聖女は記憶と共に姿を消した~婚約破棄を告げられた時、王国の運命が決まった~

キョウキョウ

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第26話 商人の対策 ※商人アンクティワン視点

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 ノエラ様から話を聞いた瞬間、私の頭の中ではすでに対策が動き始めていた。王子からの依頼で呼び出された。彼女の過去を考慮すれば、放置できる問題ではない。

「お任せください」

 そう答えた時、私はすでに行動計画を立てていた。商人として培った人脈と経験を総動員して、彼女たちを守らなければならない。

 まずは詳しい事実確認から。私は冒険者ギルドに向かった。

 彼女たちは我が商会が専属で扱っている冒険者チームである。それを、商会を通さず直接依頼をするとは、明らかに異常だ。この経緯について詳しく聞いてみる必要がある。

 ギルドを訪れる際に、私は事前にアポイントを取った。この種の問題では、相手の敵意を買うような行動は避けるべきだ。

「アンクティワン様、本日はお忙しい中お越しいただき、申し訳ございません」
「こちらこそ、お時間をいただき感謝いたします」

 出迎えてくれたのは、ギルド長のバロン氏。深い皺が額に刻まれ、普段の穏やかな表情の違いから、明らかに頭を悩ませている様子だった。

 彼の執務室で向かい合った。バロン氏は商会や私に敵意がないことをアピールするためなのか、詳しい内容を気を使いながら丁寧に説明し始めた。

「実は、王家から突然の命令でして。我々も困惑しております。アンクティワン様との関係を損ねたくはないのですが、王家に逆らうわけにもいかず」

 彼の言葉から、ギルド側も強引に命令されて仕方なく動いていることが分かった。王家に逆らうと面倒だから断ることもできず、申し訳ないという気持ちを隠さずに深々と頭を下げられる。

「バロン殿、お気になさらず。私たちも困っているのは同じです。ぜひ、この件で協力させていただけませんか?」

 私の提案に、バロン氏の表情に安堵の色が浮かんだ。彼とは、協力できそうだ。

「もちろんです。むしろ、お力をお借りしたいくらいです」
「それでは、向こうの依頼を穏便に断ることができないか探ってみましょう。指名されたパーティーは危険任務を専門としており、護衛や儀礼的任務には適していません。それを理由に、どうにかできないか」

 おそらく彼の狙いは、引き抜き。そのことを感じているが、向こうは招集の理由を詳しく言っていない。なので、そこをズラしながら真の目的を明らかにできないか。そのために、依頼を断るための理由を用意する。

「なるほど。確かに彼女たちは魔物討伐のエキスパートです。これまで多くの実績を上げています。ですが、王族の護衛となると話が別ですね」
「加えて、『身分の違い』を理由としてはいかがでしょう。『王家の方々と接する資格など、私たちにはございません』と。『彼らは市井の人々を助けるために活動する冒険者たち。身分の低い一般市民が王子様と直接対面するなど、身の程知らずというものです。恐れ多くてお目にかかる資格がない』と、謙虚に申し上げるのです」

 この提案に、バロン氏も頷く。良いアイデアだと。どうにかして、断る方向へ話を持っていく。ノエラ様が王子と面会せずに済むように。

「素晴らしい。確かに、王家の方々も無理強いはできませんね」

 私たちは詳細な戦略を練り上げた。王家の使者への対応は、私が一手に引き受けることにした。ギルド側は彼女たちの能力的に不適合を強調し、立場的な問題も前面に出す。二重の防壁で対処する計画だ。


 話し合いを終えて冒険者ギルドを出た後、私は懇意にしている貴族のところへ向かった。その貴族は商人である私にも友好的で、信用できる取引相手でもある。長年の取引で築いてきた信頼関係は強固なものだった。今回の件について、助けてもらえるかもしれない。

 貴族の屋敷に通され、執務室で彼を待った。やがて入ってきた彼は、私の姿を見ると少し驚いたような表情を浮かべた。

「アンクティワンか。何か急ぎの用件があるのか?」

 私は丁寧に頭を下げ、事情を説明した。話を聞いた彼は困惑の色を浮かべ、眉間に深い皺を寄せた。

「なに?王子が冒険者に興味を示すとは……。一体何を考えておられるのだ」
「もしかすると、戦力として引き抜くつもりなのかもしれません」

 私の推測に、彼は明らかに不快感を示している。それは、私に対してではなく王子に対する感情のようだ。

「それは無作法極まりない。能力があるからといって、一般市民から人を引き抜こうなどというのは、常識に反します。普通は近衛兵から選ぶか、神殿に協力を仰ぐべきだろう」
「恐れ入ります。やはりそのようなお考えでございましたか」
「何か問題が生じれば、私の方からも声をかけよう。王族とはいえ、あまりに礼を失した行いは看過できんからな。アンクティワン、お前の立場も理解しておる。商人としては難しい判断だろうが、筋を通せ」
「身に余るお言葉、誠にありがとうございます」

 彼の言葉は非常に心強かった。王族と貴族社会の常識を盾にすれば、王子の要求にも対抗できそうだ。商人として、こうした人脈を大切にしてきた甲斐があった。



 数日後、万全の準備を整えてから、私は王家の使者と面会した。商会の応接室で向かい合う使者は、王家の紋章をつけた正装で現れ、私を見下ろすような姿勢で椅子に座った。

「商会のアンクティワン。王子殿下のお呼び出しを拒むとは、随分と大胆だな」

 貴族特有の高圧的な口調だが、その目には困惑の色も混じっているようだ。私は商人として培った人を読む力で、真意を探った。

「このような僭越な者にお目通りいただき、恐縮に存じます」

 私は穏やかに微笑みながら丁寧に頭を下げた。警戒心を抱かせないよう、最大限の礼儀を示す。

「さて、今回の事情について話そう。王子殿下のご意向は尊重いたしておるが、何分急なお呼び出しゆえ、こちらも詳しい理由がわからぬままでな。まずは、お前たちが依頼を断ろうとしている理由を話せ」

 使者の言葉には尊大さがあるものの、彼もまた困惑しているようだった。おそらく王子からの突然の命令で、詳細を把握しないまま動かされているのだろう。

「ご理解いただき、感謝申し上げます。私どもとしましても、王子殿下のご意向に沿うべく努めておりますが、まずはそのご意図を正確に理解したく存じておりました」

 使者は眉をひそめたが、やがて少し姿勢を崩した。

「実のところ、殿下はその冒険者たちの評判をお聞きになり、関心をお持ちになられたようだ。詳細は私にも明かされていないが、おそらく何らかの形で力を借りたいということだろう」

 興味深い情報が得られ始めた。この調子なら、ノエラたちを危険にさらすことなく、この問題を解決できるかもしれない。

「恐れながら申し上げます。当方の冒険者たちは市井の任務に特化しており、王宮での勤務は荷が重すぎる存在にございます。身分違いの者が殿下と対面など、冒涜に当たりはしないかと危惧するところでございます」

 使者は一瞬考え込んだ後、意外にも頷いた。

「理解できぬでもない。殿下には、その旨お伝えしよう」

 私は内心で微笑みながら、さらに詳しい話を聞くことにした。商人として磨いた交渉術を駆使して、必ずやこの難局を乗り切ってみせる。ノエラ様に託された信頼に、必ず応えなければならない。
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