うっかり女神さまからもらった『レベル9999』は使い切れないので、『譲渡』スキルで仲間を強化して最強パーティーを作ることにしました

akairo

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第2章 交易都市トナミカ

クラーケン討伐を行うようです11

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これまで僕がかけた能力値譲渡は、火魔法が4人土魔法が3人だ。
正直なところを言えば、土魔法がもう一人欲しいところだ。

四方を土魔法で『石障壁ストーンウォール』を発動させるためには、あと一人土魔法の使い手が必要だったが、船上に光球ライトボールを掲げてくれた船はもはやなかった。
これならば、三方を囲んで土魔法を使うしかない。

『最初に能力値譲渡をかけた人物への、残り効果時間2分』

時間がなかった。
既に、僕がドグにかけた能力値譲渡の時間はオーバーしてしまっていた。

戻ろう。

僕は、最後の魔法使いに能力値譲渡をかけた船から、レグナント号に向かって跳躍した。

ベビー達による攻撃は多少続いてはいるが、先程まで山のようなクラーケンが手当り次第に船を襲っていたことを考えると、海は恐ろしい程に静まり返っていた。

──ダンッ!

レグナント号の甲板に着地すると、すぐにイスカや乗組員が駆け寄ってくる。
しかしイスカの顔は青白く、僕が到着するなり、いきなり胸元に飛び込んで来てしまった。

「ユズキさん!追尾矢ホーミングアローーで、クラーケンの気配を探っていたのですが、どうやらレグナント号の真下に潜んでいるみたいなんです!」

「なんだって!?」

最悪の事態だ。
今の状態ならば、合図のための追尾矢ホーミングアローを撃った場合、レグナント号諸共に攻撃を仕掛けるしかなくなってしまう。

「かーっ!だから、ワシは逃げるんじゃ!」

遠くで喚き散らす声が聞こえてくる。
能力値譲渡の時間が終わり、残念な感じに戻ってしまったドグの声だ。
しかし、今は時間を費やしている暇はなかった。

「レグナント号を動かす。イスカ!2回目の能力値譲渡だ!船尾に範囲を狭めて『物理障壁』展開。ビビ船長!聞こえますか!帆を張ってください!風魔法でクラーケンの射程から逃れます!」

「ここまできたんだ信じるよ!アンタ達!最後の一踏ん張りだ!帆を進行方向に張りな!」

ビビの言葉に弾かれたように男達が綱に飛びついた。

「そんな!風魔法だと攻撃になります!」

イスカの言葉に僕は首を振る。

「攻撃じゃないよ!僕達が出会った時、イスカは風魔法で火を起こしていた。僕のスキルによって強化された生活魔法を帆にぶつけるんだ!いくよ『能力値譲渡アサイメント』!」

僕の意図を理解してくれたのか、イスカは『能力値譲渡』の青白い光を受けると、即座に船尾に『物理障壁』を展開する。

「よし!」

僕はレグナント号の船尾から飛び降りると、イスカによって垂直に張られた『物理障壁』を壁にして、渾身の力を込めてレグナント号を押した。
期せずして、レグナント号を抱えて逃げるとビビに言った言葉が現実となった形だ。

ほぼ同時にマストに張られた帆に向かって、イスカが風魔法をぶつける。
風の力と僕の腕の力で100メートルに達するレグナント号は、その巨体からは想像できない速さで飛び出すように前方へと飛び出した。

──!

海中からの気配を感じ、慌てて僕は『物理障壁』を足場にしてレグナント号に向かって、跳躍する。

──ギュオンッ!!

僕がレグナント号の甲板に着地する直前、先程まで船があった場所を目掛けて、クラーケンの水柱が上がる。

間一髪!

船にまで届く衝撃波に僕は、直撃を免れたことに安堵する。

「イスカ!『追尾矢ホーミングアロー』を!ビビ船長!石障壁ストーンウォールは3枚しか張れない!」

僕の言葉を聞いて、渾身の追尾矢ホーミングアローが天空に向かって打ち上げられた。
その光を見据えたビビが、未だ止まないクラーケンの水柱に掻き消されない程の声量で叫んだ。

「手筈通りだ!あの矢が落ちた所に『石障壁ストーンウォール』をぶち込め!クラーケンを三方で囲むんだ!」

最早、魔法使い達がクラーケンをうまく囲んでくれるかは運任せだ。何しろ、場所を示すだけでクラーケンを囲む算段など話す余裕がなかったためだ。

──ゴゴゴンッ!!

突如海中から石の壁が出現した。

──!!

船尾からその様子を、僕は乗組員達と固唾を飲んで見守る。

──ゴゴゴンッ!!

僕の心配をよそに2枚目の石壁が出現する。
その形はなんとかクラーケンを閉じ込めるように配置されていた。
その石壁にはせり上がる途中で巻き込んだのか、クラーケンの足が絡みついていた。

──ゴゴゴンッ!!

3枚目が海中からせり上がってくる。
2枚目の角度があまり良くなかったせいか、少し辺の長さが長くなっているが、これならクラーケンを蛸壺のように閉じ込めることができるだろう。

あとは、クラーケンをなるべく海面へと引き上げるだけだ。

そう思った瞬間、僕はその手段が失われてしまったことに気付いた。
そう、本来ならばドグの氷結魔法によって海中から引きずり出すことを目論んでいたのだ。しかし、肝心のドグは能力値譲渡の有効時間を使い切ってしまい、魔法攻撃力も冷静さも失われてしまっている。
仮に魔法を発動できたとして、ドグのレベルの威力ではクラーケンを海中まで上げることはできない。

このまま、火魔法を撃つか?

しかし、クラーケンが海中深くに沈み込んでいたならば、水蒸気爆発による攻撃も効果は少ないだろう。

僕が引き上げるか?

海中よりせり出した『石障壁ストーンウォール』に絡みつく、クラーケンの足を見つめて考える。
しかし、その足を自切でもされて逃げられてしまえば、今までの努力が水泡に帰してしまうこととなる。
まだ余力はあるが、10人以上に能力値譲渡と魔力を譲渡してきた分、身体にかかっている負担は大きかった。

クラーケンが『石障壁ストーンウォール』を圧迫するように足で締め上げる。
万力のような力に障壁が悲鳴をあげ、細かな亀裂が走った

「壊されるよ!何とかしな!」

見張り台からビビの声が飛んできた。

火魔法を撃ちこむしかないのか?

焦りによって、僕が口を開こうとした瞬間。
甘い香りと共に僕の両肩は何者かによって支えられる形になった。

「──お待たせ、私を忘れてるわよ」

その声には聞き覚えがあった。
そう、振り返る前にも分かる。声の主はリズだった。

「リズ!」

驚きに思わず、僕は偽名のリスフィルという名ではなく、レーベンを統治する魔王の本名を口に出してしまった。

「驚かない、私にすぐに『譲渡アサイメント』をかけて!」

切迫する声と、悲鳴をあげて今にも崩れそうな岩の壁が、僕に何故ここにリズが?という疑問を口に出す暇を与えてくれない。

「『譲渡アサイメント』!!」

言われるがままに僕は、『レベル譲渡』『能力値譲渡』『魔力譲渡』の3つを重ねがけして、リズに撃ち込む。

『対象、リズ=フォルティナ・ヴァレンタインへの譲渡可能レベル20!』

セラ様AIの声が脳内に響き渡る。
20レベル分のレベルは白色の球体となり、その中には能力値譲渡の青い光が込められている。
光がリズを貫くと、リズはその強大な力に思わず身体を両手で抱えるようにかがみこんでしまった。

「キャッ!もう!レディーはもう少し優しく扱わないと!!こんなのを入れられたら魔力酔いしちゃうわよ!」

リズはそう言うと、少し顔を赤らめながらもすぐに上体を起こした。

「あのクラーケンを引きずり上げるのよね?任せて!!」

──!!

瞬時にしてリズの両手に術式が展開される。

「早いです!!」

イスカが感嘆の声をあげた。
リズの左手には氷結魔法と同じ青白い光、右手には土色をした術式が展開される。

「『二重詠唱ダブルハウリング』!」

リズが両手を組み合わせると、それぞれの術式がリズの目の前で組みあがる。それは、複雑な幾何学的な紋様へと変わり、瞬時にクラーケンが奥底に潜む海面へと打ち出された。

「展開せよ!氷砂魔法『永久凍土の槍』!」

殲滅魔法級の術式が一瞬にして海面に浮かび上がる。

──キイインッ

凍り付くような音が響いたと思った次の瞬間、いきなり海面が噴火するように盛り上がった。

ズンッ!!

そこには土と氷が混ざり合った絶対零度の槍が無数に海面を突き破りながら顕現した。

──ギュオオオオンンッ!!

その槍は、海中のクラーケンの身体を食いちぎってきたのか、槍の先には無数の肉片がこびりついていた。

悲壮なクラーケンの叫びが海面を震わせる。

「今よ!」

リズの合図に、僕はビビへと顔を上げる。

「今です!」

「今だ!!火魔法を撃て!!」

僕の声を聞いたビビが魔法使い達に、全身全霊を込めて呼びかけた。

ギュンッ!

今度は海上に真っ赤に燃え上がる術式が4重に展開された。

「イスカも!」

イスカに対し『魔力譲渡』を実施する。

「はい!いきます!!」

イスカも少し遅れて、5重目となる術式を展開した。

イスカの術式が空中に加わると、突如その術式が変化した。溶け合うように5つの術式が混ざり合うと、赤く燃えた術式は金色の光へと変わり、その術式の中からは燃え上がるような光を放つ小さな太陽が出現した。

「いっけぇぇ!」

イスカが拳を振り下ろす。
その動きに連動するかのように小さな太陽は海面へと落下した。

──ジリッ

海面の蒸発するような音。
その瞬間と共に、『石障壁ストーンウォール』の隙間から差し込んだ閃光が僕の目を貫いた。
思わず光に目を覆った僕は、次の瞬間には耳をつんざくような大音量と共に、荒れ狂う衝撃の波によりレグナント号の甲板に打ち付けられた。

想像していた水蒸気爆発は、暴力的な破壊の力を周囲へと吐き出した。
その力はまさしく、クラーケンを死に追いやるに相応しい威力を有しているのだった。
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