12 / 13
番外編「とある休日の、甘すぎる一日」
しおりを挟む
「ん……」
柔らかな朝の光が瞼をくすぐり、俺はゆっくりと目を覚ました。隣で眠っているはずの温もりがないことに気づき、少しだけ寂しさを感じながら体を起こす。ふわりと、キッチンの方から香ばしい匂いが漂ってきた。
寝室を出ると、案の定、リオネスさんがエプロン姿で朝食の準備をしていた。俺の存在に気づくと、彼は「おはよう、ハル」と、優しい笑顔を向けてくれた。
「おはようございます、リオネスさん。今日の朝食はなんですか?」
「君の好きな、フレンチトーストだ。蜂蜜もたっぷりかけておいたぞ」
完璧だ。彼は、俺の好みを全て把握している。席に着くと、湯気の立つフレンチトーストと、淹れたてのハーブティーが目の前に並べられた。
「いただきます」
こんがりと焼かれたパンを一口頬張ると、卵と牛乳の優しい甘さが口いっぱいに広がる。幸せすぎて、思わず頬が緩んでしまう。
「そんなに美味しそうに食べてくれると、作り甲斐があるな」
向かいの席で、彼が愛おしそうに目を細めている。その視線がなんだか恥ずかしくて、俺は俯きながら食事を進めた。
今日は、二人とも休みだ。研究所も騎士団も、完全にオフ。一日中、二人きりで過ごせる、貴重な休日。
「今日はどうする?どこかへ出かけるか?」
「うーん……。今日は、一日中、家でのんびりしたい気分です」
「分かった。じゃあ、昼食は俺が腕を振るう。何かリクエストはあるか?」
「リオネスさんの作るビーフシチューが食べたいです」
「承知した。任せておけ」
そんな会話をしながら、穏やかな朝の時間を過ごす。これが、俺たちの日常。夢にまで見た、幸せな日常だ。
朝食の後、俺は家の裏にある小さな薬草園の手入れを始めた。ここは、研究所の大きな薬草園とは違う、俺たちだけのプライベートな空間だ。食用のハーブや、観賞用の美しい花々を育てている。
俺が土いじりをしていると、リオネスさんが隣にやってきて、黙って手伝ってくれる。彼の手は大きくてゴツゴツしているのに、植物を扱う手つきはとても優しい。
「リオネスさんは、本当に器用ですよね」
「君に教わったからな」
彼はそう言って、はにかんだように笑う。こういう、ふとした瞬間に見せる彼の表情が、俺はたまらなく好きだ。
昼食は、リクエスト通り、絶品のビーフシチューだった。じっくり煮込まれた牛肉は、口の中でとろけるほど柔らかい。二人で「美味しいね」と言い合いながら食べる食事は、世界で一番のご馳走だ。
午後は、リビングのソファで寄り添って、一緒に読書をした。俺が読んでいるのは薬草に関する専門書で、彼が読んでいるのは歴史書。時々、面白い箇所があると、互いに顔を見合わせて内容を教え合う。
静かで、穏やかな時間。うとうとと眠気が差してきた俺の頭を、彼が優しく自分の肩に引き寄せてくれる。彼の匂いに包まれて、俺は心地よい眠りに落ちていった。
目を覚ました時、窓の外は綺麗な夕焼けに染まっていた。俺は、リオネスさんの肩に寄りかかったまま、眠ってしまっていたらしい。彼は、俺を起こさないように、ずっと同じ体勢でいてくれたのだろう。
「……すみません、寝ちゃってました」
「いいんだ。君の寝顔は、見ていて飽きないからな」
また、そんな恥ずかしいことを、さらりと言う。顔が熱くなるのを感じながら、体を起こした。
「そろそろ夕食の準備をしないと」
「今日は俺が作る。君は疲れているだろうから、休んでいてくれ」
「でも……」
「いいから」
彼はそう言うと、俺の額に、優しくキスを落とした。
「君は、俺に甘やかされているだけでいいんだ」
その甘い声と、蕩けるような眼差しに、俺はもう、何も言い返せなくなった。彼の愛情は、いつだってストレートで、俺の心を完全に満たしてくれる。
夕食後、俺たちは暖炉の前に座って、他愛もない話をした。今日一日のできごと、明日の予定、そして、これからの未来のこと。
「ねえ、リオネスさん」
「なんだ?」
「僕、幸せです。今、すごく」
俺がそう言うと、彼は俺の体を、後ろから優しく抱きしめた。背中に、彼の胸の温もりと、規則正しい鼓動が伝わってくる。
「俺もだ、ハル。君といる時が、一番幸せだ」
耳元でささやかれる、甘い声。俺は、彼の腕の中で、安心しきって目を閉じた。
過労死して、異世界に転生して。最初は、どうなることかと思ったけど、今ならはっきりと言える。
俺は、幸せになるために、この世界にやってきたんだ、と。
この、世界で一番優しくて、格好良くて、俺のことを誰よりも愛してくれる、この人のために。
とある休日の、なんてことない一日。でも、俺にとっては、何よりも尊くて、甘すぎる一日だった。
柔らかな朝の光が瞼をくすぐり、俺はゆっくりと目を覚ました。隣で眠っているはずの温もりがないことに気づき、少しだけ寂しさを感じながら体を起こす。ふわりと、キッチンの方から香ばしい匂いが漂ってきた。
寝室を出ると、案の定、リオネスさんがエプロン姿で朝食の準備をしていた。俺の存在に気づくと、彼は「おはよう、ハル」と、優しい笑顔を向けてくれた。
「おはようございます、リオネスさん。今日の朝食はなんですか?」
「君の好きな、フレンチトーストだ。蜂蜜もたっぷりかけておいたぞ」
完璧だ。彼は、俺の好みを全て把握している。席に着くと、湯気の立つフレンチトーストと、淹れたてのハーブティーが目の前に並べられた。
「いただきます」
こんがりと焼かれたパンを一口頬張ると、卵と牛乳の優しい甘さが口いっぱいに広がる。幸せすぎて、思わず頬が緩んでしまう。
「そんなに美味しそうに食べてくれると、作り甲斐があるな」
向かいの席で、彼が愛おしそうに目を細めている。その視線がなんだか恥ずかしくて、俺は俯きながら食事を進めた。
今日は、二人とも休みだ。研究所も騎士団も、完全にオフ。一日中、二人きりで過ごせる、貴重な休日。
「今日はどうする?どこかへ出かけるか?」
「うーん……。今日は、一日中、家でのんびりしたい気分です」
「分かった。じゃあ、昼食は俺が腕を振るう。何かリクエストはあるか?」
「リオネスさんの作るビーフシチューが食べたいです」
「承知した。任せておけ」
そんな会話をしながら、穏やかな朝の時間を過ごす。これが、俺たちの日常。夢にまで見た、幸せな日常だ。
朝食の後、俺は家の裏にある小さな薬草園の手入れを始めた。ここは、研究所の大きな薬草園とは違う、俺たちだけのプライベートな空間だ。食用のハーブや、観賞用の美しい花々を育てている。
俺が土いじりをしていると、リオネスさんが隣にやってきて、黙って手伝ってくれる。彼の手は大きくてゴツゴツしているのに、植物を扱う手つきはとても優しい。
「リオネスさんは、本当に器用ですよね」
「君に教わったからな」
彼はそう言って、はにかんだように笑う。こういう、ふとした瞬間に見せる彼の表情が、俺はたまらなく好きだ。
昼食は、リクエスト通り、絶品のビーフシチューだった。じっくり煮込まれた牛肉は、口の中でとろけるほど柔らかい。二人で「美味しいね」と言い合いながら食べる食事は、世界で一番のご馳走だ。
午後は、リビングのソファで寄り添って、一緒に読書をした。俺が読んでいるのは薬草に関する専門書で、彼が読んでいるのは歴史書。時々、面白い箇所があると、互いに顔を見合わせて内容を教え合う。
静かで、穏やかな時間。うとうとと眠気が差してきた俺の頭を、彼が優しく自分の肩に引き寄せてくれる。彼の匂いに包まれて、俺は心地よい眠りに落ちていった。
目を覚ました時、窓の外は綺麗な夕焼けに染まっていた。俺は、リオネスさんの肩に寄りかかったまま、眠ってしまっていたらしい。彼は、俺を起こさないように、ずっと同じ体勢でいてくれたのだろう。
「……すみません、寝ちゃってました」
「いいんだ。君の寝顔は、見ていて飽きないからな」
また、そんな恥ずかしいことを、さらりと言う。顔が熱くなるのを感じながら、体を起こした。
「そろそろ夕食の準備をしないと」
「今日は俺が作る。君は疲れているだろうから、休んでいてくれ」
「でも……」
「いいから」
彼はそう言うと、俺の額に、優しくキスを落とした。
「君は、俺に甘やかされているだけでいいんだ」
その甘い声と、蕩けるような眼差しに、俺はもう、何も言い返せなくなった。彼の愛情は、いつだってストレートで、俺の心を完全に満たしてくれる。
夕食後、俺たちは暖炉の前に座って、他愛もない話をした。今日一日のできごと、明日の予定、そして、これからの未来のこと。
「ねえ、リオネスさん」
「なんだ?」
「僕、幸せです。今、すごく」
俺がそう言うと、彼は俺の体を、後ろから優しく抱きしめた。背中に、彼の胸の温もりと、規則正しい鼓動が伝わってくる。
「俺もだ、ハル。君といる時が、一番幸せだ」
耳元でささやかれる、甘い声。俺は、彼の腕の中で、安心しきって目を閉じた。
過労死して、異世界に転生して。最初は、どうなることかと思ったけど、今ならはっきりと言える。
俺は、幸せになるために、この世界にやってきたんだ、と。
この、世界で一番優しくて、格好良くて、俺のことを誰よりも愛してくれる、この人のために。
とある休日の、なんてことない一日。でも、俺にとっては、何よりも尊くて、甘すぎる一日だった。
505
あなたにおすすめの小説
ウサギ獣人を毛嫌いしているオオカミ獣人後輩に、嘘をついたウサギ獣人オレ。大学時代後輩から逃げたのに、大人になって再会するなんて!?
灯璃
BL
ごく普通に大学に通う、宇佐木 寧(ねい)には、ひょんな事から懐いてくれる後輩がいた。
オオカミ獣人でアルファの、狼谷 凛旺(りおう)だ。
ーここは、普通に獣人が現代社会で暮らす世界ー
獣人の中でも、肉食と草食で格差があり、さらに男女以外の第二の性別、アルファ、ベータ、オメガがあった。オメガは男でもアルファの子が産めるのだが、そこそこ差別されていたのでベータだと言った方が楽だった。
そんな中で、肉食のオオカミ獣人の狼谷が、草食オメガのオレに懐いているのは、単にオレたちのオタク趣味が合ったからだった。
だが、こいつは、ウサギ獣人を毛嫌いしていて、よりにもよって、オレはウサギ獣人のオメガだった。
話が合うこいつと話をするのは楽しい。だから、学生生活の間だけ、なんとか隠しとおせば大丈夫だろう。
そんな風に簡単に思っていたからか、突然に発情期を迎えたオレは、自業自得の後悔をする羽目になるーー。
みたいな、大学篇と、その後の社会人編。
BL大賞ポイントいれて頂いた方々!ありがとうございました!!
※本編完結しました!お読みいただきありがとうございました!
※短編1本追加しました。これにて完結です!ありがとうございました!
旧題「ウサギ獣人が嫌いな、オオカミ獣人後輩を騙してしまった。ついでにオメガなのにベータと言ってしまったオレの、後悔」
冤罪で追放された悪役令息、北の辺境で幸せを掴む~恐ろしいと噂の銀狼将軍に嫁いだら、極上の溺愛とモフモフなスローライフが始まりました~
水凪しおん
BL
「君は、俺の宝だ」
無実の罪を着せられ、婚約破棄の末に極寒の辺境へ追放された公爵令息ジュリアン。
彼を待ち受けていたのは、「北の食人狼」と恐れられる将軍グリーグとの政略結婚だった。
死を覚悟したジュリアンだったが、出会った将軍は、噂とは真逆の不器用で心優しいアルファで……?
前世の記憶を持つジュリアンは、現代知識と魔法でボロボロの要塞を快適リフォーム!
手作りスープで将軍の胃袋を掴み、特産品開発で街を救い、気づけば冷徹将軍から規格外の溺愛を受けることに。
一方、ジュリアンを捨てた王都では、破滅の足音が近づいていて――。
冤罪追放から始まる、銀狼将軍との幸せいっぱいな溺愛スローライフ、ここに開幕!
【オメガバース/ハッピーエンド/ざまぁあり/子育て/スパダリ】
悪役令嬢の兄に転生!破滅フラグ回避でスローライフを目指すはずが、氷の騎士に溺愛されてます
水凪しおん
BL
三十代半ばの平凡な会社員だった俺は、ある日、乙女ゲーム『君と紡ぐ光の協奏曲』の世界に転生した。
しかも、最推しの悪役令嬢リリアナの兄、アシェルとして。
このままでは妹は断罪され、一家は没落、俺は処刑される運命だ。
そんな未来は絶対に回避しなくてはならない。
俺の夢は、穏やかなスローライフを送ること。ゲームの知識を駆使して妹を心優しい少女に育て上げ、次々と破滅フラグをへし折っていく。
順調に進むスローライフ計画だったが、関わると面倒な攻略対象、「氷の騎士」サイラスになぜか興味を持たれてしまった。
家庭菜園にまで現れる彼に困惑する俺。
だがそれはやがて、国を揺るがす陰謀と、甘く激しい恋の始まりを告げる序曲に過ぎなかった――。
温泉旅館の跡取り、死んだら呪いの沼に転生してた。スキルで温泉郷を作ったら、呪われた冷血公爵がやってきて胃袋と心を掴んで離さない
水凪しおん
BL
命を落とした温泉旅館の跡取り息子が転生したのは、人々から忌み嫌われる「呪いの沼」だった。
終わりなき孤独と絶望の中、彼に与えられたのは【万物浄化】と【源泉開発】のスキル。
自らを浄化し、極上の温泉を湧き出させた彼の前に現れたのは、呪いにより心と体を凍てつかせた冷血公爵クロード。
半信半疑で湯に浸かった公爵は、生まれて初めての「安らぎ」に衝撃を受ける。
「この温泉郷(ばしょ)ごと、君が欲しい」
孤独だった元・沼の青年アオイと、温もりを知らなかった冷血公爵クロード。
湯けむりの向こうで出会った二人が、最高の温泉郷を作り上げながら、互いの心の傷を癒やし、かけがえのない愛を見つけていく。
読む者の心まですべて解きほぐす、極上の癒やしと溺愛のファンタジーロマンス、ここに開湯。
追放された無能錬金術師ですが、感情ポーションで氷の騎士様に拾われ、執着されています
水凪しおん
BL
宮廷錬金術師のエリアスは、「無能」の烙印を押され、王都から追放される。全てを失い絶望する彼が辺境の村で偶然作り出したのは、人の"感情"に作用する奇跡のポーションだった。
その噂は、呪いで感情を失い「氷の騎士」と畏れられる美貌の騎士団長ヴィクターの耳にも届く。藁にもすがる思いでエリアスを訪れたヴィクターは、ポーションがもたらす初めての"温もり"に、その作り手であるエリアス自身へ次第に強く執着していく。
「お前は、俺だけの錬金術師になれ」
過剰な護衛、暴走する独占欲、そして隠された呪いの真相。やがて王都の卑劣な陰謀が、穏やかな二人の関係を引き裂こうとする。
これは、追放された心優しき錬金術師が、孤独な騎士の凍てついた心を溶かし、世界で一番の幸福を錬成するまでの愛の物語。
過労死で異世界転生したら、勇者の魂を持つ僕が魔王の城で目覚めた。なぜか「魂の半身」と呼ばれ異常なまでに溺愛されてる件
水凪しおん
BL
ブラック企業で過労死した俺、雪斗(ユキト)が次に目覚めたのは、なんと異世界の魔王の城だった。
赤ん坊の姿で転生した俺は、自分がこの世界を滅ぼす魔王を討つための「勇者の魂」を持つと知る。
目の前にいるのは、冷酷非情と噂の魔王ゼノン。
「ああ、終わった……食べられるんだ」
絶望する俺を前に、しかし魔王はうっとりと目を細め、こう囁いた。
「ようやく会えた、我が魂の半身よ」
それから始まったのは、地獄のような日々――ではなく、至れり尽くせりの甘やかし生活!?
最高級の食事、ふわふわの寝具、傅役(もりやく)までつけられ、魔王自らが甲斐甲斐しくお菓子を食べさせてくる始末。
この溺愛は、俺を油断させて力を奪うための罠に違いない!
そう信じて疑わない俺の勘違いをよそに、魔王の独占欲と愛情はどんどんエスカレートしていき……。
永い孤独を生きてきた最強魔王と、自己肯定感ゼロの元社畜勇者。
敵対するはずの運命が交わる時、世界を揺るがす壮大な愛の物語が始まる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる