うっかり女神さまからもらった『レベル9999』は使い切れないので、『譲渡』スキルで仲間を強化して最強パーティーを作ることにしました

akairo

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第1章 中立自由都市エラリア

回復できないなら、譲渡するしかないようです

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さて、困ったな。

僕の目の前には半壊した檻の中、檻の隅まで下がってギュッと鉄の柵を握るエルフの少女がいた。
翡翠色の瞳は怯えに満ちてユラユラと動き、髪をかき分ける長い耳は力なく下を向いている。 
服は町娘といった素朴な洋服を身に纏っているが、すぐにその洋服は煤けて汚れが目立つことが分かる。 明らかに恐怖を抱いている目だ。 

僕になのか、人間になのか、それともどちらにもなのか。 

そういえば転生した後、自分の顔を一度も見ていない。 ペタペタペタ 僕は剣を鞘にしまい、とりあえず髪の毛から、眉、目、鼻、口、輪郭を触ってみる。

うーん、鼻は少し高くなって輪郭は前世よりシャープになった?

これで、恐ろしい見た目だと女神さまに文句1つでも言わなきゃいけない。 とりあえず僕は自分の顔に、彼女を怖がらせる要素は少ないと仮定した。 

「えーと、大丈夫?」 

僕は目線を下げるために腰を落とす。僕の口からは、慣れ親しんだ日本語とはまるで違う異世界の言葉が紡がれた。 

なるべく優しく、怯えさせないように。

「人間来ないでっ!──痛っ!」

エルフの少女は、さらに檻の隅に身体を追いやろうとしたが、怪我をしているのか、身体を動かそうとすると少女は苦痛に顔をしかめた。 やっぱり人間嫌いなんだ。そう思うも、怪我をしているところを放っておくことはできない。 

「君を助けたいんだ、怪我しているんじゃないかい?」 

嫌われることを覚悟して僕は檻の中に入る。 少女の顔は恐怖で青ざめているが、僕は構わず檻の中へと足を踏み入れる。少女が先ほど痛みで庇った場所が足だと気づき、僕はスカートの端をめくり隠れていた左足を露わにした。 

「酷い⋯⋯」 

左足には逃げないように足枷がはめられ、そこに繋がる鎖の先にはハンドボールくらいの大きさの鉄球が繋がり、少女の動きを制限させていた。 
しかし本当に酷いのは、彼女の左足そのものだ。 下腿は赤く腫れ上がり見るからに痛々しい。
馬車が横転したため足枷に無理な力が加わったのだろうか、少女の足は腫れているだけでなく、皮膚の一部が摩擦によるものか表皮がめくれ上がっている。 

これ、もしかしたら折れたりしているのでは? 

嫌な予想が頭をよぎり、たらりと汗が背中を落ちていく。 折れているのであれば、自力で動くこともできないだろう。 そもそも、この世界の医療レベルも分からない。 

「痛い⋯⋯よね?」 

僕は心配になり少女へと声をかける。 

少女は、酷いことをされると思っていたのか、僕の心配そうな声に少し驚くと小さく頷いた。
小柄な顔だちに、瞳はくりっとして可愛らしい。色白の肌は土煙に汚れているものの、近寄るとほんのりと良い香りが漂った。 思わず見惚れてしまいそうになる。 

「なんとか治してあげたいけど⋯⋯」 

人間を嫌がっているのにまじまじと見れないよね。 

僕は慌てて、少女の左足に視線を戻す。 ゲームであれば回復魔法やアイテムで直すところではあるものの、如何せん僕には魔法を使うためのスキルがない。 

後から気づいたのだが、僕はここで自分が女神さまからアイテムポーチをもらったことをすっかり忘れていた。 

どうしよう、どうしようと思いつつ、僕は自分が持っている1つスキルを思い出した。 

『体力譲渡』 

スキルの名前と先ほど確認した説明文からすれば、体力を分け与えることを目的としていそうではあるが、体力と共に怪我を治す力も備えているのだろうか?

でも手持ちでできることはこの程度だ。 

よし、使ってみるしかない。

 どのように発動するのか分からないが、とりあえず形式的に右手を少女の怪我に向けて伸ばす。 触れられると思ったのか、少女はギュッと眼を瞑った。 

僕は伸ばした右手に意識を集中する。 地球では感じたことのない、身体の中を流れる何かがあることに気づく。 その流れを右手へと押しやるように流れに形を作ってやる。 

何かできそう。 

そんな気持ちが起こってホッとする。
これで何も起こらなければ、とんでもなく恥ずかしいやつか女の子を触るのを戸惑っているただの変態だ。 
でも、なんて唱えれば良いんだろう。 

ええぃ、とりあえずこれしかない! 

体力譲渡アサイメント!』 

パッと、僕の右手から白い光が溢れたかと思うと、光は少女の傷ついた足に降り注ぐ。

直後、ほんの少しだけだが自分の身体から何かが抜けたような感覚を覚える。 これが、『体力譲渡』のスキルの力なのか。

光はどんどん少女の足へと流れ込み、それと同時に僕の身体は少し負担を感じる。 

「これって!」 

少女の顔が驚きに変わる。 驚いている顔を見て、僕は素直に可愛いなと思った。

光はやがてゆっくりと薄くなる。 僕の右手と少女の足を繋いでいた光がすうっと消えると、そこには傷や腫れがない、ほっそりとした少女の足が現れた。 

「⋯⋯凄い。さっきまでの痛みが嘘のよう」 

余りの出来事にビックリしたのか、少女は自らの足と僕の顔をキョロキョロと見比べていた。

良かった、スキルがちゃんと発動してよかった! 
足もしっかり治って本当に良かった!

僕も嬉しい。このまま叫んで何も起こらなかったら、中身25歳男性の遅すぎる中二病まっしぐらだもんね。
僕もにっこりと微笑む。 

「いきなり、驚かしてごめんね。僕はユズキって言うんだ。君は?」 

僕が話しかけると、少女は人間である僕が近いことをすっかり忘れていたらしく、少し怯えたように身体を小さく縮こまらせたが、すぐに上目でちらりと僕を見上げると口を開いた。 

「ごめんなさい。私、イスカって言います。あの⋯⋯助けてくれてありがとうございました」 

イスカと名乗った少女は、おずおずとした口調でお礼を述べる。 緊張を解いてくれたみたいで僕は少し安堵する。 

「あのっ!ビックリしました。ベイルベアーを一人で倒されて、それに回復魔法を使えるなんて。ユズキさんは有名な冒険者様なのですか?」 

イスカの声は鈴の音のように良く響き、耳に心地良い。 よく見れば、先程まで塞ぎ込むように垂れていた耳が少し起き上がっているのが分かる。 

うーん、気恥ずかしい。 

この世界に着いてまだ2時間くらい。超がつくほどの初心者なのに、有名人扱いされるとむず痒い気持ちになる。 

「えーっと、それがさ。実はここがどこかもよく分からなくて。恥ずかしい話なんだけど、どっちに町があるのか分からないんだ」

 嘘をついたって良いことはない。
 僕は人間に怯えるイスカに対して、嘘をつきたくなかった。 ただ、やはりというべきかイスカの顔はたちまち不審がる表情に戻ってしまう。
 
「まぁ、普通そう思うよね。でも嘘はついてないんだよなぁ。僕はイスカが嫌がることはしたくないから、その足枷を解いたら、その後はイスカがこれからどうしたいかを話してよ」 

「私を置き去りにするってことですか?」

イスカは、選択肢を渡されたことに少し戸惑いと不安を感じたようだ。耳は力なく垂れ下がってしまう。 

「いやいやいや!違うんだよ。ただ、僕も自分のことをまだよく分かっていないというか⋯⋯。イスカは人間を嫌っているようだけど、僕はイスカが人間を嫌っている理由を知らない。だから、放っておけないとは思ってるけど、僕が関わることで君が嫌がるようなことになるのが⋯⋯嫌なんだ」

 僕は、何故だか分からないが、この出会ったばかりのイスカというエルフに嫌われたくないと思ってしまった。
 
「あはは、突然ごめんね。鍵探してくるね」 

ちょっと間がもたない。 女神さま、僕をヘタレと思ってもらって構わないです。 柄にもないことを言ってしまったと、僕は踵を返すと檻の外に出た。 

改めて見ても凄惨な光景だ。 5つの死体からは血が流れ、街道を赤黒く染めている。 推測からすれば、イスカはこの装飾をまとった小柄な肥満の男に奴隷として連れて行かれようとしていたのだろう。 周りに倒れている3人は護衛だった者達か。 小柄な男の死体に近づく。

「──ウッ!」 

近付いて分かる血の匂い。 むせ返るような鉄さびの匂いと、腹を熊に割かれて地面へとダラリと臓物を見て、改めてこれが現実の出来事なんだと認識してしまう。 
普通に前世でサラリーマンをやっていた身にとって、こんなにも身近な死というものに触れたことがなかった。 

しまった!

と思った時にはもう遅い。 グルルと胃液が逆流してきたかと思うと、僕は地面に四つん這いになると何も入っていない胃から胃液を地面に吐き出してしまう。 せめて、イスカに背中を向けていたことが救いか。 

──ッ 

元々胃に何も入っていなかったせいか、吐瀉物は少なかった。 

「ハァハァ」

 荒く息をつくと、僕は立ち上がる。 口の中は胃液の酸っぱさが残り、漂う血の匂いが消えたわけではない。 でも、イスカの足枷の鍵を探すためには、男の死体を探らなければならなかった。

「──あった!」

 運良く僕は、余り血に濡れていない男のチョッキからジャラジャラと金属音を響かせる鍵束を見つけることができた。
奴隷を取るようなやつにとは思うが、未だ心は日本の民。 亡くなった5つの死体に向かって僕は合掌する。
胃液を吐いたが、漂う血の匂いと獣の死体の匂いは残っておりスッキリとしない。 

ゲロ臭くてごめんね。

心の中で呟きつつ、僕はイスカの元へと戻る。 そこには、心配そうに胸の前で手を合わせて立ち上がったイスカの姿があった。

「ユズキさん⋯⋯大丈夫?」 

心配そうな表情をされることから、僕はよっぽど酷い顔をしているのだろう。 

「ハハ、ごめんね。血の匂いと死体を見ちゃって、格好悪い所を見せちゃって、えっとごめん吐いた臭いとかしない?」

 いや、もう美少女エルフの前で吐いてしまったなんて恥ずかしく死にたいよ。 コクンと頷くイスカを見ると、無理をさせているのではと僕は更に情けない気持ちになった。 

「よし、じゃあ外すね」

僕はイスカの足元にしゃがみ込むと、鍵束から鍵を選ぶと、イスカのほっそりとした足を縛り付ける鍵穴に鍵を入れてみる。

 「──開いた!」 

3つ目の鍵が当たりだったらしく、カチリという音がすると鍵は回り足枷は僕の両手に支えられながら2つに分かれた。 

「ありがとうございます。でも、ベイルベアーを一人で倒す実力があるのに死体に慣れていないし、さっきはよく分からない仕草を死体にされていたし、ユズキさん⋯⋯貴方って本当に何者なのですか?」

 足枷が外れた今、イスカは自由だ。 それでもなお、彼女が逃げずに僕に向かって話しかけてくるということは、イスカにとって好奇心が僕に対する警戒心を上回ったのだろう。 

「僕が突拍子もないことを言っても、イスカは聞いてくれる?」 コクコクコク 小さく頷くイスカの仕草は、その一つ一つが可愛らしい。 彼女に対して、今を乗り切るための嘘はつきたくない。 僕はイスカの眼をしっかりと見る。 「僕が他の世界から来たって言ったら、イスカは信じる?」

 異世界もののお約束的な、はぐらかす、「遠いところから来た」っていうやつ。 
上手く立ち回れるような主人公なら、それでもいいのだろうけど、残念なことに僕はそんなに器用じゃない。 

噓なしの真っ向勝負ってやつだ。
これで、頭が変なやつと思われれば引き下がるとしよう。 はたして、イスカという名のエルフさんは、ポカーンという言葉がぴったりに口を開けていた。 

そうなるよねー。 

僕がそう思っていると、次の瞬間イスカは眼に輝きを灯して続けるのだった。 

「何ですそれ!聞いたことないです。もっと詳しく教えてくれないですか!」 

おっと、少し距離が近いぞ? そう思った僕の頭に、少し機械的な女神セラ様と同じ女性の声が響いた。 

『友好度が上がりました。対象、イスカに対してスキル『レベル譲渡』が可能になりました』 

こうして僕は、イスカという少女と少しだけ距離が縮めることができたようだった。
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