うっかり女神さまからもらった『レベル9999』は使い切れないので、『譲渡』スキルで仲間を強化して最強パーティーを作ることにしました

akairo

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第5章 戦争

開戦 2

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 新しいスキル、『女神の調律』を使った瞬間に直感する。
 これが、私の。いや、『譲渡士』としての最強のスキルであると。私は確信と共に光の譜面に走らせる。
指が音を紡ぎ出す。

 刻一刻と変化する譜面は、定められたものがない。
 絶えず変化する譜面は、戦場となったトナミカの味方の兵や冒険者の力の趨勢が反映されている。

 私は、譜面の中から最適と思われる光を選んで音を繰り出していく。
 私の指に触れた音階は、まるで蛍火の様に飛び立つと味方の元へと降り注ぐ。

「ここは⋯⋯こうっ!」

 アレンジを決めているわけではないが、仲間が押されているところには多くの音を届け、勢いがある部分には軽やかな音を繰り出していく。

「身体が軽いぞ!」
「いけるぞ!グリドールを海へ叩き出してやれ!」

 今までの魔力や体力、レベルの『譲渡』が力任せなものだとすれば、この『女神の調律』は仲間を優勢にするべく、必要な力を適切な配分で振り分けることができた。

 だから、私の身体にかかる負担も普段の『譲渡』とは格段に少ない。
 しかも、『譲渡』された力が不要になった場合、光は私の元へと戻ってくるのだ。

 まるで、循環するような一連のサイクルの中でトナミカ側がグリドールを押している。

「クソッ!この船はグリドールでも精鋭が乗っているんだぞ!何故押される!」

 グラハムが船の周辺で戦う味方の劣勢を見て叫んだ。
 私のスキルの恩恵を受けたトナミカ側は、活き活きと躍動し、グリドールの兵士を倒したり、海へと叩き落としている。

「おい、グスタフ、ヤン!お前らも加勢しろ!」

 その人名に私は聞き覚えがあった。
 確か、レーベンの森でジェイクと会った大柄な男がグスタフ。そのグスタフが話していた人物の名前がヤンだったはずだ。

 ──勇者の仲間!

 グスタフとは面と向かって戦ってはいないが、S級パーティーの一員であることから、その能力は一般兵とは比べ物にならないだろう。

「──ッ!」

最適化オプティマイズ』が働き、イスカとフーシェに譲渡されていたレベルが大幅に引き下げられた。

 代わりに、適切なレベルと能力値が譲渡されるように、譜面が組み上がる。
 大幅なレベル譲渡の見直しに、少し動揺したが、私はセラ様を通して産み出された、このスキルを信じることを決めた。

 光が循環し、新たに配分されたレベルと能力値が二人へと『譲渡』された。
 この配分では、レベル80以上で使用可能な『限定覚醒』や『限定進化』は使えない。

「イスカ!フーシェ!『覚醒』と『進化』は使えないよ!」

 私は、前線に出るフーシェと支援をしていたイスカに叫んだ。

「ん。今の強化で方向性が分かった。あの、大男の方に向かう」
「私も、大丈夫です!私はあっちの男性を対処します!」

 光を受け取った二人は、私が細かいことを話さずとも対処すべき相手を理解したのか、一直線に船へと向かった。

「クソッ!レーベンにいた少女か!?」

 一直線に船と向かうフーシェを見たグスタフが背中に背負った大盾を構える。

「身体が思い通りに動く⋯⋯。覚醒しなくても、どう動けばいいかが分かる」

 フーシェは軽やかに助走し、港に積み上げられた荷台を踏み台にすると、猫の様なしなやかな動きで船上へと降り立った。

「フーシェは早いなぁ、私も負けてられません!」

 イスカは右手で短剣を構えると、流れる様に前方から迫るグリドール兵の一撃をいなすと、その脇腹に蹴りを入れた。
 敵味方が入り乱れ、混み合った桟橋の上を進むことが困難だとイスカは理解すると、左手に魔素を集めると、海上に向かって魔法陣を描いた。

「『風障壁ウインドウォール』」

 組み上がった魔法陣が、ステップを作るように船上へと伸びる。
 イスカが魔法陣を踏みしめると、風が吹き上がりイスカの身体は高々と宙を舞った。

 フーシェに続いてイスカもグリドール兵が混み合う船上へと降り立った。

「ハァ⋯⋯僕の相手はエルフですか。僕は支援術師なのに」

 イスカの眼前には、ひょろりとした痩せた顔色の悪い青年が立っていた。
 黒髪に厚手のローブを着込んだ、ヤンと呼ばれた青年は、縁の厚い丸渕眼鏡をクイッと人差し指で直すと手にしている杖に力を込めた。

「どうして、こんなことをするんですか!貴方達は勇者のパーティーなんでしょう?」

 イスカは短剣を構えるとヤンに言い放った。
 しかし、イスカの言葉にヤンは気だるそうに顔を傾けると口を開いた。

「さぁ?ジェイクは確かに変わっちゃったけど、それは僕には関係ないことだよ。──僕は、自分の研究だけできればいいんだからね」

「でも!だからといって、自分たちの都合を押し付けて、トナミカを傷付けていいわけないじゃないですか!ここで、止めさせてもらいます!」

 改めてイスカが剣の切っ先をヤンへと向ける。
 真っ直ぐなイスカの視線を反らすようにヤンは顔を背けた。

「混ざりもののクォーターの分際なのに、生まれつき人族より魔力値が高いエルフか⋯⋯嫌いなんだよね。あ、そうそう。そこはもう僕のテリトリーだから」

 眼鏡の奥で瞳が暗く輝くと、ヤンは自虐的な笑みを浮かべた。

 ヤンが、トンッと杖の先を甲板へと落とす。
 何もなかった甲板に紫色の魔法陣が描かれ、複雑な術式が組み上がった。

「こ、これは!」

「範囲式の『重力力場』だよ。何も『重力魔法』は魔族だけの特権じゃないんだ。しかも、これは敵だけを認識して、発動する」

「う、くっ!!」

 見えない力場がイスカの頭上から降り注ぎ、イスカの片足が甲板に跪くと、木製の甲板がバキッと音を立てて割れた。

「はい、これで終わり。後は任せるよ、僕は力仕事はしない主義なんだ」

 気だるげにヤンは言い放つと、まるでイスカに興味を失ったのか、イスカを取り巻く屈曲なグリドール兵士に命令した。

「──くっ!」

 ヤンの力場はイスカにしか作用しておらず、周囲を取り囲むグリドール兵は剣やハンマーを構えると、イスカへの包囲を狭めていく。

「これが、純粋種のエルフだったなら、捉えて僕の研究の足しにでもしたんだけどなぁ──。こんな、混ざりもの、要らないや」

 ヤンはそう言うと、男達に取り囲まれて姿が見えなくなったイスカには、最早興味を示さずに歩きだした。
 その目には、心地よい音を戦場に奏でる、一人の少女の姿に釘付けとなっていた。

「ああっ!なんて心地良い音。僕には絶対に出せない音色だ──!あぁ、羨ましい、妬ましい!僕は、絶対にその音色の秘密を暴いてみせる!」

 ヤンは、甲板上から少女の姿となったユズキを見つけると、嫉妬に歪んだ、歪な笑みを浮かべた。

「フフッ」

 口元から笑みが溢れる。
 ヤンが術式を展開して甲板から飛び降りようとした時だ。

 ──ドゴォォォッ!!

 爆薬が炸裂した様な音が背後から響き、その余りの音響にヤンは思わず振り返った。

「──なっ!?なんだ!」

 粉塵が立ち込め、そこには甲板の全幅、その半分はあるであろう大穴が空いていた。

「馬鹿な!?術式はあの混ざりものだけにかかるようにしてたはずだぞ!」

 ヤンは思わず、自分の計算が誤っていたのかと、杖を握る手に力をこめた。

「──今のでハッキリ分かりました」

 イスカの周囲を囲んでいた数十人の屈曲なトナミカ兵の姿は、みな大穴に落ちて消えていた。

 瓦礫を踏みしめる様に一人の少女の姿が現れる。
 そこには、自分の何倍もの自重に耐えていたエルフの姿はなかった。

 真っ白く降り積もる粉塵を、イスカは風を巻き起こして払っていく。

「私、貴方のことが大っ嫌いなようです!」

 イスカはそう言うと、大穴を開けたとは思えない細腕でヤンに剣を向けると、高々と宣言した。
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