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第25話 思わぬ招集依頼
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冒険者ギルドに入ると、受付に立つ女性が私たちを見つけるなり、慌ただしく手を振った。
「ノエラさん、お待ちしていました!」
いつも笑顔で迎えてくれる受付の女性なのだが、今日は少し緊張した表情をしている。何かあったのだろうか。私たちが受付に近づくと、彼女は周囲を見回してから小声で話し始めた。
「実は、特別な依頼が届いているんです」
「依頼?」
珍しく、アンクティワンを通さず直接冒険者ギルドに呼び出された私たち。特別な依頼があるというのは分かったが、いったい誰からだろう。
「どんな依頼なの?」
私が尋ねると、彼女は困ったように唇を噛んだ。そして、躊躇いがちに口を開く。どんな依頼なのか教えてくれた。
「実は、エリック王子からの依頼です」
「……王子から?」
戸惑う。まさか、その名前を聞くなんて予想外だったから。彼は、どんな目的で私たちに依頼を出したのか?
「はい。王城に本人が来てほしいと。貴女たちを指名する依頼で、必ず伝えるようにという上からの指示がありまして……ごめんなさい」
伝えてくれた受付嬢の彼女は、本当に申し訳なさそうな表情を浮かべている。彼女の態度からして、ギルドの人たちもこの件を厄介事だと理解しているみたいね。
上からの指示。彼女が悪いわけではないのに、謝らせてしまったわね。
「とりあえず、わかったわ。依頼については、こちらで任せて」
「よろしくお願いします」
依頼の証書を受け取りながら発した、私の言葉にホッとした表情を浮かべた受付の女性。話を終えてギルドを出る。少し歩いたところで足を止めた。
「これ、どうしましょう?」
振り返ると、会話には口を挟まなかったナディーヌ、エミリー、ジャメルの表情に同じ戸惑いが浮かんでいた。特にジャメルは、厳しい表情で考え込んでいる。
「この件については、アンクティワンに相談してみるのがよろしいかと」
ジャメルが提案してくれる。確かに今回の件は、私たちだけでは判断が難しい。けれど。
「アンクティワンを頼る。……いいのかしら?」
エリック王子とは、もう二度と会いたくない。記憶操作の魔法を使ってまで、あの環境から抜け出したのだから。このまま会わずにいたいというのが本音。だから、この依頼も断りたい。
だけど、王家からの依頼だ。冒険者ギルドを通じて正式に依頼されたものを、断ることは困難だろう。もし理由もなく断れば、色々と面倒なことになりそう。それは避けたい。
アンクティワンなら、どうにか対処してくれるかもしれない。彼は商人として色々な繋がりがある。それを駆使すれば、依頼を断るのに適切な理由も用意してくれそうだと思う。私たちの事情も理解している数少ない人物だ。だけど、彼に迷惑じゃないかしら。いつも頼りっぱなしで申し訳ない気持ちもあった。
「とりあえず、知らせてみましょう。彼も仲間、ですから」
ジャメルが真っ直ぐな目で私を見つめる。その言葉に肩の力が抜けた。ジャメルの言う通り、アンクティワンも私たちの大事な仲間。彼の判断は信頼できる。とにかく知らせておくべきね。
「わかった」
私たちは商業地区に向かった。道中、エミリーは不安そうな表情で私の顔を覗き込んでいる。前と同じように、王子に目をつけられるかもしれない。彼と関わって、面倒なことに巻き込まれるかも。そんな不安があった。彼女はきっと私の気持ちを察して心配しているのでしょう。
「大丈夫よ、エミリー。何とかなるわ」
彼女の頭を軽く撫でると、少し安心したように微笑んだ。私一人だったら無理かもしれない。けれど、頼りになる仲間がいるから、この件も乗り越えられると思えた。
王家の依頼について話すために、アンクティワンの商会に来た。中に入ると、彼はいつものように丁寧な接客で私たちを迎えてくれた。その笑顔には何も心配事がないかのような安心感がある。
「おや、今日はどうされたのですか?」
「実は、冒険者ギルドからこんな依頼をお願いされて」
受け取った依頼の証書を渡して簡単に事情を説明すると、アンクティワンはすぐに事情を把握してくれた。状況を理解して、どうするべきか教えてくれる。
「エリック王子の依頼については、こちらで対処します。とりあえず、向こうの目的を探りましょう」
あまりの手際の良さに驚いてしまう。商人としての判断と行動の速さにも、改めて驚かされる。
「任せていいの?」
「もちろん、いいです。私も、ノエラ様の仲間の一人ですから」
アンクティワンは柔らかな笑みを浮かべながら、しかし眼光は鋭く真剣だ。瞳の奥に、商人らしい計算と慎重さが見え隠れしている。
「王子が、どういうつもりなのか。どうするつもりなのか調べます。おそらく神殿に問題を抱え、その代わりとして新たな力を求めているのでしょう。最近の冒険者ギルドでの評判を聞きつけたのかもしれません」
彼の分析は、納得できる内容だった。確かに、この数ヶ月で私たちのパーティーは冒険者ギルドでも一目置かれる存在になっていた。それが耳に入っても不思議ではない。
「ノエラ様は、ただ私に命じてください」
彼の頼もしい言葉に、背中を預ける気持ちになる。
「わかった。お願い、どうにかしてアンクティワン」
「はい。お任せください」
アンクティワンの言葉に、安堵の気持ちが湧いた。彼に任せたら大丈夫。
エリック王子——かつて私を捨てた男から、なぜ今になって呼び出しが来たのか。関わってこようとしているのは偶然なのか。もし彼が私のことを思い出したりしたら。いや、それはありえない。記憶操作の魔法は完璧だったはずだ。
それでも、彼と再会することになるのは避けられないかもしれない。その時、私は冷静でいられるだろうか。かつての婚約者を前にして、感情を表に出さずにいられるのでしょうか。
今の私は違う。聖女ではなく、一人の冒険者として生きているから。ナディーヌ、エミリー、ジャメル、そしてアンクティワン——支えてくれる仲間がいる。
かつての私なら、一人で全てを背負い込もうとしていたかもしれない。でも今は、仲間と共に歩んでいく道を選んだ。だから、どんな困難が待っていても、きっと乗り越えられる。
そう信じて、私は仲間たちと共に次の行動を待つことにした。
「ノエラさん、お待ちしていました!」
いつも笑顔で迎えてくれる受付の女性なのだが、今日は少し緊張した表情をしている。何かあったのだろうか。私たちが受付に近づくと、彼女は周囲を見回してから小声で話し始めた。
「実は、特別な依頼が届いているんです」
「依頼?」
珍しく、アンクティワンを通さず直接冒険者ギルドに呼び出された私たち。特別な依頼があるというのは分かったが、いったい誰からだろう。
「どんな依頼なの?」
私が尋ねると、彼女は困ったように唇を噛んだ。そして、躊躇いがちに口を開く。どんな依頼なのか教えてくれた。
「実は、エリック王子からの依頼です」
「……王子から?」
戸惑う。まさか、その名前を聞くなんて予想外だったから。彼は、どんな目的で私たちに依頼を出したのか?
「はい。王城に本人が来てほしいと。貴女たちを指名する依頼で、必ず伝えるようにという上からの指示がありまして……ごめんなさい」
伝えてくれた受付嬢の彼女は、本当に申し訳なさそうな表情を浮かべている。彼女の態度からして、ギルドの人たちもこの件を厄介事だと理解しているみたいね。
上からの指示。彼女が悪いわけではないのに、謝らせてしまったわね。
「とりあえず、わかったわ。依頼については、こちらで任せて」
「よろしくお願いします」
依頼の証書を受け取りながら発した、私の言葉にホッとした表情を浮かべた受付の女性。話を終えてギルドを出る。少し歩いたところで足を止めた。
「これ、どうしましょう?」
振り返ると、会話には口を挟まなかったナディーヌ、エミリー、ジャメルの表情に同じ戸惑いが浮かんでいた。特にジャメルは、厳しい表情で考え込んでいる。
「この件については、アンクティワンに相談してみるのがよろしいかと」
ジャメルが提案してくれる。確かに今回の件は、私たちだけでは判断が難しい。けれど。
「アンクティワンを頼る。……いいのかしら?」
エリック王子とは、もう二度と会いたくない。記憶操作の魔法を使ってまで、あの環境から抜け出したのだから。このまま会わずにいたいというのが本音。だから、この依頼も断りたい。
だけど、王家からの依頼だ。冒険者ギルドを通じて正式に依頼されたものを、断ることは困難だろう。もし理由もなく断れば、色々と面倒なことになりそう。それは避けたい。
アンクティワンなら、どうにか対処してくれるかもしれない。彼は商人として色々な繋がりがある。それを駆使すれば、依頼を断るのに適切な理由も用意してくれそうだと思う。私たちの事情も理解している数少ない人物だ。だけど、彼に迷惑じゃないかしら。いつも頼りっぱなしで申し訳ない気持ちもあった。
「とりあえず、知らせてみましょう。彼も仲間、ですから」
ジャメルが真っ直ぐな目で私を見つめる。その言葉に肩の力が抜けた。ジャメルの言う通り、アンクティワンも私たちの大事な仲間。彼の判断は信頼できる。とにかく知らせておくべきね。
「わかった」
私たちは商業地区に向かった。道中、エミリーは不安そうな表情で私の顔を覗き込んでいる。前と同じように、王子に目をつけられるかもしれない。彼と関わって、面倒なことに巻き込まれるかも。そんな不安があった。彼女はきっと私の気持ちを察して心配しているのでしょう。
「大丈夫よ、エミリー。何とかなるわ」
彼女の頭を軽く撫でると、少し安心したように微笑んだ。私一人だったら無理かもしれない。けれど、頼りになる仲間がいるから、この件も乗り越えられると思えた。
王家の依頼について話すために、アンクティワンの商会に来た。中に入ると、彼はいつものように丁寧な接客で私たちを迎えてくれた。その笑顔には何も心配事がないかのような安心感がある。
「おや、今日はどうされたのですか?」
「実は、冒険者ギルドからこんな依頼をお願いされて」
受け取った依頼の証書を渡して簡単に事情を説明すると、アンクティワンはすぐに事情を把握してくれた。状況を理解して、どうするべきか教えてくれる。
「エリック王子の依頼については、こちらで対処します。とりあえず、向こうの目的を探りましょう」
あまりの手際の良さに驚いてしまう。商人としての判断と行動の速さにも、改めて驚かされる。
「任せていいの?」
「もちろん、いいです。私も、ノエラ様の仲間の一人ですから」
アンクティワンは柔らかな笑みを浮かべながら、しかし眼光は鋭く真剣だ。瞳の奥に、商人らしい計算と慎重さが見え隠れしている。
「王子が、どういうつもりなのか。どうするつもりなのか調べます。おそらく神殿に問題を抱え、その代わりとして新たな力を求めているのでしょう。最近の冒険者ギルドでの評判を聞きつけたのかもしれません」
彼の分析は、納得できる内容だった。確かに、この数ヶ月で私たちのパーティーは冒険者ギルドでも一目置かれる存在になっていた。それが耳に入っても不思議ではない。
「ノエラ様は、ただ私に命じてください」
彼の頼もしい言葉に、背中を預ける気持ちになる。
「わかった。お願い、どうにかしてアンクティワン」
「はい。お任せください」
アンクティワンの言葉に、安堵の気持ちが湧いた。彼に任せたら大丈夫。
エリック王子——かつて私を捨てた男から、なぜ今になって呼び出しが来たのか。関わってこようとしているのは偶然なのか。もし彼が私のことを思い出したりしたら。いや、それはありえない。記憶操作の魔法は完璧だったはずだ。
それでも、彼と再会することになるのは避けられないかもしれない。その時、私は冷静でいられるだろうか。かつての婚約者を前にして、感情を表に出さずにいられるのでしょうか。
今の私は違う。聖女ではなく、一人の冒険者として生きているから。ナディーヌ、エミリー、ジャメル、そしてアンクティワン——支えてくれる仲間がいる。
かつての私なら、一人で全てを背負い込もうとしていたかもしれない。でも今は、仲間と共に歩んでいく道を選んだ。だから、どんな困難が待っていても、きっと乗り越えられる。
そう信じて、私は仲間たちと共に次の行動を待つことにした。
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