静かに頷いた。

「『あなたの隣で、生きていきたい』と。はっきりと、この耳で聞いた」

 彼の言葉に、俺の顔がカッと熱くなる。意識が朦朧としている中で、本音がだだ漏れになっていたらしい。恥ずかしすぎて、死んでしまいたい。

「……忘れてください」
「それはできない相談だ」

 彼は俺の言葉を遮ると、ベッドのそばに膝をつき、俺の手をそっと握った。その手は、少し震えていた。

「俺も、同じ気持ちだ。いや、俺の方がずっと前から、君を想っていた。身分も、立場も、何もかも捨てて、君のそばに行きたいと、何度も思った」

 彼の真剣な告白。あの温室でのすれ違いが、嘘のようだ。

「でも、君は俺の未来を案じて、俺を突き放した。君の優しさが、痛いほど分かった。だから、俺も覚悟を決めたんだ。騎士として、この国の頂点に立って、誰にも文句を言わせないくらい偉くなって、必ず君を迎えに行こうと」

 俺は、言葉を失った。俺が彼のことを想っていたように、彼もまた、俺のために、一人で戦おうとしてくれていたのだ。

「馬鹿だ……二人とも、馬鹿ですね」

 俺の目から、涙がこぼれた。それは、悲しい涙ではなく、温かくて、嬉しい涙だった。彼も、優しく微笑んで、俺の涙を指で拭ってくれた。

「ああ、全くだ。遠回りばかりしてしまった」

 俺たちは、どちらからともなく顔を寄せ、そっと唇を重ねた。初めてのキスは、少ししょっぱくて、でも、今まで感じたことがないくらい、甘かった。

 スタンピードを終結させた功績により、俺とリオネスさんは、国王陛下から直々に褒章を授かることになった。そして、その席で、リオネスさんはとんでもないことを言い出した。

「陛下。恐れながら、一つだけ願いがございます。このハル殿を、俺の生涯のパートナーとして、お認めいただきたい」

 謁見の間が、しんと静まり返る。貴族たちが、信じられないといった顔で俺たちを見ている。ヴァインベルク侯爵家の嫡男が、平民の男をパートナーに?前代未聞のスキャンダルだ。

 だが、国王陛下は、怒るでもなく、面白そうに口の端を上げた。

「面白い。ヴァインベルクの若造も、なかなか骨のある男になったものだ。良いだろう。二人の関係を、王家が正式に認める。ただし、条件がある」

 国王が提示した条件は、こうだった。俺は、王立中央薬草研究所の特別顧問として、引き続き国の医療に貢献すること。そして、リオネスさんは、特別任務として、俺の専属護衛に就任すること。

 それは、実質的に、俺たちが公私共に、ずっと一緒にいることを許可するという、国王陛下の最大限の配慮だった。

 もちろん、反対する貴族も大勢いた。しかし、俺の薬がもたらす国益と、リオネスさんの騎士としての圧倒的な実力、そして何より国王の後ろ盾がある以上、誰も表立って文句を言うことはできなかった。

 こうして、俺とリオネスさんの関係は、公式に認められることになった。

 俺たちは、研究所の敷地内に建てられた、小さな一軒家で、二人だけの新しい生活を始めた。朝は、小鳥のさえずりで目を覚まし、リオネスさんの入れてくれた美味しいコーヒーの香りで一日が始まる。

 日中は、俺は研究所で薬草の研究に打ち込み、リオネスさんはそんな俺のそばで、書類仕事をしたり、訓練をしたりしている。

 夜は、二人で一緒に夕食を作る。料理は意外にもリオネスさんの方が得意で、彼の作るシチューは絶品だ。食後は、暖炉の前で寄り添いながら、今日あったことを話したり、一緒に本を読んだりする。

 穏やかで、満ち足りた、夢のような毎日。前世では考えられなかった、幸せな時間。

 時々、学院時代の後輩たちが、薬草学を学びたいと、俺たちの家を訪ねてくることもある。俺は彼らに、自分の知識を惜しみなく教えた。

 その様子を、リオネスさんが、いつも優しい眼差しで見守ってくれている。

「ハル。君は、たくさんの人に希望を与えているな」
「それは、リオネスさんがそばにいてくれるからです。あなたが、僕を信じて、守ってくれるから」

 俺たちは、もう言葉にしなくても、お互いの気持ちが分かる。

 身分の壁を乗り越え、多くの困難を経験して、ようやく手に入れたこの幸せ。

 異世界に転生して、俺は最高のパートナーと、最高の人生を見つけた。

 俺は薬草を育てる。彼は、そんな俺の隣で、俺たちの未来を育てる。薬草園に吹く優しい風が、俺たちの髪を揺らす。その先には、どこまでも続く、光り輝く未来が見える。俺たちの物語は、まだ始まったばかりだ。
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