うっかり女神さまからもらった『レベル9999』は使い切れないので、『譲渡』スキルで仲間を強化して最強パーティーを作ることにしました

akairo

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第2章 交易都市トナミカ

クラーケン討伐を行うようです③

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「もう、無理ですぅ~」
「空から見ると人が豆粒みたい」

 イスカとフーシェを両腕に抱き抱えた僕は、海上に浮かぶ船を足場にして、レグナント号に向けて跳躍する。
 空を駆けると言えば聞こえはいいが、実際にはただ大きなジャンプを繰り返しているだけであるため格好がつかない。

「うわっ!」
「何だあれは?」
「危ねぇだろう!!」

 足場代わりにさせてもらう船から驚きと怒りの声があがるが、余り大きなジャンプをして目指す先の船が動いた場合、海の中に3人仲良く飛び込むこととなる。
 申し訳ないけど、近場の船を細かく飛び石のように繋いでいくしかないのだ。

「やっと、レグナント号に降りれそうだ」

 7隻目の船の甲板を跳躍した僕たちの眼下に、約100メートル級の大型帆船、レグナント号が現れる。

「───!!」

 甲板で船員たちが、空から降ってくる僕たちを指さして何かを叫んでいるが、その声は風にかき消されて届かない。

「あぶな──!!」

 かろうじて声が聞こえた時には、僕たちは衝撃と共にレグナント号に着地した。

「何だお前らは!!」

 事情を知らない船員達が手に持っている各々の武器で僕たちを取り囲んだ。
 完全な不法侵入だから、悪いのは僕たちなのだけれど、大柄な魔族の男たちに囲まれると、その迫力はなかなかのものだ。

「待ちな!!」

 鶴の一声のように艦首から聞き覚えのある声が降り注いだ。

「アイ・マム!」

 男たちが不動の姿勢を取り、声がかかった方向に一斉に向き直る。
 ビビの声だ。

「全く、あんたらを見ていると自分の常識がひっくり返りそうになる。乗船するときに空からくるやつがあるかい。おかげで、うちの若いもんがビビってるだろう」

 荒い鼻息を一つつくと、ビビは初めて会った時と同じ姿のまま降りてきた。深紅のマントを羽織る女船長は威風堂々たるいで立ちだが、心なしかその顔は浮かない。

「何だい、あんたたち手伝いに来てくれたのかい?」

 ビビの言葉にイスカが頷く。

「はい!私の遠距離からの攻撃は少しはお役に立てると思います!!」

「ん。50メートルくらいなら斬撃も飛ぶ。フーシェも役に立つ」

 フーシェも自信満々に頷いた。
 しかし、それでもビビの顔は浮かないままだ。

「どうしたんですか?」

「いや、加勢は有難いんだけどねぇ。ほら、あの魔族の女はここに来なかったのか?」

「ん。り──もがっ、もが!」

 リズと言いそうになるフーシェの口を僕は咄嗟に塞いだ。
 だから、『魔王』の名前を出すのは大問題だって、ギルドの屋上で言ったばかりなのに!

「何しているんだい?えっと、名前はり……」

「リスフィルです!」

 さすが、イスカ。
 予め、リズと決めていた偽名を簡単に答えてくれた。
 思わず冷や汗が流れたじゃないか。

「ん。そうだった……」

 そうだった、じゃないよ!!
 心の中でツッコミを入れたい所だが、ビビは気にしていないようなのが、これ幸いだ。

「そう!リスフィルはこれなかったのかい?あいつは、凄い魔法使いだろう。この船には魔法使いが1人しかいなくて困っていたんだよ」

 リズの言っていた通り、レグナント号には魔法使いが少ないという読みは当たっていた。
 ビビの立場からすれば、加勢は魔法使いであった方が有難かったはずだ。

「リスフィルは、戦場の把握のために動けません。だから僕たちが来たんです」

 嘘は言っていない。僕の視線をジッと見つめていたビビだったが、次の言葉は僕たちを気遣う言葉だった。

「あんたたち、危なくなったらすぐに逃げるんだよ。魔法使いのいない船はどうしても火力が弱い。第一次防衛ラインが突破されると、クラーケンが突破してこようとするのは、真っ先にこの船だろうね」

 なるほど、だからビビは先ほどから浮かない顔をしていたのか。第一次防衛ラインが突破されれば、一番狙われやすいのが自分の船だと自覚していたからだ。

 でも、こう見えて僕たちはアースドラゴンとも渡りあったのだ。そして、この船にはあの時とは違うことがもう一つある。
 そう、この船にはざっと見ただけでも100名程の乗組員がいるのだ。

「ビビ船長、僕たちだってこの船に魔法使いが少ないことを知った上で来たのです。僕のスキルを活用することで、何とかなるかもしれません。この『クラーケン撃退』の作戦を教えてくれませんか?」

 僕の真剣な眼を見てか、ビビは一つため息をつくと、作戦の概要について話し始めた。

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


『クラーケン撃退』の作戦の概要は以下の通りだった。

 ① 予め、クラーケンが嫌がる液体が入った樽を、クラーケンの進路上に配置し、近づいてきた所で破裂させる。

 ② 第一次防衛ラインで全力の艦砲射撃による威嚇及び攻撃を行う。

 ③ 第一次防衛ラインが突破された場合は、大型船に乗り込んでいる魔法使いにより、魔法による集中砲火を敢行する。

 ④ 第3次防衛ラインの船は、第2次防衛ラインが突破されそうな所へ支援にかけつけ、突破の阻止を行う。

 ちなみに、文献に記されているクラーケンの移動というのは、主に産卵の場所選定と言われているそうだった。
 その習性を利用し、いかにトナミカが子育てに適していない土地であるかを知らしめ、進路を変えさせることが本作戦の目的であるらしい。

「うまくいくと思います?」

 何となく嫌な感じがした僕が、恐る恐るビビに聞いてみる。
 僕たち3人は今、彼女の船長室に案内されていた。

「まぁ、期待薄だろうね。そもそも、その文献が300年前くらいの話だから、眉唾だよ。使われる樽爆弾は、確かに海に撒いたら一年は魚が寄り付かないと言われている代物だから、トナミカ側の本気度も分かってはいるんだけどね。ただ、そんなもので考えを改めてくれるやつなのかが問題なのさ」

「船長は⋯⋯見たたことは?」

 イスカの質問に、ビビは首を横に振る。

「ないない!船乗りの間には破ってはいけない掟があるんだよ!『エステントのブルーホールには近づくな』って、キーラ岩礁を遥か北東に位置する大穴だそうだが、レグナント号が2隻スッポリと入ってしまいそうな幅の穴は、かつてクラーケンが産卵場所を作るために掘った穴だと言われていてね。それが本当なら、前方の中型船なんて足の一本で沈むだろうよ」

 うーん、不安にしかならない。

「ビビ船長。この船の魔法使いは?」

 ビビは、苦笑いをしながら船長室のドアに向かって大声をあげる。

「ドグ!いるんだろう?中に入っておいで!」

 暫しの沈黙のあと、船長室の扉がガチャリと開かれた。

「時間がないんだよ!早く入ってきな!」

 ビビの一喝に、戦々恐々といった様子で一人の小柄な魔族が船長室へと入ってきた。
青黒い肌に頭頂部には1本の小さい角、背は少し曲がっており、歳は相応に老けているようだ。その背丈はフーシェと変わらず大鬼族オーガ族と比べて遥かに小さい。どこか卑屈そうな笑みを浮かべた男は、頭髪の少なくなった髪に手をやりながら近づいてきた。

「ヒ、ヒヒッ。これはめんこい娘たちだ。ワシは今日死んでも悔いはないわ、ヒヒッ」

 イメージ的にはゴブリンメイジのようだが、どのような種族なのだろう?

「その気色の悪い笑いを止めな!耳に残るんだよっ!!」

 ビビがドグを睨みつけると、ドグは蛇に睨みつけられたカエルのように目を丸くすると押し黙ってしまった。

「まぁ、こんな奴だけど、一応こいつがレグナント号が抱える唯一の魔法使いだ。レベルは19、人族の中ではそれなりに高いレベルだろうけど、この海に出たならまぁ、『魔法使いがいる』といった、お守り替わりといったところだね。魚人族フィッシャーマンに襲われた時には、少しは役だったが、あんな数で来られちゃおしまいさ」

 腰を屈めて、近づいてくるドグは身なりからして薄汚い。
 イスカとフーシェが思わず顔を背けそうになる、雨ざらしの雑巾のような不潔な香りが漂ってきた。
 あ、フーシェは既に鼻をつまんでいるか。

「えっと、得意な魔法は?」

 僕の言葉に、ドグはニヤリと笑う。

「ヒ、ヒヒッ、旦那。ワシの得意な魔法は氷結魔法じゃ、あまりおらん。珍しいんじゃぞ、ヒッ」

「あぁ、魚人族フィッシャーマンを2匹を氷漬けにしたのはよくやったよ。まぁ、それで店じまいだったけどね」

 ビビの冷えた声に、ドグはまたも「ヒッ」と耳につく笑いを一つすると、フラフラと船長室から出て行ってしまった。

「あんなのでも、海に出てくれるだけましさ。もともと魔族は人族嫌いだからね。危険な海を渡ってわざわざ人族の所に行こうとする奴は少ないんだよ。まぁ、前の船長……私の親父が船長だった時からの乗組員だから、邪険にもできなくてね」

 片手で、ビビは顔を覆うとため息をついた。

「何で、ドグはこの船に乗るのですか?」

「聞きたいかい?」

 苦笑いをするビビを見て僕は首を横に振った。

「──いいです」

 何となくだが、イスカやフーシェには聞かせたくない内容である気がしたからだ。
 ビビは、「賢明だね」とだけ言うと席を立った。

「さて、こんな船だけど。それでも、あんた達はこのレグナント号を助けてくれるって言うのかい?」

 身長3メートル程のビビが見下ろすと、その威圧感は凄まじい。だけど、この船を助けたいという気持ちに嘘はないし、リズをレーベンに返すにはビビの協力が不可欠だ。

「できる限りお手伝いをしますよ。ですが、生きて帰った場合は、僕たちをレーベンに連れて行ってくれること。お願いしますね」

 僕もソファから立ち上がると、ビビを見上げる。
 暫し視線が交差したが、やがてビビの方から大きな手が差し出された。

「フッ、私を助けるなんて言った奴は、実はアンタが初めてだよ。よし、気に入った!生き残った時は、約束通りこの船であんた達パーティーをレーベンに連れて行ってあげるよ!!」

 僕がビビの手を握ると、握手にグッと力が込められる。
 クラーケン到着まで、あと3時間を切ろうとしていた。

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