伯爵令嬢の前途多難な婚活──王太子殿下を突き飛ばしたら、なぜか仲良くなりました

森島菫

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第七章 活躍の伝播

第三十三話 才色兼備な王女

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 シャーロットとギルバートが婚約して、しばらくが経った。相変わらず二人による新規公共事業は続いている。

 しかしその日は、普段と少し異なる動きがあった。

「ロワイユ王国から視察が?」
「そう。今月末だってさ」

 次に行う建設事業に関して、今日も意見を出しあっていた二人。
 一通り話が終わり、シャーロットが林檎のタルトを食べようとしていた時、ギルバートは此度の話を口に出したのだ。

 以前、シャーロット達が成し遂げた水道事業。その成功を聞きつけた隣国ロワイユ王国から、交流もかねて視察団が訪れることになったという。

 ロワイユ王国は、ここトリジア王国の西部に位置する。
 近隣諸国よりも面積が広く、人口も多い豊かな国だ。

 両国は十年ほど前にトリジア王国と長らく続いた敵対関係を終わらせ、今後さらに友好関係を築こうとしているところであった。

 そんな中での視察団派遣の話。現トリジア王国の国王──ギルバートの父親──は、二つ返事で引き受けた。

「視察団には王女も参加するらしいよ。話を詳しく聞きたいだろうから、シャーロットにも同席してほしいんだけど……大丈夫?」
「はい」

 シャーロットはにこやかに頷いた。

 幸い、ロワイユ王国に関する知識はそれなりにある。他国の王族と話すことになっても、彼女は落ち着いていた。

 それに、シャーロットが王太子ギルバートの将来の伴侶であることを国際的に示す、最初の場という側面も持つ。

 今後を見据え、シャーロットにはこの顔合わせを活用する意欲があった。

 ギルバート曰く、視察団に加わるのはリゼ王女だという。シャーロットは頭の中で、彼女に関する情報を引っ張り出した。

 リゼ王女は、御年二十二歳。現国王の子供達の中では、唯一の王女だ。
 頭脳明晰で処世術に長け、若くして外交を担っている。

 ロワイユ王国内の改革にも着手する予定らしく、今回の視察団に彼女が加わるのは自然と思われた。

 同じ志を持つ者として、話が弾みそうである。シャーロットはまだ見ぬその日を心待ちにした。



 そしてやってきた、視察団訪問当日。

「リゼ王女、ようこそお越しくださいました」

 王宮の応接間にて、ギルバートがにこやかに応対した。

 彼の隣にはシャーロットが座り、二人の正面に件の王女が座っている。

 王女は長い黒髪を左右で編み下ろし、頭には葉をあしらった金色の細い輪を被っている。瞳も黒色であり、白い肌と組み合わさると強い存在感を放った。

 足元まで届く長い暗赤色の衣類を身に纏い、腰辺りで紐を何重か巻いている。全体としてゆったりとしたシルエットが特徴的だ。

「こちらこそ、受け入れてくれてありがとう。父も喜んでいたわ」

 芯の通った、少し低い落ち着いた声で王女は答えた。

 柔和な表情だが、凛とした佇まいからは威厳すら感じられる。これまで近隣諸国との外交をくぐり抜けてきた実績が、王女をそうさせているのだろうか。

 たった一言の間に、シャーロットは王女の手腕を見たような気がした。

「リゼ王女、こちらは私の婚約者のシャーロット・フォード伯爵令嬢です。彼女も私と同様に、水道事業の主導者として携わりました」

 ギルバートに紹介され、シャーロットは王女に挨拶をした。すると王女は興味深げに彼女に視線を投げた。

「噂は聞いているわ。革新的な手法について、これから詳しく教えてもらえるかしら」
「もちろんです」

 その後、シャーロットとギルバートによる内容説明に入った。

 今後ロワイユ王国の改革を進めるつもりである王女からは、様々な質問が飛んできた。彼女と共に来た他の視察団員も熱心に耳を傾け、積極的に疑問点を投げ掛けた。

「質問攻めにしてしまったわね。長い時間ありがとう」

 応接間を出る時、王女は言った。

「お気になさらず。そのための視察ですから。明日からは実際の現場訪問です、しっかりとご案内いたしますね」
「質問にも詳しく回答いたします」

 二人が微笑んでそう告げると、王女も笑みを浮かべる。

 終始和やかな雰囲気であった。感触は上々。
 両国の協力関係が少しずつ築かれていくその段階に自らが関わっていることを、シャーロットは嬉しく思った。

 その日から、視察団は王宮の客室で宿泊することになった。交流が終わったシャーロットは、リゼ王女を始めとする視察団員達やギルバートに挨拶をして彼らのもとを離れた。



「シャーロット様、こんにちは」

 王宮を出るべく回廊を歩いていると、侍女のフローラと遭遇した。
 彼女とは以前、王宮パーティーで侯爵子息に詰め寄られた日をきっかけとして、顔馴染みの関係が続いている。

「例の件、終わりました?」

 フローラはどこかすっきりした表情のシャーロットを見て、尋ねた。
 例の件とは、今しがた終えてきた視察団の対応のことだ。

「はい。良い感じでしたよ」
「王女様もいらっしゃっているんですよね?噂では、賢くてお綺麗な方だとか」

 周囲に聞こえないように声を潜めるフローラ。

 普段は二十歳の割に落ち着いた振る舞いをしているが、こういう時は年相応の好奇心が顔を出すらしい。

「とても知的で向上心に溢れた方でした。凛としたお姿も秀麗でいらっしゃって」
「そうなんですね!確か婚約者はいらっしゃらないんでしたっけ。もしかしたら、この訪問をきっかけにどなたかと……なんてこともあるかもしれませんね」

 リゼ王女は外交に携わるため、近隣諸国に出向くことも多いと聞く。多様な言語を操る彼女なら、国際結婚も有り得る話だ。

 才色兼備な王女の結婚。ロワイユ王国だけでなく、トリジア王国を含めた様々な国の者達の関心を引くのも、無理はない。

 二人はしばしの間、隣国の王女の今後について囁きあった。
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