伯爵令嬢の前途多難な婚活──王太子殿下を突き飛ばしたら、なぜか仲良くなりました

森島菫

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第十四章 歩む道

第八十話 騒動の後は

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 一連の大騒動から一夜が明けた今日。ギルバートは、逮捕した大量の犯人達の事後処理に取りかかっていた。

「実行犯が早々に口を割ってくれたのは助かったな」

 書類に自供結果をまとめながら、口を開く。

 一旦拘置所に放り込んだ一味は、意外にすんなりと教えてくれた。ギルバートの恐ろしさを、男達が察してしまったというのが大きな理由ではあるが。

 これにより、組織のや組員の詳細情報、犯行の手口などが明るみになった。
 去年ギルバートが撲滅した巨大組織の時にも色々と調査はしたが、やはり材料が増えるのは今後のためになる。

「そうだな。それに、リゼ王女が絡んでいた証拠も掴めたし」

 共に書類を作成していたルーサーも口を開く。

 王女は足がつかないよう間接的に裏組織に依頼をしていたらしいが、結局ギルバート達の捜査や尋問によって、事の全貌が見えてきたのだ。

 トンプソン伯爵子息を王都近郊の空き家に監禁した一方で、シャーロットをわざわざスプラウト公爵領の森の中まで連れ去った。
 その理由は、彼女の貞操を奪うための時間稼ぎをする必要があったからだった。

 ソル王国に近いスプラウト公爵領まで行けば、捜索の手が迫ってきてもひとまず馬でソル王国に逃げられると考えていたようだ。

 移動手段であった馬車を放置したのは、ギルバート達の予想通り、囮にするため。

 仲間が多かったのだから全く別の領地に乗り捨てさせることも可能だったはずだが、その辺りは実行犯達の頭が回らなかったらしい。
 誘拐後すぐに逃走する必要があり、焦っていたのかもしれない。
 捜索班にとっては、これがシャーロットの発見に大きく貢献した。

「まさか王女がそこまでするなんて、想像していませんでした」

 シャーロットはそう言って、僅かに哀しい顔をした。

 彼女は誘拐事件の人質として、事後処理に協力するために王宮にやって来ていたのである。

「ごめん、シャーロット。色々巻き込んでしまって」

 ギルバートは作業の手を止め、愛する婚約者のそばに向かった。

「いえ……殿下の気持ちが知れたので、今はもう良いんです」

 シャーロットははにかむ。

 昨日ギルバートは、今までの全てをシャーロットに説明したところだった。

 リゼ王女の手からシャーロットを守る意図があったことや、今の自分の本当の想い、そして婚約を続行したいことなど。

 対してシャーロットも、ギルバートと離れてからの出来事や自分の気持ちを洗いざらい話した。

 そして二人は遂に、再び結ばれたのである。

「それにしても、驚きました。わざわざ迎えに来てくださって」

 不意にシャーロットは小一時間前のことを思い返し、そう言った。

 事後処理のことでシャーロットが王宮に来ることになったため、心配したギルバートは自ら王家の馬車に乗り、フォード伯爵家のタウンハウスまで向かったのである。

 これには伯爵夫妻も嬉しそうだった。王家の盾で愛娘を守ってくれるならば、安心して送り出せるからだ。

 夫妻も事後処理の関係で王宮に向かったのだが、無事にシャーロットとギルバートが再開したことから、気を利かせて彼らとは馬車を分けたのだった。

 ちなみに夫妻は今、国王陛下に挨拶と報告をしに行っているところである。

「また何かあると大変だからね。今度は絶対離れたくないから」

 力強い意志を滲ませ、ギルバートがシャーロットの頬を撫でる。
 二人の間に、甘い雰囲気が漂った。そんな中で声を発したのは、居心地が悪そうな顔をしたルーサーだ。

「はい、そこのお二人さん。続きは後で、二人きりの時にしてくれ」

 はっとする恋人達。そんな様子を見て、ナタリーとジェシカは顔を見合わせて苦笑した。

「まあ、仲が良いのは素敵なことですけどね」
「そうね。せっかくもう一度想い合えたんだから、触れ合いたい気持ちも分かるけれど」

 一応私達もいるので、と茶化しながら話す。

 ナタリーとジェシカも、この騒動で尽力した者として、事後処理の手伝いをしに来てくれたのだった。

「改めて、皆、捜索に協力してくれてありがとう」

 オルドリッジ公爵領の警備強化に走り、裏組織捕獲に向けて警備隊を派遣したジェシカ。
 スプラウト公爵領の町で聞き取り調査をしたナタリー。
 共にソル王国の国境付近まで移動し、戦闘場面でも貢献したルーサー。

 同年代の三人の功績なくして、この騒動は語れない。

「私からも……ありがとうございました」

 ギルバートの礼の言葉に続いて、シャーロットも頭を下げた。そんな彼らに、三人は笑顔を以て応える。

「殿下も、助けてくださってありがとうございました」

 隣に立つギルバートに向かってシャーロットがそう言うと、彼は慈愛に満ちた表情で頷いた。




「そういえば、クラウス殿下との連携は順調か?」

 再び事後処理の作業を始めてからしばらくが経った頃。ルーサーはギルバートに尋ねる。

 シャーロットを誘拐した裏組織が隠れ家として使った平屋は、ソル王国との国境付近にあった。
 それゆえ犯人確保の時には、ソル王国側の検問官や役人も居合わせている。

 この関係で、ギルバートはソル王国のクラウス殿下にも、事の経緯を伝えていたのだ。

「向こうでも裏組織絡みの事件に頭を悩ませていたみたいで、かなり協力してくださっている」
「それは良かった」

 王太子の婚約者の誘拐という一大事件を引き起こした犯人達。それだけでなく、前々から裏組織の男達は強盗や人身売買など、様々な悪事に手を染めていた。

 さらなる被害を出さないために、ギルバート達は拘置所にいる彼らから情報を全て吐かせ、裏組織の一斉撲滅を目指しているのである。

 近衛兵のニールと戦ったオーランドは、幹部と共にソル王国でも仕事をしていたことが分かった。
 それをクラウス殿下に話すと、これを機にソル王国でも一斉撲滅に乗り出す運びとなったのだった。

 すると、ギルバートの横で作業をしていたシャーロットが口を開く。

「あ、あの」
「ん?」
「裏組織に関連して、やりたいことがあって」

 そう言い出したシャーロットに、ギルバートは続きを促した。

「ロワイユ王国との国境の近くにある貧困街を、何とかしたいんです」

 監禁されていた時にゼンから聞いた話。
 貧困街で生まれ育ち、犯罪が身近にあった彼はその場所で、裏組織と関わりを持ったと言っていた。彼の幼馴染のラルフもそうだ。

 それを知り、シャーロットは気にかかっていた。貧困街の人々を助けられないかと。

 もちろん、犯罪に手を染めたことは悪い事だ。しかし、そうしなければ生きていけない環境にあったことも事実。

 裏組織を撲滅し新たな犯罪者を出さないためには、貧困街の根本的な改善が必要では無いか。
 シャーロットはそう考えた。

「公共事業では失業者に仕事をしてもらっていますが、貧困街出身者はほとんどいません。働けない事情があると踏んで、その調査に入りたいと思っています」
「分かった。今後の課題として、打ち合わせの場を用意しようか」
「ありがとうございます!」

 これで、改善にまた近付く。シャーロットは顔を綻ばせた。
 そしてふと、表情を曇らせる。

「あの……リゼ王女の沙汰は、どうなるんでしょうか」

 その質問に、ギルバートは口を開いた。

「立場ある令嬢の誘拐。その首謀者だから、ただでは済まないだろうね」

 いくら広大国の王女とはいえ、誘拐は犯罪だ。それも、王太子の婚約者を標的にした。権威にものを言わせてもみ消すことなどできない。

 ギルバートも、野放しにするつもりは毛頭無かった。もちろん、シャーロットも王女は罪を償うべきだと思っている。相応のことをしたのだから。

 しかし、諸手を挙げるのも憚られる感情が、シャーロットの中にはあった。
 視察の時に実感した、政治に対する王女の想い。それを鑑みると、少し気にかかることがあるのだ。

「殿下。一つ、お願いがあります」

 シャーロットはそう、ギルバートに話し始めた。
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