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序章・帝国崩壊編
3、帝の使いの相手は面倒くさい
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子供達はラドウィンに連れられて村へ戻った。
男の子も女の子も、皆、怪我一つ無くて無事である。
蛮族に子供が連れて行かれるという事件は世界中にあるが、無事に戻ってくる事例は少ない。
並の人間では蛮族の屈強な肉体に勝てないからだ。
蛮族に連れ去られた子供達が全員無事に戻って来るというのは奇跡に近い事だった。
そんな奇跡なのだからそれはもう村中が大きな宴を開くのである。
あんまりにも皆が食べ物を作って、飲んで歌って騒いだものだから宴は三日三晩も続く程だった。
盛大な宴は隣村の人達や近くを通った行商人の耳にも入って、タダ飯や酒にあやかろうと沢山の人々が村を訪れたのである。
そして、訪れた人々はラドウィンの素晴らしき武功を耳にする事となった。
ラドウィンの話はやがて、彼らを通して全国に広がる。
少々噂に尾鰭が付いて、オーガを百体殺したとか、殺したオーガのはらわたを引きずり出して貪り食べたとか誇大妄想じみた話にもなりはしたが、ともかく、一人でオーガを四体倒して子供達を取り戻したラドウィンの噂は多くの人々を感心させた。
そのような噂なので、ラドウィンの事はこのアーランドラ帝国の帝都サルマドラにも轟くのだ。
そして、当然の事であるが皇帝の耳にもその噂は入った。
皇帝アロハンド。
豊かな髭を蓄えた老齢の帝王は、歳に似合わぬガッシリとした体躯を誇り、その剛毅果断にして苛烈極まりない性格から炎帝とも言われていた。
そんな皇帝に、幾名かの臣下は膝をついていた。
「陛下。ラドウィンなる者の噂、ただちに真偽を調べ、事実ならばあのような辺境の地に置くのはやめるべきでしょう」
そもそも諸外国との軍事行動を主とする辺境伯が外国と面していない、蛮族の棲まう深い森の片田舎に置いているのがおかしい。
明らかに、高い地位を与えておきながら僻地へ追いやる飼い殺しのような真似であった。
もちろんラドウィンの怠け癖は悪名名高いものであったが、しかしあたら武勇ある者を僻地へ追いやるのは損失である。
アロハンド皇帝は能あるものを僻地に追いやると噂されて、有能な者が逃げ出しても困る。
だから彼らはラドウィンという男を取り立てるべきだと皇帝アロハンドに進言しに来たのだ。
アロハンドは玉座の後ろの大きな窓の前に立ち、眼下に広がる城下町を見下ろしていた。
皇帝はあまり興味の無さそうな様子であるが、臣下達としても有能な人物を取り立てて自分達の評価を上げたい所だったから、必死にアロハンドを説得しようとしたのである。
すると、アロハンドは髭を撫でながら振り向いて、ラドウィンを取り立てようとした臣下一人一人を睨みつけた。
これはアロハンドが怒った時の仕草だ。
だから、臣下達は何が気に障ったのか分からず、肝を潰して震え上がったのである。
「ラドウィンの噂を余の耳に入れるな」
アロハンドは腹の底から唸る声でそう言うので、臣下達は冷や汗を垂らして「はい。ただちにそのように」と平服した。
そして、帝都サルマドラではラドウィンの噂はただの噂であり、彼の者の名を口に出すのは禁止するという異例の緘口令が敷かれたのである。
だが、この異例の緘口令は逆に人々の興味と関心を引いた。
こんな命令を下されるラドウィンとは何者であろう?
皇帝はモンタアナなんていう辺境の領主の事を知っているのだろうか?
知っているとしたらその関係は?
人々は深夜の酒場で、路地裏の井戸端で、あるいは帝都を守る城壁の外でそのように噂をしたのである。
一方、当のラドウィンときたら、アーランドラ帝国中に自分の事が噂になっているだなんて知らずに村の中を愛馬を連れて散歩していた。
陽向は温暖、風は穏やか、稲穂は揺らぐ緑の壁を作っている。
こう気分の良い日は村の近くの平野にポツンと生える一本木の根でゆっくり昼寝でもしよう。
ラドウィンは大きくアクビをしながらそんな事を考えていた。
いつもと変わらぬ平穏。
これこそがラドウィンの愛してやまぬものだった。
なにせいつもと変わらぬ毎日が来るという事は、いつも同じ事をしていれば良いのだからこんなに楽な事は無いじゃないか。
ラドウィンはそう思う。
だけど、オーガを倒したあの日からラドウィンの毎日は少し変わっていた。
それは子供達の態度だ。
例えば今この瞬間、ラドウィンは女の子達に呼び止められた。
馬を止めると、女の子達は恥ずかしそうにバスケットを一つ、彼に差し出すのである。
「皆で作りました。良かったら食べて下さい!」
ラドウィンが「ありがとう」と受け取ると、女の子達は恥ずかしそうに顔を赤らめながらそのまま風のように逃げ出してしまうのだった。
どうにも女の子達はラドウィンに尊敬の念を抱いたようで、将来はラドウィンと結婚したいと言っている子まで居るのだ。
まあ女の子ってのは大人の人に憧れる時期があるものだからな。
ラドウィンはそう思いながらバスケットを開け、中に入っていたサンドウィッチを一口食べる。
変わったのは女の子達だけじゃない。
男の子達もだ。
彼らはラドウィンと擦れ違う時に嬉しそうに挨拶をした。
今ではすっかり男の子達もラドウィンの事を認めたのである。
彼らは物語に出てくる英雄のようにラドウィンの事を慕ったのだ。
それに、女の子達を自分達に振り向かせたいと必死にラドウィンから剣を学んでいた。
ラドウィンは子供達が真面目に剣を練習してくれるのに喜んだ。
この村は辺境の地にあって、蛮族がひしめく森の近隣にあるのだから剣を学び身を守る事が大事だった。
今、モンタアナの村は全てが順調に違いないとラドウィンは思いながら、平野に生える一本の木の根に腰掛ける。
サンドウィッチを食べながら、頬を撫でる風を楽しむ。
大きくアクビをするとバスケットに蓋をして目を閉じた。
少し寝て目を覚ましたら、近くの小川から畑に灌漑を引こうかと思う。
それから蛮族用に村を覆っている防護柵が壊れかけていたから修理しなくちゃいけない。
それに散歩の時、産気づいている牛も居ると村人が話しているのを小耳に挟んだが、そろそろ牧場付近の森を開拓しなくてはならない。
村の子供達が大きくなったらいつまでも親と同じ家は手狭に感じるかも知れないし、少しずつでも森を開拓して領土を増やそうか。
ラドウィンはそんな事を考えながら寝返りを打つ。
彼は遊び呆けて仕事をしないように思えるが、これが随分と領主として色々考えているのだ。
村は平和である。
開発も順調。
子供達の数は増えていて、領土も少しずつ広がっていた。
とはいえ、ラドウィンの暮らしに殆どいつもと違いは無い。
遅くまで寝て、村を散歩しながら村人の昼食にお邪魔して、本でも読みながら昼寝して、夜には寝る。
寝てばかりだが、ラドウィンは寝るのが好きだったから、むしろずっと寝ていたかった。
しかし、多分、ずっとこんな暮らしをしていくのだろうとラドウィンは確信していた。
だが、ラドウィンのその考えは甘い考えだったと言わざる得ない。
それはある日の事、ちょうど畑の刈り入れ時でラドウィンは村人達と一緒に大鎌を振って稲を刈っていた。
大きな麦わら帽子を被って、強い陽射しに玉のような汗を流している。
「やあ、そろそろ休憩にするか」
汗を拭きながらラドウィンはそう言って、畑から出た。
女や子供達がお茶を持ってきてくれたから、土と汗だらけの男達は茶を飲んで一服する。
「沢山実ってくれるのはありがたいけど、収穫が大変だなあ」
村人達がそう言っているので、ラドウィンは苦労した分だけ宴を開こうと提案した。
そんなラドウィンに収穫した分をもう使っちまうんですかいと村人達が言うのでラドウィンは「それもそうか」と皆と一緒に笑うのだ。
そのように談笑していると、子供達が彼方から大きな声でラドウィンを呼びながらやって来たのである。
どうしたのだろうかとラドウィンが立ち上がると「帝都から偉そうな人が来てます!」と子供達が言うのだ。
ラドウィンは、帝都に払う税を『不作』として全然払っていなかったから、その事でついに咎められてしまうのだろうかと思った。
頭をポリポリ掻きながら「参ったなぁ」といつもの飄々とした笑みを浮かべて村の入り口へと向かうのである。
そこに五人の騎士に囲まれた、丸々と太った男がいた。
帝使という役職の男である。
金糸の刺繍が施されたローブは一目見て偉い立場だと分かるようになっている。
彼はラドウィンを見ると、大きく胸を張って「出迎えも無しか?」と聞くので「いえいえ、こうして出迎えに上がりました」とラドウィンは答えた。
彼らはムッと露骨に不愉快な顔をする。
彼らのいう出迎えとは、村人総出で列を成して宴を以て迎えるという事だ。
なにせ彼のように帝都からの使者という人間はラドウィン達のような地方領主の活躍を皇帝に伝える事が出来る唯一の存在である。
帝使の匙加減次第でいくらでも領主達が不利になる情報を皇帝に伝えることだって出来るのだから、宴でもてなすのは勿論、賄賂の一つや二つはあっても良いのだ。
だけどこのラドウィンときたら飄々と笑っているだけの掴み所の無い態度だから、帝使というものを分かっているのかと彼らは思う。
だが、ラドウィンとしては帝使がどんな事を皇帝に言おうがどうでも良かったから「それで、何の用でしょうか?」と聞くのだ。
「ほう。村の入り口で私に立ち話をしろと?」
「屋敷の中に豚や牛が来客しておりまして、そのような場所に帝使様を案内する訳にもいきませぬので。しかし、ここは気持ち良い風と上等な絨毯がありますので屋敷に見劣りしませんよ」
「上等な絨毯?」
「この草原の事です」
帝使は苦虫を噛み潰したような顔でラドウィンを見る。
屋敷に豚や牛が来客しているだと? では俺は豚や牛に劣るとでも言うのか! と腹が立った。
しかし、である。
帝使はこのラドウィンという男が怠惰で仕事に取り組まない男だと聞いていた。
だから、ここで怒って何も伝えずに帰るのは、仕事をしたくないこのラドウィンの思う壷だと思うので怒りをグッと堪えて懐から手紙を取り出す。
皇帝の封蝋が捺された羊皮紙だ。
今すぐ読むように帝使が言うのでラドウィンは封蝋を破って中を確認する。
「あらら、参ったな」
中身を検めた彼は飄々とした態度は崩さずに苦笑を浮かべた。
「皇帝陛下の大号令なり。その命令に背く事がどういう事か分かるだろう?」
皇帝陛下の大号令とは、皇帝アロハンド直々に臣下貴族のみならず帝国国民その総てに至るまでが皇帝陛下の命令に従えとするものである。
そして、その大号令の名の下に書いてある内容とは、『アーランドラ帝国内において大規模な反乱が発生。アーランドラ帝国を支配すべき権利を持つという不敬なるサバルト教団およびその思想に毒されし裏切り者を討伐するため、皇帝陛下の大号令を以てアーランドラ帝国総力を挙げての討伐を決行せしめる。モンタアナ領主ラドウィンも兵を率いてただちに出陣せよ』であった。
この命令に背けば、処罰されるのはラドウィンのみならずモンタアナの村民達にまで及ぶのである。
これにはさすがのラドウィンとて適当な返事で誤魔化す事は出来ない。
「かしこまりました。皇帝陛下の勅命、慎んで拝領致す」
ラドウィンはそのように答えて頭を下げた。
これには帝使は満足げだ。
見たか! 怠惰で有名な、この小生意気な青二才に頭を下げさせてやったぞ!
帝使は邪悪な笑みを浮かべて、くれぐれも出陣を忘れないようにラドウィンへ念を押し、もしも出陣しなかったらこの村の人々がどうなるかよく考えるように言うのだ。
「よく分かっております。私も皇帝陛下のご威光を受けるちっぽけな領主の一人。しかしながら、見ての通り粗末で小さな村ですから、集められる兵は多くとも『百人』程。その程度の兵力でもよろしいでしょうか?」
「よいよい! このような小さな村ごときと言えども百人も出せば大変であろう!」
あの怠け者のラドウィンが『百人』も兵をこの村から出す!
帝使はその事に気を良くして大笑いを挙げると「では、我々は帰ろうか! こんな小さな村では満足なもてなしも期待できまい!」と帰っていった。
ラドウィンはそんな帝使と騎士達を笑顔で見送るのだ。
そうして三日後、ラドウィンはたった『十人』の男達を率いて、ウキウキと楽しげな様子で「では、行ってこようか!」と村人総出で見送られながらモンタアナを出陣するのであった。
男の子も女の子も、皆、怪我一つ無くて無事である。
蛮族に子供が連れて行かれるという事件は世界中にあるが、無事に戻ってくる事例は少ない。
並の人間では蛮族の屈強な肉体に勝てないからだ。
蛮族に連れ去られた子供達が全員無事に戻って来るというのは奇跡に近い事だった。
そんな奇跡なのだからそれはもう村中が大きな宴を開くのである。
あんまりにも皆が食べ物を作って、飲んで歌って騒いだものだから宴は三日三晩も続く程だった。
盛大な宴は隣村の人達や近くを通った行商人の耳にも入って、タダ飯や酒にあやかろうと沢山の人々が村を訪れたのである。
そして、訪れた人々はラドウィンの素晴らしき武功を耳にする事となった。
ラドウィンの話はやがて、彼らを通して全国に広がる。
少々噂に尾鰭が付いて、オーガを百体殺したとか、殺したオーガのはらわたを引きずり出して貪り食べたとか誇大妄想じみた話にもなりはしたが、ともかく、一人でオーガを四体倒して子供達を取り戻したラドウィンの噂は多くの人々を感心させた。
そのような噂なので、ラドウィンの事はこのアーランドラ帝国の帝都サルマドラにも轟くのだ。
そして、当然の事であるが皇帝の耳にもその噂は入った。
皇帝アロハンド。
豊かな髭を蓄えた老齢の帝王は、歳に似合わぬガッシリとした体躯を誇り、その剛毅果断にして苛烈極まりない性格から炎帝とも言われていた。
そんな皇帝に、幾名かの臣下は膝をついていた。
「陛下。ラドウィンなる者の噂、ただちに真偽を調べ、事実ならばあのような辺境の地に置くのはやめるべきでしょう」
そもそも諸外国との軍事行動を主とする辺境伯が外国と面していない、蛮族の棲まう深い森の片田舎に置いているのがおかしい。
明らかに、高い地位を与えておきながら僻地へ追いやる飼い殺しのような真似であった。
もちろんラドウィンの怠け癖は悪名名高いものであったが、しかしあたら武勇ある者を僻地へ追いやるのは損失である。
アロハンド皇帝は能あるものを僻地に追いやると噂されて、有能な者が逃げ出しても困る。
だから彼らはラドウィンという男を取り立てるべきだと皇帝アロハンドに進言しに来たのだ。
アロハンドは玉座の後ろの大きな窓の前に立ち、眼下に広がる城下町を見下ろしていた。
皇帝はあまり興味の無さそうな様子であるが、臣下達としても有能な人物を取り立てて自分達の評価を上げたい所だったから、必死にアロハンドを説得しようとしたのである。
すると、アロハンドは髭を撫でながら振り向いて、ラドウィンを取り立てようとした臣下一人一人を睨みつけた。
これはアロハンドが怒った時の仕草だ。
だから、臣下達は何が気に障ったのか分からず、肝を潰して震え上がったのである。
「ラドウィンの噂を余の耳に入れるな」
アロハンドは腹の底から唸る声でそう言うので、臣下達は冷や汗を垂らして「はい。ただちにそのように」と平服した。
そして、帝都サルマドラではラドウィンの噂はただの噂であり、彼の者の名を口に出すのは禁止するという異例の緘口令が敷かれたのである。
だが、この異例の緘口令は逆に人々の興味と関心を引いた。
こんな命令を下されるラドウィンとは何者であろう?
皇帝はモンタアナなんていう辺境の領主の事を知っているのだろうか?
知っているとしたらその関係は?
人々は深夜の酒場で、路地裏の井戸端で、あるいは帝都を守る城壁の外でそのように噂をしたのである。
一方、当のラドウィンときたら、アーランドラ帝国中に自分の事が噂になっているだなんて知らずに村の中を愛馬を連れて散歩していた。
陽向は温暖、風は穏やか、稲穂は揺らぐ緑の壁を作っている。
こう気分の良い日は村の近くの平野にポツンと生える一本木の根でゆっくり昼寝でもしよう。
ラドウィンは大きくアクビをしながらそんな事を考えていた。
いつもと変わらぬ平穏。
これこそがラドウィンの愛してやまぬものだった。
なにせいつもと変わらぬ毎日が来るという事は、いつも同じ事をしていれば良いのだからこんなに楽な事は無いじゃないか。
ラドウィンはそう思う。
だけど、オーガを倒したあの日からラドウィンの毎日は少し変わっていた。
それは子供達の態度だ。
例えば今この瞬間、ラドウィンは女の子達に呼び止められた。
馬を止めると、女の子達は恥ずかしそうにバスケットを一つ、彼に差し出すのである。
「皆で作りました。良かったら食べて下さい!」
ラドウィンが「ありがとう」と受け取ると、女の子達は恥ずかしそうに顔を赤らめながらそのまま風のように逃げ出してしまうのだった。
どうにも女の子達はラドウィンに尊敬の念を抱いたようで、将来はラドウィンと結婚したいと言っている子まで居るのだ。
まあ女の子ってのは大人の人に憧れる時期があるものだからな。
ラドウィンはそう思いながらバスケットを開け、中に入っていたサンドウィッチを一口食べる。
変わったのは女の子達だけじゃない。
男の子達もだ。
彼らはラドウィンと擦れ違う時に嬉しそうに挨拶をした。
今ではすっかり男の子達もラドウィンの事を認めたのである。
彼らは物語に出てくる英雄のようにラドウィンの事を慕ったのだ。
それに、女の子達を自分達に振り向かせたいと必死にラドウィンから剣を学んでいた。
ラドウィンは子供達が真面目に剣を練習してくれるのに喜んだ。
この村は辺境の地にあって、蛮族がひしめく森の近隣にあるのだから剣を学び身を守る事が大事だった。
今、モンタアナの村は全てが順調に違いないとラドウィンは思いながら、平野に生える一本の木の根に腰掛ける。
サンドウィッチを食べながら、頬を撫でる風を楽しむ。
大きくアクビをするとバスケットに蓋をして目を閉じた。
少し寝て目を覚ましたら、近くの小川から畑に灌漑を引こうかと思う。
それから蛮族用に村を覆っている防護柵が壊れかけていたから修理しなくちゃいけない。
それに散歩の時、産気づいている牛も居ると村人が話しているのを小耳に挟んだが、そろそろ牧場付近の森を開拓しなくてはならない。
村の子供達が大きくなったらいつまでも親と同じ家は手狭に感じるかも知れないし、少しずつでも森を開拓して領土を増やそうか。
ラドウィンはそんな事を考えながら寝返りを打つ。
彼は遊び呆けて仕事をしないように思えるが、これが随分と領主として色々考えているのだ。
村は平和である。
開発も順調。
子供達の数は増えていて、領土も少しずつ広がっていた。
とはいえ、ラドウィンの暮らしに殆どいつもと違いは無い。
遅くまで寝て、村を散歩しながら村人の昼食にお邪魔して、本でも読みながら昼寝して、夜には寝る。
寝てばかりだが、ラドウィンは寝るのが好きだったから、むしろずっと寝ていたかった。
しかし、多分、ずっとこんな暮らしをしていくのだろうとラドウィンは確信していた。
だが、ラドウィンのその考えは甘い考えだったと言わざる得ない。
それはある日の事、ちょうど畑の刈り入れ時でラドウィンは村人達と一緒に大鎌を振って稲を刈っていた。
大きな麦わら帽子を被って、強い陽射しに玉のような汗を流している。
「やあ、そろそろ休憩にするか」
汗を拭きながらラドウィンはそう言って、畑から出た。
女や子供達がお茶を持ってきてくれたから、土と汗だらけの男達は茶を飲んで一服する。
「沢山実ってくれるのはありがたいけど、収穫が大変だなあ」
村人達がそう言っているので、ラドウィンは苦労した分だけ宴を開こうと提案した。
そんなラドウィンに収穫した分をもう使っちまうんですかいと村人達が言うのでラドウィンは「それもそうか」と皆と一緒に笑うのだ。
そのように談笑していると、子供達が彼方から大きな声でラドウィンを呼びながらやって来たのである。
どうしたのだろうかとラドウィンが立ち上がると「帝都から偉そうな人が来てます!」と子供達が言うのだ。
ラドウィンは、帝都に払う税を『不作』として全然払っていなかったから、その事でついに咎められてしまうのだろうかと思った。
頭をポリポリ掻きながら「参ったなぁ」といつもの飄々とした笑みを浮かべて村の入り口へと向かうのである。
そこに五人の騎士に囲まれた、丸々と太った男がいた。
帝使という役職の男である。
金糸の刺繍が施されたローブは一目見て偉い立場だと分かるようになっている。
彼はラドウィンを見ると、大きく胸を張って「出迎えも無しか?」と聞くので「いえいえ、こうして出迎えに上がりました」とラドウィンは答えた。
彼らはムッと露骨に不愉快な顔をする。
彼らのいう出迎えとは、村人総出で列を成して宴を以て迎えるという事だ。
なにせ彼のように帝都からの使者という人間はラドウィン達のような地方領主の活躍を皇帝に伝える事が出来る唯一の存在である。
帝使の匙加減次第でいくらでも領主達が不利になる情報を皇帝に伝えることだって出来るのだから、宴でもてなすのは勿論、賄賂の一つや二つはあっても良いのだ。
だけどこのラドウィンときたら飄々と笑っているだけの掴み所の無い態度だから、帝使というものを分かっているのかと彼らは思う。
だが、ラドウィンとしては帝使がどんな事を皇帝に言おうがどうでも良かったから「それで、何の用でしょうか?」と聞くのだ。
「ほう。村の入り口で私に立ち話をしろと?」
「屋敷の中に豚や牛が来客しておりまして、そのような場所に帝使様を案内する訳にもいきませぬので。しかし、ここは気持ち良い風と上等な絨毯がありますので屋敷に見劣りしませんよ」
「上等な絨毯?」
「この草原の事です」
帝使は苦虫を噛み潰したような顔でラドウィンを見る。
屋敷に豚や牛が来客しているだと? では俺は豚や牛に劣るとでも言うのか! と腹が立った。
しかし、である。
帝使はこのラドウィンという男が怠惰で仕事に取り組まない男だと聞いていた。
だから、ここで怒って何も伝えずに帰るのは、仕事をしたくないこのラドウィンの思う壷だと思うので怒りをグッと堪えて懐から手紙を取り出す。
皇帝の封蝋が捺された羊皮紙だ。
今すぐ読むように帝使が言うのでラドウィンは封蝋を破って中を確認する。
「あらら、参ったな」
中身を検めた彼は飄々とした態度は崩さずに苦笑を浮かべた。
「皇帝陛下の大号令なり。その命令に背く事がどういう事か分かるだろう?」
皇帝陛下の大号令とは、皇帝アロハンド直々に臣下貴族のみならず帝国国民その総てに至るまでが皇帝陛下の命令に従えとするものである。
そして、その大号令の名の下に書いてある内容とは、『アーランドラ帝国内において大規模な反乱が発生。アーランドラ帝国を支配すべき権利を持つという不敬なるサバルト教団およびその思想に毒されし裏切り者を討伐するため、皇帝陛下の大号令を以てアーランドラ帝国総力を挙げての討伐を決行せしめる。モンタアナ領主ラドウィンも兵を率いてただちに出陣せよ』であった。
この命令に背けば、処罰されるのはラドウィンのみならずモンタアナの村民達にまで及ぶのである。
これにはさすがのラドウィンとて適当な返事で誤魔化す事は出来ない。
「かしこまりました。皇帝陛下の勅命、慎んで拝領致す」
ラドウィンはそのように答えて頭を下げた。
これには帝使は満足げだ。
見たか! 怠惰で有名な、この小生意気な青二才に頭を下げさせてやったぞ!
帝使は邪悪な笑みを浮かべて、くれぐれも出陣を忘れないようにラドウィンへ念を押し、もしも出陣しなかったらこの村の人々がどうなるかよく考えるように言うのだ。
「よく分かっております。私も皇帝陛下のご威光を受けるちっぽけな領主の一人。しかしながら、見ての通り粗末で小さな村ですから、集められる兵は多くとも『百人』程。その程度の兵力でもよろしいでしょうか?」
「よいよい! このような小さな村ごときと言えども百人も出せば大変であろう!」
あの怠け者のラドウィンが『百人』も兵をこの村から出す!
帝使はその事に気を良くして大笑いを挙げると「では、我々は帰ろうか! こんな小さな村では満足なもてなしも期待できまい!」と帰っていった。
ラドウィンはそんな帝使と騎士達を笑顔で見送るのだ。
そうして三日後、ラドウィンはたった『十人』の男達を率いて、ウキウキと楽しげな様子で「では、行ってこようか!」と村人総出で見送られながらモンタアナを出陣するのであった。
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放り出されたのは闘技場。武器は一人に一つだけ与えられた特殊スキルがあるのみ!何万人もの観衆が見つめる中、召喚した魔法使いにざまぁし、王都から大脱出!
3年F組は一年から同じメンバーで結束力は固い。中心は陰で「キングとプリンス」と呼ばれる二人の男子と、家業のスーパーを経営する計算高きJK姫野美姫。
逃げた深い森の中で見つけたエルフの廃墟。そこには太古の樹「菩提樹の精霊」が今にも枯れ果てそうになっていた。追いかけてくる魔法使いを退け、のんびりスローライフをするつもりが古代ローマを滅ぼした疫病「天然痘」が異世界でも流行りだした!
原住民「森の民」とともに立ち上がる28人。圧政の帝国を打ち破ることができるのか?
ちょっぴり淡い恋愛と友情で切り開く、異世界冒険サバイバル群像劇、ここに開幕!
※カクヨムにも掲載あり
復讐完遂者は吸収スキルを駆使して成り上がる 〜さあ、自分を裏切った初恋の相手へ復讐を始めよう〜
サイダーボウイ
ファンタジー
「気安く私の名前を呼ばないで! そうやってこれまでも私に付きまとって……ずっと鬱陶しかったのよ!」
孤児院出身のナードは、初恋の相手セシリアからそう吐き捨てられ、パーティーを追放されてしまう。
淡い恋心を粉々に打ち砕かれたナードは失意のどん底に。
だが、ナードには、病弱な妹ノエルの生活費を稼ぐために、冒険者を続けなければならないという理由があった。
1人決死の覚悟でダンジョンに挑むナード。
スライム相手に死にかけるも、その最中、ユニークスキル【アブソープション】が覚醒する。
それは、敵のLPを吸収できるという世界の掟すらも変えてしまうスキルだった。
それからナードは毎日ダンジョンへ入り、敵のLPを吸収し続けた。
増やしたLPを消費して、魔法やスキルを習得しつつ、ナードはどんどん強くなっていく。
一方その頃、セシリアのパーティーでは仲間割れが起こっていた。
冒険者ギルドでの評判も地に落ち、セシリアは徐々に追いつめられていくことに……。
これは、やがて勇者と呼ばれる青年が、チートスキルを駆使して最強へと成り上がり、自分を裏切った初恋の相手に復讐を果たすまでの物語である。
スキル【収納】が実は無限チートだった件 ~追放されたけど、俺だけのダンジョンで伝説のアイテムを作りまくります~
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地味なスキル**【収納】**しか持たないと馬鹿にされ、勇者パーティーを追放された主人公。しかし、その【収納】スキルは、ただのアイテム保管庫ではなかった!
無限にアイテムを保管できるだけでなく、内部の時間操作、さらには指定した素材から自動でアイテムを生成する機能まで備わった、規格外の無限チートスキルだったのだ。
追放された主人公は、このチートスキルを駆使し、収納空間の中に自分だけの理想のダンジョンを創造。そこで伝説級のアイテムを量産し、いずれ世界を驚かせる存在となる。そして、かつて自分を蔑み、追放した者たちへの爽快なざまぁが始まる。
最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした
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最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。
「もうオマエはいらん」
勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。
ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。
転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。
勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)
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