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序章・帝国崩壊編
14、領主、隣国に侵攻される
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アッザムドの残した言葉はアーランドラ帝国に大変な衝撃を与えるに充分であった。
この時期に公記書士ヌースが、アロハンド崩御から大将軍オルモードの反乱までの間の歴史記録を改竄した形跡があるのだが、それは間違いなくアッザムドの残した言葉によるものだろう。
ミルランスとティタラに関する記録を幾らか改竄したものだと思われる。
とにかくそれほどまでにアーランドラ帝国にとって衝撃的な事だったのだ。
さて、しかし、ミルランスとティタラが皇帝では無いとして、弟帝アッザムドとナリア王妃との間に出来た子の行方が肝要である。
そもそもその子がどんな人物か誰も知らない。
知っているとしたら、その子が生まれ育った後宮の側室や女官達だ。
だが、後宮の女性は殆どが若い女である。
子を成さなかった側室は二十五歳頃に基本的に多額の謝礼金を貰って後宮を出された。
これは、結局の所、若いほど子を産むのに都合が良いのと若さを失ってから後宮を追い出すのはあまりに可哀想だという判断によるものだ。
例外として正室が身の回りの世話をして欲しいと許可した者だけが女官として後宮に居られたが、それはあくまで例外である。
時には、若い女性より大人な成熟さを好む皇帝もいたが、この決まりは彼女たち自身の人生のためにも絶対の決まりだった。
つまり、アッザムドの子は時系列で考えるとおよそ四十年前に生まれていた事になるので、当時の事を知る後宮の女は殆ど居ない事となる。
なにせ当時の正室であるナリアは既に追放されていて行方知らずなのだ。
そして当時の事を知る数少ない老いた女官は皆、今回の反乱で後宮を襲った兵達によって殺されていたのである。
それでは公記から近衛騎士の記録を洗い出してはどうだろうか?
城に収められた蔵書を、宰相派、大将軍派の別なく人手を掻き集めてひっくり返した。
そうして、アッザムドの子が近衛騎士を勤めていただろう三十年前から二十年前までの当時の近衛騎士の名が載せられている者、およそ三百八十人。
その中からミルランスが産まれた頃の十三年ほど前に除隊した者達を洗い出す。
その数、およそ五十名。
近衛騎士は手柄を立てやすい反面、求められる実力が高くて、能力が見合わないと判断されるとすぐに近衛騎士から普通の騎士へとされてしまう。
だから、年間を通して除隊されている者の数は多いのだ。
特にアロハンドは苛烈で独権的な人間だったから怒りに任せて人を辞めさせる事が多かった。
だから彼がどういった理由で近衛騎士を辞めさせたのか分からない人も多い。
その中から個人の経歴を洗い流して、近衛騎士になる前と除隊後の経歴があやふやな者を見つけ出す。
そうして、およそ一週間をかけて纏めあげた人は五人。
その五名を皇帝の血を引く者だと判断して、その行方を探させた。
カルシオスとオルモードがここまで皇帝を探すのには理由がある。
もちろんの事だが、彼らが皇帝に使える臣下だからという殊勝な理由では無い。
まず、彼ら自身の権力は皇帝がいて初めて機能する権力である。
いわば、皇帝がいなければ肩書きの正当性が無かった。
もう一つ、今回の混乱でどさくさに紛れて独立した領主達である。
彼らが独立を宣言した理由は一つ「宰相と大将軍は皇帝陛下を自分達の地位と名誉の道具にしか見ておらず、皇帝陛下が行方不明の今、そのような人達に仕えたくない」ということなのだ。
つまり、独立を宣言して者達はその正当性として、あくまでも皇帝陛下の臣下だと主張していたのである。
ただ、宰相と大将軍こそが皇帝陛下に無礼を働く逆賊だとして独立したのだ。
このような主張を否定しきれない負い目を、宰相カルシオスも大将軍オルモードも持っていたから、彼らを御する為にも皇帝の血を引く者を擁立する必要があったのである。
一方、その独立した者の中には、身分の不詳な者を擁立して「この者こそが皇帝の血を引くものだ」と言い出す者や、「俺こそが皇帝の縁戚に当たり、その正当性を持つ者」と主張するものまで居た。
我こそが権力を手中にするぞと意気込む諸侯による、かつてない大戦国時代が開幕するのである。
そして、その余波はモンタアナにもやって来た。
ある日、モンタアナから四つの村を隔てたタ・トゥス町の領主タンドスから使者がやって来たのである。
タンドスはモンタアナの隣に広がる領土ミョルゼを併呑していた。
元々ミョルゼ領主はターラーハッタという男だが、ターラーハッタはハルアーダを追撃しようとしてラドウィンに首を斬られて死んだ。
そのターラーハッタ亡き後、彼の配下がその領土を争い、その争いを見事に治めたのがタ・トゥス町領主タンドスであった。
タンドスはその戦いで兵を大量に雇用したり、降参した兵を迎え入れたりしたのだが、戦争で土地は荒れ果てているし戦いで食糧の備蓄の殆どを消費してしまったのだ。
これでは、独立した他の領主達と戦う事は出来ない。
そこでモンタアナの裕福な土地に目を付け、傘下に入るよう使者を寄越したのだ。
ラドウィンはいつも通り、使者に対して村の入口で対応すると「そうですね。考えさせていただきます」と答えて帰そうとした。
しかし、その使者はせせら笑い「我が主をそのような侮った態度を取れる相手だと思うな。皇帝陛下は帝都から離れた貴様をわざわざ相手にしなかっただろうが我が主は貴様を許さんぞ」と脅しこんだ。
これにラドウィンは困りましたねえと笑うと、「では、食糧を差し上げる代わりに何をしてくれるのですか?」と聞く。
だが、タンドスは最初からモンタアナの豊かな土地と備蓄が欲しいから『支配下』に置きたいだけで、対等な駆け引きなど望んでいない。
「タンドス様は一都市、二町、八村を治めておいでだ。その総戦力はこんな町一つ簡単に消せるのだぞ?」
「そうなると畑も備蓄も消えてしまいますね」
ラドウィンが飄々とした笑みを浮かべて指摘すると、使者は歯噛みして睨みつけた。
確かに、戦争で領内の田畑が荒れたから土地を欲しがっているのに、その欲しい土地で戦争する訳にもいくまい。
使者は歯噛みしてこの生意気な若造を睨み付けた。
怒りに唇を震わせて、目をハッたと見開いて「なるほど。たしかにその通りに思えますな」と怒りを抑えながら言う。
正直、このような片田舎の若造が従わないのは許し難いが、使者の一存で決められぬ事態でもあった。
使者は怒りをグッと堪えるとモンタアナを後にしたのである。
ラドウィンはいつも通りの穏やかな笑みを携えたまま顎に手を当てて、さてどうしようかと考えながら屋敷へと帰ろうかと思う。
そうして振り向いた所、村の入り口にある大きなオークの木の影に誰かが隠れているのに気付いた。
「立ち聞きですか? ハルアーダさん」
ラドウィンが言うと、オークの大きな幹から顔をムッツリと不機嫌そうにしているハルアーダが現れる。
不機嫌そうといってもハルアーダはいつもしかめつらなので、ラドウィンはいつものにこやかな笑顔で「もっと笑顔の方が楽しいですよ」と言いながらすれ違おうとした。
「戦うのか?」
そんなラドウィンにハルアーダが聞く。
「まあ……戦う事になりますでしょうね」
「正気か? この村にどれだけ兵がいるというのだ」
ハルアーダはラドウィンが従わなかった事を信じられなかった。
この村には戦う事を専門に鍛え上げられた兵がいない。
治安維持に関わる民はいたが、それでも戦いに繰り出すにはあまりに稚拙であった。
「ですがね、彼に従ってたら骨の髄までしゃぶられますね。どうせ終わらない戦いで食べ物を不必要に使い続けるだけなのですから従う訳にはいきません」
ラドウィンはいつもの笑みを浮かべている。
ハルアーダは楽観的に笑うラドウィンに腹が立った。
ラドウィンの胸ぐらを掴んでオークの木へと叩きつけると「ミルランス様とティタラ様を巻き込むのか!」と怒鳴る。
ハルアーダが気にする事は一つ。
ミルランスとティタラが戦火に巻き込まれる事であった。
このような考え無しの楽観主義者に大事な二人が危険に晒されるのは許し難い事である。
が、ラドウィンはニコリと笑って「だからハルアーダ様は僕に協力せねばなりませんね」と言うのだ。
ハルアーダは毒気を抜かれてラドウィンから手を離した。
「私が戦いに出ると踏んだか」
そうだ。
戦火がモンタアナに及び、ミルランスとティタラが巻き込まれかねないとしたら、ハルアーダも出陣せねばならない。
ラドウィンはハルアーダを利用する気なのだ。
やはりしたたかで油断ならぬ男だとハルアーダは思いながら、「ならば私も恩返し代わりにこの村の為、戦いましょう」と言う。
「しかし」
ハルアーダは前置きした。
「私が加わった所でタンドスなる者の軍に勝てる戦力にはなりますまい。策略はおありかな?」
「もちろん! ハルアーダ様が我が配下に加わって下さるならば一万の大兵を手に入れたも同然!」
ラドウィンの飄々とした笑みはイタズラでも思いついた子供のように無邪気で邪悪な二律背反する悪巧みの笑みへと変わるのである。
それから三日後、タンドス軍の兵士二千がモンタアナへと向かった。
率いるはタンドス腹心の政治家であったダーグル。
率いているのが軍人武人では無く政治家なのは、モンタアナなど何一つ指揮せずとも数の暴力で屈服できると考えたからだ。
そして、重要なのは武力制圧した後に村人達をタンドスへ心服させる事だと考えたからでもある。
だから、ダーグルは行軍のさなかであっても、戦略の事は一切考えずに制圧後の統治をどうしようかと考えたのである。
「優しく諭すか? 威圧して恐れさせようか?」
制圧後の最初が大事だ。
最初が上手くいけば村の一つくらい簡単に搾取できる。
そのための手段をダーグルは考えながら、森の中を歩いていた。
間もなく涙渓谷へと通ろうかという森だ。
その日はその涙渓谷の前で夜を越して、翌朝に渓谷を越える事にする。
少し開けた場所にダーグル用のテントを張らせて、二千の兵がそれぞれ木の根を枕に寝た。
自分ばっかりテントで寝やがって。なんて兵達は悪態をついたが、その日は少し涼しい風の吹く夜で少し快適な事もあり、すぐに誰もが眠りにつく。
虫の音はなかった。
微かに葉っぱの揺れる音が聞こえるだけだ。
時は経ち深夜、月は薄い三日月。
月明かりは殆ど無く、夜の闇は深いものだ。
最初、異常に気付いたのはキルムという一兵卒である。
彼は同僚に足音が聞こえたと揺り動かしたが、明日は朝早い事もあって誰も起きなかった。
田舎から槍働きで英雄になる事を夢見て兵になった彼は、もしも敵が来たらと考えて槍を持ち、森の中へと進んだ。
すると、森の闇から手が伸びてキルムを掴むと闇の中へと引きずりこんでしまった。
少しだけキルムが抵抗する物音はしたが、すぐに静かになった。
静寂が闇を再び支配する。
少しして、カサカサと足音が兵士達へと近付いていった。
森の中を五十人程の影が進んでいく。
先頭を走る一際大きな体躯の者が、突然、大きく叫んだ。
そうして、一抱えはありそうな岩を目に余る怪力で持ち上げると、テントへ向けて投げたのである。
咆哮に兵達が跳ね起き、テントで寝ていたダーグルもまた驚いてその身を起こした。
直後、大きな岩がテントの骨をへし折り、テントの布を巻き込みながら先ほどまでダーグルの頭があった場所へと落ちてきたのである。
これにダーグルは驚き困惑しながらテントから這い出た。
「蛮族だあ!」
誰かが叫んだ。
そこかしこで「蛮族だ! 蛮族が出たぞ!」と兵達が叫んでいる。
そして、蛮族と思わしき長身の人影が兵達を襲っていた。
ダーグルは「火をつけぬか! 明かりをつけぬかあ!」と喚いたが森の暗闇を逃げ惑う二千の兵達は混乱しきっていて、明かりも付けずに右往左往するばかり。
「これだから学の無い者共は嫌なのだ!」
ダーグルは悪態をつきながら、地面に落ちていた誰かのバッグをひっくり返す。
バラバラ落ちた荷物の中から松明と小さなカバンを引っ張り出した。
ポシェットじみた小さなカバンには種火が入っていて、松明の先端に巻かれていた油の染み込んでいる布キレへと火をつける。
「さあ明かりだ! 冷静に蛮族どもを追い払――」
松明を手に立ち上がったダーグルは言葉を失う。
なぜならば、目の前にとても高い身長で筋骨隆々とした人が立っていたからだ。
ダーグルは「オーガだぁ!」と悲鳴混じりに叫ぶとそのまま逃げ出した。
兵士達もダーグルが手に持っている松明の明かりを頼って一人残らず逃げ出したのである。
こうしてダーグルと二千の兵達が居なくなった。
するとその場に残っていた五十人の蛮族達は、わっと笑いだしたのである。
「おいアーモ! お前がオーガだってよ!」
長身でガタイよい男はオーガでは無い。
モンタアナで木こりをしていた、あのオーガの血を引くと言われる大男だ。
「うぅむ。だか蛮族扱いは皆もされていたぞ」
アーモはオーガ扱いされるのがいささか不服な様子で言う。
確かに、彼以外の男達も総じて高身長であった。
アーモを先頭に高身長な彼らが闇夜を紛れて襲った為、ダーグル達は蛮族の襲撃だと勘違いしたのだ。
襲撃直前の雄叫びと岩石投げも効果的であった。
その結果、彼らは誰一人欠けること無くダーグルの兵達を撤退させたのである。
この時期に公記書士ヌースが、アロハンド崩御から大将軍オルモードの反乱までの間の歴史記録を改竄した形跡があるのだが、それは間違いなくアッザムドの残した言葉によるものだろう。
ミルランスとティタラに関する記録を幾らか改竄したものだと思われる。
とにかくそれほどまでにアーランドラ帝国にとって衝撃的な事だったのだ。
さて、しかし、ミルランスとティタラが皇帝では無いとして、弟帝アッザムドとナリア王妃との間に出来た子の行方が肝要である。
そもそもその子がどんな人物か誰も知らない。
知っているとしたら、その子が生まれ育った後宮の側室や女官達だ。
だが、後宮の女性は殆どが若い女である。
子を成さなかった側室は二十五歳頃に基本的に多額の謝礼金を貰って後宮を出された。
これは、結局の所、若いほど子を産むのに都合が良いのと若さを失ってから後宮を追い出すのはあまりに可哀想だという判断によるものだ。
例外として正室が身の回りの世話をして欲しいと許可した者だけが女官として後宮に居られたが、それはあくまで例外である。
時には、若い女性より大人な成熟さを好む皇帝もいたが、この決まりは彼女たち自身の人生のためにも絶対の決まりだった。
つまり、アッザムドの子は時系列で考えるとおよそ四十年前に生まれていた事になるので、当時の事を知る後宮の女は殆ど居ない事となる。
なにせ当時の正室であるナリアは既に追放されていて行方知らずなのだ。
そして当時の事を知る数少ない老いた女官は皆、今回の反乱で後宮を襲った兵達によって殺されていたのである。
それでは公記から近衛騎士の記録を洗い出してはどうだろうか?
城に収められた蔵書を、宰相派、大将軍派の別なく人手を掻き集めてひっくり返した。
そうして、アッザムドの子が近衛騎士を勤めていただろう三十年前から二十年前までの当時の近衛騎士の名が載せられている者、およそ三百八十人。
その中からミルランスが産まれた頃の十三年ほど前に除隊した者達を洗い出す。
その数、およそ五十名。
近衛騎士は手柄を立てやすい反面、求められる実力が高くて、能力が見合わないと判断されるとすぐに近衛騎士から普通の騎士へとされてしまう。
だから、年間を通して除隊されている者の数は多いのだ。
特にアロハンドは苛烈で独権的な人間だったから怒りに任せて人を辞めさせる事が多かった。
だから彼がどういった理由で近衛騎士を辞めさせたのか分からない人も多い。
その中から個人の経歴を洗い流して、近衛騎士になる前と除隊後の経歴があやふやな者を見つけ出す。
そうして、およそ一週間をかけて纏めあげた人は五人。
その五名を皇帝の血を引く者だと判断して、その行方を探させた。
カルシオスとオルモードがここまで皇帝を探すのには理由がある。
もちろんの事だが、彼らが皇帝に使える臣下だからという殊勝な理由では無い。
まず、彼ら自身の権力は皇帝がいて初めて機能する権力である。
いわば、皇帝がいなければ肩書きの正当性が無かった。
もう一つ、今回の混乱でどさくさに紛れて独立した領主達である。
彼らが独立を宣言した理由は一つ「宰相と大将軍は皇帝陛下を自分達の地位と名誉の道具にしか見ておらず、皇帝陛下が行方不明の今、そのような人達に仕えたくない」ということなのだ。
つまり、独立を宣言して者達はその正当性として、あくまでも皇帝陛下の臣下だと主張していたのである。
ただ、宰相と大将軍こそが皇帝陛下に無礼を働く逆賊だとして独立したのだ。
このような主張を否定しきれない負い目を、宰相カルシオスも大将軍オルモードも持っていたから、彼らを御する為にも皇帝の血を引く者を擁立する必要があったのである。
一方、その独立した者の中には、身分の不詳な者を擁立して「この者こそが皇帝の血を引くものだ」と言い出す者や、「俺こそが皇帝の縁戚に当たり、その正当性を持つ者」と主張するものまで居た。
我こそが権力を手中にするぞと意気込む諸侯による、かつてない大戦国時代が開幕するのである。
そして、その余波はモンタアナにもやって来た。
ある日、モンタアナから四つの村を隔てたタ・トゥス町の領主タンドスから使者がやって来たのである。
タンドスはモンタアナの隣に広がる領土ミョルゼを併呑していた。
元々ミョルゼ領主はターラーハッタという男だが、ターラーハッタはハルアーダを追撃しようとしてラドウィンに首を斬られて死んだ。
そのターラーハッタ亡き後、彼の配下がその領土を争い、その争いを見事に治めたのがタ・トゥス町領主タンドスであった。
タンドスはその戦いで兵を大量に雇用したり、降参した兵を迎え入れたりしたのだが、戦争で土地は荒れ果てているし戦いで食糧の備蓄の殆どを消費してしまったのだ。
これでは、独立した他の領主達と戦う事は出来ない。
そこでモンタアナの裕福な土地に目を付け、傘下に入るよう使者を寄越したのだ。
ラドウィンはいつも通り、使者に対して村の入口で対応すると「そうですね。考えさせていただきます」と答えて帰そうとした。
しかし、その使者はせせら笑い「我が主をそのような侮った態度を取れる相手だと思うな。皇帝陛下は帝都から離れた貴様をわざわざ相手にしなかっただろうが我が主は貴様を許さんぞ」と脅しこんだ。
これにラドウィンは困りましたねえと笑うと、「では、食糧を差し上げる代わりに何をしてくれるのですか?」と聞く。
だが、タンドスは最初からモンタアナの豊かな土地と備蓄が欲しいから『支配下』に置きたいだけで、対等な駆け引きなど望んでいない。
「タンドス様は一都市、二町、八村を治めておいでだ。その総戦力はこんな町一つ簡単に消せるのだぞ?」
「そうなると畑も備蓄も消えてしまいますね」
ラドウィンが飄々とした笑みを浮かべて指摘すると、使者は歯噛みして睨みつけた。
確かに、戦争で領内の田畑が荒れたから土地を欲しがっているのに、その欲しい土地で戦争する訳にもいくまい。
使者は歯噛みしてこの生意気な若造を睨み付けた。
怒りに唇を震わせて、目をハッたと見開いて「なるほど。たしかにその通りに思えますな」と怒りを抑えながら言う。
正直、このような片田舎の若造が従わないのは許し難いが、使者の一存で決められぬ事態でもあった。
使者は怒りをグッと堪えるとモンタアナを後にしたのである。
ラドウィンはいつも通りの穏やかな笑みを携えたまま顎に手を当てて、さてどうしようかと考えながら屋敷へと帰ろうかと思う。
そうして振り向いた所、村の入り口にある大きなオークの木の影に誰かが隠れているのに気付いた。
「立ち聞きですか? ハルアーダさん」
ラドウィンが言うと、オークの大きな幹から顔をムッツリと不機嫌そうにしているハルアーダが現れる。
不機嫌そうといってもハルアーダはいつもしかめつらなので、ラドウィンはいつものにこやかな笑顔で「もっと笑顔の方が楽しいですよ」と言いながらすれ違おうとした。
「戦うのか?」
そんなラドウィンにハルアーダが聞く。
「まあ……戦う事になりますでしょうね」
「正気か? この村にどれだけ兵がいるというのだ」
ハルアーダはラドウィンが従わなかった事を信じられなかった。
この村には戦う事を専門に鍛え上げられた兵がいない。
治安維持に関わる民はいたが、それでも戦いに繰り出すにはあまりに稚拙であった。
「ですがね、彼に従ってたら骨の髄までしゃぶられますね。どうせ終わらない戦いで食べ物を不必要に使い続けるだけなのですから従う訳にはいきません」
ラドウィンはいつもの笑みを浮かべている。
ハルアーダは楽観的に笑うラドウィンに腹が立った。
ラドウィンの胸ぐらを掴んでオークの木へと叩きつけると「ミルランス様とティタラ様を巻き込むのか!」と怒鳴る。
ハルアーダが気にする事は一つ。
ミルランスとティタラが戦火に巻き込まれる事であった。
このような考え無しの楽観主義者に大事な二人が危険に晒されるのは許し難い事である。
が、ラドウィンはニコリと笑って「だからハルアーダ様は僕に協力せねばなりませんね」と言うのだ。
ハルアーダは毒気を抜かれてラドウィンから手を離した。
「私が戦いに出ると踏んだか」
そうだ。
戦火がモンタアナに及び、ミルランスとティタラが巻き込まれかねないとしたら、ハルアーダも出陣せねばならない。
ラドウィンはハルアーダを利用する気なのだ。
やはりしたたかで油断ならぬ男だとハルアーダは思いながら、「ならば私も恩返し代わりにこの村の為、戦いましょう」と言う。
「しかし」
ハルアーダは前置きした。
「私が加わった所でタンドスなる者の軍に勝てる戦力にはなりますまい。策略はおありかな?」
「もちろん! ハルアーダ様が我が配下に加わって下さるならば一万の大兵を手に入れたも同然!」
ラドウィンの飄々とした笑みはイタズラでも思いついた子供のように無邪気で邪悪な二律背反する悪巧みの笑みへと変わるのである。
それから三日後、タンドス軍の兵士二千がモンタアナへと向かった。
率いるはタンドス腹心の政治家であったダーグル。
率いているのが軍人武人では無く政治家なのは、モンタアナなど何一つ指揮せずとも数の暴力で屈服できると考えたからだ。
そして、重要なのは武力制圧した後に村人達をタンドスへ心服させる事だと考えたからでもある。
だから、ダーグルは行軍のさなかであっても、戦略の事は一切考えずに制圧後の統治をどうしようかと考えたのである。
「優しく諭すか? 威圧して恐れさせようか?」
制圧後の最初が大事だ。
最初が上手くいけば村の一つくらい簡単に搾取できる。
そのための手段をダーグルは考えながら、森の中を歩いていた。
間もなく涙渓谷へと通ろうかという森だ。
その日はその涙渓谷の前で夜を越して、翌朝に渓谷を越える事にする。
少し開けた場所にダーグル用のテントを張らせて、二千の兵がそれぞれ木の根を枕に寝た。
自分ばっかりテントで寝やがって。なんて兵達は悪態をついたが、その日は少し涼しい風の吹く夜で少し快適な事もあり、すぐに誰もが眠りにつく。
虫の音はなかった。
微かに葉っぱの揺れる音が聞こえるだけだ。
時は経ち深夜、月は薄い三日月。
月明かりは殆ど無く、夜の闇は深いものだ。
最初、異常に気付いたのはキルムという一兵卒である。
彼は同僚に足音が聞こえたと揺り動かしたが、明日は朝早い事もあって誰も起きなかった。
田舎から槍働きで英雄になる事を夢見て兵になった彼は、もしも敵が来たらと考えて槍を持ち、森の中へと進んだ。
すると、森の闇から手が伸びてキルムを掴むと闇の中へと引きずりこんでしまった。
少しだけキルムが抵抗する物音はしたが、すぐに静かになった。
静寂が闇を再び支配する。
少しして、カサカサと足音が兵士達へと近付いていった。
森の中を五十人程の影が進んでいく。
先頭を走る一際大きな体躯の者が、突然、大きく叫んだ。
そうして、一抱えはありそうな岩を目に余る怪力で持ち上げると、テントへ向けて投げたのである。
咆哮に兵達が跳ね起き、テントで寝ていたダーグルもまた驚いてその身を起こした。
直後、大きな岩がテントの骨をへし折り、テントの布を巻き込みながら先ほどまでダーグルの頭があった場所へと落ちてきたのである。
これにダーグルは驚き困惑しながらテントから這い出た。
「蛮族だあ!」
誰かが叫んだ。
そこかしこで「蛮族だ! 蛮族が出たぞ!」と兵達が叫んでいる。
そして、蛮族と思わしき長身の人影が兵達を襲っていた。
ダーグルは「火をつけぬか! 明かりをつけぬかあ!」と喚いたが森の暗闇を逃げ惑う二千の兵達は混乱しきっていて、明かりも付けずに右往左往するばかり。
「これだから学の無い者共は嫌なのだ!」
ダーグルは悪態をつきながら、地面に落ちていた誰かのバッグをひっくり返す。
バラバラ落ちた荷物の中から松明と小さなカバンを引っ張り出した。
ポシェットじみた小さなカバンには種火が入っていて、松明の先端に巻かれていた油の染み込んでいる布キレへと火をつける。
「さあ明かりだ! 冷静に蛮族どもを追い払――」
松明を手に立ち上がったダーグルは言葉を失う。
なぜならば、目の前にとても高い身長で筋骨隆々とした人が立っていたからだ。
ダーグルは「オーガだぁ!」と悲鳴混じりに叫ぶとそのまま逃げ出した。
兵士達もダーグルが手に持っている松明の明かりを頼って一人残らず逃げ出したのである。
こうしてダーグルと二千の兵達が居なくなった。
するとその場に残っていた五十人の蛮族達は、わっと笑いだしたのである。
「おいアーモ! お前がオーガだってよ!」
長身でガタイよい男はオーガでは無い。
モンタアナで木こりをしていた、あのオーガの血を引くと言われる大男だ。
「うぅむ。だか蛮族扱いは皆もされていたぞ」
アーモはオーガ扱いされるのがいささか不服な様子で言う。
確かに、彼以外の男達も総じて高身長であった。
アーモを先頭に高身長な彼らが闇夜を紛れて襲った為、ダーグル達は蛮族の襲撃だと勘違いしたのだ。
襲撃直前の雄叫びと岩石投げも効果的であった。
その結果、彼らは誰一人欠けること無くダーグルの兵達を撤退させたのである。
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この瓦礫に埋もれた城に、世界で唯一無二の不思議な銀眼を持つ男は夢も希望も埋めて、その謎と共に朽ち果てるつもりでいた。
しかし、運命のいたずらか、彼のもとに素晴らしき仲間が集う。
彼らの力を借り、様々な種族と交流し、呪われた大地の原因である未踏遺跡の攻略を目指す。
その過程で遺跡に眠っていた世界の秘密を知った。
遺跡の力は世界を滅亡へと導くが、彼は銀眼と仲間たちの力を借りて立ち向かう。
様々な苦難を乗り越え、左遷王と揶揄された若き青年は世界に新たな道を示し、本物の王となる。
スキルで最強神を召喚して、無双してしまうんだが〜パーティーを追放された勇者は、召喚した神達と共に無双する。神達が強すぎて困ってます〜
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勇者に選ばれたライ・サーベルズは、他にも選ばれた五人の勇者とパーティーを組んでいた。
ところが、勇者達の実略は凄まじく、ライでは到底敵う相手ではなかった。
「おい雑魚、これを持っていけ」
ライがそう言われるのは日常茶飯事であり、荷物持ちや雑用などをさせられる始末だ。
ある日、洞窟に六人でいると、ライがきっかけで他の勇者の怒りを買ってしまう。
怒りが頂点に達した他の勇者は、胸ぐらを掴まれた後壁に投げつけた。
いつものことだと、流して終わりにしようと思っていた。
だがなんと、邪魔なライを始末してしまおうと話が進んでしまい、次々に攻撃を仕掛けられることとなった。
ハーシュはライを守ろうとするが、他の勇者に気絶させられてしまう。
勇者達は、ただ痛ぶるように攻撃を加えていき、瀕死の状態で洞窟に置いていってしまった。
自分の弱さを呪い、本当に死を覚悟した瞬間、視界に突如文字が現れてスキル《神族召喚》と書かれていた。
今頃そんなスキル手を入れてどうするんだと、心の中でつぶやくライ。
だが、死ぬ記念に使ってやろうじゃないかと考え、スキルを発動した。
その時だった。
目の前が眩く光り出し、気付けば一人の女が立っていた。
その女は、瀕死状態のライを最も簡単に回復させ、ライの命を救って。
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そして、このスキルを発動すれば神を自由に召喚出来るらしく、他の三大神も召喚するがうまく進むわけもなく......。
これは、雑魚と呼ばれ続けた勇者が、強き勇者へとなる物語である。
※小説家になろうにて掲載中
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