ボク地方領主。将来の夢ニート!

アイアイ式パイルドライバー

文字の大きさ
2 / 71
序章・帝国崩壊編

2、真面目領主

 村を囲む柵から出て、草原を少しばかり進むともう森だ。
 森は幾重にも重なった枝葉が自然の天井を作り太陽光を遮るので暗い。
 蛮族は光を嫌い闇を好むので、このような場所は蛮族にとって住みやすい場所だ。

 ラドウィンは森の途中で馬を止めるとその背からひょいと飛び降りる。
 そして、地面を一撫でする。

 苔むした地面が擦れて抉れていた。
 足跡だ。それも小さな足跡で子供のものだと分かった。

「まだ新しい。それにこの数……居なくなった子供達と一致するな」

 地面から顔を上げて、スンスンと鼻を鳴らす。

「臭い。蛮族どものにおい……近いな」

 蛮族は体を洗う文化が無い。
 ゆえに獣に似た体臭を放つので近くに居るとすぐに分かった。

 子供達が危ない。

 ラドウィンの顔には飄々とした笑みは無かった。

 馬に飛び乗り、足跡の向かう先へと走らせる。

 葉が緑の線を彩る程に走った。
 あまりにも馬を飛ばしたから擦れ違う枝が鋭利なナイフの如くラドウィンの頬を切る。

 そうすると、森の奥から子供達が駆けてくるのが見えた。

 十人程の男児達。
 彼らに怪我は見えなかった。
 しかしながら、村から居なくなった子の中には女児も数名居たはずなのに姿は見えない。

 彼らはラドウィンに気付くと涙と鼻水を流しながら「領主様ぁ!」と駆け寄って来た。

 ラドウィンが馬から飛び降りて彼らをなだめる。
 そして、女の子達はどうしたのかと聞くのである。

 子供達は要領の得ない言葉で必死に何が起こったかを説明した。
 要領の得ないばかりか何人もの子が同時に喋るし、しゃくり上げるし、鼻をすするしで全然聞き取れない。

 ラドウィンは優しく微笑み、頭を撫で、時に抱き締めながら辛抱強く彼らの話を聞いた。
 すると子供達は急かされないお陰か段々と落ち着いてきて、子供達の中でも特に悪ガキだったアーヴルという子が皆を代表して話し始めたのである。

 彼らはラドウィンに反発して森に入った。
 その時、女の子達にいい格好を見せたかったから、何人かの女の子を誘って皆で森の中に入ったのだ。
 別に何をする訳じゃ無かった。大人達が入るなと命令した森の中に入ってしまう自分達は格好良くて反抗的なのだというワクワク感とちょっとした冒険を楽しむつもりだった。

 だけどその冒険心のツケはすぐに回ってきたのである。
 彼らが森の中を歩いていると何かが木陰から顔を覗かせた。

 歯を剥き出しにして涎を垂らしている。
 眼は真っ赤に充血し、髪の毛がまばらに生えている頭から角が二本、生えていた。
 体はガッシリと筋肉質で、身長は大の大人をゆうに超える。

 蛮族だ。
 それが木の影と茂みの中から四体。

 野蛮といわれる通り、彼らに殆ど知性は無い。
 あるのは暴力と殺戮と……そして人を喰う事だけ。
 特に女の子の柔らかい肉を好むと言われていた。

 子供達は悲鳴を上げて無我夢中で逃げたが、オーガに追い付かれてしまったのである。
 そのオーガは女の子達を捕まえると少年達を無視して森の奥に去ってしまった。

 女の子達が居たお陰でこの子達は助かったと言えるだろう。
 女の子が居なければ代わりに食肉とされていたのはこの子供達だった。

 女の子は彼らの身代わりになったのだ。
 だが、少年達は女の子達を助けに行く事ができなかった。
 当たり前だ。こんな小さな子供がなぜ、あんな筋骨隆々で恐ろしい風体の蛮族に挑む事が出来るだろう?

 彼らに出来るのは村へ戻って頼れる大人を呼ぶ事だけだった。

 その話を聞いたラドウィンは彼らの頭をクシャと撫で、「分かった。僕は女の子達を助けに行く」と言う。

「戻ってくるまで待ってるんだ。良いな?」

 ラドウィンが少年達に言うと、彼らはこんな森の中に放置されたくなくて怯えた。

 ラドウィンは片膝をついてそんな彼ら一人一人と目線を合わせると、「君達が手に持っているものは何のためにある?」と聞く。

 子供達が親から盗み出した剣、それは何のために存在するのか?

「敵を倒す為……」

 子供が答えると「間違えてはないが正確じゃない」とラドウィンは言う。

「敵を倒す為のものであるが、それは仲間を守るためのものだ。良いか、君達は男で、剣を持っている。君達自身が仲間の身を守るんだ。僕に啖呵をきったのだから、男として意地を見せろ。分かったか?」

 力強い眼で子供達一人一人を見ると、彼らは頷いた。

 涙を流し、手足を震わせ、鼻水が出ていたが、ラドウィンは彼らの瞳の奥に決意を見た。

 ラドウィンは「帰ったら宴を開こう」と馬の背に乗る。

「村の新しい戦士達の誕生を皆で祝わなくてはならないからな」

 ラドウィンは彼らをいっぱしの戦士と認めて森の中に置くと、森のさらに奥へと馬を走らせた。

 一方その頃、森の奥深く。
 女の子達は大人と同じくらいか大人よりも大きな背丈の蛮族に囲まれて歩きながら自分達の運命に絶望していた。

 彼女達は村で片思いの男の子達が森に入ると言うからついてきたのだ。
 そうしたら、まさかこんな事になるだなんて思わなかった。
 
 やっぱりお母さんとお父さんの言う通り、森に入るんじゃなかった……。

 そう考える女の子達の前後左右にはオーガがいた。

 逆立った牙から生臭い息を吐く姿は今にも頭からかじりに来そうだ。

 蛮族は幾らか種類があるけど、オーガはとても強い力ととても頑丈な筋肉を持っているから、四体もの蛮族から自分達を助けてくれる人なんて居ないと女の子達は嘆いた。

 とめどなく涙が溢れ、頭の中に両親の笑顔が浮かんだ。

 ごめんなさいお父さん、お母さん。言いつけを守らなかった私が悪いんです。

 誰かが嗚咽を漏らしながらそう呟くと、悲哀が広がり、口々に「ごめんなさい!」「誰か助けて!」と懺悔と許しを求める声が上がった。

 だが、誰もその声に手を差し伸べない事くらい知っていた。
 ここで死ぬのだと子供ながらに分かっていたのだ。

 その時、すぐ近くの地面を押し上げて盛り上がる大きな木の根を、男を乗せた馬が越えて来た。

 馬が近くのオーガと擦れ違う瞬間、男は腰から剣を抜く。
 直後、オーガの首が飛んだ。

 何が起こったのか分からずに呆然とする女の子達。

 何が起こったのかは分からないが、彼女達はその馬の背に乗っている男を知っている。
 村の男の子達が「地位だけで偉そうにしている」とか「本当は弱っちい奴」と言っていた男。

 村の領主。いつもヘラヘラとしていて真面目な顔を見せない男。

 ラドウィンその人だ。
 だが、彼はいつも浮かべているヘラヘラとした笑みも見せずに鋭い眼光でオーガを睨むと、鐙を蹴って馬の背から跳躍した。
 そのままオーガの額に刃を突き立てて剣を脳髄にまで射し込むのである。

 勢いのまま地面に倒れると二転しながら素早く跳ね起きて、次に襲い来るオーガへ剣を向ける。

 オーガは棍棒を振り上げ、涎で糸を引く口を大きく開けながら雄叫びを上げた。
 そうして棍棒を振り下ろしてきたのである。
 しかしラドウィンが冷静に素早く剣を二回振ると、そのオーガの両腕がボトリと落ちるのだ。

 そのまま剣を横に一薙ぎするとそのオーガの頭が宙に飛んだ。

 そこに四体目のオーガが襲い来るのでその胸へラドウィンは剣を突き刺す。
 しかし、蛮族には三つの心臓があると言われており、一刺しでは決定打にならぬ。ゆえにラドウィンは足元に転がっていたオーガの棍棒を蹴り上げると左手で掴み、その頭を叩き潰したのであった。

 全ては一瞬の出来事である。
 最初に首を飛ばされたオーガとほぼ同時に頭を潰されたオーガの体は倒れたのだ。

「皆、大丈夫か?」

 優しげな笑みを浮かべたラドウィンが女の子達を見る。
 だけど、誰一人として返事をしなかった。

 これは夢か幻か?
 あのヘラヘラ笑って怠けているような領主が精悍な顔付きで、あの恐ろしいオーガを四匹も瞬殺したのだ。
 彼女達は何が何だか分からなくて、この光景が現実だと思えなかった。
感想 37

あなたにおすすめの小説

隠して忘れていたギフト『ステータスカスタム』で能力を魔改造 〜自由自在にカスタマイズしたら有り得ないほど最強になった俺〜

桜井正宗@オートスキル第1巻発売中
ファンタジー
 能力(スキル)を隠して、その事を忘れていた帝国出身の錬金術師スローンは、無能扱いで大手ギルド『クレセントムーン』を追放された。追放後、隠していた能力を思い出しスキルを習得すると『ステータスカスタム』が発現する。これは、自身や相手のステータスを魔改造【カスタム】できる最強の能力だった。  スローンは、偶然出会った『大聖女フィラ』と共にステータスをいじりまくって最強のステータスを手に入れる。その後、超高難易度のクエストを難なくクリア、無双しまくっていく。その噂が広がると元ギルドから戻って来いと頭を下げられるが、もう遅い。  真の仲間と共にスローンは、各地で暴れ回る。究極のスローライフを手に入れる為に。

復讐完遂者は吸収スキルを駆使して成り上がる 〜さあ、自分を裏切った初恋の相手へ復讐を始めよう〜

サイダーボウイ
ファンタジー
「気安く私の名前を呼ばないで! そうやってこれまでも私に付きまとって……ずっと鬱陶しかったのよ!」 孤児院出身のナードは、初恋の相手セシリアからそう吐き捨てられ、パーティーを追放されてしまう。 淡い恋心を粉々に打ち砕かれたナードは失意のどん底に。 だが、ナードには、病弱な妹ノエルの生活費を稼ぐために、冒険者を続けなければならないという理由があった。 1人決死の覚悟でダンジョンに挑むナード。 スライム相手に死にかけるも、その最中、ユニークスキル【アブソープション】が覚醒する。 それは、敵のLPを吸収できるという世界の掟すらも変えてしまうスキルだった。 それからナードは毎日ダンジョンへ入り、敵のLPを吸収し続けた。 増やしたLPを消費して、魔法やスキルを習得しつつ、ナードはどんどん強くなっていく。 一方その頃、セシリアのパーティーでは仲間割れが起こっていた。 冒険者ギルドでの評判も地に落ち、セシリアは徐々に追いつめられていくことに……。 これは、やがて勇者と呼ばれる青年が、チートスキルを駆使して最強へと成り上がり、自分を裏切った初恋の相手に復讐を果たすまでの物語である。

【鑑定不能】と捨てられた俺、実は《概念創造》スキルで万物創成!辺境で最強領主に成り上がる。

夏見ナイ
ファンタジー
伯爵家の三男リアムは【鑑定不能】スキル故に「無能」と追放され、辺境に捨てられた。だが、彼が覚醒させたのは神すら解析不能なユニークスキル《概念創造》! 認識した「概念」を現実に創造できる規格外の力で、リアムは快適な拠点、豊かな食料、忠実なゴーレムを生み出す。傷ついたエルフの少女ルナを救い、彼女と共に未開の地を開拓。やがて獣人ミリア、元貴族令嬢セレスなど訳ありの仲間が集い、小さな村は驚異的に発展していく。一方、リアムを捨てた王国や実家は衰退し、彼の力を奪おうと画策するが…? 無能と蔑まれた少年が最強スキルで理想郷を築き、自分を陥れた者たちに鉄槌を下す、爽快成り上がりファンタジー!

辺境追放された「植物魔導師」の領地開拓 ~枯れ果てた死の大地は、俺の魔力で聖域(楽園)へと変貌する~

リーフレット
ファンタジー
​「植物魔法? ああ、農作業にしか使えないあの地味な魔法か」 ​帝国騎士団の専属魔導師だったアルトは、無能な二世皇太子レオンによって、一方的に追放を言い渡された。 アルトがどれほど魔導植物を駆使し、帝国の食糧難を裏から支えていたかを知らぬまま、彼は「戦闘に役立たない役立たず」という烙印を押されたのだ。 ​帝国を出て行き着いた先は、魔物が跋扈し、草一本生えないと言われる最果ての荒野。 死を待つだけの地。しかし、アルトは絶望するどころか、晴れやかな顔で笑っていた。 ​「やっと、気兼ねなく『植物』を愛でられる。……よし、ここを世界一の庭(楽園)にしよう」

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 他サイトにも投稿しております。 ※本作品をAIの学習教材として使用することを禁じます。 ※無断著作物利用禁止

【完結】英雄様、婚約破棄なさるなら我々もこれにて失礼いたします。

ファンタジー
「婚約者であるニーナと誓いの破棄を望みます。あの女は何もせずのうのうと暮らしていた役立たずだ」 実力主義者のホリックは魔王討伐戦を終結させた褒美として国王に直談判する。どうやら戦争中も優雅に暮らしていたニーナを嫌っており、しかも戦地で出会った聖女との結婚を望んでいた。英雄となった自分に酔いしれる彼の元に、それまで苦楽を共にした仲間たちが寄ってきて…… 「「「ならば我々も失礼させてもらいましょう」」」 信頼していた部下たちは唐突にホリックの元を去っていった。 微ざまぁあり。

弟に裏切られ、王女に婚約破棄され、父に追放され、親友に殺されかけたけど、大賢者スキルと幼馴染のお陰で幸せ。

克全
ファンタジー
「アルファポリス」「カクヨム」「ノベルバ」に同時投稿しています。