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第四章 窮地と平穏
第二十二話 評価
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「好きなだけ食べるがよい」
「では……ありがたく頂きます」
笑顔で食事を楽しむシャーロットをちらりと見て、王太子は目を細めた。
彼女にとって自国の王族との食事は緊張するものだということは容易に想像できる。
しかしこれまでの様子を見るに、食事の場は好調のようだ。何より、国王と王妃はシャーロットに興味を持っている。
色恋の気配が一切なかった息子が気にかけている令嬢となれば、注目したくなるのも分からなくはない。
しかし彼らを惹き付ける理由は、それだけではなかった。会話の節々で挟まれる、シャーロットの豊富な知識。
これまで彼女と行ってきた新事業でも発揮されているそれは、二人にとってもかなり評価できる点だと見受けられた。
上々だな──彼はそう思いながら笑みを深める。
王太子という身分ゆえ、好きなように結婚できるわけではない。それでも、望まぬ結婚を強いるつもりはないということは言われていた。
そんな両親は最初こそ政略結婚だったが、結婚から二十年経った今でもお互いを愛していることが伝わってくるほどの暮らしぶりだ。
どんな結婚であれ、結局は本人たちの気持ち次第で良くも悪くもなるのだろう。
しかし結婚に際して、やはり希望は通してやりたいと思ってもらえているようだ。
フォード伯爵家に異国のお菓子を贈っていることについて、反対されたことはない。というか、事あるごとにノリノリで進捗を聞いてくる。母上と一緒に父上も聞きに来る辺り、相当気になっているらしい。
彼がシャーロットを城に泊めたいと話した時は、すぐに了承してくれた。
もちろんパーティーでの騒動を聞いて、彼女を心配したからというのが理由の大部分だろう。
しかし、新事業における彼女の活躍はかねてから耳にしていたこと、そして息子が気にかける令嬢であることなど、諸々の事情があって即決したのはおそらく間違いではない。
王族の仲間入りをする可能性があるということで、一応両親のチェックは現在行われている。現状は、かなりシャーロットを気に入っているようだ。
これはどうだ、あれはどうだなどと食べ物を勧める様は、娘を可愛がる親のような雰囲気がある。
彼女はとても美味しそうに食べるため、豊富な知識や礼儀正しさだけでなくそういうところも好感を持つ要因なのかもしれない。
ただ、肝心のシャーロット嬢の気持ちはまだ分からない──王太子は一人唸った。
心強い存在という言葉はあったが、好意を持たれているのかどうかは今後確認したい点である。
かといって、好意を持たれていないと分かったからすぐに諦めるという気は毛頭無い。
自分にできることは全てやったうえで、それでも彼女が嫌だと言えば身を引くつもりだった。……かなり塞ぎ混むかもしれないが。
ひとまず今は、できる限りのことをやるだけだ。今回の王宮での宿泊も、そのうちの一つである。
理由は何であれ、妙齢の女性が王宮に泊まったという事実は間違いなく貴族達の耳に入る。
由緒ある伯爵家の娘ならば王族になる可能性はある。そのため、彼女が王太子妃の候補者だと見なされるようになるのは時間の問題だ。
目的は、王太子妃の座を狙う余計な芽を摘むこと。
地位が欲しい連中は、娘を王太子妃にさせるチャンスがあれば即座に飛び付くだろう。
しかし王太子が彼女を望んでいると分かれば、別の方向から近付こうとする者もいるはずである。
もちろん粘る者もいるだろうが、どちらにせよシャーロットが王太子の婚約者候補だという予想を立ててもらえれば、第一の目的は果たされる。
彼はそう考えていた。
その作戦に、おそらく彼の両親は気付いているだろう。シャーロットへの二人の視線に同情の色が見えるのは気のせいではない。
しかし、両親に自分の本気が伝わっているなら、彼にとってはそれで良かった。
王太子がそんなことを考えているとは露知らず、シャーロットは食後に運ばれてきた林檎のタルトを楽しんでいた。まさかこの場で出てくるとは予想しておらず、頬が緩みきっているのが自分でも分かる。
王族の方々の前でこんな姿を晒して良いのだろうかと思うものの、プライベートだから気にせずどんどん食べて良い、と彼らが言っているなら遠慮はしない。
というより、大好物の林檎のタルトを前にして、シャーロットに遠慮などできるはずがなかった。
幾らか表情に笑みが見える国王、にこにこと嬉しそうな王妃。王太子は相変わらず目を細めている。
数十分前は、こんなに楽しい食事ができるとは思ってもみなかった。緊張のあまり受け答えをまともにできるかどうかとさえ思っていたのだ。
「本日は食事に誘っていただき、誠にありがとうございました」
食事を終え、シャーロットは三人にそう告げた。
「うむ。楽しい時間だった」
「ここでお別れなのが名残惜しいわね」
「そう仰っていただけて光栄です」
緊張は食事の前と比べるとかなり解け、顔が自然に綻ぶ。
国王と王妃はこれから公務に取り掛かるとのことだ。見送りに行くと、国王夫妻は口を開いた。
「せっかく王宮にいるのだから、ゆっくりしていくと良い」
「そうね。解放されているところだったらどこでも自由に入れるわよ」
そう言われ、シャーロットはふと思い出す。
「宿泊したお部屋の窓から綺麗な庭園が見えたのですが、そこに行っても良いでしょうか?」
「うむ、もちろんだ」
了承を得て、シャーロットの胸が踊った。王宮の庭園が素晴らしい景色だということは知ったが、今までじっくり見たことはない。
自身の症状に関して悩んでいたか、パーティーで修羅場に遭遇したかで、大抵何らかの事情があったのだ。
「それなら俺が案内しようか、シャーロット嬢」
今日の公務の予定までまだ時間があるから、と言う王太子。
「ありがとうございます。では、よろしくお願いします」
その厚意に預かり、二人で庭園に向かうことになった。
「では……ありがたく頂きます」
笑顔で食事を楽しむシャーロットをちらりと見て、王太子は目を細めた。
彼女にとって自国の王族との食事は緊張するものだということは容易に想像できる。
しかしこれまでの様子を見るに、食事の場は好調のようだ。何より、国王と王妃はシャーロットに興味を持っている。
色恋の気配が一切なかった息子が気にかけている令嬢となれば、注目したくなるのも分からなくはない。
しかし彼らを惹き付ける理由は、それだけではなかった。会話の節々で挟まれる、シャーロットの豊富な知識。
これまで彼女と行ってきた新事業でも発揮されているそれは、二人にとってもかなり評価できる点だと見受けられた。
上々だな──彼はそう思いながら笑みを深める。
王太子という身分ゆえ、好きなように結婚できるわけではない。それでも、望まぬ結婚を強いるつもりはないということは言われていた。
そんな両親は最初こそ政略結婚だったが、結婚から二十年経った今でもお互いを愛していることが伝わってくるほどの暮らしぶりだ。
どんな結婚であれ、結局は本人たちの気持ち次第で良くも悪くもなるのだろう。
しかし結婚に際して、やはり希望は通してやりたいと思ってもらえているようだ。
フォード伯爵家に異国のお菓子を贈っていることについて、反対されたことはない。というか、事あるごとにノリノリで進捗を聞いてくる。母上と一緒に父上も聞きに来る辺り、相当気になっているらしい。
彼がシャーロットを城に泊めたいと話した時は、すぐに了承してくれた。
もちろんパーティーでの騒動を聞いて、彼女を心配したからというのが理由の大部分だろう。
しかし、新事業における彼女の活躍はかねてから耳にしていたこと、そして息子が気にかける令嬢であることなど、諸々の事情があって即決したのはおそらく間違いではない。
王族の仲間入りをする可能性があるということで、一応両親のチェックは現在行われている。現状は、かなりシャーロットを気に入っているようだ。
これはどうだ、あれはどうだなどと食べ物を勧める様は、娘を可愛がる親のような雰囲気がある。
彼女はとても美味しそうに食べるため、豊富な知識や礼儀正しさだけでなくそういうところも好感を持つ要因なのかもしれない。
ただ、肝心のシャーロット嬢の気持ちはまだ分からない──王太子は一人唸った。
心強い存在という言葉はあったが、好意を持たれているのかどうかは今後確認したい点である。
かといって、好意を持たれていないと分かったからすぐに諦めるという気は毛頭無い。
自分にできることは全てやったうえで、それでも彼女が嫌だと言えば身を引くつもりだった。……かなり塞ぎ混むかもしれないが。
ひとまず今は、できる限りのことをやるだけだ。今回の王宮での宿泊も、そのうちの一つである。
理由は何であれ、妙齢の女性が王宮に泊まったという事実は間違いなく貴族達の耳に入る。
由緒ある伯爵家の娘ならば王族になる可能性はある。そのため、彼女が王太子妃の候補者だと見なされるようになるのは時間の問題だ。
目的は、王太子妃の座を狙う余計な芽を摘むこと。
地位が欲しい連中は、娘を王太子妃にさせるチャンスがあれば即座に飛び付くだろう。
しかし王太子が彼女を望んでいると分かれば、別の方向から近付こうとする者もいるはずである。
もちろん粘る者もいるだろうが、どちらにせよシャーロットが王太子の婚約者候補だという予想を立ててもらえれば、第一の目的は果たされる。
彼はそう考えていた。
その作戦に、おそらく彼の両親は気付いているだろう。シャーロットへの二人の視線に同情の色が見えるのは気のせいではない。
しかし、両親に自分の本気が伝わっているなら、彼にとってはそれで良かった。
王太子がそんなことを考えているとは露知らず、シャーロットは食後に運ばれてきた林檎のタルトを楽しんでいた。まさかこの場で出てくるとは予想しておらず、頬が緩みきっているのが自分でも分かる。
王族の方々の前でこんな姿を晒して良いのだろうかと思うものの、プライベートだから気にせずどんどん食べて良い、と彼らが言っているなら遠慮はしない。
というより、大好物の林檎のタルトを前にして、シャーロットに遠慮などできるはずがなかった。
幾らか表情に笑みが見える国王、にこにこと嬉しそうな王妃。王太子は相変わらず目を細めている。
数十分前は、こんなに楽しい食事ができるとは思ってもみなかった。緊張のあまり受け答えをまともにできるかどうかとさえ思っていたのだ。
「本日は食事に誘っていただき、誠にありがとうございました」
食事を終え、シャーロットは三人にそう告げた。
「うむ。楽しい時間だった」
「ここでお別れなのが名残惜しいわね」
「そう仰っていただけて光栄です」
緊張は食事の前と比べるとかなり解け、顔が自然に綻ぶ。
国王と王妃はこれから公務に取り掛かるとのことだ。見送りに行くと、国王夫妻は口を開いた。
「せっかく王宮にいるのだから、ゆっくりしていくと良い」
「そうね。解放されているところだったらどこでも自由に入れるわよ」
そう言われ、シャーロットはふと思い出す。
「宿泊したお部屋の窓から綺麗な庭園が見えたのですが、そこに行っても良いでしょうか?」
「うむ、もちろんだ」
了承を得て、シャーロットの胸が踊った。王宮の庭園が素晴らしい景色だということは知ったが、今までじっくり見たことはない。
自身の症状に関して悩んでいたか、パーティーで修羅場に遭遇したかで、大抵何らかの事情があったのだ。
「それなら俺が案内しようか、シャーロット嬢」
今日の公務の予定までまだ時間があるから、と言う王太子。
「ありがとうございます。では、よろしくお願いします」
その厚意に預かり、二人で庭園に向かうことになった。
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