うっかり女神さまからもらった『レベル9999』は使い切れないので、『譲渡』スキルで仲間を強化して最強パーティーを作ることにしました

akairo

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第2章 交易都市トナミカ

クラーケン討伐を行うようです12

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荒れ狂う波にレグナント号が揺れる。
僕達は、船から落ちないように必死に綱にしがみついた。

「ユズキさん!」
「危険」

 吹き飛びそうな風に抗い、僕は右手で綱を、左手でイスカの手を握る。そのイスカはもう片方の手でリズの手を握りしめていた。

 フーシェは大人の姿のままでアースブレイカーを甲板に突き立てて、風に耐え抜いている。

「アンタ達!落ちるんじゃないよ!」

 暴風を切り裂いて、見張り台のビビが叫ぶ。

「アイ!マム!」

 屈強な男達が一斉に甲板から声を揃えた。

 立ち昇る雲は海面の油や瓦礫を巻き上げ、鈍い灰色に染まっていた。
 焦げ臭い香りは、クラーケンの身体が焼かれた臭いだろうか。
 最早石障壁ストーンウォールは水蒸気爆発の威力によって四散していた。
 崩れ落ちるように海面に突き出した岩片には、クラーケンの体液と足がこびりつくように貼り付いている。

「か、⋯⋯勝った?」

 隣のイスカが風によって乱れた髪を直すと呟いた。
 水蒸気爆発の余波で、大型船のレグナント号でさえ転覆しそうな程だ。
 中型船以下の船が、なんとか荒れ狂う波の中耐え抜いているのは、クラーケンがレグナント号を狙っていたため、爆発の中心から離れていたためだろう。

 ──終わった。

 爆発が収束した地で、クラーケンが最後の力を振り絞り上体を起こす。
 しかし、頭部はほぼ崩壊しており、原型はとどめていない。

 ──オオンッ

 空に響く声は、嘆きのようにも聞こえた。
 しかし、その上体もゆっくりと海面へと沈んでいく。

 最後の時だ。
 僕たちは船に掴まりながら、クラーケンの巨体がゆっくりと海面へ没していく姿を見送った。
 甲板にいる乗組員たちも、必死に船のバランスを整えようと帆を張っているが、視線は皆遠のいてゆく巨体を追っていた。

 勝鬨はなかった。
 クラーケンは『災害』のようなものと表現されていた。
 その、『災害』に打ち勝った後に残ったのは、激闘の後の静けさだけだった。
 最後の足が力なく岸壁を離れ海中へと沈んでいく。

「何だか、少し悲しいです」

「⋯⋯」

 イスカは無数に海面に浮かぶクラーケンベビー達と、海面に没したクラーケンを見て呟いた。

「本当に偶然なのかな⋯⋯」

 少しずつ波の力が収まり、綱を握らずとも立てるようになった甲板の上で、気が付けば僕はその言葉を呟いていた。
 300年もの前のクラーケンの活動、その活動がたまたま今日起こるということはあるのだろうか?
 勿論、単なる偶然である確率だってある。
 しかし、このタイミングでクラーケンがトナミカにやってきた理由が産卵場所の確保というのであれば、府に落ちないことがあった。
 そう、クラーケンはベビー達を連れていた。
 つまり、産卵後に住処を離れたことになる。
 彼らの成長速度は分からないが、あえて住み慣れた住処を離れて、敵性種族である人族達がいるここトナミカに来るものだろうか──
 考えていても仕方がない。
 しかし、人為的な力が働いているようにも感じてしまうのだった。

「ユズキっ!!」

 イスカと共にリズが現れる。

「そうだ、何でギルドの上にいたはずのリスフィルがここにいるの?」

 タイミングはバッチリの救援ではあったが、ここまでは陸からは数キロは離れている。
 とてもではないが跳躍で届く距離ではない。
 僕の不思議そうな表情を察したのか、リズがニヤリと笑う。

「その前に、助けてもらったんだから言うことがあるんじゃない?」

 スッと近寄ってくるリズに僕は少し狼狽える。
 磯の匂いにまみれてしまった僕とは違い、リズが近づくとフワッと甘い香りが広がった。

「助けてくれてありがとう。でも、どうして──」

「ふふっ、今回は私の勝ちってことかしらね。最初会ったときは全く相手にならなかったのですもの。ユズキに魔法をかけても効果はないと思って、予めユズキの服に転移用の魔法陣を組み込んでいたのよ」

 いつの間に?
 確かに、リズが近づいて話をする機会はあったが、特に不審な動きはなかったように思えた。

「これでも『魔王』ですからね。それに、触媒なしにはレーベンまでは無理でも数キロくらいの転移ならできるのよ」

 さすがに、『魔王』というワードの時には声を潜めたが、リズは誇らしげに笑うと胸を張った。

「ん。フーシェも限界みたい」

 近づいてくるフーシェの声に振り返ると、そこにはいつも通りの姿に戻ったフーシェの小柄な姿があった。

「大人モードになれたのに残念。あの姿なら合法的にユズキにくっつけるのに」

 いや、あの姿は僕の精神衛生上よくないので、少しホッとしているのだけれど⋯⋯

 それにしても、フーシェの先ほどの姿は何だったのだろうか?
 アースドラゴンで見せた姿とはまるで異なっている姿は、まるで人族の英雄のようだ。

「──フーシェ、貴方もしかして『進化』したの?」

 リズが、フーシェの姿を頭からつま先までじっと眺めると、指で顎を押さえながら尋ねた。

「ん?『限定覚醒』という言葉が頭に浮かんだからやってみた。ユズキからレベルを譲渡されたからかも」

「リスフィルは、フーシェの姿の変化の理由が分かるの?」

 僕の言葉にリズが頷く。しかし、その顔は少し腑に落ちないところがあるようだった。

「いや、まさか実際に『覚醒』をするところを見たのは初めてよ。──そして、『進化』じゃないのね。これは興味深いわ」

 そう言うと、リズはフーシェのカチューシャに隠れた中に、小ぶりな1対の角があることを確認するとため息をついた。

「簡単に言うと、人族が限界を打ち破った時に起こす現象を『覚醒』、そして魔族が種として一つ上の段階へ至ることを『進化』と呼んでいるわ。でも、実際にそれらを見ることは稀なことよ。私のお父様ぐらいしか『進化』を成し遂げた魔族は周りにいないわ」

「僕はアースドラゴンと戦った時に、フーシェのもう一つの姿を見たんだ。その時は、今とは全く異なる戦い方で、角はすごく強調されていた。──あれが、『進化』ということなのかな?」

 僕の言葉に、リズは考えをまとめるように腕を組んだ。

「確かに、あの時私が感じた波動が『進化』であるならば、アースドラゴンと双璧を成していたことの説明がつくわ。だけど、一度『進化』した存在が元の姿に戻るなんて聞いたことがないから、驚いているところよ」

「ん。よく分からないけど、フーシェは凄いの?」

 小首を傾げるフーシェに、リズは困ったように首を振った。

「凄いというか、見たことのない現象だから確証はないわ。ただ、推測できることは、まだフーシェは『進化』も『覚醒』のどちらにもなれる可能性をもった不安定な状態と言えることは確かね。魔族と人族のハーフであるが故の現象かもしれないけど、普通は血が薄まれば純血性が薄れて弱くなることが多いのにね」

 僕のレベル譲渡の力のせいなのか?
 フーシェ自身が会得した経験値ではない力が働いたために、『進化』ではなく『覚醒』の力が働いたのだろうか?

 分からないことが多かったが、まずはフーシェやイスカの無事を喜ぼう。

「ありがとう、フーシェお陰で助かったよ」

 僕の言葉にフーシェの顔が少し嬉しそうに上気する。

「イスカも、クラーケンの動きを捉えてくれてありがとう。危うく船が攻撃されるところだったよ。本当にみんなが無事でよかった」

 ホッと安堵の吐息が出てしまう。
 イスカもフーシェも海上での激闘のためか、髪はボサボサになり水に濡れた髪はピタリと肌に張り付いている。

「アンタ達!大活躍のところ悪いけど、余力があるなら海に落ちたやつを助けるよ!」

 マストの見張り台から滑り落ちるように降りてきた、レグナント号の船長であるビビが大声を上げた。
 その言葉に海面に目をやると、僕たちは大波がまだ渦巻く海上で必死に瓦礫にしがみついている他船の乗組員や冒険者の姿が見えた。

「助けましょう、ユズキさん」
「ん。姿は戻ったけど人助けはできる」
「私も、治療魔法は使えるわよ」

 3人が一斉に僕の顔を見つめてくる。
 その頼もしい顔を見た僕は大きく頷いた。

「よし、僕たちも助けにいこう」

 僕の号令に皆が動き出す。
 その後、僕たちの救難者の救助活動は狭い範囲ながらも半日を要するのだった。
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