ボク地方領主。将来の夢ニート!

アイアイ式パイルドライバー

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序章・帝国崩壊編

11、領主、騎士をおちょくる

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 ハルアーダが気絶から目を覚ました時、そこには見知らない天井が目に飛び込んだ。

 どこで寝ているのかよく分からない。 
 ベッドから起き上がり、自分の脚や折れた腕に手当てが施されているのを見た。
 なぜ手当てされてベッドに寝かされているのか考えた。

 そして、ターラーハッタの執拗な追撃に見舞われ、あと少しという所でモンタアナ領主ラドウィンに助けられたのを思い出す。

 しかし、本当にラドウィンに助けられたのだろうか?
 あの時点でだいぶ意識が朦朧としていたから、最後の最後で幻覚を見たのでは無いか?
 で、なくば、あのタイミングでラドウィンが援軍に来るなど出来すぎた物語では無いか!

 しかし、どうハルアーダが考えた所で、傷を手当てされてベッドに寝させられていた事実は揺るがない。
 もはや何が現実で何が幻だか分からなかった。

「ミルランス様とティタラ様はどうなっただろう」

 何が現実か分からないが、ハルアーダにとっては些末な問題だ。
 重要なのはミルランスとティタラが無事かどうか。

 ハルアーダがベッドから降りたその時、脚の傷が痛んだ。
 とても立ってられない痛みにハルアーダはそのまま大きな音をたてて倒れ込んでしまう。

 その音に気付いたのか足音が部屋へと近付いてきた。

 この家の使用人か家人か分からないが、手当てをしてくれた人はこの家に居るのだから最初からその人を呼べば良かったと、ハルアーダは痛む脚を感じながら苦笑する。

 そして扉が開き、部屋に入って来た人を見るとハルアーダはびっくりした。

「ハルアーダ! 何をしてるの!」

 そう言って駆け寄ってくるのはミルランスとティタラだったのだ。

 その二人の後ろから「おや、目を覚ましましたか」と飄々としたラドウィンがやって来て、ハルアーダに肩を貸した。

「ミルランス様、ティタラ様、容態は……」
「ええ、ラドウィン様のお陰でもうすっかり良くなったよ」
「ハルアーダったら三日も寝てたんだよ。その間に私達は元気になっちゃった」

 ミルランスとティタラは無邪気に笑っている。
 すると、女の人の声で「ミルランスちゃん! ティタラちゃん! 鍋が吹きこぼれるわよ!」と聞こえてきて、「はーい」と二人は大急ぎで部屋を出て行くのだ。

 ハルアーダはラドウィンに二人が何をしに向かったのか聞くと、「料理ですよ。近所の奥さんを呼んで料理を教わっているのです」とラドウィンに言われた。

 ハルアーダは驚き、戸惑った。
 皇帝陛下と妹帝になんて事をさせているのだと言いたい。言いたいのだが、見たところラドウィンは二人が皇族だと気付いていないように思える。

「ラドウィン辺境伯。あのお二人をどなたか知っておいでで?」
「はてな? 僕はてっきりハルアーダ様のご息女かと思ったのですが、違いましたかな?」

 ハルアーダは顔を青くしながら「い、いや、私の娘では……」と言おうとしたが、皇帝である事を隠す為にその方が都合が良いかと思い、「いえ、いえ、そうです。ご明察ですね」と答えた。

 しかし、である。
 ラドウィンはどうやらミルランスとティタラが皇族だという事に気付いている節があった。

 と、いうのもハルアーダはミルランスとティタラを帝都へ帰す為にも戦力が必要で、後日、その為にラドウィンに協力を申し出ようとしたのであるが、ラドウィンはその話をいつも遮って何らかの用事を思い出しては、話の最中に離席してしまうのである。

 ラドウィンは怠け者と聞いていたが、これ程とは思わなかったとハルアーダは呆れた。
 いや、もしもミルランスとティタラが皇帝陛下と知りながら何もしないのであれば怠慢どころの話ではないと、ハルアーダはむしろ怒りすら覚えるのだ。

 ハルアーダは何としても歩けるようになってラドウィンをしつこく詰問してやろうと思う。
 ラドウィンには感謝しているが、アーランドラ帝国の貴族である以上、ラドウィンがミルランスを皇帝陛下と知りつつ協力しないのは別問題だと考えていた。

 その執念のお陰か、ハルアーダは一週間で脚の傷を殆ど治して歩けるようになったのである。

 立ち上がると少し痛みが走ったが、しかし、動くのに不足は無かった。
 ハルアーダはラドウィンがどこに居るだろうかと窓から外を見る。

 すると、そこから見える光景に驚いた。

 石畳の通りに馬車が行き来し、田舎特有の木造の家ではなく石材と木材を併用した近代造りの家々が並んでいた。

 それに行き交う人々の数は多い。

「ここは本当に辺境の村なのか!?」

 もはや町だ。
 それも小さな町では無い。
 中くらいの町だろうか?
 しかし立地が悪いのにこれほどの規模の町を作るという事は、場所が場所ならとうに大都市へと発展していたっておかしくない。

 ハルアーダは領主では無いから政治というものは門外漢であったが、しかし、これがどれほど凄いことかは理解できた。

 そう思うと、なぜこれ程に村を発展させながら納税を怠るのか疑問に思う。
 結局のところ、私腹を肥やしている悪徳な領主なのではないかとハルアーダは思うのだ。

 しかし、ラドウィンは決して私腹を肥やしてはいなかった。
 定期的に宴を開くものの、殆ど税を取り立てていなかっから彼の住まいである屋敷はモンタアナの発展に対してあまりにちゃちなものである。

 その屋敷もなるべく上等な寝室をミルランスとティタラに明け渡し、来客用の寝室をハルアーダに使わせていたのでラドウィンは暖炉の置かれたリビングのソファーで寝ていたくらいだ。

 食事も殆ど村人達の食事時に厄介になるような男だったので個人の貯金も持っていない。
 税収の金は殆ど政治用の金庫に保管されていた。

 金が無くても暮らせるのだから必要以上の金を持っても仕方ないとラドウィンは思う。
 だから彼は殆ど個人の金を持っていなかったのである。

 しかし、ハルアーダは貴族というものを知っていて、ラドウィンもそのような貴族達のように私服を肥やしているのでは無いかと思い、不信感を抱いた。

 だが、頼れるのはラドウィンしかいないし、町ともいえる規模の村ならばラドウィンの私兵もかなり居るに違いないとハルアーダは思うのだ。
 ゆえに何としてもラドウィンに協力を漕ぎ着けたかったのである。

 ハルアーダがラドウィンを探して、よろめきながら屋敷の中を探していると庭の方から楽しげな子供達の声が聞こえてきた。
 廊下の窓から庭を見てみると、なぜか領主の屋敷の庭を村の子供達と思しき子が走り回っているでは無いか。

 しかも、その子の中に混じってミルランスとティタラまで泥だらけになりながら駆け回っている。

 それを見たハルアーダの驚きといえば筆舌に尽くしがたい。
 脚の痛みも忘れて屋敷を飛び出て二人の名を呼んだのであるが、二人は楽しそうに笑いながら手を振って応えるだけなのだ。

 すると、一際体の大きな男の子にミルランスは背中から押されて前のめりに倒れ込んだのである。

 ハルアーダはミルランスを心配して急いで駆け寄った。

「君、なんて事をするんだ!」

 そして、突き飛ばした男の子を叱責するのだ。

 それに男の子は怖がり、泣きそうになりながら「ごめんなさい」と謝った。
 ただ遊んでいただけなのにいきなり怒られて可哀想なものだが、ハルアーダにはそんな事を考えていられる状況では無かったのである。

 するとハルアーダの肩がポンポンと叩かれて、「まあまあ、子供の遊びなのですから良いじゃ無いですか」とラドウィンが言った。

「良いわけがあるか!」と、ハルアーダがラドウィンの手を勢いよく払うのだ。

 ラドウィンは肩を竦めて「ミルランスちゃんの心配よりも自分の身を心配した方が良いですよ」と言うのだ。

 その言葉にハルアーダが眉をひそめた時、ミルランスがガバと跳ね起きた。

「ハルアーダ!」

 大きな声でミルランスがハルアーダの名前を呼ぶもので、彼は驚きまじりに「は!」と振り向く。

「良い時に呼ぶからタッチされちゃったじゃん!」
「え? ……あ、は?」
「だから! 逃げ切れなくてタッチされたから、次は私が蛮族になっちゃったでしょ!」

 いわゆる鬼ごっこというもので、鬼に該当する蛮族役の子はガオーと言いながら農民役の子供を追いかけてタッチすると、農民役と蛮族役が交代する。
 この国では“蛮族と農民”という名の追い掛けっこであるが、ミルランスは自分がタッチされて“蛮族”になったのは不当だと主張した。

「言い訳が苦しいよお姉様!」

 ティタラが異を唱えて、他の子供達もそうだそうだと便乗するのだがミルランスは納得いってない。

 そこでラドウィンは妙案が思い浮かんで「そうだ」とポンと手を叩いた。

「ならばミルランスちゃんの代わりにハルアーダ様が蛮族役をやればよろしい」

 そう提案すると子供達はそれが良いと賛同したのである。

 だが、ハルアーダはそんな提案たまらない。
 何をふざけた事をぬかすのかとラドウィンに言いたかったが、反対を述べるより先にミルランスとティタラから「それじゃあお願いね」と言われた。

「し、しかしですな。私は蛮族と農民をやった事が無いのです」
「あら、だったら私もティタラも二日くらい前から始めたばっかりよ。ね? ティタラ」
「うん。お姉様」

 ハルアーダは子供の遊びに交じるのが嫌であったが、皇帝のミルランスとティタラに言われては従わざるをえなかった。

 顔をしかめるハルアーダの肩をラドウィンは楽しそうな顔で叩いて「ハルアーダ様、ルールは簡単です。“蛮族”は『ガオー』と言いながら農民役を追いかけるのですよ」と言うのである。

 ハルアーダは恨めしそうにラドウィンを睨んだが、ラドウィンときたらどこ吹く風であった。
 なのでハルアーダは何もかも諦めて「ガオー」と年甲斐も無く子供達を追いかけ回さねばならなかったのである。
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