ボク地方領主。将来の夢ニート!

アイアイ式パイルドライバー

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1章・戦火繚乱編

47、憤怒にて

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 アーモの馬車が進む。

 月も遮る森の木々を縫うように進んだ。

 かなりの速度であったが、アーモは恐ろしい程に夜目が利いたので木の根が全くない道を進めた。

 やがて日が昇る時分になれば、相当にモンタアナから離れていたので馬をゆっくりと進める事にする。

 アーモは背後のホロをめくって、ラドウィンとミルランスの様子を確認した。

 なるべく馬車が揺れない平坦な道を選んだが、少々乱暴な走りで間違いがあったら大変だと思う。

 だけど、二人は変わらない様子。

「森は抜けたかな?」

 ラドウィンがミルランスの頭を撫でながら聞く。

「はい。何とか抜けました。モンタアナもだいぶ遠くなので、しばらくはゆっくりと走れそうですよ」

 そのように言うアーモへ、ラドウィンはそろそろ寝た方が良いのでは無いかと聞いた。

 アーモは夜通し馬を駆けたのだ。
 馬の足を休める為に短期的な休憩はとったが、睡眠時間は設けていなかった。
 疲労しているだろう。

 そう思われたが、彼はタフな男であった。

 心配ご無用と馬をゆっくりと歩かせる。

 この時彼らが居たのはモンタアナから西南方に位置するダイケンが間近である。

 しかし、ダイケンの兵にラドウィンを見られたく無かった。
 ラドウィン麾下でラクペウスの大戦へ従事した事があり、ラドウィンの顔をよく知っている兵が居るからだ。
 
 今はまだ事情を知らないダイケンの兵たちと言えども、ラドウィンの姿を見られると後の手掛かりとなってしまう。
 なので、アーモは馬を南方へと迂回させた。

 さて、どうしたものか。

 地図を広げて眺める。

 十六ヶ月で分けられる一年の、六月の風は暖かい。
 緑の大地に色とりどりの花が静かに揺らめく。
 蝶々がアーモの鼻先をヒラヒラ舞い踊って擦れ違う。

 できる限り大きな集落は避けなければいけない。
 小さな村落程度ならラドウィンの事を知らないから、そういった村落を回って動く必要があった。

 アーモは地図を見て最寄りの村が山間にある事に気付き、そこへ向かうことにする。

 馬車を走らせてなだらかな山道を往く。

 オンロッド山と呼ばれ、周囲に大小の山岳が密集していた。

 南にクヮンラブル河を望み、北と東西には平地が広がる。
 古の時代には要塞を中心とした集落が山間にあったが、今ではその頃の名残の小さな村があるだけだ。

 山を進んでいくと途中、切り立った大きな崖があって、アーモは桟道を進んだ。

 馬車一台がやっと通れる桟道である。

 そのような道を進んでいると、前から三人ほどの人がやって来た。

「すいませんが、こちらは馬車なのでそちらが引き返してくれませんか?」

 アーモが三人の人に聞くと、むしろ三人は横いっぱいに広がって通せんぼをしたのである。

 一人は槍を、残りの二人はナイフを持ち、ニヤニヤと笑っていた。

 山賊というものだ。

 賊同士の縄張り争いに負けた連中は新たな縄張りを求めて動き、治安の良好なラドウィン領でさえ、こういった輩が流れ着いていた。

 彼らの目当ては荷物だ。

 だが荷台に居るのはラドウィンとミルランスだけで値打ちの荷物なんてない。

 アーモは荷台に人しか居ないから渡せる荷物は無いと伝えたが当然ながら信じてくれなかった。

 アーモがホロの隙間から荷台を見る。

 ラドウィンは何かあったのかと心配げにしていたが、「賊ですが、俺がなんとかします」と言ってアーモが御者台から降りた。

 アーモ自身は争い事を好まない性格だったが、自分の力がいかに強いかを理解している。
 少なくとも、他の賊に縄張りを追いやられたこの程度の連中に負ける事は無いだろうと思った。

 それでアーモが大地に立つと、今まで縮こめていたその体が大きく伸び上がるのだ。

 男達はその巨躯を前に戦慄し、顔を青ざめて怯えた。

 だが、彼らには一つの作戦があって、その作戦の為に動く訳にはいかなかった。

 動くなとアーモに命じた男達だが、アーモは無視して両手を構えると男達に歩み寄る。

 その時、頭上からゴロンゴロンと重たい何かが転がる音がしたのでアーモが見上げると、巨岩が転がり落ちて来ていた。

 岩が落ちて来た地点には人影が見える。

 この男達は腕に覚えが無かったが、実は四人目が居て、アーモのように反抗して来た時には岩を転がして倒そうという計画があった。

 ところが、アーモは全く恐れずに前へ出てきた為に、岩の軌道とズレていたのである。
 かわりに、岩は停車していた馬車へと真っ直ぐ向かった。

 あ! とアーモがその軌道に気付いた時には遅い。

 馬が大岩に驚いていなないた直後、回転する岩が派手な音を立てて馬車にぶつかってしまったのだ。

 馬車が馬ごと崖下に転落する。

 アーモはその様子を呆然と見ていた。

 馬車は崖の岩に何度か打ち付けられながら、崖底へと小さくなる。

 ラドウィンとミルランスも、当然ながら崖の底へと落ちてしまった。

 男達は崖上の男に向かって「馬鹿野郎! 馬車に当てやがって!」と怒鳴っている。

「し、仕方ねえだろ。元々無理があった計画だよ」

 崖の上に居る男が反論していた。

 その時だった、崖上に向かって石が飛んだのである。
 その石は鷹が飛び上がるように速く、崖上の男が「あ」と呟くやいなや、その顔面を貫き、ピンクの脳漿が壁に芸術的模様を散らした。

 石を投げたのはアーモである。

 歯を食いしばり、唇を怒りに開いて、眉根に皺を寄せて睨みつけるアーモ。
 そこには、気は優しくて力持ちな気弱な男の姿は無かった。

 むしろ、激しい怒りに身を委ねる姿は蛮族そのままである。

 オークだ。悪鬼だ。

 アーモは初めて激しい怒りを身に纏った。

 アーモはラドウィンより少し年上で、ラドウィンとの出会いはアーモにとって幸運なものであった。

 アーモはまだラドウィンが子供の頃に出会ったのである。
 その頃のアーモはまだ小さな開拓村からだいぶ離れた森の中で暮らしていた。

 森の向こうから故郷を追われてやって来たアーモは時々、山菜を持って村に来ては物々交換で暮らしている。
 そんなアーモを人々は得体の知れない奴だと恐れて、きっとオークとの混血に違いないなどと噂しては討伐すべきだと話し合った。

 そんな折にアーモの元へやって来たのがまだ悪ガキと言うのが相応しいラドウィンである。

 ラドウィンはアーモの元へとやって来ると「オークの混血って聞いたけど、人じゃないか」と落胆したものだ。

「オークと飲み仲間になれたら、凄い事だと思わないか? だから酒を飲みに来たんだよ」

 小さい頃のラドウィンはよく酒を飲んだ。
 彼はアーモに酒を一杯寄越すと、気弱な男だと評した。

 気弱だから、こうやって森に隠れているのだろうと、まさに適切な評価をアーモに下した。

 それでラドウィンはアーモは友達なのだから村の連中を説得してやろうと提案する。
 アーモはいきなり村の人たちに迎えられるだなんて思わなくて断ろうとしたが、ラドウィンは酒だけ置いて村へと戻ってしまった。

 そうして、アーモは自分の友達だから村で暮らしても良いだろうと父や村人達を説得し、アーモは村の一員として認められる事となったのである。

 アーモがモンタアナ村で人間らしい暮らしがあったのはラドウィンのおかげと言えよう。

 なのに、そのラドウィンか死んでしまった。
 崖下へと大岩で突き落とされてしまったのだ。

 アーモは生まれて初めて、この男達か憎かった。

「許さんぞ。お前達。絶対に」

 その怒気に男達は驚き、逃げ出そうと背を向けた。

 最後尾に居た男は、アーモが一跳足に飛んで、両足でその頭を蹴るので頭が吹き飛んで絶命する。

 次の男は首根っこを掴まれた。
 命乞いをしたが、アーモが雄叫びを上げるのでその声に命乞いは掻き消される。

 そのまま岩壁に叩き付けられた。
 次に地面に叩き付けられた。

 アーモは残る一人を追いながら、デタラメに手に持つ男を振り回した。

 五度打ち付けられた時点ではまだ生きていて、呻いている。
 手足はおかしな方向に曲がって、鼻や口、耳から血が流れていたが、まだ何とか生きてはいた。
 もっとも、早く死んだ方が楽であったのは間違いない。

 結局、十回近く岩壁と地面に叩き付けられた男は手足が吹き飛んで、頭の位置も定かではないボロ布となって果てた上に服の襟が裂けてその体がどこかへ吹き飛んだ。

 最後の一人はもっと悲惨だった。

 髪の毛を掴まれて思い切り引かれたのだが、アーモの力が強過ぎて頭皮ごと抉れてしまう。

 男は悲鳴を上げながら頭蓋骨の見える頭から血を流し逃げていく。
 次にアーモが男の腕を掴んで引いたところ、やはり力が強過ぎて腕が千切れた。

 同時に男の体は軽々と宙を飛び、崖へと落下してしまう。
 崖の途中に岩が出っ張っていたので、そこに上手い具合に引っかかったまでは良かった。
 頭部を打ってしまい、頭骨が割れる。

 そこにどこからともなくハゲタカがやって来た男の頭をつついた。

「あ゛!」

 つつかれるたびに手足がビクビクと跳ね回る。

 残酷な仕打ちである。
 だが、その様子を見たアーモは怒りが少しだけ収まった。

 深く呼吸し、何とか気分を落ち着けると、ラドウィンとミルランスの遺体を回収しようと考えた。

 谷間へと降りられそうな道を探しながら先へ進む。
 中々に切り立った崖の為、下へと降りるのは難しい。
 
 早くラドウィンとミルランスの遺体を回収しようと足早に歩きながら、降りられる場所を探した。

 何とか谷の底へと到着したのは日暮れ頃だ。

 微かな水が流れているその渓谷を戻り、アーモはラドウィン達の落ちた場所を目指した。

 真っ赤な太陽が完全に顔を隠す前に遺体を回収して山間の村へと到着せねば、狼の群れに出くわすかも知れない。
 なので少々急いで馬車の残骸のある地点に到着した。

 馬車の残骸は酷いものであった。

 木片がそこらに散らばり、馬には木が刺さって首が折れている。

 ところが、一つだけ不思議な事があって、どこにもラドウィンとミルランスの遺体が無かったのだ。

 アーモは日が沈み、そしてまた日が昇るまでラドウィンとミルランスの遺体を探したが、二人の姿は見つけられなかった。

 もしかしたら二人とも生きているのでは?

 そんな希望的な観測を抱きつつ、しかし、二人の死は確実なのだと、アーモは絶望の希望の狭間でフラフラとどこかへ歩いて行ってしまった。
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