女男の世界

キョウキョウ

文字の大きさ
52 / 60
第6章 姉妹喧嘩編

第41話 ケンカの行方

しおりを挟む
 沙希姉さんが僕を誤って殴ってから、一週間ほどが経った。

 僕自身は、あの件をそれほど気にしていなかった。確かに痛かったし、今でも触ると少しだけ痛む時がある。けれど、それは事故だったのだから仕方がない。だけど、沙希姉さんはかなり深刻に受け止めていて、僕を見かけるたびに何度も謝ってきた。

「ほんとうに、ほんとうにごめん、優。俺、取り返しのつかないことを……」
「大丈夫だって、沙希姉さん。もう痛くないから」
「でも、俺、男の子を殴っちゃったんだぞ。それも優を……俺なんて姉失格だよ」

 沙希姉さんの声は震えていた。いつもの明るく元気な彼女とは別人のように、肩を落として俯いている。まるで自分が世界で一番悪いことをしてしまったかのような顔をしていた。

 こんなやり取りを何度も繰り返し、僕が何度も「許している」「気にしていない」と伝えることで、やっと沙希姉さんはホッとしたような表情を見せ、ようやく僕が気にしていないことを理解してくれたようだった。ただ、それでもまだ自分を許せないようで、とにかく心配だった。

 そんな状況で次の問題が浮上した。紗綾姉さんと沙希姉さんの関係が、かなり深刻に悪化してしまったのだ。

 お互いに会話することもなければ、目を合わせることもしない。すれ違う時には、まるで相手が透明人間であるかのように完全に無視している。さらに困ったことに、一緒に食事を取ろうとしなくなってしまった。以前は、できるだけ家族全員で夕食を食べていたのに、あの日以来、家族が揃うことがなくなった。

 沙希姉さんが必ず時間をずらして皆を避け、一人で後から食べるようになったのだ。僕が「一緒に食べよう」と誘っても、「お前らが食べ終わってからでいい」と言って首を振る。その表情は、いつもの明るい沙希姉さんとは別人のように暗く、申し訳なさそうだった。

「俺みたいなやつが、優と同じテーブルにつく資格なんてないよ」

 そんな風に自分を責める沙希姉さんを見ていると、胸が痛くなってしまう。

 一方の紗綾姉さんは、沙希姉さんの名前が出るだけで眉をひそめ、「あんな女の話はしたくないわ」と言って話題を変えてしまう。普段は冷静な彼女が、ここまで頑なになるのは珍しいことだった。

「男に暴力を振るうような野蛮な人とは、もう関わりたくないの」

 紗綾姉さんの言葉は、いつもより一層冷たく聞こえた。

 このままでは、家族の雰囲気がどんどん悪くなってしまう。僕は、香織さんと春姉さんに相談してみることにした。

「そう、私がいない間にそんなことがあったのね」

 僕があの日の出来事を詳しく説明すると、香織さんはそう言って深いため息をついた。香織さんも紗綾姉さんと沙希姉さんの険悪な関係には気づいていたが、そうなってしまった原因を聞いて困ったような顔をして考え込んだ。

「これは……予想以上に深刻な問題ね。私も何か対策を考えなければ」
「しかし、沙希が優を手を上げたことは、やはり問題だな」

 春姉さんが眉をひそめながら問題点を指摘する。僕の感覚では、事故で頭を叩かれたくらい大したことじゃないと思うのだが、春姉さんや香織さんから見ると、女性が男性に手を上げるということは相当な問題であるということだった。

「それは、僕がもう許したので良いんですけれど」

 僕がそう言うと、香織さんと春姉さんはさらに難しそうな顔で顔を見合わせた。そして、香織さんが僕を諭すように言った。

「ユウくんが気にしないと言っても、女性が男性に手をあげたという事実は、この社会ではかなり深刻な問題なのよ。男性保護法という法律もあるくらいだから。男性への暴力は、社会的に大きな非難を浴びることになる」

 春姉さんも深刻な表情で頷きながら付け加える。

「紗綾が怒っているのは、そこの部分なんだろうな。優が傷ついたことに対する怒りと、沙希がやってはいけないことをしたという怒りが混ざっているんだと思う。それに、優を守れなかった自分への怒りもあるかもしれない」
「どうにかして、二人を仲直りさせることはできないかな?」

 僕は必死に二人に解決策を求めた。このままでは家族がバラバラになってしまう。沙希姉さんも紗綾姉さんも、本当はお互いを大切に思っているはずなのに。

「うーん、どうだろう。ユウくんが許していることは紗綾に直接言ってみた?」

 香織さんが僕に尋ねてくる。僕は、あの日以降の紗綾姉さんとのやり取りを話した。

「はい。何度も説明しました。でも僕が、いくら許しているし気にしていないと言っても、『優は優しすぎるのよ。あんなことをされて許すなんて』って聞いてくれないんです」
「そうねぇ……」

 香織さんは困ったような表情で髪をかき上げた。深く考え込むように天井を見上げてから、ゆっくりと口を開いた。

「元々二人は喧嘩ばかりしていたけれど、本気でお互いを嫌っていたわけじゃないのよ。双子だから余計に競争心があって、つい言い合いになってしまうだけで。二人がじっくり話し合えば、もしかしたら仲直りのきっかけにはなるかもしれないけれど……」

 香織さんの提案には希望が込められていたが、その表情には「成功は難しいだろう」という諦めも見えていた。

「まず、話し合いの場を設けるのが難しいなぁ。今の二人じゃ、同じ空間にいることすら避けているからな。どちらかが部屋に入ると、もう一方が必ず出て行ってしまう」

 春姉さんが現実的な問題を指摘する。確かに、紗綾姉さんと沙希姉さんを同じ場所に留めることから始めなければならない。

「僕が喧嘩の原因だから、僕が何とか二人を話し合わせる場につかせようと思います」

 僕は決意を込めて言った。この問題を解決できるのは、おそらく僕しかいない。姉妹二人にそれぞれ話をして、何とか同じテーブルについてもらう必要がある。

「でも、無理はしちゃダメよ。ユウくんが一人で抱え込む必要はないんだから」

 香織さんが心配そうに僕の肩に手を置いた。

「そうだな。もし話し合いの場を設けるなら、私たちも協力する。一人で背負い込むことはない」

 春姉さんも僕を支えてくれると言ってくれた。家族のために、皆で力を合わせて解決していこう。そう思うと、少しだけ心が軽くなった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする

夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】 主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。 そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。 「え?私たち、付き合ってますよね?」 なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。 「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

男女比1:15の貞操逆転世界で高校生活(婚活)

大寒波
恋愛
日本で生活していた前世の記憶を持つ主人公、七瀬達也が日本によく似た貞操逆転世界に転生し、高校生活を楽しみながら婚活を頑張るお話。 この世界の法律では、男性は二十歳までに5人と結婚をしなければならない。(高校卒業時点は3人) そんな法律があるなら、もういっそのこと高校在学中に5人と結婚しよう!となるのが今作の主人公である達也だ! この世界の経済は基本的に女性のみで回っており、男性に求められることといえば子種、遺伝子だ。 前世の影響かはわからないが、日本屈指のHENTAIである達也は運よく遺伝子も最高ランクになった。 顔もイケメン!遺伝子も優秀!貴重な男!…と、驕らずに自分と関わった女性には少しでも幸せな気持ちを分かち合えるように努力しようと決意する。 どうせなら、WIN-WINの関係でありたいよね! そうして、別居婚が主流なこの世界では珍しいみんなと同居することを、いや。ハーレムを目標に個性豊かなヒロイン達と織り成す学園ラブコメディがいま始まる! 主人公の通う学校では、少し貞操逆転の要素薄いかもです。男女比に寄っています。 外はその限りではありません。 カクヨムでも投稿しております。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

高身長お姉さん達に囲まれてると思ったらここは貞操逆転世界でした。〜どうやら元の世界には帰れないので、今を謳歌しようと思います〜

水国 水
恋愛
ある日、阿宮 海(あみや かい)はバイト先から自転車で家へ帰っていた。 その時、快晴で雲一つ無い空が急変し、突如、周囲に濃い霧に包まれる。 危険を感じた阿宮は自転車を押して帰ることにした。そして徒歩で歩き、喉も乾いてきた時、運良く喫茶店の看板を発見する。 彼は霧が晴れるまでそこで休憩しようと思い、扉を開く。そこには女性の店員が一人居るだけだった。 初めは男装だと考えていた女性の店員、阿宮と会話していくうちに彼が男性だということに気がついた。そして同時に阿宮も世界の常識がおかしいことに気がつく。 そして話していくうちに貞操逆転世界へ転移してしまったことを知る。 警察へ連れて行かれ、戸籍がないことも発覚し、家もない状況。先が不安ではあるが、戻れないだろうと考え新たな世界で生きていくことを決意した。 これはひょんなことから貞操逆転世界に転移してしまった阿宮が高身長女子と関わり、関係を深めながら貞操逆転世界を謳歌する話。

処理中です...