ボク地方領主。将来の夢ニート!

アイアイ式パイルドライバー

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序章・帝国崩壊編

4、適当に任務をこなす

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 辺境のモンタアナに住んでいるラドウィン達はいまいち事態を分かっていないが、今、アーランドラ帝国は大変な事になっていた。

 サバルト教団と名乗る宗教団体の反乱。
 これは非常に大きなものであった。

 教主の名はトルムト。
 北西の小さな村出身のしがない男だった。
 彼は元々、サイリーン教というアーランドラ帝国公認の宗教の敬虔な信徒であった。

 彼は、悩み苦しむ人々を助けたいという思いが高じて、家財の一切を売り払うと大量の医薬品を買い込んで旅に出たのである。
 そうして、病や怪我に苦しむ人を助けて回ったのだ。

 だが、アーランドラ中を旅した彼が目撃したのは、サイリーン教の神父とその土地の領主が癒着し、人々を苦しめる姿だった。

 それに彼は絶望した。

 病に苦しんでも薬が買えないのは何故だ?
 怪我に呻いても医者に診てもらえないのは何故だ?
 食うにも着るにも困り、租税として取られる作物を育てているのは何故だ?
 これでは助けても助けても、誰一人助けられ無いではないか!

 トルムトは敬虔な信徒であったがゆえにサイリーン教を憎み、この世の全ての悪はサイリーン教とアーランドラ帝国の権力者どもだと認識した。

 そうして彼は世界に絶望して森に篭ったのだ。

 それから数十年後、彼は不思議な指輪を持って森から現れた。

 青い指輪をかざせば雨が降り、赤い指輪をかざせば太陽がサンサンと照りつける。
 紫の指輪をかざせば風が吹いた。

 そして最後に、白い指輪をかざせば、人の怪我と病をたちまち治し、走るに困る男が健脚を得て、生まれつき肩の上がらぬ女が元気に腕を振り上げる事が出来たのである。

 彼はその四つの指輪を手に、人々を助けた。
 数十年も森に篭っていたからすっかり歳をとって白い髭を蓄えた彼は、かつての若かりし頃の夢をまだ抱いていたのだ。

 しかし、彼は人々に自分の事を秘密にするよう言って、隠れながら人々の救済に勤しんだ。

 それからさらに数年後、現在の事だ。
 トルムトはこの世の悪を滅ぼし、新たな世界を作るのだとして、アーランドラ帝国に宣戦布告したのである。

 数年の間に得た人々の尊敬は、そのままトルムトの戦力となった。
 ばかりか、トルムトの奇々怪々な術を知った一部の領主まで、トルムトは神の使いだとして彼に従ったのである。

 しかし、一部の領主達が従ったとはいえ、トルムトの配下の殆どは訓練を積んでいないド素人だ。
 帝都の大臣達はすぐに反乱を鎮圧出来るだろうとたかを括っていた。

 だが、その考えは甘かった。

 まず、アーランドラ帝国でも一の勇猛を誇るバルムッドとその騎士団、敗走。
 蛮族退治で名を上げたホーンオースとその私兵、壊滅。
 アーランドラ帝国武術大会において優勝経験もある騎士デン、死亡。

 いずれも名の知れた武勇を誇る騎士や戦士が次々と負けたのだ。
 何故か?

 バルムッドは補給地点として滞在した村で、寝ている間に村人達から奇襲を受けた。
 そしてホーンオースは私兵達の半分が裏切ったので這う這うの体で逃げた。
 騎士デンに至っては、出発の前夜にメイドと一晩を共にしていたら、そのメイドに毒を盛られて殺されたのである。

 ただの一般人の反乱だから簡単に鎮圧できるという認識は誤りだった。
 一般人が起こしている反乱だからこそ、敵がどこに居るか分からない恐怖があったのだ。

 これにアーランドラ帝国は総力を挙げて鎮圧する為、皇帝陛下の大号令が発せられた。

 ラドウィンもその大号令に応じて十人の手勢を率い、涙渓谷と言われる狭隘の崖道を進んでいた。

 涙渓谷は雨が降ると大量の水が崖になだれ込む地形である。
 ラドウィンは近隣の領主からこの渓谷の先にある山陵にサバルト教団の幹部が陣を敷いていると近隣の領主から聞いてやって来た。

 とはいっても戦うつもりは無い。
 ギリギリまで敵陣に近付いてから敗走を装って撤退するつもりだった。

『九十人』の兵士を失って撤退すれば、ラドウィンも帝国に言い訳がつくと思う。

 そうしてラドウィン達が涙渓谷を越えた時、サバルト教団の幹部はラドウィンの接近に気付いた。

 森の中の小さな村に陣を敷いていたサバルト教団幹部はオルゴンと言って、教祖トルムトの右腕の男だ。
 丸坊主の頭に筋骨隆々の体。肌は畑仕事で焼けている。

 粗野で野蛮な男だが、トルムトの事を心酔していた。
 と、いうのも、このオルゴンという男は元々体が弱い病気がちな男だったのである。
 ある日トルムトの白い指輪にかざされた彼は弱い体がどんどん丈夫で頑強になり、人並み外れた肉体を誇るようになっていたのだ。

 彼の耳は犬もかくあるやという程に良く音を聞いた。
 それは森の中へ入って来たラドウィン達の足音と話し声を幾らも離れた距離から聞いた程だ。

 オルゴンはニヤリと笑うと村人達を集め、ラドウィン達の方へ向けて森の中へと入っていくのだ。

 一方、ラドウィンは既に敵に気付かれているだなんて思わずに森の中を進んでいた。

 松を中心とした針葉樹林は落ち葉が重なってふかふかとした感触だ。
 落ち葉を食べる虫が地面を踏み締める大量の足に驚いて逃げている。

 虫食の小鳥がラドウィン達のすぐ近くまで降り立って逃げている虫をついばんだ。

「ここらの森は豊かだなぁ」

 村人達はそのように言いながら、逃げる虫やひょこひょこ歩く鳥を笑いながら見ていた。

 反乱の鎮圧に向かうというよりピクニックにでも行くかのようだ。
 実際、彼らは自分達が死ぬだろうという気持ちなんて一つも無い。

 なにせ敵地の近くまで行ったら引き返すのだから、その気持ちは旅行を楽しむかのような気楽さに溢れていた。

 すると、先頭を馬で歩いていたラドウィンが何かに気付いて皆を止めさせる。

 次いで村人達もラドウィンが何に気付いたのか分かった。

 森の中にポツンと一人の男が立っていたのだ。

 丸坊主の頭と日に焼けた筋骨隆々の体。
 事前に近隣の領主から聞いていた通りの風体であったから、ラドウィンはその男がサバルト教団幹部のオルゴンだと分かった。

 武器も持たずに素手でラドウィン達と対峙している。

「アーランドラ帝国の軍勢だな? それともサバルト教団に入信しようというのか? どうだ、俺は何も持っていないぞ。勇敢に掛かって来るか、それとも武器も持たぬ俺に恐れを成して降参するか?」

 するとラドウィンはうんうんと頷き、「じゃあ、撤退しよう」と十人の村民に言うと引き返したのだ。

 その撤退の速さにオルゴンは呆然とラドウィン達の背を見ていた。
 すぐにハッとして「待たぬか!」と呼ばわると、オルゴンの隣にある茂みや木陰から兵士がワラワラと現れる。
 オルゴン自身が囮となって周りに伏兵を用意していたのだ。

 もしもラドウィンがオルゴンの首を狙って接近していたら伏兵に囲まれていた所である。

「貴様、それでも騎士か! 逃げるな!」

 オルゴンはそう呼ばわりながら走ってくるのだが、何と恐るべき健脚か、あたかも馬の走るような素早さでラドウィン達のすぐ後ろに追い付いてくるのだ。

 これには村民達は驚いた。
 だが、ラドウィンは笑う。

 あまりにもオルゴンの足が速すぎて、彼自身の兵士が追い付かないので孤立していた。
 武器も持たずに一人で近付いて来るのだからシメたもの。

 ラドウィンは馬首を転じてオルゴンへ向かうと剣を抜いた。

 そして、オルゴンの首へ切っ先を突き込んだ。

「あ!」と驚きの声を挙げたのはラドウィンの村民達。

 何と、オルゴンの首に剣が刺さっていない。
 ラドウィンは顔を顔をしかめて剣を引き、脳天へ剣を振り下ろした。

 ところが、この一撃もオルゴンの額に阻まれて止まってしまう。

 まるで分厚い岩でも切ろうとしたかのような硬さ!

 オルゴンは高笑いを挙げて、「無駄だ。トルムト様から奇跡の祝福を受けた俺に刃は通じない!」と言うのだ。

 ラドウィンは堪らず撤退をする。
 相変わらず逃げ足は早く、戦おうとしないラドウィンにオルゴンはムッとした。

「ええい、待たぬか!」

 その健脚は未だ健在なのでラドウィン達は逃げきれない。
 なのにも関わらず逃げようと無駄な努力をするラドウィンにオルゴンは臆病者と罵った。

 だがどんなに罵倒されようがラドウィンはどこ吹く風である。
 しかしながら、罵倒はどうでも良くともあの健脚には参った。

 訓練を積んでいない民の足ではすぐに追い付かれてしまう。
 そこでラドウィンは一計を案じ、村人達に崖の上へと行くように指示して自分はオルゴンへと再び挑み掛かった。

「ようしようし、掛かってこい!」

 オルゴンは楽しそうに笑うと思い切り馬の脚へ蹴りを入れようとする。
 ラドウィンが愛馬を跳躍させると、空振るオルゴンの蹴りは大木を薙ぎ払った。

 なんという出鱈目な蹴りなのだとラドウィンは苦笑しながらオルゴンを幾度か切りつける。
 しかし、やはりオルゴンにはかすり傷の一つ付かなかった。

 オルゴンはラドウィンの無駄な努力を嘲(あざけ)るのだ。
 ところが、幾度か攻防を続けるとラドウィンはオルゴンの攻撃をことごとく避けるので、初めこそ嘲笑していたオルゴンは段々と向かっ腹が立ってきた。

 叫べども怒れどもその拳も脚も当たらず、オルゴンの攻撃はどんどん粗末で単調なものとなっていく。
 すると、ラドウィンは再びオルゴンに背を向けると逃げ出したのである。

 これにはオルゴンの血管が壊れたのでは無いかというくらいであった。
 元々イラついていた所で逃げ出されてはおちょくられているかのように感じる。

 怒声を挙げながら全速力でラドウィンを追うので、ラドウィンはそのあまりの足の速さに驚いた様子で馬の腹を蹴った。

 そのまま涙渓谷にラドウィンが逃げ込むのでオルゴンも追う。

「君の仲間を置いてきて大丈夫なのか?」

 ラドウィンが馬の背から振り向いてオルゴンに聞くと、「笑止、貴様とその手下ごとき俺一人で充分だ!」と答えた。

 ラドウィンはニコリと笑う。

「なるほど。では君の許可も出た事だから僕は存分に仲間と協力させて貰うよ」

 その瞬間、オルゴンの脳天に人の頭程もある石が落ちてきた。

「ぎゃ!?」

 これには堪らず短い悲鳴を挙げながら倒れたオルゴンの上に、さらに大量の石という石が落ちてきたのである。
 ついにはオルゴンを大量の石が埋めてしまった。

 ラドウィンが渓谷の上を見ると、村人達が顔を覗かせてその中のタッガルが「どうですかい? ぺっちゃんこでしょうか?」と聞く。

 ラドウィンの村人達が渓谷の上から、人へと落とすのに丁度いい石を投げ落としたのだ。

 普通はそんな丁度いい石なんて無いものであるが、この渓谷は雨が降ると左右の崖から大量の水が流れ込むというので、雨に砕かれた岩がちょうど良く転がっているだろうとラドウィンは考えたのである。

「うん。丁度いいタイミングだった。だが、この程度で死ぬような男では無いだろうから今のうちに逃げよう」

 ラドウィンの言葉に村人達は、まだあの男は死んでいないのかと戦慄し、そのような化け物と戦いたくないと大急ぎで逃げる事にした。

 こうして逃げていくラドウィンとその村人達が涙渓谷から離れて二つ程の丘を越えた時、オルゴンの雄叫びが渓谷から響いて来たのである。

 激昂している事が分かる雄叫びで、かなり離れている筈なのに耳がキンキンと痛むような声だった。

 村人達は肝を潰してさっさと逃げるが、あの足の速さを知っていたから、果たして本当に逃げ切れるだろうかと誰もが不安に思う。

 すると、「そこを行く部隊はどこの者か?」とラドウィン達は聞かれた。

 声のした方を見ると、逆光の中、丘の上に大量の旗が靡いている。

「モンタアナ領主ラドウィンとモンタアナの義勇兵である」

 ラドウィンが答えると、「ならば味方か。私は近衛騎士ハルアーダ・イッシュルト。此度の反乱では遊撃騎兵団を率いている」と先頭の騎士が答えると丘を降りてきた。

 その顔は美男子と言うに相応しい顔である。
 少し憂いを帯びた顔はいかにも生真面目な顔つきで、ヘラヘラとして飄々な笑顔を絶やさないラドウィンとは対称的な人間だ。
 
 年の頃は二十歳に見えなくも無い。しかし、彼は三十程である。
 若々しい見た目には理由があった。
 それは彼の装備している、白銀の鎧に白銀の剣、それと担いでいる白銀の槍にも関係がある。

 彼は帝国で、“精霊の騎士”と呼ばれていた。
 一説によると母親がエルフと言われる美しい精霊だったらしく、彼は半分精霊の血を引いていたのである。
 彼の着ている鎧に剣や槍はエルフが造った不思議な力を持つ物だと言われていた。

 エルフは永遠に衰えない美貌を持つと言われており、その血を半分受け継ぐハルアーダもまた、若々しい美しさに溢れていたのである。

 彼はなぜこのような所を大急ぎで歩いているのかラドウィンに聞くので、ラドウィンは敵幹部オルゴンを攻め立てたものの手勢九十人を失い、かろうじで逃げていく所であったと答える。

「むう?」

 ハルアーダは、その割にラドウィンも十人の兵士も激戦の後が見られなかったので訝しんだ。
 しかし、丘を越えてオルゴンがやって来るのが見えたので言及すること無く馬を駆けてオルゴンへと向かったのである。

 そして、ハルアーダが槍を突くとオルゴンの胸に突き刺さるのだ。

 どんな攻撃も弾くはずの肉体に槍が刺さるのでオルゴンは驚きの声を挙げた。
 直後、ハルアーダが剣を振るうとオルゴンの首が飛んだのである。

 エルフの武器は邪気を絶ち、この世の理(ことわり)を外れた魔なるモノを滅ぼすと言われていた。
 オルゴンに掛けられていた魔法じみた不思議な力はハルアーダの武器を前にして無意味だったのである。

 ハルアーダが戻ってくると、ラドウィンは感謝を込めて頭を下げた。
 そして、モンタアナは皇帝陛下への忠義の為に果敢に戦ったが戦力の大部分を損失したので撤退する旨を伝え、ラドウィンは去るのだ。

 ハルアーダはそんなラドウィンの背を見ながら、彼の嘘を見破った。
 どうせ最初から十人程度の兵しか連れて来ていないのだと分かったが、しかし、モンタアナという片田舎もいい所の領主が居ようが居まいが戦況には関係無いと判断してラドウィンの事を見逃すのである。

 こうしてラドウィンとハルアーダは別れた。
 互いに二度と会う事はないだろうと思いながら。

 だが、この出会いは、この二人が数奇な運命の元に巡り会う事になるその始まりだった。

 
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