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序章・帝国崩壊編
10、巡り合う運命
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帝都の戦いは広がる。
城内だけの争いに留まらず、大将軍オルモード反乱と聞きつけた近隣の諸侯が反乱鎮圧の為に参上して帝都周辺は火の海となった。
さらにその戦いはどんどん広がり、皇帝陛下に忠義を示すべしとしたミルランス派と、新たな皇帝陛下を擁立して既存体制を打ち破り腹心の位置に自分が座ろうかというティタラ派の二つにアーランドラ帝国は分かれたのだ。
だが、皇帝ミルランスと妹帝ティタラが行方不明と知れると、二つに分かれていた勢力はたちまち混沌とした。
皇帝が居ないならば自分達はもうアーランドラ帝国に仕える必要などないと、一部の諸侯が独立旗揚げをし始めたのである。
アーランドラ帝国始まって以来の大戦乱の世が始まったのだ。
ミルランスとティタラを連れて逃げているハルアーダは彷徨った。
ミルランス派の地にティタラを連れて行けなかったし、ティタラ派の町にミルランスを連れていけないのである。
旗揚げした所など論外だ。
一度、中立を謳っていた貴族の元へと身を寄せた事もあったが、彼はミルランス派の諸侯に取り入って地位を得ようと画策していて、ティタラが襲われてしまったのである。
ハルアーダが寸での所で助け出してその町から逃げ出したのだが危ない所であった。
こうなると二人を保護してくれそうな中立な場所などどこにも無い。
領主の居ない小さな村々を転々としながら、諸侯貴族に居場所を知られないようにする必要があったのだ。
しかし、ずっと城で暮らしてきた幼いとも形容できる女の子のミルランスとティタラはこの旅は過酷なものである。
特にミルランスの心身衰弱は目に余るものがあった。
元々、皇帝という立場のせいで神経が磨り減っていた所で過酷な旅をしたものだから体力も精神力も残っておらず、病にまけてしまったのである。
高熱にうなされるミルランスは妹ティタラを感情のままに投獄した罰なのだとしきりにティタラへ謝った。
それから、自分が処刑の印を捺した人々。
もしかしたら無実だったのに政争に負けただけなのかもしれない。
ミルランスはそのような人々の死に様を考えて涙し、しきりに謝り続けていた。
ハルアーダはどうにかせねばならないと思う。
病に圧された時にものを言うのは精神力だと知っていた。
だが、ミルランスはその精神力を失い、病に完全に負けていたのだ。
医者に見てもらわねばならない。
しかし、医者がいるような大きな町には領主もいるから危険だった。
八方、手が塞がった。
どうしようも無い。
森の中の廃屋に身を隠してミルランスを看病したが、どんどん彼女は衰弱していくのだ。
「ああ、姉様。そんなに私の事を気に病んでいただなんて……」
ティタラは自分の事でミルランスが気に病んでいたと知って、深く悲しむ。
一日中付きっきりでミルランスの看病に努め、ついにはティタラまで看病疲れで倒れてしまった。
「ごめんなさいハルアーダ。私まで倒れてしまって」
ティタラは十歳の女の子だ。
そんな彼女だって旅の疲れはあっただろうに寝食もせずに姉の看病をしたのだから倒れるのは当たり前の事だった。
「お気になさらず。何があってもお二人は護りますから」
ハルアーダは力強くそう言うが、しかし、どうしようも無い気持ちはあった。
領主に見つからない可能性に賭けて、大きな町で医者に掛かろうか? 彼はそう考える。
そんなある日、近くの村で食料と着替えにできそうな布を買い込んでいたハルアーダは道行く人の噂を耳にした。
――モンタアナって所が凄い発展してるそうでね、うちの主人たら出稼ぎに行っちゃったのよ――
モンタアナという土地名をハルアーダは聞いた事があったが、はてどこで聞いただろうか?
ハルアーダはその土地を考えて、ハッと思い出す。
あの権力や地位も名誉も要らないと公言し、命令の多くを『不作だから納税できない』とか、『蛮族の討伐で忙しいから皇帝陛下に謁見できない』とか言って煙に巻く事で有名な領主であった。
そして、サバルト教団の反乱の時に顔を見合わせたあの飄々とした男。
あの男が権力に疎いならば、大将軍や宰相に取り入ろうとミルランスとティタラを売るような真似はしないはずだ。
いいや、そう信じるしかない。
そのモンタアナが発展していると聞いて、ハルアーダは思わずモンタアナの話をしている女性に詰め寄るのだ。
「すいません。今、今、その、話していたモンタアナとはどのような所なのですか? もしや医者を募集していませんか!」
鬼気迫る男に詰め寄られて女性は驚いた様子だったが、ハルアーダがあまりに美男子だったのでまんざらでも無く「ええ、ええ、そうなのよあんた! モンタアナは今、凄いわよ!」と答える。
何せちょっとした町くらいの規模で、医者どころか技術を持った大工を高値で雇って町の設備を発展させているというのだ。
「そうですか! そうですか! それほど発展を!」
ハルアーダは藁にも縋る思いであった。
大急ぎで廃屋へと戻ると、ひとまず体力を付けさせる為に料理を作る。
「喜びください。医者に診てもらえますよ!」
消化しやすいように野菜をくったくたに煮込んだスープに、兎肉とトマトに似たほのかな酸味が特徴の赤い野菜を入れるとパンを頭まで浸かるほど沈めた。
この地方で風邪の時に飲む代表的なスープだ。
ぐったりしているティタラが「どこの医者に診てもらうの?」と聞く。
「これからモンタアナに向かいます。少々遠いですのでしっかりと栄養をつけてください」
自ら食事が出来るティタラに木の深皿を渡して、ハルアーダはミルランスへスープを飲ませてあげながら言うのだ。
「モンタアナ……。聞かない場所だね」
ティタラはモンタアナがどこか分からない。
彼女は父アロハンドに褒められたくて地理の勉強をしていたから、主要な都市は大体分かった。
だが、モンタアナというのだけは知らない。医者が居るほどの都市ならば必ず分かる筈なのだが……。
「ティタラ様、考えるのは完治してからですよ。今は食べてゆっくりお休みください。その間に旅の準備を進めます」
「ん。そうだね」
ティタラはスープを飲み干すと気だるそうにベッドへ横になった。
ハルアーダはミルランスにスープを飲ませてから横にさせると旅の準備を始める。
着替えや食糧を纏めると馬の腰に乗せた。
着替えは大事だ。
特にミルランスは病気で汗をよくかくから汗が冷える前に着替えさせる必要があった。
他にもテントや毛布。
普通の旅ならば木の根でマントにくるまって寝れば良いのだが、ずっと城で育って旅慣れしていない二人の女の子が居たから、少しでも快適な寝床で体力の消耗を防がねばならない。
「ここからモンタアナまで急いで三日……。休憩や不測の事態を考えれば五日は掛かるか?」
五日……この日数をミルランスの体力は持つだろうか?
しかし考えている時間は無かった。
何にせよモンタアナに行かねばならない。
それしか手は無かった。
そんな事をハルアーダが考えていると、ふと、森の中を何かが近付いてくるのに気付く。
耳をすませば、鎧や剣が擦れる鉄の音が聞こえてきた。
ハルアーダは眼が良い。
エルフの血を引いているからだろうか?
薄暗い森の中でも遠方より近付いてくる人々の姿をハッキリと見る事が出来る。
それはこの辺りの領主、ミョルゼ領ターラーハッタの兵士だ。
「しまった!」
先程、村で騒ぎ過ぎた。
ハルアーダは特徴的な見た目だから、村に潜んでいた領主の密偵に見つかってしまったのだろう。
あるいはハルアーダの見た目が噂になってしまったか。
何にせよ明らかにこの廃屋へと向かってきているのは間違いない。
ハルアーダは急いでミルランスとティタラを起こすと、大急ぎで馬に乗せた。
「あの、ハルアーダ。せめて靴を……」
「靴は後です! 急いでこの場から離れます!」
何が起こっているのか分からないティタラと、熱にうなされているミルランスを乗せてハルアーダは馬を駆けさせる。
これにターラーハッタの兵達は気付き、急いで駆け出した。
その兵の中には四騎の騎兵が居て、ハルアーダを追ってきたのである。
「ターラーハッタはミルランス様派か? ティタラ様派? まあ、どうでもいいか」
ミルランスかティタラの味方か?
そんな事はどうだっていい事だ。
どちらかの敵である以上、つまりはハルアーダの敵なのだ。
ハルアーダは追いくるターラーハッタの兵達を殺しながらモンタアナへと強行した。
こうなるとミルランスの意識が朦朧としていたのは良かったかも知れない。
彼女は人の死というものに敏感だったから目の前で人が死ぬと泣き叫んで暴れたかも知れなかった。
虚ろな目で虚空を眺めて何が起こっているのか理解していなかったから、大人しくしていてくれたのでハルアーダは助かるのだ。
しかし、あまりにもターラーハッタ軍の追撃が激しかったので昼夜を問わない強行となってしまった。
三日の間に百人は殺した事だろう。
「足でまといのガキ二人を連れた騎士一人に何を手間取っているか!」と、兵達を指揮している偉そうな男が喚いていたが、ハルアーダも焦っていた。
ミルランスの体調が悪くなっている。
馬の背と擦れた内腿の皮がめくれて血が流れていた。
ティタラも疲労の限界は近く、「姉様……姉様……」とミルランスを抱きしめたままうわ言を呟くのだ。
急いでモンタアナへ向かわねばならない。
ハルアーダはモンタアナへと向かう渓谷を走った。
涙渓谷。
雨が降ると大量に水が流れ込む事からそのように言われる渓谷である。
「今だ!」
そのように後ろから聞こえた瞬間、渓谷の左右から石が落ちて来た。
ハルアーダはたくみな綱さばきで馬を操る落ちてくる石をかわす。
その地形から落石を警戒していたのである。
「敵地なのだからこの程度は予想していた!」
ハルアーダは馬を跳躍させたが、しかし、その激しい動きにミルランスとティタラが馬からずり落ちそうになった。
「あ!」
これはいかんとハルアーダが馬の手綱使いを失敗してしまう。
その瞬間、横合いから転がってきた石が馬の脚をへし折ってしまった。
ハルアーダは落馬しながらもミルランスとティタラを胸の中へと抱きしめる。
その後、幾らかの石や岩がハルアーダの上に落ちてきたが、ミルランスやティタラを圧死させるつもりが無かったターラーハッタ軍は途中で落石をやめた。
ハルアーダは背中の石をどかして立ち上がる。
右腕があらぬ方向に折れ曲がり、額から流れた血が右眼を塞いだ。
ハルアーダは左腕でミルランスとティタラを抱き締めると、フラフラとしながら渓谷を通り抜けようと歩いた。
幸い、落石が地面を埋めていたから足場が不安定で騎馬が追うことは出来ない。
追手も馬から降りて徒歩で追わなくちゃいけないのだから、まだ逃げ切れるとハルアーダは思った。
すると、渓谷の上から矢が放たれて来たのである。
「その騎士はどうせガキ共を庇う! そのまま背中を射てやれ!」
そのような声を聞いた。
すぐ足元に矢が刺さる。
折れた右腕を矢が抉った。
ハルアーダは痛みに顔をしかめながら、「我が母よ、エルフの創りし偉大なる白銀の鎧よ! どうかこの二人の少女を護り給え! 我を身代わりに我が使命と名誉を護り給え!」と叫んだ。
するとどうであろうか?
放たれた矢は背中に刺さること無く、その鎧に見事に弾かれたのだ。
あたかもハルアーダの想いに応えるかのようであった。
しかし、ハルアーダは限界だった。
涙渓谷を抜けて、その向こうに広がる幾つもの丘を越えようとするが、脚はついに力を失ってハルアーダは倒れてしまう。
見れば、右太ももに三本の矢。
左ふくらはぎに一本の矢が刺さっていた。
それでもハルアーダは歯を食いしばり、ミルランスとティタラを抱き締めて這う。
せめて、せめてこの子達だけでも助けたい。
いいや、助けねばならぬのだ!
その時、ハルアーダが登ろうとしていた丘の上に無数の人影が現れた。
逆光でよく見えないが旗がひるがっている。
ターラーハッタ軍の待ち伏せか?
挟撃にあったのだろうか。
「もはやここまでか……」
ハルアーダは諦めた。
この二人の子のどちらか、あるいは両方とも、殺されてしまうのだろうか?
政治の道具として精神が磨り減るまで使われるのだろうか?
ハルアーダはミルランスとティタラを護れない自分が悔しくて、悔しくて、仕方なかった。
すると、丘の上に立つ者が「そこを行く英雄はどこの者か?」と聞く。
「ワシはミョルゼ領主ターラーハッタ! 卑劣な逆賊を追っている所だ。邪魔だてするねい!」
すると、丘の上の者は大きな声で高笑いを挙げた。
「貴様の名など訪ねていないぞ! ターラーハッタ様の名を勝手に騙る逆賊め!」
「なんだと!? ワシは正真正銘ターラーハッタだぞ! 何を根拠に逆賊というか!」
「ターラーハッタはアーランドラ帝国の忠臣! ならばそこに倒れる『忠義の騎士』を追い立てるものか! ターラーハッタ様の名を騙る卑怯者め、かくなる上はこの“モンタアナ領主ラドウィン”がターラーハッタ様の“名誉の為”に成敗してやろう!」
その名を聞くとハルアーダは顔を上げた。
直後、丘の上から一騎の騎兵が馬を駆けてハルアーダを越え、そのまま追手の軍へと突撃すると、たちまち偉そうにしていたターラーハッタと名乗る男と五人の騎士、それと八人の兵士を斬り殺してしまったのである。
これにターラーハッタ軍は堪らず逃げ出した。
「二度とターラーハッタ様の名を騙るな逆賊め!」と大笑いしながら逃げていく兵の背へ言う男は、馬を返してハルアーダの元へと戻ってくる。
ハルアーダはその顔を良く覚えている。
あの飄々とした笑み。
余裕泰然とした態度。
彼は馬から降りるとハルアーダの肩に手を置いた。
「“あの時”とは、逆の立場になりましたね」
ああ、間違いない。
この男だ。
この男が、ラドウィンだ……。
ハルアーダはなぜか分からないがラドウィンの飄々とした顔を見ると安堵して気絶してしまうのだった。
城内だけの争いに留まらず、大将軍オルモード反乱と聞きつけた近隣の諸侯が反乱鎮圧の為に参上して帝都周辺は火の海となった。
さらにその戦いはどんどん広がり、皇帝陛下に忠義を示すべしとしたミルランス派と、新たな皇帝陛下を擁立して既存体制を打ち破り腹心の位置に自分が座ろうかというティタラ派の二つにアーランドラ帝国は分かれたのだ。
だが、皇帝ミルランスと妹帝ティタラが行方不明と知れると、二つに分かれていた勢力はたちまち混沌とした。
皇帝が居ないならば自分達はもうアーランドラ帝国に仕える必要などないと、一部の諸侯が独立旗揚げをし始めたのである。
アーランドラ帝国始まって以来の大戦乱の世が始まったのだ。
ミルランスとティタラを連れて逃げているハルアーダは彷徨った。
ミルランス派の地にティタラを連れて行けなかったし、ティタラ派の町にミルランスを連れていけないのである。
旗揚げした所など論外だ。
一度、中立を謳っていた貴族の元へと身を寄せた事もあったが、彼はミルランス派の諸侯に取り入って地位を得ようと画策していて、ティタラが襲われてしまったのである。
ハルアーダが寸での所で助け出してその町から逃げ出したのだが危ない所であった。
こうなると二人を保護してくれそうな中立な場所などどこにも無い。
領主の居ない小さな村々を転々としながら、諸侯貴族に居場所を知られないようにする必要があったのだ。
しかし、ずっと城で暮らしてきた幼いとも形容できる女の子のミルランスとティタラはこの旅は過酷なものである。
特にミルランスの心身衰弱は目に余るものがあった。
元々、皇帝という立場のせいで神経が磨り減っていた所で過酷な旅をしたものだから体力も精神力も残っておらず、病にまけてしまったのである。
高熱にうなされるミルランスは妹ティタラを感情のままに投獄した罰なのだとしきりにティタラへ謝った。
それから、自分が処刑の印を捺した人々。
もしかしたら無実だったのに政争に負けただけなのかもしれない。
ミルランスはそのような人々の死に様を考えて涙し、しきりに謝り続けていた。
ハルアーダはどうにかせねばならないと思う。
病に圧された時にものを言うのは精神力だと知っていた。
だが、ミルランスはその精神力を失い、病に完全に負けていたのだ。
医者に見てもらわねばならない。
しかし、医者がいるような大きな町には領主もいるから危険だった。
八方、手が塞がった。
どうしようも無い。
森の中の廃屋に身を隠してミルランスを看病したが、どんどん彼女は衰弱していくのだ。
「ああ、姉様。そんなに私の事を気に病んでいただなんて……」
ティタラは自分の事でミルランスが気に病んでいたと知って、深く悲しむ。
一日中付きっきりでミルランスの看病に努め、ついにはティタラまで看病疲れで倒れてしまった。
「ごめんなさいハルアーダ。私まで倒れてしまって」
ティタラは十歳の女の子だ。
そんな彼女だって旅の疲れはあっただろうに寝食もせずに姉の看病をしたのだから倒れるのは当たり前の事だった。
「お気になさらず。何があってもお二人は護りますから」
ハルアーダは力強くそう言うが、しかし、どうしようも無い気持ちはあった。
領主に見つからない可能性に賭けて、大きな町で医者に掛かろうか? 彼はそう考える。
そんなある日、近くの村で食料と着替えにできそうな布を買い込んでいたハルアーダは道行く人の噂を耳にした。
――モンタアナって所が凄い発展してるそうでね、うちの主人たら出稼ぎに行っちゃったのよ――
モンタアナという土地名をハルアーダは聞いた事があったが、はてどこで聞いただろうか?
ハルアーダはその土地を考えて、ハッと思い出す。
あの権力や地位も名誉も要らないと公言し、命令の多くを『不作だから納税できない』とか、『蛮族の討伐で忙しいから皇帝陛下に謁見できない』とか言って煙に巻く事で有名な領主であった。
そして、サバルト教団の反乱の時に顔を見合わせたあの飄々とした男。
あの男が権力に疎いならば、大将軍や宰相に取り入ろうとミルランスとティタラを売るような真似はしないはずだ。
いいや、そう信じるしかない。
そのモンタアナが発展していると聞いて、ハルアーダは思わずモンタアナの話をしている女性に詰め寄るのだ。
「すいません。今、今、その、話していたモンタアナとはどのような所なのですか? もしや医者を募集していませんか!」
鬼気迫る男に詰め寄られて女性は驚いた様子だったが、ハルアーダがあまりに美男子だったのでまんざらでも無く「ええ、ええ、そうなのよあんた! モンタアナは今、凄いわよ!」と答える。
何せちょっとした町くらいの規模で、医者どころか技術を持った大工を高値で雇って町の設備を発展させているというのだ。
「そうですか! そうですか! それほど発展を!」
ハルアーダは藁にも縋る思いであった。
大急ぎで廃屋へと戻ると、ひとまず体力を付けさせる為に料理を作る。
「喜びください。医者に診てもらえますよ!」
消化しやすいように野菜をくったくたに煮込んだスープに、兎肉とトマトに似たほのかな酸味が特徴の赤い野菜を入れるとパンを頭まで浸かるほど沈めた。
この地方で風邪の時に飲む代表的なスープだ。
ぐったりしているティタラが「どこの医者に診てもらうの?」と聞く。
「これからモンタアナに向かいます。少々遠いですのでしっかりと栄養をつけてください」
自ら食事が出来るティタラに木の深皿を渡して、ハルアーダはミルランスへスープを飲ませてあげながら言うのだ。
「モンタアナ……。聞かない場所だね」
ティタラはモンタアナがどこか分からない。
彼女は父アロハンドに褒められたくて地理の勉強をしていたから、主要な都市は大体分かった。
だが、モンタアナというのだけは知らない。医者が居るほどの都市ならば必ず分かる筈なのだが……。
「ティタラ様、考えるのは完治してからですよ。今は食べてゆっくりお休みください。その間に旅の準備を進めます」
「ん。そうだね」
ティタラはスープを飲み干すと気だるそうにベッドへ横になった。
ハルアーダはミルランスにスープを飲ませてから横にさせると旅の準備を始める。
着替えや食糧を纏めると馬の腰に乗せた。
着替えは大事だ。
特にミルランスは病気で汗をよくかくから汗が冷える前に着替えさせる必要があった。
他にもテントや毛布。
普通の旅ならば木の根でマントにくるまって寝れば良いのだが、ずっと城で育って旅慣れしていない二人の女の子が居たから、少しでも快適な寝床で体力の消耗を防がねばならない。
「ここからモンタアナまで急いで三日……。休憩や不測の事態を考えれば五日は掛かるか?」
五日……この日数をミルランスの体力は持つだろうか?
しかし考えている時間は無かった。
何にせよモンタアナに行かねばならない。
それしか手は無かった。
そんな事をハルアーダが考えていると、ふと、森の中を何かが近付いてくるのに気付く。
耳をすませば、鎧や剣が擦れる鉄の音が聞こえてきた。
ハルアーダは眼が良い。
エルフの血を引いているからだろうか?
薄暗い森の中でも遠方より近付いてくる人々の姿をハッキリと見る事が出来る。
それはこの辺りの領主、ミョルゼ領ターラーハッタの兵士だ。
「しまった!」
先程、村で騒ぎ過ぎた。
ハルアーダは特徴的な見た目だから、村に潜んでいた領主の密偵に見つかってしまったのだろう。
あるいはハルアーダの見た目が噂になってしまったか。
何にせよ明らかにこの廃屋へと向かってきているのは間違いない。
ハルアーダは急いでミルランスとティタラを起こすと、大急ぎで馬に乗せた。
「あの、ハルアーダ。せめて靴を……」
「靴は後です! 急いでこの場から離れます!」
何が起こっているのか分からないティタラと、熱にうなされているミルランスを乗せてハルアーダは馬を駆けさせる。
これにターラーハッタの兵達は気付き、急いで駆け出した。
その兵の中には四騎の騎兵が居て、ハルアーダを追ってきたのである。
「ターラーハッタはミルランス様派か? ティタラ様派? まあ、どうでもいいか」
ミルランスかティタラの味方か?
そんな事はどうだっていい事だ。
どちらかの敵である以上、つまりはハルアーダの敵なのだ。
ハルアーダは追いくるターラーハッタの兵達を殺しながらモンタアナへと強行した。
こうなるとミルランスの意識が朦朧としていたのは良かったかも知れない。
彼女は人の死というものに敏感だったから目の前で人が死ぬと泣き叫んで暴れたかも知れなかった。
虚ろな目で虚空を眺めて何が起こっているのか理解していなかったから、大人しくしていてくれたのでハルアーダは助かるのだ。
しかし、あまりにもターラーハッタ軍の追撃が激しかったので昼夜を問わない強行となってしまった。
三日の間に百人は殺した事だろう。
「足でまといのガキ二人を連れた騎士一人に何を手間取っているか!」と、兵達を指揮している偉そうな男が喚いていたが、ハルアーダも焦っていた。
ミルランスの体調が悪くなっている。
馬の背と擦れた内腿の皮がめくれて血が流れていた。
ティタラも疲労の限界は近く、「姉様……姉様……」とミルランスを抱きしめたままうわ言を呟くのだ。
急いでモンタアナへ向かわねばならない。
ハルアーダはモンタアナへと向かう渓谷を走った。
涙渓谷。
雨が降ると大量に水が流れ込む事からそのように言われる渓谷である。
「今だ!」
そのように後ろから聞こえた瞬間、渓谷の左右から石が落ちて来た。
ハルアーダはたくみな綱さばきで馬を操る落ちてくる石をかわす。
その地形から落石を警戒していたのである。
「敵地なのだからこの程度は予想していた!」
ハルアーダは馬を跳躍させたが、しかし、その激しい動きにミルランスとティタラが馬からずり落ちそうになった。
「あ!」
これはいかんとハルアーダが馬の手綱使いを失敗してしまう。
その瞬間、横合いから転がってきた石が馬の脚をへし折ってしまった。
ハルアーダは落馬しながらもミルランスとティタラを胸の中へと抱きしめる。
その後、幾らかの石や岩がハルアーダの上に落ちてきたが、ミルランスやティタラを圧死させるつもりが無かったターラーハッタ軍は途中で落石をやめた。
ハルアーダは背中の石をどかして立ち上がる。
右腕があらぬ方向に折れ曲がり、額から流れた血が右眼を塞いだ。
ハルアーダは左腕でミルランスとティタラを抱き締めると、フラフラとしながら渓谷を通り抜けようと歩いた。
幸い、落石が地面を埋めていたから足場が不安定で騎馬が追うことは出来ない。
追手も馬から降りて徒歩で追わなくちゃいけないのだから、まだ逃げ切れるとハルアーダは思った。
すると、渓谷の上から矢が放たれて来たのである。
「その騎士はどうせガキ共を庇う! そのまま背中を射てやれ!」
そのような声を聞いた。
すぐ足元に矢が刺さる。
折れた右腕を矢が抉った。
ハルアーダは痛みに顔をしかめながら、「我が母よ、エルフの創りし偉大なる白銀の鎧よ! どうかこの二人の少女を護り給え! 我を身代わりに我が使命と名誉を護り給え!」と叫んだ。
するとどうであろうか?
放たれた矢は背中に刺さること無く、その鎧に見事に弾かれたのだ。
あたかもハルアーダの想いに応えるかのようであった。
しかし、ハルアーダは限界だった。
涙渓谷を抜けて、その向こうに広がる幾つもの丘を越えようとするが、脚はついに力を失ってハルアーダは倒れてしまう。
見れば、右太ももに三本の矢。
左ふくらはぎに一本の矢が刺さっていた。
それでもハルアーダは歯を食いしばり、ミルランスとティタラを抱き締めて這う。
せめて、せめてこの子達だけでも助けたい。
いいや、助けねばならぬのだ!
その時、ハルアーダが登ろうとしていた丘の上に無数の人影が現れた。
逆光でよく見えないが旗がひるがっている。
ターラーハッタ軍の待ち伏せか?
挟撃にあったのだろうか。
「もはやここまでか……」
ハルアーダは諦めた。
この二人の子のどちらか、あるいは両方とも、殺されてしまうのだろうか?
政治の道具として精神が磨り減るまで使われるのだろうか?
ハルアーダはミルランスとティタラを護れない自分が悔しくて、悔しくて、仕方なかった。
すると、丘の上に立つ者が「そこを行く英雄はどこの者か?」と聞く。
「ワシはミョルゼ領主ターラーハッタ! 卑劣な逆賊を追っている所だ。邪魔だてするねい!」
すると、丘の上の者は大きな声で高笑いを挙げた。
「貴様の名など訪ねていないぞ! ターラーハッタ様の名を勝手に騙る逆賊め!」
「なんだと!? ワシは正真正銘ターラーハッタだぞ! 何を根拠に逆賊というか!」
「ターラーハッタはアーランドラ帝国の忠臣! ならばそこに倒れる『忠義の騎士』を追い立てるものか! ターラーハッタ様の名を騙る卑怯者め、かくなる上はこの“モンタアナ領主ラドウィン”がターラーハッタ様の“名誉の為”に成敗してやろう!」
その名を聞くとハルアーダは顔を上げた。
直後、丘の上から一騎の騎兵が馬を駆けてハルアーダを越え、そのまま追手の軍へと突撃すると、たちまち偉そうにしていたターラーハッタと名乗る男と五人の騎士、それと八人の兵士を斬り殺してしまったのである。
これにターラーハッタ軍は堪らず逃げ出した。
「二度とターラーハッタ様の名を騙るな逆賊め!」と大笑いしながら逃げていく兵の背へ言う男は、馬を返してハルアーダの元へと戻ってくる。
ハルアーダはその顔を良く覚えている。
あの飄々とした笑み。
余裕泰然とした態度。
彼は馬から降りるとハルアーダの肩に手を置いた。
「“あの時”とは、逆の立場になりましたね」
ああ、間違いない。
この男だ。
この男が、ラドウィンだ……。
ハルアーダはなぜか分からないがラドウィンの飄々とした顔を見ると安堵して気絶してしまうのだった。
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隠して忘れていたギフト『ステータスカスタム』で能力を魔改造 〜自由自在にカスタマイズしたら有り得ないほど最強になった俺〜
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能力(スキル)を隠して、その事を忘れていた帝国出身の錬金術師スローンは、無能扱いで大手ギルド『クレセントムーン』を追放された。追放後、隠していた能力を思い出しスキルを習得すると『ステータスカスタム』が発現する。これは、自身や相手のステータスを魔改造【カスタム】できる最強の能力だった。
スローンは、偶然出会った『大聖女フィラ』と共にステータスをいじりまくって最強のステータスを手に入れる。その後、超高難易度のクエストを難なくクリア、無双しまくっていく。その噂が広がると元ギルドから戻って来いと頭を下げられるが、もう遅い。
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スキルで最強神を召喚して、無双してしまうんだが〜パーティーを追放された勇者は、召喚した神達と共に無双する。神達が強すぎて困ってます〜
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勇者に選ばれたライ・サーベルズは、他にも選ばれた五人の勇者とパーティーを組んでいた。
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「おい雑魚、これを持っていけ」
ライがそう言われるのは日常茶飯事であり、荷物持ちや雑用などをさせられる始末だ。
ある日、洞窟に六人でいると、ライがきっかけで他の勇者の怒りを買ってしまう。
怒りが頂点に達した他の勇者は、胸ぐらを掴まれた後壁に投げつけた。
いつものことだと、流して終わりにしようと思っていた。
だがなんと、邪魔なライを始末してしまおうと話が進んでしまい、次々に攻撃を仕掛けられることとなった。
ハーシュはライを守ろうとするが、他の勇者に気絶させられてしまう。
勇者達は、ただ痛ぶるように攻撃を加えていき、瀕死の状態で洞窟に置いていってしまった。
自分の弱さを呪い、本当に死を覚悟した瞬間、視界に突如文字が現れてスキル《神族召喚》と書かれていた。
今頃そんなスキル手を入れてどうするんだと、心の中でつぶやくライ。
だが、死ぬ記念に使ってやろうじゃないかと考え、スキルを発動した。
その時だった。
目の前が眩く光り出し、気付けば一人の女が立っていた。
その女は、瀕死状態のライを最も簡単に回復させ、ライの命を救って。
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これは、雑魚と呼ばれ続けた勇者が、強き勇者へとなる物語である。
※小説家になろうにて掲載中
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