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第十二章 揺れ動く心
第六十三話 作戦会議
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「……というわけなんだ」
親友ルーサーと怒涛の掛け合いをしてから、小一時間。ギルバートは婚約解消の本当の理由から自分の本音まで、全てを打ち明け終えた。
「そんなことになってるなんて……っ、ごめんギルバート」
真実を知ったルーサーの涙腺は、早々に崩壊した。
これまで、自分の要望を叶えるためには努力を惜しまず策を巡らせてきた親友。
そんな彼が唯一諦めようとしたのは、フォード伯爵令嬢との結婚。その背景には、大切な人を絶対に守り抜くという強い意志があったのだ。
いくら説得したとて頑なに動かなかったのも、あえてフォード伯爵令嬢を蔑むような言い方をしたのも、全ては彼女を自分から遠ざけて危険から守るため。
純愛すぎる純愛だった。
「ルーサー、俺もごめん。何も言わなくて」
ギルバートはそう返した。そして言葉を続けた。
「泣くほど感動してくれるのはありがたいけど、まだ解決はしてないぞ」
親友に向かって、ハンカチを渡す。苦笑しつつも、ギルバートの方こそ泣いてしまいそうだった。
自分達を心配して熱い説得を続けてくれた親友。彼がいなければ、自分はきっといつまでも動き出せなかっただろう。
誰にも助けを求められずに一人で──いや、多くの人を巻き込んで、苦しみから逃れられずにいたかもしれない。
まだ何の解決策も浮かんでいないものの、この窮状を人に共有できたというだけで、つっかえが取れたような心地がした。
「解決というと……ギルバートはどうしたいんだ?」
「俺は、シャーロットに害が及ばない形なら何でも良いよ」
「……難しいことを抜きにすると?」
「シャーロットと結婚したい」
即答するギルバート。ルーサーは頬を緩めた。
今回の件が功を奏したのか、本音を言えなくなる障壁はかなり減ったらしい。
「婚約解消のことで気になってたんだが、ギルバート」
ふとルーサーは尋ねる。
婚約解消の手続きには段階があった。教会で受理された後、最終的に国王陛下が受理をすることになっている。それが終わって初めて、真に婚約解消が成立するのだ。
しかしまだ解消が公表されていないことを受け、ルーサーは予感していた。
「お前本当はまだ国王陛下の印、貰ってないだろ」
「ああ」
頷かれ、ルーサーは苦笑した。
つまり、フォード伯爵令嬢とギルバートの婚約は、完全に解消されたわけではないことを意味する。
手続きの途中にあって、二人はまだ辛うじて繋がっているのだ。
だからこそ、解消をまだ公表していないのだろう。
あれだけ悲劇のように語られたのに、諦めたわけじゃなかったんかい。そう思うと同時に、よくやったと舞い上がる気持ちも生まれる。
「絶対、印は貰うなよ。公表もできるだけ先延ばそう」
「分かった」
よし、と呟いたルーサーは、改めて口を開いた。
「じゃあ問題は二つだな」
ルーサーは腕を組んだ。
「一つは、王女をどう遠ざけるか」
「もう一つは?」
「トンプソン伯爵子息のことだ」
そう告げた瞬間、ギルバートの顔が強張る。
「まさか、もう彼に切り替えていたりする、のか」
ルーサーが今日この部屋に来てすぐの頃に聞いた情報。それが確かなら、シャーロットの気持ちはトンプソン伯爵子息の方へと傾きつつあるのだろうか。
焦ってルーサーを見つめると、彼はなぜか微笑んでいた。
「ギルバート、変わったな」
「何が」
こちらは問題が山積みなのに、何を笑っているんだと訝る。すると親友は、微笑んだまま口を開いた。
「昔は完璧王子って感じだったけど、今は……フォード伯爵令嬢のことになると人間味が出てる」
「そう、か」
人間味。以前のギルバートなら、滅多に言われない言葉だった。
頭脳明晰で剣術にも秀で、社交界の立ち振舞いも非の打ち所がない王子。昔からずっと、そう謳われてきた。
自分だってそうあろうとしてきたし、感情的になるのが悪いことだと──実際社交界ではそうだった──思って、抑制してきたのだ。
肩の力を抜ける存在である親友のルーサーから、もっと本音を言えと要求されるほど。
だからこそ、ギルバートを形容する言葉に「人間味」は含まれなかった。
しかし今ではその言葉が、不思議と心に染み渡った。それは他でも無い、シャーロットのおかげだろう。
彼女と出会って、仕事仲間になって、恋をして、障壁に立ち向かって、彼女を守るために自分から身を引こうとした。それほど、シャーロットを大切に想った。
そしてしまいには、他の男のもとへ行ってしまうのではないかと焦っている。かつてどんな時でも冷静沈着だった自分が。
振り返って人生の転機はいつかと聞かれたら、間違いなく十八歳の年だと答える。すなわち、今だ。
ルーサーの言いたいことがよく理解できてしまい、ギルバートも笑みを溢す。
「変わった俺に、ルーサーは協力しようとしてくれているんだろう?」
「もちろん」
ルーサーは深く頷いた。難題には、解決の道を一から探すという最大の醍醐味がある。
そして実を言うとルーサーは、すでに道を拓く方法に見当をつけていた。
「王女の方は、ギルバートに近しい人を引き合わせれば何とかなると思ってる」
その提案に、ギルバートは考えを巡らせた。
王太子という地位があり、ある程度政治に関わった経験や知識、そして処世術も持ち合わせている者。
それに自分で言っては何だが、世の人々に容姿端麗とまで褒めそやされる男。
容姿はともかく、地位や能力まで揃った人物がこのトリジア王国にいるだろうか。
そこまで考えて、ギルバートはふと気づいた。
「まさか……他国の?」
「ご名答」
確かに、他国に視野を広げれば探すのは無理ない。
トリジア王国より広大な国はそこら中にあるし、ギルバート同様に謳われる人物も、列挙するだけで片手では足りない。
「でもルーサー、王女はすでに外交で他国を飛び回っているぞ。もし彼女の眼鏡に適う人物がいれば、すでに動いているはずだと思うんだが……」
外交官として活動する側面を引き合いに出すと、発案者は頷く。
「確かにそうだ。王女がギルバートにこだわっているということはすなわち、彼女のお眼鏡に適う者がいなかったことになる。今まで出会った人物の中では、な」
したり顔のルーサー。そういうことか、とギルバートは唸った。
「……これから外交の場に出る者なら、可能性は十分あるな」
つまりは、こうだ。まだ王女が出会っていない者の中に、それなりに地位や能力の備わった者がいれば、その人物に王女の矢印を向けさせられる。
都合よくそんな人物がいるかと疑問に思ったが、その懸念はルーサーの言葉ですぐに拭い去られた。
「ギルバートも聞いたことがあるだろう?森を越えたところにあるソル王国の、第一王子の話」
「クラウス殿下──諸外国に留学中だったな。多言語話者で、相当頭も切れるって噂の」
クラウス・ソル。その名はおそらく、今では大抵の王族が耳にしたことのある人物だ。
御年、二十二歳。リゼ王女と同い年だが未だ表舞台に立っていないのは、彼が海外留学をしているからである。
見聞を広め、王族として今後に役立てるという目的で様々な国で交流を深めているらしい。
行く先々でその地域の言語を瞬く間に吸収し、歴史や経済などの知識も豊富。
そして「彼は間違いなく天才の部類だ」という評価がされているのは、上流階級の間ではかなり有名である。
「そのクラウス殿下が、もうすぐソル王国に戻ってくるらしいんだよ」
「それ、どこで聞いたんだ?」
「王宮医師のマークさんから」
彼は、かつて腹痛に苦しむシャーロットを救った恩人だ。
しかしルーサーと彼が結び付いていることを、ギルバートは知らなかった。
「そんな話をする間柄なのか」
「顔が広いのが取り柄なんで」
得意気に笑うルーサー。ギルバートは苦笑した。
ハリスに加えて、ルーサーまでマークと繋がっていたとは。
知らないところで人間関係が出来上がっていることを痛感しつつ、ギルバートは話を戻した。
「クラウス殿下が戻ってくれば、本格的に彼が外交の場に立つだろうってことだな?」
「ああ。近いうちに、王女はクラウス殿下と対面すると思う」
その辺りの調整は任せろ、と豪語するルーサーに、ギルバートは不安を覚えなかった。
何せこの男は、スプラウト公爵家の子息という立ち位置を活用して人間関係を掌握する人物だ。パーティーの参加者を集める時に発揮してくれたそのツテは確かである。
ソル王国のパーティーに潜り込んでクラウス殿下と親しくなれ、と言ったとしても、余裕で遂行してきそうだった。
というかすでに、ソル王国に知り合いの一人や二人いる気がする。
「ひとまず、王女の方は何とかなりそうだな」
ギルバートは少し安堵しつつ、口を開いた。それに続き、ルーサーが口を開く。
「次は、フォード伯爵令嬢とトンプソン伯爵子息をどうにかしなきゃいけない、と」
気難しげに腕を組むギルバートの様子に、ルーサーはまたしても己の考えを述べてみることにした。
「とりあえず、フォード伯爵令嬢が彼のことをどう思ってるか、ジェシカとトレス伯爵令嬢に聞いてもらおう。詳しいことはその後だ」
「もし……」
「ん?」
「もし、シャーロットの気持ちが彼に向いていたら」
柄にもなく弱気な表情である。
そんな表情を浮かべるのは、後にも先にもフォード伯爵令嬢に関することだけなんだろうな、とルーサーは思った。
そして今、励ましてやれるのはここにいる自分しかいない。
「その時はその時で、どうするか決めれば良い。大丈夫、今度は一人じゃないよ」
そうだろ?と再び得意気になるルーサー。
その顔に何度も助けられたこと。ギルバートは、今回の出来事で身に染みた。
拠り所があることがこんなにも心強いとは、あの頃の完璧王子のままでは気付けなかったかもしれない。
今度は、一人じゃない。
ギルバートは、今はとにかく前を向くことに決めた。
親友ルーサーと怒涛の掛け合いをしてから、小一時間。ギルバートは婚約解消の本当の理由から自分の本音まで、全てを打ち明け終えた。
「そんなことになってるなんて……っ、ごめんギルバート」
真実を知ったルーサーの涙腺は、早々に崩壊した。
これまで、自分の要望を叶えるためには努力を惜しまず策を巡らせてきた親友。
そんな彼が唯一諦めようとしたのは、フォード伯爵令嬢との結婚。その背景には、大切な人を絶対に守り抜くという強い意志があったのだ。
いくら説得したとて頑なに動かなかったのも、あえてフォード伯爵令嬢を蔑むような言い方をしたのも、全ては彼女を自分から遠ざけて危険から守るため。
純愛すぎる純愛だった。
「ルーサー、俺もごめん。何も言わなくて」
ギルバートはそう返した。そして言葉を続けた。
「泣くほど感動してくれるのはありがたいけど、まだ解決はしてないぞ」
親友に向かって、ハンカチを渡す。苦笑しつつも、ギルバートの方こそ泣いてしまいそうだった。
自分達を心配して熱い説得を続けてくれた親友。彼がいなければ、自分はきっといつまでも動き出せなかっただろう。
誰にも助けを求められずに一人で──いや、多くの人を巻き込んで、苦しみから逃れられずにいたかもしれない。
まだ何の解決策も浮かんでいないものの、この窮状を人に共有できたというだけで、つっかえが取れたような心地がした。
「解決というと……ギルバートはどうしたいんだ?」
「俺は、シャーロットに害が及ばない形なら何でも良いよ」
「……難しいことを抜きにすると?」
「シャーロットと結婚したい」
即答するギルバート。ルーサーは頬を緩めた。
今回の件が功を奏したのか、本音を言えなくなる障壁はかなり減ったらしい。
「婚約解消のことで気になってたんだが、ギルバート」
ふとルーサーは尋ねる。
婚約解消の手続きには段階があった。教会で受理された後、最終的に国王陛下が受理をすることになっている。それが終わって初めて、真に婚約解消が成立するのだ。
しかしまだ解消が公表されていないことを受け、ルーサーは予感していた。
「お前本当はまだ国王陛下の印、貰ってないだろ」
「ああ」
頷かれ、ルーサーは苦笑した。
つまり、フォード伯爵令嬢とギルバートの婚約は、完全に解消されたわけではないことを意味する。
手続きの途中にあって、二人はまだ辛うじて繋がっているのだ。
だからこそ、解消をまだ公表していないのだろう。
あれだけ悲劇のように語られたのに、諦めたわけじゃなかったんかい。そう思うと同時に、よくやったと舞い上がる気持ちも生まれる。
「絶対、印は貰うなよ。公表もできるだけ先延ばそう」
「分かった」
よし、と呟いたルーサーは、改めて口を開いた。
「じゃあ問題は二つだな」
ルーサーは腕を組んだ。
「一つは、王女をどう遠ざけるか」
「もう一つは?」
「トンプソン伯爵子息のことだ」
そう告げた瞬間、ギルバートの顔が強張る。
「まさか、もう彼に切り替えていたりする、のか」
ルーサーが今日この部屋に来てすぐの頃に聞いた情報。それが確かなら、シャーロットの気持ちはトンプソン伯爵子息の方へと傾きつつあるのだろうか。
焦ってルーサーを見つめると、彼はなぜか微笑んでいた。
「ギルバート、変わったな」
「何が」
こちらは問題が山積みなのに、何を笑っているんだと訝る。すると親友は、微笑んだまま口を開いた。
「昔は完璧王子って感じだったけど、今は……フォード伯爵令嬢のことになると人間味が出てる」
「そう、か」
人間味。以前のギルバートなら、滅多に言われない言葉だった。
頭脳明晰で剣術にも秀で、社交界の立ち振舞いも非の打ち所がない王子。昔からずっと、そう謳われてきた。
自分だってそうあろうとしてきたし、感情的になるのが悪いことだと──実際社交界ではそうだった──思って、抑制してきたのだ。
肩の力を抜ける存在である親友のルーサーから、もっと本音を言えと要求されるほど。
だからこそ、ギルバートを形容する言葉に「人間味」は含まれなかった。
しかし今ではその言葉が、不思議と心に染み渡った。それは他でも無い、シャーロットのおかげだろう。
彼女と出会って、仕事仲間になって、恋をして、障壁に立ち向かって、彼女を守るために自分から身を引こうとした。それほど、シャーロットを大切に想った。
そしてしまいには、他の男のもとへ行ってしまうのではないかと焦っている。かつてどんな時でも冷静沈着だった自分が。
振り返って人生の転機はいつかと聞かれたら、間違いなく十八歳の年だと答える。すなわち、今だ。
ルーサーの言いたいことがよく理解できてしまい、ギルバートも笑みを溢す。
「変わった俺に、ルーサーは協力しようとしてくれているんだろう?」
「もちろん」
ルーサーは深く頷いた。難題には、解決の道を一から探すという最大の醍醐味がある。
そして実を言うとルーサーは、すでに道を拓く方法に見当をつけていた。
「王女の方は、ギルバートに近しい人を引き合わせれば何とかなると思ってる」
その提案に、ギルバートは考えを巡らせた。
王太子という地位があり、ある程度政治に関わった経験や知識、そして処世術も持ち合わせている者。
それに自分で言っては何だが、世の人々に容姿端麗とまで褒めそやされる男。
容姿はともかく、地位や能力まで揃った人物がこのトリジア王国にいるだろうか。
そこまで考えて、ギルバートはふと気づいた。
「まさか……他国の?」
「ご名答」
確かに、他国に視野を広げれば探すのは無理ない。
トリジア王国より広大な国はそこら中にあるし、ギルバート同様に謳われる人物も、列挙するだけで片手では足りない。
「でもルーサー、王女はすでに外交で他国を飛び回っているぞ。もし彼女の眼鏡に適う人物がいれば、すでに動いているはずだと思うんだが……」
外交官として活動する側面を引き合いに出すと、発案者は頷く。
「確かにそうだ。王女がギルバートにこだわっているということはすなわち、彼女のお眼鏡に適う者がいなかったことになる。今まで出会った人物の中では、な」
したり顔のルーサー。そういうことか、とギルバートは唸った。
「……これから外交の場に出る者なら、可能性は十分あるな」
つまりは、こうだ。まだ王女が出会っていない者の中に、それなりに地位や能力の備わった者がいれば、その人物に王女の矢印を向けさせられる。
都合よくそんな人物がいるかと疑問に思ったが、その懸念はルーサーの言葉ですぐに拭い去られた。
「ギルバートも聞いたことがあるだろう?森を越えたところにあるソル王国の、第一王子の話」
「クラウス殿下──諸外国に留学中だったな。多言語話者で、相当頭も切れるって噂の」
クラウス・ソル。その名はおそらく、今では大抵の王族が耳にしたことのある人物だ。
御年、二十二歳。リゼ王女と同い年だが未だ表舞台に立っていないのは、彼が海外留学をしているからである。
見聞を広め、王族として今後に役立てるという目的で様々な国で交流を深めているらしい。
行く先々でその地域の言語を瞬く間に吸収し、歴史や経済などの知識も豊富。
そして「彼は間違いなく天才の部類だ」という評価がされているのは、上流階級の間ではかなり有名である。
「そのクラウス殿下が、もうすぐソル王国に戻ってくるらしいんだよ」
「それ、どこで聞いたんだ?」
「王宮医師のマークさんから」
彼は、かつて腹痛に苦しむシャーロットを救った恩人だ。
しかしルーサーと彼が結び付いていることを、ギルバートは知らなかった。
「そんな話をする間柄なのか」
「顔が広いのが取り柄なんで」
得意気に笑うルーサー。ギルバートは苦笑した。
ハリスに加えて、ルーサーまでマークと繋がっていたとは。
知らないところで人間関係が出来上がっていることを痛感しつつ、ギルバートは話を戻した。
「クラウス殿下が戻ってくれば、本格的に彼が外交の場に立つだろうってことだな?」
「ああ。近いうちに、王女はクラウス殿下と対面すると思う」
その辺りの調整は任せろ、と豪語するルーサーに、ギルバートは不安を覚えなかった。
何せこの男は、スプラウト公爵家の子息という立ち位置を活用して人間関係を掌握する人物だ。パーティーの参加者を集める時に発揮してくれたそのツテは確かである。
ソル王国のパーティーに潜り込んでクラウス殿下と親しくなれ、と言ったとしても、余裕で遂行してきそうだった。
というかすでに、ソル王国に知り合いの一人や二人いる気がする。
「ひとまず、王女の方は何とかなりそうだな」
ギルバートは少し安堵しつつ、口を開いた。それに続き、ルーサーが口を開く。
「次は、フォード伯爵令嬢とトンプソン伯爵子息をどうにかしなきゃいけない、と」
気難しげに腕を組むギルバートの様子に、ルーサーはまたしても己の考えを述べてみることにした。
「とりあえず、フォード伯爵令嬢が彼のことをどう思ってるか、ジェシカとトレス伯爵令嬢に聞いてもらおう。詳しいことはその後だ」
「もし……」
「ん?」
「もし、シャーロットの気持ちが彼に向いていたら」
柄にもなく弱気な表情である。
そんな表情を浮かべるのは、後にも先にもフォード伯爵令嬢に関することだけなんだろうな、とルーサーは思った。
そして今、励ましてやれるのはここにいる自分しかいない。
「その時はその時で、どうするか決めれば良い。大丈夫、今度は一人じゃないよ」
そうだろ?と再び得意気になるルーサー。
その顔に何度も助けられたこと。ギルバートは、今回の出来事で身に染みた。
拠り所があることがこんなにも心強いとは、あの頃の完璧王子のままでは気付けなかったかもしれない。
今度は、一人じゃない。
ギルバートは、今はとにかく前を向くことに決めた。
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