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10年ぶりの白けた会話②
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もう10年も前のことなのに、今更なぜ謝罪を?
もう忘れていたような昔のことだから、少しも気にしていなかった。だけど、今になって謝られても困るだけだ。わざわざ昔のことを、ぶり返してまで謝罪するだなんて。
しかも、”待たせてしまった”というのは、どのような意味なのだろうか。理解できなかった。
困惑していた私だったが、とりあえず彼が家に来た目的を知ることが出来た。ならば、次にとるべき行動は決まっている。
「こんな森の奥まで来てもらったのに申し訳ないのですが、なんと言われようと私はフロギイ国に戻るつもりは一切ありません。そもそも”イザベラ”は、10年前に処刑されて死んでしまった人間ですよ。生きて帰ったら、混乱を生み出すだけです」
「え?」
私の言葉に、何故か呆気にとられる彼。まさか、考えていなかったのか。既にイザベラという女性は、死んでいる存在だ。彼は10秒ほど硬直した後に気を取り直して、言葉を重ねる。
「10年前のことについて、本当に悔い改めているんだ。もう二度と、あんな過ちを犯さないように反省をして、君に心の底からの謝罪をする。もちろん、私が謝るだけでは君の気持ちも晴れないだろう。だから国に戻ってきて、償わせてくれないだろうか。イザベラを失った10年という長い時間と、失った幸せを取り戻すための準備は出来ている。君を傷つけてしまった贖罪として、君が幸せに生きるための手助けをさせてくれないだろうか?」
あれだけの仕打ちをしたくせに、謝るから帰ってきてくれだなんて。そんなことを言われて、私があっさり帰ると思っていたのだろうか。
と言うか、私を幸せにすると言うのなら私に構わないで、二度と目の前に現れないで欲しい。それが貴方が出来る私にとって一番の幸せに繋がる行動なんだ。内心では、そう思ったが口には出さない。
今回の件を問題化させないよう、穏便に済ませられるよう心がけて私は対応する。
「申し訳ないのですが、私が国に戻ることはありません。あの日私は、死んで生まれ変わることが出来たのです。新しい人生の幸せを既に見つけました。私の幸せのためにわざわざ準備までして頂いて、それが無駄になってしまう事は大変申し訳ないのです。でも、私のことは気にしないで下さい。今後は、アウレリオ様ご自身の幸せ、そして国王としての役割を果たすために国民の幸せを第一に考えて下さい」
「……君は、そんなにも優しい女性だったんだな」
「……チッ」
遠回しに、もう私に関わらないでさっさと国に帰ってください。そう伝えたつもりなのだが、どうやら彼には何も伝わっていないみたいだった。イライラとして、舌打ちをしてしまった。なんとも幸せな、それに見当違いな感想をつぶやいているから。
余計なことを言ってしまいそうな口を、無理やり閉じて私は我慢をする。本当に、今すぐに、早々と帰ってくれないだろうか。
「どうしても、国に戻ってくるつもりは無いのか?」
「えぇ、私は」
しつこく聞いてくるが、私は絶対に戻るつもりは無いとハッキリと答えようとした時だった。突然、部屋の扉が開かれて若い男性がダイニングへと入ってきた。
「エリザベス、ご飯は出来たか? って、あれ? 誰か来ているのかい?」
「えぇ、ごめんなさいフィリップ。お客様が来て、夕飯はまだ準備が出来ていないの」
もう忘れていたような昔のことだから、少しも気にしていなかった。だけど、今になって謝られても困るだけだ。わざわざ昔のことを、ぶり返してまで謝罪するだなんて。
しかも、”待たせてしまった”というのは、どのような意味なのだろうか。理解できなかった。
困惑していた私だったが、とりあえず彼が家に来た目的を知ることが出来た。ならば、次にとるべき行動は決まっている。
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「え?」
私の言葉に、何故か呆気にとられる彼。まさか、考えていなかったのか。既にイザベラという女性は、死んでいる存在だ。彼は10秒ほど硬直した後に気を取り直して、言葉を重ねる。
「10年前のことについて、本当に悔い改めているんだ。もう二度と、あんな過ちを犯さないように反省をして、君に心の底からの謝罪をする。もちろん、私が謝るだけでは君の気持ちも晴れないだろう。だから国に戻ってきて、償わせてくれないだろうか。イザベラを失った10年という長い時間と、失った幸せを取り戻すための準備は出来ている。君を傷つけてしまった贖罪として、君が幸せに生きるための手助けをさせてくれないだろうか?」
あれだけの仕打ちをしたくせに、謝るから帰ってきてくれだなんて。そんなことを言われて、私があっさり帰ると思っていたのだろうか。
と言うか、私を幸せにすると言うのなら私に構わないで、二度と目の前に現れないで欲しい。それが貴方が出来る私にとって一番の幸せに繋がる行動なんだ。内心では、そう思ったが口には出さない。
今回の件を問題化させないよう、穏便に済ませられるよう心がけて私は対応する。
「申し訳ないのですが、私が国に戻ることはありません。あの日私は、死んで生まれ変わることが出来たのです。新しい人生の幸せを既に見つけました。私の幸せのためにわざわざ準備までして頂いて、それが無駄になってしまう事は大変申し訳ないのです。でも、私のことは気にしないで下さい。今後は、アウレリオ様ご自身の幸せ、そして国王としての役割を果たすために国民の幸せを第一に考えて下さい」
「……君は、そんなにも優しい女性だったんだな」
「……チッ」
遠回しに、もう私に関わらないでさっさと国に帰ってください。そう伝えたつもりなのだが、どうやら彼には何も伝わっていないみたいだった。イライラとして、舌打ちをしてしまった。なんとも幸せな、それに見当違いな感想をつぶやいているから。
余計なことを言ってしまいそうな口を、無理やり閉じて私は我慢をする。本当に、今すぐに、早々と帰ってくれないだろうか。
「どうしても、国に戻ってくるつもりは無いのか?」
「えぇ、私は」
しつこく聞いてくるが、私は絶対に戻るつもりは無いとハッキリと答えようとした時だった。突然、部屋の扉が開かれて若い男性がダイニングへと入ってきた。
「エリザベス、ご飯は出来たか? って、あれ? 誰か来ているのかい?」
「えぇ、ごめんなさいフィリップ。お客様が来て、夕飯はまだ準備が出来ていないの」
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