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第五章 ライバル登場?
第二十五話 穏やかさの影に
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社交シーズンが終盤に差し掛かったこの頃。シャーロットのもとには、一通の招待状が届いていた。
「オルドリッジ公爵令嬢からだわ」
これまで深く関わったことのない人物だ。しかし、ある程度の情報は届いている。
淑女の鑑と言われ、容姿や教養に優れており、公爵家出身の令嬢。
社交界では、彼女のことを知らない者はいない。
「それほどの方が、私に……?」
最近積極的に社交界に出向こうとしているシャーロットには、この招待を断る気など無い。
しかし高貴な身分の、しかも令嬢として完璧に思える人物から突然の招待を受け、光栄な気持ちよりも疑問の方が脳内を占拠していた。
オルドリッジ公爵令嬢は交流の幅が広く、社交シーズン中はよく茶会を開いているという。
近頃社交界に顔を出している伯爵令嬢の存在が気になり、招待に至ったのかもしれない。
そんなことを思いながら、シャーロットは参加の意思をしたためた手紙を封に入れた。
茶会ではオルドリッジ公爵令嬢を始めとして、同年代の令嬢たちが何人かいるだろう。積極的に声をかければ、交流の幅を広げられるはずだ。
新たな人間関係への希望と、ほんの少しの不安を胸に、シャーロットは送られてきた参加者リストに目を通し始めた。
「シャーロット・フォード伯爵令嬢、ようこそいらっしゃいました」
オルドリッジ公爵邸。公爵位ともなると、その敷地・外観は見る者を圧倒させる。
邸の中へ案内されている間、シャーロットは思わずあちらこちらへ目線を動かし、気品漂う空間を観察した。
シャーロットを出迎えたのは、他でもなく本日の茶会の主催者、ジェシカ・オルドリッジ公爵令嬢だ。
「お会いできて嬉しいわ。今日は楽しいお茶会にしましょう」
微笑む彼女からは、気品溢れる美しさが感じられる。
さすがとしか言いようのない姿に感服しつつ、シャーロットも挨拶を返した。
「フォード伯爵令嬢は、普段どのように過ごしていらっしゃるの?」
他の参加者も交えてしばらく穏やかな談笑が続き、シャーロットの緊張が解れてきた頃。
不意に公爵令嬢が口を開いた。
「普段は刺繍や読書をしています」
「刺繍は私もよくしているわ。王都には素敵な糸を取り揃えているお店がたくさんあるわよね」
シャーロットの言葉にそう答えた公爵令嬢は、訪れたことのある店名をいくつか並べ立てる。どれも値段の張る高級店だ。
シャーロットが自由に使えるお金はそれなりにあるのだが、継続的に出費が重なればそのお金もすぐに無くなってしまう。
それに、高級な材料でなくとも素敵な刺繍を作ることはできる。
そのような考えのもと、シャーロットは領地にある小さな商店を利用している。
この辺りは個人の価値観によるだろう。どこにどれだけお金をかけるか、それはその人の自由だ。
そう思いながらシャーロットが領地の商店の話を出すと、公爵令嬢は微笑みを絶やすこと無くこう続けた。
「王都のお店なら小さな商店より高品質なものが揃えられるわ。それに、お店の方々も一流よ。そちらの商店は、領民の方々が営んでいるのでしょう?」
その表情は、とても品のあるものだった。言葉遣いも抑揚も穏やかで、嫌な感じは全くしない。
しかしシャーロットは公爵令嬢の発言から、言外にある真意を垣間見たような気がした。
「私は領地の商店の方々を尊敬していますから、今後も彼らの商品を購入するつもりです。けれど、王都のお店もいつか訪れたいと思っておりました。ぜひ今度、紹介していただけますか?」
「もちろんよ」
公爵令嬢は微笑みながら頷く。
あからさまに領民を侮蔑しているわけではないようだが、彼女の中に経営者の優劣の意識があることは間違いない。
社交界を渡り歩くためにはそれなりの嘘も交えるべきなのだろう。
しかしシャーロットにとっては、たとえ嘘でも領民のことを蔑む発言をしたくなかった。
それは、シャーロットがこれまで接してきた領民との思い出があり、彼らの熱意や人となりを知っているからだ。
公爵令嬢の考えとは異なる意見を、穏やかではありつつも述べたシャーロット。そんな彼女に同調する声が、ちらほらと見られる。
話題を持ちかけたジェシカはというと、冷静にその場の空気を読み取っていた。
それとなく格の違いを見せつけてシャーロットの反応をうかがったのだが、彼女は見かけによらず芯のある女性らしい。
地位を振りかざして優位になろうとしても、彼女ならば上手く対応してしまうのだろう。
公爵家の娘という手札は使えない。いや、直接使うことはできない。
普段の茶会の招待客は、ジェシカと交流のある、主に伯爵家以上の令嬢たちだ。王太子の婚約者候補として名の上がる者は複数人いる。
公爵令嬢という立場を駆使して、彼女達をそれとなく誘導することができれば──。
ジェシカはティーカップを手に持ち、優雅な笑みを浮かべた。
「オルドリッジ公爵令嬢からだわ」
これまで深く関わったことのない人物だ。しかし、ある程度の情報は届いている。
淑女の鑑と言われ、容姿や教養に優れており、公爵家出身の令嬢。
社交界では、彼女のことを知らない者はいない。
「それほどの方が、私に……?」
最近積極的に社交界に出向こうとしているシャーロットには、この招待を断る気など無い。
しかし高貴な身分の、しかも令嬢として完璧に思える人物から突然の招待を受け、光栄な気持ちよりも疑問の方が脳内を占拠していた。
オルドリッジ公爵令嬢は交流の幅が広く、社交シーズン中はよく茶会を開いているという。
近頃社交界に顔を出している伯爵令嬢の存在が気になり、招待に至ったのかもしれない。
そんなことを思いながら、シャーロットは参加の意思をしたためた手紙を封に入れた。
茶会ではオルドリッジ公爵令嬢を始めとして、同年代の令嬢たちが何人かいるだろう。積極的に声をかければ、交流の幅を広げられるはずだ。
新たな人間関係への希望と、ほんの少しの不安を胸に、シャーロットは送られてきた参加者リストに目を通し始めた。
「シャーロット・フォード伯爵令嬢、ようこそいらっしゃいました」
オルドリッジ公爵邸。公爵位ともなると、その敷地・外観は見る者を圧倒させる。
邸の中へ案内されている間、シャーロットは思わずあちらこちらへ目線を動かし、気品漂う空間を観察した。
シャーロットを出迎えたのは、他でもなく本日の茶会の主催者、ジェシカ・オルドリッジ公爵令嬢だ。
「お会いできて嬉しいわ。今日は楽しいお茶会にしましょう」
微笑む彼女からは、気品溢れる美しさが感じられる。
さすがとしか言いようのない姿に感服しつつ、シャーロットも挨拶を返した。
「フォード伯爵令嬢は、普段どのように過ごしていらっしゃるの?」
他の参加者も交えてしばらく穏やかな談笑が続き、シャーロットの緊張が解れてきた頃。
不意に公爵令嬢が口を開いた。
「普段は刺繍や読書をしています」
「刺繍は私もよくしているわ。王都には素敵な糸を取り揃えているお店がたくさんあるわよね」
シャーロットの言葉にそう答えた公爵令嬢は、訪れたことのある店名をいくつか並べ立てる。どれも値段の張る高級店だ。
シャーロットが自由に使えるお金はそれなりにあるのだが、継続的に出費が重なればそのお金もすぐに無くなってしまう。
それに、高級な材料でなくとも素敵な刺繍を作ることはできる。
そのような考えのもと、シャーロットは領地にある小さな商店を利用している。
この辺りは個人の価値観によるだろう。どこにどれだけお金をかけるか、それはその人の自由だ。
そう思いながらシャーロットが領地の商店の話を出すと、公爵令嬢は微笑みを絶やすこと無くこう続けた。
「王都のお店なら小さな商店より高品質なものが揃えられるわ。それに、お店の方々も一流よ。そちらの商店は、領民の方々が営んでいるのでしょう?」
その表情は、とても品のあるものだった。言葉遣いも抑揚も穏やかで、嫌な感じは全くしない。
しかしシャーロットは公爵令嬢の発言から、言外にある真意を垣間見たような気がした。
「私は領地の商店の方々を尊敬していますから、今後も彼らの商品を購入するつもりです。けれど、王都のお店もいつか訪れたいと思っておりました。ぜひ今度、紹介していただけますか?」
「もちろんよ」
公爵令嬢は微笑みながら頷く。
あからさまに領民を侮蔑しているわけではないようだが、彼女の中に経営者の優劣の意識があることは間違いない。
社交界を渡り歩くためにはそれなりの嘘も交えるべきなのだろう。
しかしシャーロットにとっては、たとえ嘘でも領民のことを蔑む発言をしたくなかった。
それは、シャーロットがこれまで接してきた領民との思い出があり、彼らの熱意や人となりを知っているからだ。
公爵令嬢の考えとは異なる意見を、穏やかではありつつも述べたシャーロット。そんな彼女に同調する声が、ちらほらと見られる。
話題を持ちかけたジェシカはというと、冷静にその場の空気を読み取っていた。
それとなく格の違いを見せつけてシャーロットの反応をうかがったのだが、彼女は見かけによらず芯のある女性らしい。
地位を振りかざして優位になろうとしても、彼女ならば上手く対応してしまうのだろう。
公爵家の娘という手札は使えない。いや、直接使うことはできない。
普段の茶会の招待客は、ジェシカと交流のある、主に伯爵家以上の令嬢たちだ。王太子の婚約者候補として名の上がる者は複数人いる。
公爵令嬢という立場を駆使して、彼女達をそれとなく誘導することができれば──。
ジェシカはティーカップを手に持ち、優雅な笑みを浮かべた。
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