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護衛の話
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「あなたは何故、私を守るのですか?」
昔、自分の護衛に向かってそう言ったことがある。彼は呆れたように、それが僕の役目ですから、と笑った。
あれから、この質問はしていない。だって彼には固い仮面が付けられているから。
「姫、お綺麗ですよ」
「あらそう? あなたがそんなことを言うなんて、珍しいじゃない」
「僕だって褒めるくらいしますよ。だって今日は......貴方の晴れ舞台ですから」
「あら? 嫌味かしら」
晴れ舞台、今日は俺の結婚式。確かに普通なら晴れ舞台であるが、これは残念なことに普通ではない。だって、王子の俺が結婚するのは隣国の第二王子。
それだけならまだしも相手とは完全な初対面であり、変わり者だと噂の男だ。
とはいってもこの王子には期待などしていない。ただの出来損ないが姫の演技をしたところで、相手は興味を持ってくれることすらしないだろうから。
そう、姫の演技。男であることを今まで隠してきた俺が、そのまま嫁になるのだ。
つまり、男だとバレたら即死刑。死がやってくるのも遅いか早いかの違い。こんなの俺の命を命だと認識していない所業だ。
昔からそうだった。俺が武器の代わりに興味を示したものは楽器。それは戦闘国家の王子としては恥ずべきことであり、それ以前に男としても恥。家族は俺を見放して、俺はグレた。と言っても喧嘩なんてできないし、ただ女に成りきって男に甘える術を得ただけだが。
まぁ、そんなこんなで今日から私は作り物の自分で相手に縋り、男とバレるまで踊り続ける哀れな駒となる。
俺はそっと目の前の仮面を被った。
「......いくわよ」
「はい、姫」
広場のステージの中央に向かい一人で、ドレスの裾を手に持ち歩く。
その姿には愛らしさと美しさ、そして威厳が込められており、皆はそれから目が離せなくなった。
途中で、肩に青い蝶が止まる。
それすらも白いドレスに輝く宝石に見えるものだから、周りから感嘆の息が漏れる。
目の前に立っているのは女神かなにかか、と皆がそう思っていた。
そんな周囲とは裏腹に、私は驚愕し、歩みを止める寸前だった。だって、目の前に立っていた男には、仮面がついていたから。
そう、私の護衛を務めている男の。
ーーー
それから式はつつがなく進行していった。
が、俺は怒りという感情に苛まれていた。それはもう、人一人殺すのではないかというほど。
だってこれでは......俺が弄ばれたということではないか! アイツに......!
「わぁぁぁあ!」
怒りで前が見えなくなりそうだったが、あがった歓声に正気を取り戻した。
ダメだ。今は式の途中。国民も見ているし、真面目にしなくては。
はぁ、まあいい。後でコイツに嫌味でもぶつけてやろう。
私はそう決心して、目の前の旦那様にとびきりの笑顔を向けた。
ーーーー
式が終わり、私は旦那様と二人きりで淫靡な雰囲気を灯したベッドの上に座っていた。
もちろんこの後は......初夜である。
当初の予定では、なんとか初夜を躱して男とばれぬよう振る舞うはずだったが、こうなってはどうしようもない。
ただ、このクソ護衛......ではなく旦那様に嫌味をぶつけるまでだ!
「どうでしたか? 今日の私は。自信はあったのですが......」
「ああ、素晴らしかったよ」
しおらしく従順に尋ねると、旦那様は一瞬驚いた様子を見せたが、すぐ作ったような返事をした。
「それは良かった。では今宵はもっと素晴らしい姿をお見せ致しますわ。お楽しみになさって?」
「......」
「あら、だんまりかしら。ふふ、シャイな方なのね。まぁ良いわ。それはそれで......良い夜になりそうだもの」
いたずらに微笑む私に、仮面をつけたままの旦那様は呆れた様子で笑った。
「ねぇ、覚えているかしら? 私が昔、あなたに質問したこと」
「覚えているよ、それがなにか?」
「ええ、あの時は納得した返事が得られなかったですし、もういっそ別の質問をしようと思って」
「別の質問?」
「ええ、どっかの誰かさんはどういうつもりだったのかしら? 哀れに踊る私を見物する趣味でもおありだったので?」
「それは......意地悪な人だな、貴方は」
「別に、あなたほどじゃありませんよ」
旦那様はこれは参ったというように肩をすくめると、そっと仮面をずらして私に口付けた。
「これで、質問に返答したことになりましたか?」
「ならないわよ、こんなことで」
「それは手強いですね」
「あなたほどではないけれどね」
「......」
「あら、まただんまりかしら。まぁ良いわ。あなたが私をどう思おうとも、私が思うのはただ一人だもの」
「それは......私ではない誰かですか?」
「あら、本当に嫌な人ね。そんな無粋なことを聞くなんて。もちろん、私に先程まで隠し事をしていたあなたのことを言っているのよ」
「それは良かった。これで僕が生涯、殺す人の数が一人減ったね」
「あら、それなら何も言わない方が良かったかもしれないわね」
「......」
またしても沈黙を貫くこの男に、今度はこちらが呆れてしまう。
はぁ。ここは俺が大人の対応をするしかないか。
「まぁ良いわ。で、あなたは今宵、俺の全て暴くおつもりか?」
仮面を外してそう尋ねる。
「まぁそうですね。貴方が先ほどのを返事と認めてくださればですけど」
「ははっ、じゃあ認めてやろう。ほら、俺を差し出してやるからさ。仮面取れよ」
何かがカランッと音を立てた。
昔、自分の護衛に向かってそう言ったことがある。彼は呆れたように、それが僕の役目ですから、と笑った。
あれから、この質問はしていない。だって彼には固い仮面が付けられているから。
「姫、お綺麗ですよ」
「あらそう? あなたがそんなことを言うなんて、珍しいじゃない」
「僕だって褒めるくらいしますよ。だって今日は......貴方の晴れ舞台ですから」
「あら? 嫌味かしら」
晴れ舞台、今日は俺の結婚式。確かに普通なら晴れ舞台であるが、これは残念なことに普通ではない。だって、王子の俺が結婚するのは隣国の第二王子。
それだけならまだしも相手とは完全な初対面であり、変わり者だと噂の男だ。
とはいってもこの王子には期待などしていない。ただの出来損ないが姫の演技をしたところで、相手は興味を持ってくれることすらしないだろうから。
そう、姫の演技。男であることを今まで隠してきた俺が、そのまま嫁になるのだ。
つまり、男だとバレたら即死刑。死がやってくるのも遅いか早いかの違い。こんなの俺の命を命だと認識していない所業だ。
昔からそうだった。俺が武器の代わりに興味を示したものは楽器。それは戦闘国家の王子としては恥ずべきことであり、それ以前に男としても恥。家族は俺を見放して、俺はグレた。と言っても喧嘩なんてできないし、ただ女に成りきって男に甘える術を得ただけだが。
まぁ、そんなこんなで今日から私は作り物の自分で相手に縋り、男とバレるまで踊り続ける哀れな駒となる。
俺はそっと目の前の仮面を被った。
「......いくわよ」
「はい、姫」
広場のステージの中央に向かい一人で、ドレスの裾を手に持ち歩く。
その姿には愛らしさと美しさ、そして威厳が込められており、皆はそれから目が離せなくなった。
途中で、肩に青い蝶が止まる。
それすらも白いドレスに輝く宝石に見えるものだから、周りから感嘆の息が漏れる。
目の前に立っているのは女神かなにかか、と皆がそう思っていた。
そんな周囲とは裏腹に、私は驚愕し、歩みを止める寸前だった。だって、目の前に立っていた男には、仮面がついていたから。
そう、私の護衛を務めている男の。
ーーー
それから式はつつがなく進行していった。
が、俺は怒りという感情に苛まれていた。それはもう、人一人殺すのではないかというほど。
だってこれでは......俺が弄ばれたということではないか! アイツに......!
「わぁぁぁあ!」
怒りで前が見えなくなりそうだったが、あがった歓声に正気を取り戻した。
ダメだ。今は式の途中。国民も見ているし、真面目にしなくては。
はぁ、まあいい。後でコイツに嫌味でもぶつけてやろう。
私はそう決心して、目の前の旦那様にとびきりの笑顔を向けた。
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式が終わり、私は旦那様と二人きりで淫靡な雰囲気を灯したベッドの上に座っていた。
もちろんこの後は......初夜である。
当初の予定では、なんとか初夜を躱して男とばれぬよう振る舞うはずだったが、こうなってはどうしようもない。
ただ、このクソ護衛......ではなく旦那様に嫌味をぶつけるまでだ!
「どうでしたか? 今日の私は。自信はあったのですが......」
「ああ、素晴らしかったよ」
しおらしく従順に尋ねると、旦那様は一瞬驚いた様子を見せたが、すぐ作ったような返事をした。
「それは良かった。では今宵はもっと素晴らしい姿をお見せ致しますわ。お楽しみになさって?」
「......」
「あら、だんまりかしら。ふふ、シャイな方なのね。まぁ良いわ。それはそれで......良い夜になりそうだもの」
いたずらに微笑む私に、仮面をつけたままの旦那様は呆れた様子で笑った。
「ねぇ、覚えているかしら? 私が昔、あなたに質問したこと」
「覚えているよ、それがなにか?」
「ええ、あの時は納得した返事が得られなかったですし、もういっそ別の質問をしようと思って」
「別の質問?」
「ええ、どっかの誰かさんはどういうつもりだったのかしら? 哀れに踊る私を見物する趣味でもおありだったので?」
「それは......意地悪な人だな、貴方は」
「別に、あなたほどじゃありませんよ」
旦那様はこれは参ったというように肩をすくめると、そっと仮面をずらして私に口付けた。
「これで、質問に返答したことになりましたか?」
「ならないわよ、こんなことで」
「それは手強いですね」
「あなたほどではないけれどね」
「......」
「あら、まただんまりかしら。まぁ良いわ。あなたが私をどう思おうとも、私が思うのはただ一人だもの」
「それは......私ではない誰かですか?」
「あら、本当に嫌な人ね。そんな無粋なことを聞くなんて。もちろん、私に先程まで隠し事をしていたあなたのことを言っているのよ」
「それは良かった。これで僕が生涯、殺す人の数が一人減ったね」
「あら、それなら何も言わない方が良かったかもしれないわね」
「......」
またしても沈黙を貫くこの男に、今度はこちらが呆れてしまう。
はぁ。ここは俺が大人の対応をするしかないか。
「まぁ良いわ。で、あなたは今宵、俺の全て暴くおつもりか?」
仮面を外してそう尋ねる。
「まぁそうですね。貴方が先ほどのを返事と認めてくださればですけど」
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何かがカランッと音を立てた。
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