48 / 114
出会い
48話
しおりを挟む飛――飛龍が武官と面会している頃。紅龍は呼び出され母の住まう紫水宮へと足を運んでいた。
天聖国には皇后の他に妃が一人いる。それが紅龍の母、妟 紫僑だ。ここでは貴妃の位を賜っている。
飛龍の母は皇后なので異母兄弟ということになる。皇后即位の際に権力が偏ることを良しとしない貴族たちが打ち出したのが貴妃を後宮へと入れることだった。
父である皇帝もその意見を退けることが出来ず、子を設けるという義務を果たした後は紫僑への夜伽は最低限のものとなった。
「お呼びですか、母上」
「あら遅かったわね。すぐに来なさいと言っていたでしょう。相変わらずグズなんだから 」
「……申し訳ありません」
爪紅を塗り終えたばかりなのか部屋には独特の匂いが充満していた。思わず顔を顰めそうになったが我慢して話を続ける。
「いつも隣にいる武官はどうしたの? 今日はいないようだけど」
「湖玉なら兄上のところです」
「なんですって? アイツには迂闊に近づくなと言っておいたでしょう」
紅龍の言葉に気怠げだった表情が一気に鋭いものへと変わる。塗り終えた爪紅がよれないように気をつけている所が紫僑らしい。
「この前菓子をいただいたのでその礼状を持たせただけですよ。何もしないのも逆に不自然でしょう。無駄な疑念を抱かせると後々に影響を及ぼしますからね」
「ふぅん。ま、ならいいのよ」
しばらく紅龍をじろりと見ていたがコロッと興味を失った様に爪紅を乾かすために息を吹きかける。
「それで、どう?」
「どうとは?」
「あの人が気にしていたわよ。ちゃんと思惑通り動いてるのかって。自分が利用されているのも気付いていないのに、まぬけよねえ」
「また連れ込まれたんですか? 程々になさらないと……」
「なによ、口答えする気? 最近私が優しいからって調子に乗ってるんじゃないの!」
紫僑は近くにあった本の塊を紅龍に投げつける。咄嗟に腕で衝撃を庇ったが、十一歳の少年にはまだ立っていられる強さは足りなかった。
それに構うことなく紫僑は紅龍の元へ行き俯く息子の顎をすくう。長く鋭い紫僑の爪が頬に食い込む。
「アンタに口答えなんてする権利ないのよ。私が陛下の一番の妃になるの。アンタはそのための道具なのよ」
「……はい、母上」
「せっかく進捗がどんなものか聞こうと思ったのに、気分悪くなっちゃった。――出ていきなさい」
「失礼します……」
紫水宮を出た紅龍は自分の宮へと帰路につく。紅龍は心の中で黒い感情が渦巻くのを必死に抑えていた。
「アイツらのせいだ……。早く、終わらせないと……」
その頬には血の様に真っ赤な爪紅が付いていた――。
4
あなたにおすすめの小説
【純愛百合】檸檬色に染まる泉【純愛GL】
里見 亮和
キャラ文芸
”世界で一番美しいと思ってしまった憧れの女性”
女子高生の私が、生まれてはじめて我を忘れて好きになったひと。
雑誌で見つけたたった一枚の写真しか手掛かりがないその女性が……
手なんか届かくはずがなかった憧れの女性が……
いま……私の目の前ににいる。
奇跡的な出会いを果たしてしまった私の人生は、大きく動き出す……
月華後宮伝
織部ソマリ
キャラ文芸
★10/30よりコミカライズが始まりました!どうぞよろしくお願いします!
◆神託により後宮に入ることになった『跳ねっ返りの薬草姫』と呼ばれている凛花。冷徹で女嫌いとの噂がある皇帝・紫曄の妃となるのは気が進まないが、ある目的のために月華宮へ行くと心に決めていた。凛花の秘めた目的とは、皇帝の寵を得ることではなく『虎に変化してしまう』という特殊すぎる体質の秘密を解き明かすこと! だが後宮入り早々、凛花は紫曄に秘密を知られてしまう。しかし同じく秘密を抱えている紫曄は、凛花に「抱き枕になれ」と予想外なことを言い出して――?
◆第14回恋愛小説大賞【中華後宮ラブ賞】受賞。ありがとうございます!
◆旧題:月華宮の虎猫の妃は眠れぬ皇帝の膝の上 ~不本意ながらモフモフ抱き枕を拝命いたします~
皇太后(おかあ)様におまかせ!〜皇帝陛下の純愛探し〜
菰野るり
キャラ文芸
皇帝陛下はお年頃。
まわりは縁談を持ってくるが、どんな美人にもなびかない。
なんでも、3年前に一度だけ出逢った忘れられない女性がいるのだとか。手がかりはなし。そんな中、皇太后は自ら街に出て息子の嫁探しをすることに!
この物語の皇太后の名は雲泪(ユンレイ)、皇帝の名は堯舜(ヤオシュン)です。つまり【後宮物語〜身代わり宮女は皇帝陛下に溺愛されます⁉︎〜】の続編です。しかし、こちらから読んでも楽しめます‼︎どちらから読んでも違う感覚で楽しめる⁉︎こちらはポジティブなラブコメです。
理想の男性(ヒト)は、お祖父さま
たつみ
恋愛
月代結奈は、ある日突然、見知らぬ場所に立っていた。
そこで行われていたのは「正妃選びの儀」正妃に側室?
王太子はまったく好みじゃない。
彼女は「これは夢だ」と思い、とっとと「正妃」を辞退してその場から去る。
彼女が思いこんだ「夢設定」の流れの中、帰った屋敷は超アウェイ。
そんな中、現れたまさしく「理想の男性」なんと、それは彼女のお祖父さまだった!
彼女を正妃にするのを諦めない王太子と側近魔術師サイラスの企み。
そんな2人から彼女守ろうとする理想の男性、お祖父さま。
恋愛よりも家族愛を優先する彼女の日常に否応なく訪れる試練。
この世界で彼女がくだす決断と、肝心な恋愛の結末は?
◇◇◇◇◇設定はあくまでも「貴族風」なので、現実の貴族社会などとは異なります。
本物の貴族社会ではこんなこと通用しない、ということも多々あります。
R-Kingdom_1
他サイトでも掲載しています。
耽溺愛ークールな准教授に拾われましたー
汐埼ゆたか
キャラ文芸
准教授の藤波怜(ふじなみ れい)が一人静かに暮らす一軒家。
そこに迷い猫のように住み着いた女の子。
名前はミネ。
どこから来たのか分からない彼女は、“女性”と呼ぶにはあどけなく、“少女”と呼ぶには美しい
ゆるりと始まった二人暮らし。
クールなのに優しい怜と天然で素直なミネ。
そんな二人の間に、目には見えない特別な何かが、静かに、穏やかに降り積もっていくのだった。
*****
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
※他サイト掲載
男装官吏と花散る後宮〜禹国謎解き物語〜
春日あざみ
キャラ文芸
<第8回キャラ文芸大賞にて奨励賞をいただきました。応援ありがとうございました!>
宮廷で史書編纂事業が立ち上がると聞き、居ても立ってもいられなくなった歴史オタクの柳羅刹(りゅうらせつ)。男と偽り官吏登用試験、科挙を受験し、見事第一等の成績で官吏となった彼女だったが。珍妙な仮面の貴人、雲嵐に女であることがバレてしまう。皇帝の食客であるという彼は、羅刹の秘密を守る代わり、後宮の悪霊によるとされる妃嬪の連続不審死事件の調査を命じる。
しかたなく羅刹は、悪霊について調べ始めるが——?
「歴女×仮面の貴人(奇人?)」が紡ぐ、中華風世界を舞台にしたミステリ開幕!
竜王の花嫁
桜月雪兎
恋愛
伯爵家の訳あり令嬢であるアリシア。
百年大戦終結時の盟約によりアリシアは隣国に嫁ぐことになった。
そこは竜王が治めると云う半獣人・亜人の住むドラグーン大国。
相手はその竜王であるルドワード。
二人の行く末は?
ドタバタ結婚騒動物語。
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる