うっかり女神さまからもらった『レベル9999』は使い切れないので、『譲渡』スキルで仲間を強化して最強パーティーを作ることにしました

akairo

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第2章 交易都市トナミカ

魔大陸も色々大変なようです

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 僕を『勇者』と思い暗殺しに来た。
 小さくクシャミをして、鼻をすするリズと名乗った魔王。

「うん、人違いだね」
「ユズキさんは、勇者に会ったことはないですよ」
「ん。だからユズキはてんせーしゃ」

 三者三様に言うものだから、当然リズは困り顔だ。

「貴方たち!話すなら一人ずつ!!」

 バスタオルを押さえ、半ば涙目になったリズが手を振り上げて怒る。

「あの、一度服を着させてくれない?」

 リズのクシャミじゃないけど、僕も相当に寒い。
 そんな、僕の顔を見たイスカとフーシェは、忘れていたという風に顔を見合わせるのだった。



「──って、なんで私まで作務衣なのよ!!」

 リズの突っ込みに、僕は困ってしまう。

「だって、リズだっけ?さっきのドタバタで君が着ていた服はビシャビシャになってるよ」

「ん。脱衣所に置かずに、浴室までもっていくなんて馬鹿」

 そう、先ほど浴槽から僕とリズが転がり出たため、お湯は飛散してリズの服をかなり濡らしていた。

「だ、だってユズキを殺したら、そのまま逃げるつもりだったから。私の認識阻害の魔法は、服までかけると精度が落ちるし……何より服のまま浴槽に入るのが嫌だったのよ!」

 うん。分かるよ。僕も溺れた時の対処要領とかいって学生の頃に、服を着たままプールに入れさせられたことがあるけど、あの服が肌にぴったりとつく感じ。実に不快だもんね。

「でも、リズの作務衣姿。似合ってるよ」

 そう、なんだかんだ言いつつ、作務衣姿が似合っているのだから可愛らしい。イスカより髪の長いリズが濡れた髪を慎ましく上げていると、本当にこの宿の従業員さんのようだ。

「そ、そう?ユズキが言うなら。わ、悪い気はしないわ」

 うーん、何だかやけに僕の言動を気にしているけど、何となく嫌な予感がする。

『そろそろリズの友好度上昇の事前アナウンス、しておきますか?』

 セラ様AI、貴方絶対思考が自律しているでしょう。

 うん、何となくリズの態度から分かっていたけどね。でも、一体僕のどこに気に入るところがあったのだろう。だって、初対面に首を刈られかけたわけだし。
 そんな僕の思考を遮るように、眼前ではリズが両手を振り上げて僕を詰問する。

「じゃあ、ユズキ。貴方のその馬鹿みたいに巨大な力は何と説明するの!?『観測の魔王』である私は、北世界の事象なら、ほぼ全てが分かるの。約2ヶ月前、突如としてエラリア地方に強大な力の波動を感知したわ。ユズキ、貴方のことよ」

 これは驚いた。僕がイスカと出会った場所からここまで、直線距離にしても200キロほどは離れている。正確な距離は分からないが、リズがいる魔大陸との距離を考えると、彼女は途方もない距離を索敵できるということになる。

「翌日、その波動がエラリアに飛翔する強力な波動と接触すると、突然飛翔していた波動が消えたわ。ユズキ、何をしたの?」

「え、ワイバーンの群れを倒したけど」
「あと、亜種ですね」

 僕とイスカの答えに、リズはこめかみを引きつらせる。

「それなら、その約10日後にローム大洞窟の深層に眠る力の波動とユズキが接触したら、2つの大洞窟にあった巨大な波動が消えたわ。今度は何をしたの?」

「えーと、クリスタルゴーレムとアースドラゴンを倒した?

 あぁ、リズはついに顔を片手で覆ってしまった。

「じゃあ、一瞬だけどあの時、いきなり巨大な力の波動を感知したわ。あれは何だったの?」

 あれ?あぁ、あれか。

「ん。それはフーシェの大人モード発動」

 ブイブイとピースをするフーシェに、リズは信じられない物でも見たような目つきになる。

「嘘でしょ?あの時の波動⋯⋯アースドラゴンとタメ張ってたわよ。そして、──なんというかそこのエルフクォーター」

「はい!?私?私はしがない、クルトス出身のエルフですけど⋯⋯」

 リズは、まじまじとイスカの顔を覗き込む。そして、その後深くため息をついた。

「ユズキの化け物のような波動で分からなかったけど、何この子?可能性の塊みたいな波動を感じるのだけど?」

 え?

 僕とイスカは思わず顔を見合わせる。
 特に、イスカは身に覚えがないといった風にブンブンと「私知りません」と手を振った。
 僕だって知らない。だって、クルトスで出会った時のイスカのレベルは3。今でこそ『レベル譲渡』を加えてレベル39だけど、今になって何か覚醒する力でもあるのだろうか?

「まぁいいわ、とにかくよ。ユズキがそんなでたらめな強さを持っているということは、天啓を受けた人物としか考えられないのよ!それも『勇者』として神にでも選ばれない限りね」

「うーん。神様に選ばれたのは本当だけど、僕は勇者じゃないよ」

 何と説明すればいいのやら。
 しかし、リズとしても僕が余りにも張り合いのない回答をするものだから、毒気を抜かれてしまったようだ。

「じゃあ、ユズキ。貴方は何なのよ」

 青い瞳が僕の瞳を覗き込む。
 まるで、僕に「言え」と命令しているように。
 しかし、僕の脳内にセラ様AIの警告が流れるより前に、リズはお手上げといった風に両手をあげた。

「あーあ、もうやってらんないわ。『真実の瞳』を使っても、うんともすんとも言わなさそう」

 そりゃあ、抵抗値もカンストしているのだから、魔王1人くらいのスキルは跳ね返してほしいものだ。

「えっと、手違いでこの世界に転生した異世界人。レベルは9999」

 さて、どう出るか。
 あ、うん。その顔は分かりますよ。でも、イスカのように純粋に信じてくれてもいいんじゃないかな。

 果たして、リズは自分の頭がおかしくなっていないか確かめるようにこう言うのだ。

「この世界って、最高レベル99。私は何も間違っていないわよね」

 あぁ、またこの質問に回答するのか。一日にローガンに話して今度はリズだ。そろそろゲームで言うところのスキップボタンが欲しいところだ。
 勿論そんなに都合の良い物はない。

 うん、とりあえず寝よう。

「分かった、朝になったらいくらでも質問に答えるからさ、とりあえず寝よう。リズもここに泊まっていっていいから。あ、でも殺そうとするのは止めてね」

「え!じゃあ、リズさんはどこに寝てもらうのですか!?」

 うーん、どうしたものか。
 仮にも魔王、しかも魔大陸を一つ任されているという人物をまさかソファーに寝かせるわけにもいかない。かといって、いきなり僕を暗殺しに来た人物とイスカ達が同室というのも避けたいところだ。

「そう言えば、どうやって魔大陸からここに来たの?」

 僕の質問に、躊躇うかと思ったがリズは素直にその方法を教えてくれた。

「長距離転移魔法よ。この町には予め転移の魔法陣を隠していたの。あと、この宿はさすがに警備が強くて普通に外部からの飛翔や転移では入れないわ。認識阻害の魔法で正面から入ってきたのよ」

 おぉ、転移と聞くといかにも魔法という感じだ。
 僕たちが3日間、固い馬車のベンチに腰をかけてきたことを思うと、一瞬で移動できることはどれほど楽なことか。正直羨ましい。

「何だ、じゃあ魔大陸に帰ろうと思えば帰れるの?魔力が足りないとかなら、僕が分けてあげることもできるよ」

「ん。やっぱり自宅が一番」

 フーシェも同意するように頷く。
 しかし、肝心のリズは力なく首を横に振った。

「⋯⋯できないのよ」

「えっ?」

 その小さな声に、僕は思わず聞き返してしまう。
 見れば、リズの肩は揺れていた。
 次の瞬間──

「だから、できないって言っているのよ!!だって、ユズキが転移に使う触媒の私の鎌を真っ二つにしたんですもの!」

 そう言うと、リズは本当に声をあげて泣き出してしまった。
 ──これが、魔王?
 余りの幼さに、統治されているレーベンのことが少し心配になってくる。

「あーあ。ユズキ、泣かした」

 僕が鎌を壊したのは確かだけど、殺されかけた上での正当防衛を、女の子を泣かした犯人扱いされるのであれば、泣きたいのは僕だ。

「僕は、どっちかと言うと被害者だよ」

 何と声をかけてよいかも分からず、僕はひとしきり泣いてリズが落ち着くまで声をかけることができなかった。

 ズズッ

 鼻をすするリズにイスカがティッシュを差し出す。

「すんっ──ありがと、貴方いい子ね」

 目と鼻を押さえたリズが涙をこらえながら、心配そうな顔で覗き込んでいるイスカに礼を述べた。
 うーん。悪い人ではないようだけど。

 僕が口を開く前に、イスカが口を開いた。

「ユズキさん、リズさん泊めてあげましょう?」

 そう、そこはいいのだけど問題はどう寝てもらうかなんだよ。
 僕が頭を悩ませると、フーシェが問題ないという風に右手でブイサインを作った。

「大丈夫、さっき給仕魂に火がついた時に色々探していて襖を開いたら、予備の布団があった。これで問題解決」

 あ!こんなに広い部屋なのに何故僕は、敷かれている布団で全てと思ってしまったのだろうか。

「偉い!フーシェ!」

 僕が喜ぶと、フーシェも嬉しそうだ。

 ふと、横を見るとそこには視線を下げてうなだれるリズの姿があった。

「えっと、魔王さま?」

 今更だけど、僕はレーベンを統治するリズに対して言葉を改める。
 しかし、リズは小さく「リズでいいわ」と答え、その顔を上げた。
 その瞳には、焦りと不安が入り混じり、僅かに青い光が揺れ動いている。
 今にも再び泣きそうな顔のリズは、僕に嘆願するように口を開いた。

「ユズキ、殺そうとしたことは謝るわ。貴方が『勇者』でないというのならば、お願い。私と一緒にレーベンを守ってほしいの!」

 どうやら、僕は魔王に助力を求められたようだ。
 その切なる願いに、話を聞く前から僕は不思議と、リズの頼みを引き受けることになるだろうと予感していた。
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