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第十三章 決定打
第七十六話 回想と会話
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「ん……」
目を覚ました時、シャーロットは見慣れぬ部屋の中にいた。
混乱しつつ、状況把握に努める。
窓は板で塞がれているらしく、室内は少し暗い。しかし、代わりに蝋燭が一本灯されていた。
ゆっくりと身体を起こそうとしたものの、手足を縛られている。それと同時に、今まで自分が簡素な寝台の上に寝かされていたことに気がついた。
「どうしてこんなところに……?」
呟いたところで、今朝の出来事を思い出す。
シャーロットは、仕事の打ち合わせをするために王宮へ向かっていた。もう少しで王宮に着くという時、彼女の目にとある店が移った。
入口の脇に、林檎のタルトのチラシが見える。興味を引かれ、ほんの少し覗いてみるつもりで、彼女は御者に停車を求めた。
「すぐ戻るから、少し待っていてくれるかしら」
「付き添いをいたしましょう」
侍女がいないことを受け、御者がそう申し出てくれた。
「すぐ近くだから大丈夫よ。ありがとう」
馬車を無人にするわけにもいかないはずだ。そう思ったシャーロットは、一人で店の中へと向かった。
何かの売り尽くしをしているらしく、店内は多くの買い物客で一杯だった。
王都は人気とはいえ、ここまで人で埋まっているのはなかなか珍しい。そう思いながら、合間を縫って何とか移動する。
ぶつからないように気を付けながらのため、目当てである林檎のタルトの売り場に辿り着くまでにかなり時間がかかった。
ところが、肝心のタルトがどこにも見当たらない。
「すみません、林檎のタルトって……」
店員に尋ねると、申し訳なさそうな顔で返事がきた。
「ごめんねお嬢ちゃん!ついさっき、売り切れちゃって」
「そ、そうなんですか」
「ほんとにごめんね!明日以降も入荷すると思うから、良かったらまた覗きに来てちょうだいね」
「分かりました」
売り切れてしまったのなら、仕方がない。今後も王宮にやって来る機会は多々あるはずだ。その時にまた店を訪れれば良い。
そう考えたシャーロットはその日の購入を見送ることになった。
そして再び人の合間を縫って、店の出入り口へ進む。
この人混みで、想定以上に時間がかかってしまった。すでに、打ち合わせの時間が過ぎているかもしれない。
「二人に謝らなきゃ」
待っているであろうギルバートとトンプソン伯爵子息を思い浮かべつつ、彼女は店の外へ出た。
フォード伯爵家の馬車は、道の向かい側に停まっていた。しかし、御者の姿が見当たらない。疑問に思って一瞬立ち止まった、その時だった。
「……っ!?」
突然腕を捕まれ、引っ張られる。驚愕しつつ振り向けば、見知らぬ男と目が合った。
どくん、と心臓が音を立てる。二年前、誘拐されかけたあの事件が──男性恐怖症の引き金となったあの日の光景が、鮮明に蘇った。
瞬時に危険を察知し、抵抗しようと試みたシャーロット。しかしそれは、叶わなかった。布で口元を覆われたのちに、意識を失ったからである。
「それでここに連れ去られたってことなのね」
今朝の出来事を思い返し、シャーロットは呟いた。
となると気になるのは、自分がいなくなった後、人々はどうしているかということだ。
建設事業の打ち合わせに来なかったことを、ギルバート達は不審に思うだろう。もちろん、仕事に向かったはずの娘がいなくなって両親も慌てているに違いない。
世間的には王太子の婚約者である令嬢が失踪したとなれば、捜索も始まるはずだ。
「捜索といえば……ここはどこなのかしら」
窓が塞がれているため、外の様子は分からない。
王都近郊のどこかの家であれば見つけてもらえるかもしれないが、そこから離れるほど発見に時間がかかるだろう。もしここが国外であれば、相当困難になるはずだ。
するとその時、部屋の扉が空いた。
「起きたのか」
びくっ、と肩を揺らしたシャーロットを横目に、男はパンとスープ、そして肉を机の上に置いた。
「丸一日眠っていたから、もう目覚めないかと思ったぞ」
「え……?」
日付を聞いてみると、連れ去られた次の日だった。
薬か何かを嗅がされ、そのまま眠り続けていたようである。
「昨日から何も食ってないから、腹が減っているだろう。ちゃんと食っておけよ」
言われて、空腹に気がついた。しかし、何か危険なものを混ぜられているのではという警戒心が首をもたげる。
そんなシャーロットの様子を見て、男は言った。
「別にあんたを殺そうとしているわけじゃない。上から、生かしておけと指示があったからな」
それはつまり、指示が違えば殺していたということか。
背筋が凍るが、ともかく命拾いしたらしい。シャーロットはひとまず、男の持ってきた食事を取ることにした。
ちらりと彼に視線を遣ると、壁にもたれて座って時間を潰している。食べ終わった後の食器を、持って帰るためなのだろう。
「急がなくて良い」
待たせるのも悪いな、と思ったシャーロットの気持ちを見透かしてか、男はそう声をかけた。
「どうせ暇だからな。下っ端のやることといえば、人質の使った皿を洗うことくらいだし」
自虐的な発言だが、笑い飛ばす口調ではない。
つまらないものを眺めるような、仕方なくそこにいるような、そんな風に見えた。
「……大変そうですね」
思わず同情の言葉が零れ、はっとする。こんな状況で、神経を逆なでしてしまったかと焦るシャーロット。
しかし予想に反して、男はあっけらかんとしていた。
「まあ、そうするしかないし」
やはりつまらなさそうだ。
「あの、お名前を聞いても良いですか」
「ゼン」
こちらを見ずに、彼は言う。
「それじゃあ、ゼンさん……何か、ここに身を置く事情があったんですか?」
シャーロットは思い切って聞いてみた。
誘拐犯一味の男が近くにいる状態で、無言でパンを食べるのは少し気まずい。それに彼なら、特に苛立つことなく話してくれるかもしれないと思った。
「ご令嬢のあんたには実情は分からないだろうが……ロワイユ王国との国境近くにある貧困街の話を、聞いたことがあるだろう」
シャーロットは頷く。
トリジア王国の西端に位置するその場所は、身寄りのない子供や生活に困っている若者が住んでいるらしい。
「俺はそこで生まれた」
暇そうに手をいじりながら、ゼンは遠い昔話を教えてくれた。
「あの地域は満足に暮らせない奴等が多いから、犯罪も多い。生きるために、盗んだり奪ったりするんだ。もちろん俺もな」
生活を変えたいという意識が芽生えることは、ゼンには無かった。それどころか、罪の意識すら無かった。
世間で言う「犯罪」を利用しなければ、自分が飢えて死ぬ。それが当たり前の街だったのだ。
罪ではない。生きるために必要なこと。そういう考え方が、生まれた時から醸成されていった。
「それである日、とある男に知り合った。今の組織の上司だ」
貧困街生まれの割には体格に恵まれていたからか、裏組織の一員にならないかと誘われた。
話を聞くと、任務が成功すれば報酬をもらえるらしい。しかも、かなりの金額。
その日暮らすのも必死だったゼンは、男の誘いに乗った。
「それからは色々やった。盗みには慣れていたから仕事はしやすかったし、それなりに金がもらえた」
暮らしはとても楽になった。こんなに簡単なことで報酬がもらえるならと、ゼンはその後も積極的に仕事をもらいに行くこととなる。
「それに一度そういうことを始めると、もう後には引けないからな。ここで生きていくしかない」
もともと小さな犯罪を繰り返していた上に、組織に入ってからは、捕まれば極刑に処され得るようなこともやった自分。
もう普通の暮らしができないのは、とうに分かっている。
最初の頃は良心の呵責に苛まれる時もあった。それでも、やるしかない。
そうして、無心で金を稼いだ。作業と化した犯罪。いつしか、そんな毎日に対する感情は失くなった。
任務を成功させられて嬉しいだとか、同僚の一人が死んで悲しいだとか、出来事一つに心を動かされることが無くなった。
「仕事が来れば、俺はそれを実行するだけ。それだけだ。だから今ここにいる」
ゼンはそう締めくくる。
するとその時、誰かの足音が近付いてきた。
「……ラルフだな」
ゼンが呟いたのち、扉が開く。
「ここにいたか、ゼン。消えちまったかと思ったよ」
ゼンとは対照的に、にかっと笑う顔が明るい。一目見ただけで、表情が豊かだということが分かる男だ。おおよそ、裏組織とは無縁そうな人物である。
「それで、どうしたんだ?」
ゼンが言うと、ラルフという男は思い出したように口を開いた。
「ちょっくら狩りに行くからゼンも来てくれないかと思ったけど……今は良いや」
ゼンとシャーロットを交互に見て、ラルフは言う。人質の面倒を見る仕事があるのだと察したからだ。
するとゼンは尋ねる。
「倉庫に獲物が積んであるはずだが、使い切ったか?」
「え?あー!忘れてた」
驚きを素直に表出させるラルフ。ありがとう、と礼を述べると、彼は部屋を出て行った。
「さっきの奴は、幼馴染。俺と一緒で貧困街の出身だ」
嵐のように去って行ったラルフを思い出しているのか、ゼンは苦笑する。これまでつまらなさそうにしていた彼が表情を崩したのを、シャーロットは初めて見た。
「ちょっと忘れっぽいところはあるが、悪い奴じゃない。まあ、誘拐しておいて何を言っているんだって感じだろうが」
「は、はあ」
シャーロットは曖昧に笑いながら、最後の一口のスープを飲み干す。
「皿を持って行く」
立ち上がったゼンに、食器を渡した。
「昼飯の時にまた来る」
「はい」
そうして、彼は部屋を後にした。
目を覚ました時、シャーロットは見慣れぬ部屋の中にいた。
混乱しつつ、状況把握に努める。
窓は板で塞がれているらしく、室内は少し暗い。しかし、代わりに蝋燭が一本灯されていた。
ゆっくりと身体を起こそうとしたものの、手足を縛られている。それと同時に、今まで自分が簡素な寝台の上に寝かされていたことに気がついた。
「どうしてこんなところに……?」
呟いたところで、今朝の出来事を思い出す。
シャーロットは、仕事の打ち合わせをするために王宮へ向かっていた。もう少しで王宮に着くという時、彼女の目にとある店が移った。
入口の脇に、林檎のタルトのチラシが見える。興味を引かれ、ほんの少し覗いてみるつもりで、彼女は御者に停車を求めた。
「すぐ戻るから、少し待っていてくれるかしら」
「付き添いをいたしましょう」
侍女がいないことを受け、御者がそう申し出てくれた。
「すぐ近くだから大丈夫よ。ありがとう」
馬車を無人にするわけにもいかないはずだ。そう思ったシャーロットは、一人で店の中へと向かった。
何かの売り尽くしをしているらしく、店内は多くの買い物客で一杯だった。
王都は人気とはいえ、ここまで人で埋まっているのはなかなか珍しい。そう思いながら、合間を縫って何とか移動する。
ぶつからないように気を付けながらのため、目当てである林檎のタルトの売り場に辿り着くまでにかなり時間がかかった。
ところが、肝心のタルトがどこにも見当たらない。
「すみません、林檎のタルトって……」
店員に尋ねると、申し訳なさそうな顔で返事がきた。
「ごめんねお嬢ちゃん!ついさっき、売り切れちゃって」
「そ、そうなんですか」
「ほんとにごめんね!明日以降も入荷すると思うから、良かったらまた覗きに来てちょうだいね」
「分かりました」
売り切れてしまったのなら、仕方がない。今後も王宮にやって来る機会は多々あるはずだ。その時にまた店を訪れれば良い。
そう考えたシャーロットはその日の購入を見送ることになった。
そして再び人の合間を縫って、店の出入り口へ進む。
この人混みで、想定以上に時間がかかってしまった。すでに、打ち合わせの時間が過ぎているかもしれない。
「二人に謝らなきゃ」
待っているであろうギルバートとトンプソン伯爵子息を思い浮かべつつ、彼女は店の外へ出た。
フォード伯爵家の馬車は、道の向かい側に停まっていた。しかし、御者の姿が見当たらない。疑問に思って一瞬立ち止まった、その時だった。
「……っ!?」
突然腕を捕まれ、引っ張られる。驚愕しつつ振り向けば、見知らぬ男と目が合った。
どくん、と心臓が音を立てる。二年前、誘拐されかけたあの事件が──男性恐怖症の引き金となったあの日の光景が、鮮明に蘇った。
瞬時に危険を察知し、抵抗しようと試みたシャーロット。しかしそれは、叶わなかった。布で口元を覆われたのちに、意識を失ったからである。
「それでここに連れ去られたってことなのね」
今朝の出来事を思い返し、シャーロットは呟いた。
となると気になるのは、自分がいなくなった後、人々はどうしているかということだ。
建設事業の打ち合わせに来なかったことを、ギルバート達は不審に思うだろう。もちろん、仕事に向かったはずの娘がいなくなって両親も慌てているに違いない。
世間的には王太子の婚約者である令嬢が失踪したとなれば、捜索も始まるはずだ。
「捜索といえば……ここはどこなのかしら」
窓が塞がれているため、外の様子は分からない。
王都近郊のどこかの家であれば見つけてもらえるかもしれないが、そこから離れるほど発見に時間がかかるだろう。もしここが国外であれば、相当困難になるはずだ。
するとその時、部屋の扉が空いた。
「起きたのか」
びくっ、と肩を揺らしたシャーロットを横目に、男はパンとスープ、そして肉を机の上に置いた。
「丸一日眠っていたから、もう目覚めないかと思ったぞ」
「え……?」
日付を聞いてみると、連れ去られた次の日だった。
薬か何かを嗅がされ、そのまま眠り続けていたようである。
「昨日から何も食ってないから、腹が減っているだろう。ちゃんと食っておけよ」
言われて、空腹に気がついた。しかし、何か危険なものを混ぜられているのではという警戒心が首をもたげる。
そんなシャーロットの様子を見て、男は言った。
「別にあんたを殺そうとしているわけじゃない。上から、生かしておけと指示があったからな」
それはつまり、指示が違えば殺していたということか。
背筋が凍るが、ともかく命拾いしたらしい。シャーロットはひとまず、男の持ってきた食事を取ることにした。
ちらりと彼に視線を遣ると、壁にもたれて座って時間を潰している。食べ終わった後の食器を、持って帰るためなのだろう。
「急がなくて良い」
待たせるのも悪いな、と思ったシャーロットの気持ちを見透かしてか、男はそう声をかけた。
「どうせ暇だからな。下っ端のやることといえば、人質の使った皿を洗うことくらいだし」
自虐的な発言だが、笑い飛ばす口調ではない。
つまらないものを眺めるような、仕方なくそこにいるような、そんな風に見えた。
「……大変そうですね」
思わず同情の言葉が零れ、はっとする。こんな状況で、神経を逆なでしてしまったかと焦るシャーロット。
しかし予想に反して、男はあっけらかんとしていた。
「まあ、そうするしかないし」
やはりつまらなさそうだ。
「あの、お名前を聞いても良いですか」
「ゼン」
こちらを見ずに、彼は言う。
「それじゃあ、ゼンさん……何か、ここに身を置く事情があったんですか?」
シャーロットは思い切って聞いてみた。
誘拐犯一味の男が近くにいる状態で、無言でパンを食べるのは少し気まずい。それに彼なら、特に苛立つことなく話してくれるかもしれないと思った。
「ご令嬢のあんたには実情は分からないだろうが……ロワイユ王国との国境近くにある貧困街の話を、聞いたことがあるだろう」
シャーロットは頷く。
トリジア王国の西端に位置するその場所は、身寄りのない子供や生活に困っている若者が住んでいるらしい。
「俺はそこで生まれた」
暇そうに手をいじりながら、ゼンは遠い昔話を教えてくれた。
「あの地域は満足に暮らせない奴等が多いから、犯罪も多い。生きるために、盗んだり奪ったりするんだ。もちろん俺もな」
生活を変えたいという意識が芽生えることは、ゼンには無かった。それどころか、罪の意識すら無かった。
世間で言う「犯罪」を利用しなければ、自分が飢えて死ぬ。それが当たり前の街だったのだ。
罪ではない。生きるために必要なこと。そういう考え方が、生まれた時から醸成されていった。
「それである日、とある男に知り合った。今の組織の上司だ」
貧困街生まれの割には体格に恵まれていたからか、裏組織の一員にならないかと誘われた。
話を聞くと、任務が成功すれば報酬をもらえるらしい。しかも、かなりの金額。
その日暮らすのも必死だったゼンは、男の誘いに乗った。
「それからは色々やった。盗みには慣れていたから仕事はしやすかったし、それなりに金がもらえた」
暮らしはとても楽になった。こんなに簡単なことで報酬がもらえるならと、ゼンはその後も積極的に仕事をもらいに行くこととなる。
「それに一度そういうことを始めると、もう後には引けないからな。ここで生きていくしかない」
もともと小さな犯罪を繰り返していた上に、組織に入ってからは、捕まれば極刑に処され得るようなこともやった自分。
もう普通の暮らしができないのは、とうに分かっている。
最初の頃は良心の呵責に苛まれる時もあった。それでも、やるしかない。
そうして、無心で金を稼いだ。作業と化した犯罪。いつしか、そんな毎日に対する感情は失くなった。
任務を成功させられて嬉しいだとか、同僚の一人が死んで悲しいだとか、出来事一つに心を動かされることが無くなった。
「仕事が来れば、俺はそれを実行するだけ。それだけだ。だから今ここにいる」
ゼンはそう締めくくる。
するとその時、誰かの足音が近付いてきた。
「……ラルフだな」
ゼンが呟いたのち、扉が開く。
「ここにいたか、ゼン。消えちまったかと思ったよ」
ゼンとは対照的に、にかっと笑う顔が明るい。一目見ただけで、表情が豊かだということが分かる男だ。おおよそ、裏組織とは無縁そうな人物である。
「それで、どうしたんだ?」
ゼンが言うと、ラルフという男は思い出したように口を開いた。
「ちょっくら狩りに行くからゼンも来てくれないかと思ったけど……今は良いや」
ゼンとシャーロットを交互に見て、ラルフは言う。人質の面倒を見る仕事があるのだと察したからだ。
するとゼンは尋ねる。
「倉庫に獲物が積んであるはずだが、使い切ったか?」
「え?あー!忘れてた」
驚きを素直に表出させるラルフ。ありがとう、と礼を述べると、彼は部屋を出て行った。
「さっきの奴は、幼馴染。俺と一緒で貧困街の出身だ」
嵐のように去って行ったラルフを思い出しているのか、ゼンは苦笑する。これまでつまらなさそうにしていた彼が表情を崩したのを、シャーロットは初めて見た。
「ちょっと忘れっぽいところはあるが、悪い奴じゃない。まあ、誘拐しておいて何を言っているんだって感じだろうが」
「は、はあ」
シャーロットは曖昧に笑いながら、最後の一口のスープを飲み干す。
「皿を持って行く」
立ち上がったゼンに、食器を渡した。
「昼飯の時にまた来る」
「はい」
そうして、彼は部屋を後にした。
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