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第27話 傷つけられたプライド ※エリック王子視点
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「どういうことだ!」
俺の怒声が執務室に響き渡る。王族である俺の依頼を断る? そんな馬鹿げた話があるものか。
「申し訳ございません、殿下。ですが、向こうの言い分も」
依頼を任せていた男が、困惑しながら答える。その顔には明らかに動揺の色が浮かんでいる。俺の機嫌を損ねたくないのは分かるが、もっと重要なことがあるだろう。
「言い分だと? どんな言い分があるというのだ!」
「恐れ多くてお目にかかる資格がない、と。身分の違いを理由に、辞退されました」
俺がわざわざ指名してやったのに、その厚意を踏みにじるような真似をするのか。
「それから、冒険者ギルドから説明がありまして。指名した冒険者チームは魔物討伐の専門であり、護衛や儀礼的な任務には適していないと」
そんな理屈。俺はそんなことを求めているのではない。ただ、その実力を確かめたかっただけなのに。神殿に代わるものがあるのか、この目で見極めたかったのだ。
そのとき、扉がノックされた。入ってきたのは、とある貴族の男。俺の幼い頃からの家庭教師でもあった、リチャード伯爵だった。
「殿下、お聞きしました。しかし、今回の件は向こうの言い分が正しいかと」
「何だと?」
部屋に入るや否や、急に会話に割って入ってくる。
「そもそも、冒険者ギルドに依頼を出す前に、まず神殿に協力を仰ぐか、近衛兵から選ぶべきでしょう。一般の冒険者をいきなり指名するなど、前例がありませんよ」
「神殿の連中は頼りにならん。だから、別のところへ助けを求めるんだ。そのために関係を深めていく必要が――」
「それでも筋というものがございます。このまま強行すれば、必ず問題となりましょう。神殿との関係はますます悪化し、王家の権威に傷がつきかねません」
「……」
確かに、面倒が起きる前に手を引いた方が賢明かもしれない。強引に進めようとすれば、貴族の連中が突いてくる可能性もあるか。神殿の無能さを嘆いても、それを理由に前例のない行動を取れば、批判の矛先が俺に向かうのは目に見えている。
「……わかった。今回は諦めよう」
俺は歯を食いしばりながら言った。忠告されたから聞く。理性的には正しい判断だとわかっている。だけど、この屈辱感はどうしようもない。王族である俺の要求が、一介の冒険者に拒絶された。それも、もっともらしい理由をつけて。
「賢明なご判断です」
リチャード伯爵の満足げな表情が、余計に俺をいらつかせる。だが、これ以上騒げば俺の立場が悪くなるだけだ。とにかく面倒な状況は、さっさと終わらせる。
「分かった、分かった。もう下がれ」
依頼を任せていたのに失敗した男を手で払いのけるように言うと、彼は深々と頭を下げて部屋から出て行った。リチャード伯爵もその後に続く。
一人になった執務室で、俺は椅子にもたれかかった。理性では納得しているが、感情は別だ。この傷つけられたプライドをどうすればいい? お願いしたのに断った。王族としての威厳を踏みにじられた屈辱を、このまま飲み込めというのか?
いや、待て。直接的な報復は無理でも、別の方法があるではないか。彼らを頼ってみよう。
思いついた俺は立ち上がり、使用人を呼んだ。
「神殿の老賢者を呼び出せ。すぐにだ」
「はい、承知いたしました」
ほどなくして、神殿の老賢者が息を切らしながら駆けつけてきた。その顔には期待と不安が入り混じっている。何度も繰り返し、資金提供を求めてきた彼ら。俺の呼び出しに、何か得になる話だと期待しているに違いない。
お前の望む通り、名誉挽回のチャンスを与えてやろう。
「殿下にお呼びいただき、光栄です。何かご用件でも?」
「そうだな。お前に提案したいことがある」
俺は椅子に座り直し、老賢者を見下ろした。
「お前が望んでいた資金提供をする。神殿の財政は厳しいのだろう?」
老賢者の目がきらりと光る。予想通りの反応だ。金に困っている連中ほど、扱いやすいものはない。
「それは……ありがたいお申し出です。ですが、何か条件でも?」
「そう、条件がある。資金提供する代わりに、こちらのお願いを聞いてもらいたい」
俺はゆっくりと口元に笑みを浮かべた。老賢者は期待を込めた表情で俺を見つめている。
「とある一般市民の冒険者のチームに、痛い目を見せてほしい」
老賢者の表情が一瞬で変わった。驚きから理解へ、そして計算高い笑みへと。
「王子に刃向かった不届き者、でございますね。それくらい、お安い御用です。お任せください」
「よし。では、前金としてこれだけ支払おう」
俺は金額を記入して、机に置いた。正式な書類。これを受け取れば、望んでいた金が手に入る。老賢者の目がそれに釘付けになる。
「そして、依頼が達成されたら、この倍を支払うことを約束する」
金額を告げると、老賢者の顔に満足げな笑みが浮かんだ。あからさまな欲がにじみ出ている。
「殿下、お話を承りました。必ずや期待にお応えいたします」
老賢者は深々と頭を下げ、書類を手に取った。
「頼んだぞ。俺のプライドを傷つけた連中に、思い知らせてやれ」
「必ずや」
老賢者が部屋を出て行った後、俺は一人ほくそ笑んだ。正面からでは無理でも、裏からなら何とでもなる。王族の威厳を踏みにじった報いを、存分に味わうがいい。
一度は切り捨てようと考えた神殿だが、今回のお願いを成功させたら、考えを改めてやろう。もしかしたら、色々と使い道があるかもしれない。神殿には、まだ価値があることを証明してもらおう。
そして依頼を断った連中には俺の機嫌を損ねれば、どうなるかを思い知らせてやる。王族をなめた報いを、しっかりと味わうがいい。
俺の怒声が執務室に響き渡る。王族である俺の依頼を断る? そんな馬鹿げた話があるものか。
「申し訳ございません、殿下。ですが、向こうの言い分も」
依頼を任せていた男が、困惑しながら答える。その顔には明らかに動揺の色が浮かんでいる。俺の機嫌を損ねたくないのは分かるが、もっと重要なことがあるだろう。
「言い分だと? どんな言い分があるというのだ!」
「恐れ多くてお目にかかる資格がない、と。身分の違いを理由に、辞退されました」
俺がわざわざ指名してやったのに、その厚意を踏みにじるような真似をするのか。
「それから、冒険者ギルドから説明がありまして。指名した冒険者チームは魔物討伐の専門であり、護衛や儀礼的な任務には適していないと」
そんな理屈。俺はそんなことを求めているのではない。ただ、その実力を確かめたかっただけなのに。神殿に代わるものがあるのか、この目で見極めたかったのだ。
そのとき、扉がノックされた。入ってきたのは、とある貴族の男。俺の幼い頃からの家庭教師でもあった、リチャード伯爵だった。
「殿下、お聞きしました。しかし、今回の件は向こうの言い分が正しいかと」
「何だと?」
部屋に入るや否や、急に会話に割って入ってくる。
「そもそも、冒険者ギルドに依頼を出す前に、まず神殿に協力を仰ぐか、近衛兵から選ぶべきでしょう。一般の冒険者をいきなり指名するなど、前例がありませんよ」
「神殿の連中は頼りにならん。だから、別のところへ助けを求めるんだ。そのために関係を深めていく必要が――」
「それでも筋というものがございます。このまま強行すれば、必ず問題となりましょう。神殿との関係はますます悪化し、王家の権威に傷がつきかねません」
「……」
確かに、面倒が起きる前に手を引いた方が賢明かもしれない。強引に進めようとすれば、貴族の連中が突いてくる可能性もあるか。神殿の無能さを嘆いても、それを理由に前例のない行動を取れば、批判の矛先が俺に向かうのは目に見えている。
「……わかった。今回は諦めよう」
俺は歯を食いしばりながら言った。忠告されたから聞く。理性的には正しい判断だとわかっている。だけど、この屈辱感はどうしようもない。王族である俺の要求が、一介の冒険者に拒絶された。それも、もっともらしい理由をつけて。
「賢明なご判断です」
リチャード伯爵の満足げな表情が、余計に俺をいらつかせる。だが、これ以上騒げば俺の立場が悪くなるだけだ。とにかく面倒な状況は、さっさと終わらせる。
「分かった、分かった。もう下がれ」
依頼を任せていたのに失敗した男を手で払いのけるように言うと、彼は深々と頭を下げて部屋から出て行った。リチャード伯爵もその後に続く。
一人になった執務室で、俺は椅子にもたれかかった。理性では納得しているが、感情は別だ。この傷つけられたプライドをどうすればいい? お願いしたのに断った。王族としての威厳を踏みにじられた屈辱を、このまま飲み込めというのか?
いや、待て。直接的な報復は無理でも、別の方法があるではないか。彼らを頼ってみよう。
思いついた俺は立ち上がり、使用人を呼んだ。
「神殿の老賢者を呼び出せ。すぐにだ」
「はい、承知いたしました」
ほどなくして、神殿の老賢者が息を切らしながら駆けつけてきた。その顔には期待と不安が入り混じっている。何度も繰り返し、資金提供を求めてきた彼ら。俺の呼び出しに、何か得になる話だと期待しているに違いない。
お前の望む通り、名誉挽回のチャンスを与えてやろう。
「殿下にお呼びいただき、光栄です。何かご用件でも?」
「そうだな。お前に提案したいことがある」
俺は椅子に座り直し、老賢者を見下ろした。
「お前が望んでいた資金提供をする。神殿の財政は厳しいのだろう?」
老賢者の目がきらりと光る。予想通りの反応だ。金に困っている連中ほど、扱いやすいものはない。
「それは……ありがたいお申し出です。ですが、何か条件でも?」
「そう、条件がある。資金提供する代わりに、こちらのお願いを聞いてもらいたい」
俺はゆっくりと口元に笑みを浮かべた。老賢者は期待を込めた表情で俺を見つめている。
「とある一般市民の冒険者のチームに、痛い目を見せてほしい」
老賢者の表情が一瞬で変わった。驚きから理解へ、そして計算高い笑みへと。
「王子に刃向かった不届き者、でございますね。それくらい、お安い御用です。お任せください」
「よし。では、前金としてこれだけ支払おう」
俺は金額を記入して、机に置いた。正式な書類。これを受け取れば、望んでいた金が手に入る。老賢者の目がそれに釘付けになる。
「そして、依頼が達成されたら、この倍を支払うことを約束する」
金額を告げると、老賢者の顔に満足げな笑みが浮かんだ。あからさまな欲がにじみ出ている。
「殿下、お話を承りました。必ずや期待にお応えいたします」
老賢者は深々と頭を下げ、書類を手に取った。
「頼んだぞ。俺のプライドを傷つけた連中に、思い知らせてやれ」
「必ずや」
老賢者が部屋を出て行った後、俺は一人ほくそ笑んだ。正面からでは無理でも、裏からなら何とでもなる。王族の威厳を踏みにじった報いを、存分に味わうがいい。
一度は切り捨てようと考えた神殿だが、今回のお願いを成功させたら、考えを改めてやろう。もしかしたら、色々と使い道があるかもしれない。神殿には、まだ価値があることを証明してもらおう。
そして依頼を断った連中には俺の機嫌を損ねれば、どうなるかを思い知らせてやる。王族をなめた報いを、しっかりと味わうがいい。
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