ボク地方領主。将来の夢ニート!

アイアイ式パイルドライバー

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1章・戦火繚乱編

50、十年後の光

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 十年間、新領主カルチュアが人々に受け入れられるのには十分な時間であった。

 補佐のキルムとは犬猿の仲ではあったが相性は良かった。
 カルチュアは貴族階級との社交に優れ、実務的な面でキルムがサポートする事でラドウィンの頃と遜色なく領土を治めることが出来たのだ。

 それでも、二人が結婚する事になったのは人々にとって風雲急を告げるものであった。

 どういう経緯かは分からないが、キルムとカルチュアは互いに結ばれる事となったのだ。

 互い違い故に惹かれあったのかも知れない。
 最も、互いに結ばれてなお、二人の口論は絶えなかったという。

 それでも、カルチュアはキルムが戦地へ赴く事があると、彼の帰りを待って身重の体を毎日モンタアナの入り口にまで運んだ。

 そんな夫のキルムだが軍師としての才覚は健在である。

 彼はラドウィンから引き継いだ領土をモンタアナ地方と正式に名付け、クヮンラブル河を越えてカルバーラ地方への侵攻を開始した。

 妻カルチュアの故郷を取り戻す為のものであろう。

 クヮンラブル河での攻防は激化し、互いに死傷者を出しながらも戦線を膠着させるものであった。
 見事にサスパランドを陥落させるのに何度かの休戦を挟みつつ一年かける事となる。

 一年かかり帰ったキルムを愛する妻と、そして産まれた我が子が迎えてくれた。
 キルムは我が子を抱いて大泣きしたという。

 後、サスパランドへカルチュアと産まれた我が子を連れて行き、サスパランドを自領の首都とした。

 これは決して私情によるものでは無く、辺境の地であるモンタアナよりもサスパランドの方が外交的にも経済的にも便利だったからだ。

 同時期、カセイ国が帝都の北方。モンタアナ地方の西端に位置するシンサンへ向かって侵攻してくると、キルムは再び家族と別れてシンサンへと向かった。

 シンサンには元山賊のデビュイが居て、既に援軍として元トルムトの信者シュラが一軍を率いている。

 カセイ国の総大将は国王ザルバール。
 前線指揮官にオルモード。
 また、あのガ・ルスも一軍を率いていた。

 このような強大な戦力にシンサンは野戦を負け続けて籠城を強いられる。

 そこへキルムは到着すると、騎馬部隊の迂回を用いてカセイ国軍を翻弄した。

 シンサンは天嶮の地であったし、密林も多かったために騎馬は地形に隠れて動かす事が出来たのである。

 カセイ国軍はたびたび本陣の後方を脅かされた為にシンサンの包囲を解いて後方へ撤退せねばならなかった。

 その隙にシンサンは補給を整え、カセイ国軍への備えとした。

 これにカセイ国は手間取っていると、南方より敵襲の報せを受ける。

 ルルム地方の雄ハントという領主がカセイ国が北方へ軍を進軍させた報せを聞き付けて、手薄となった帝都を攻めたのだ。

 こうなっては仕方ないとカセイ国はシンサンを引き上げて帝都へと戻るのであった。

 キルムらは何とかカセイ国を凌げて喜ぶ。

 サスパランドへ戻ったキルムは早速、ルルム地方のハントへと手紙を出した。

 それは同盟の手紙だ。

 返事の手紙はすぐに帰って来て、カセイ国と戦う為ならばと同盟は相成った。

 このハントという領主の説明をしよう。

 このハントという男は若い領主だ。
 キルムも若い領主であったが、このハントはもっと若い。
 というのも、ルルム地方を治めていた公爵オットーリオ・ラズベルトの孫で、二十歳にも至ってない年齢だ。

 ハントの父はアーランドラの戦乱の中で死んだ為、若くして領主となった。

 ハントの父を殺したのは誰であろうハントの伯父達で、今やルルム地方はオットーリオの跡を継ぐ後継者争いが激化している。
 ルルム地方はそのため、四つに別れていた。

 ルルム地方はその地域のほとんどを占めるダラワーン湖がある。

 そのダラワーン湖を中心にルルム地方は四つへ別れていた。

 ルルム地方北方、公都パルを治めるのがオットーリオの長男のその息子であるハント。
 
 西方がオットーリオ次男のテルオーネ、東方を三男のゼルドが治めている。

 そして南方が四男のカインであった。

 ルルム地方北方のハントはオットーリオ配下で名を馳せたタハミアーネと彼女が連れて来た隻腕の狼と呼ばれるダルバを要しており、後継者争いに一歩抜きん出た戦力を保有している。

 しかしハントは叔父達とカセイ国に挟まれた土地の為に動きづらかった。
 カセイ国と敵対しているモンタアナ領主カルチュアとキルムと手を組んだのは遠交近攻(えんこうきんこう)の観点からも自然の事であった。

 一方ルルム地方ではこの勇将を従えるハントを倒す為に戦力の拡充に努め、腕に覚えのある勇士を募っている。

 四男カインはルルム地方南端に広がる海岸線の、アンターヤという港町に近年、海賊退治で名を上げた男を探訪していた。

 その男は十年前のアンターヤに突如として現れ、当時、海賊から脅かされていたアンターヤの人々を纏めあげると海賊を退治し、撃退したのである。

 その後にアンターヤは何度も海賊に狙われたが、都度、その男はアンターヤの人々を指揮して海賊を撃退した。

 アンターヤのラドウィン。

 あのラドウィンだ。
 ミルランスと共にラドウィンは戦火から逃れて南端の地、アンターヤへと移住したのである。

 だが、海賊退治は迂闊であった。
 その武勇は既にルルム地方にも聞こえていたのだ。

 勇士を求めるカインの使者がラドウィンの元へと訪れたのも当然の事である。

 太陽は西の彼方へ顔を落とし、月が少しずつ夜空に白銀の肌を覗かせていた時。

 ラドウィンは海岸沿いの酒場にあるウッドデッキで古い弦楽器を弾いていた。

 丸テーブルの向かいにはミルランスが微笑んで、葡萄酒を一口飲んでいる。

「ラドウィンって何でも出来る人のように思えたけど、意外と演奏は苦手なのね」

 ラドウィンの演奏はお世辞に上手く無い。

 ラドウィンは弦を調整する。
 まるで弦の調整不足のせいで下手に聞こえるのだと言うようだ。

「なぁに。まだまだ練習中さ」

 弦を調整して再び弾くと、もっと音が外れてしまった。

 ラドウィンは苦笑し、ミルランスもクスクス笑う。

「お父さんは魚獲るのも苦手じゃん」

 ウッドデッキの下から肘を付く少年がそう言うと、ラドウィンは笑って「アキームの言う通りだ」と言う。

 悪戯な笑みを浮かべている少年はラドウィンとミルランスの息子でアキームといった。

「お父さん、今日も魚を皆から貰ってたでしょ。自分で捕まえた方が良いよ。格好悪いし」

 アキームの言葉にミルランスが「こぉら」と怒ると、アキームは笑ってウッドデッキから離れてしまう。

「夜の海に入っちゃ駄目よ」

 ミルランスの声が夜の海へ飛んでいき、砂浜から子供達の笑い声に混じって「分かってるよ」とアキームの声がした。

 月明かりや海岸沿いの家々から篝火の明かりが海岸を照らしている。

 こう明るい夜の海岸は子供達の遊び場だ。
 今も海岸を子供たちが駆けていた。

 ただし、誰一人として海に近付かないのは、大人達が夜の海が危険だとこんこんと説明しているからである。

 そんな子供達を眺めながらラドウィンが弦を指で弾いていると、店の方が慌ただしくなった。

 何事かと思うと、勢い良く店からウッドデッキへ出る扉が開き、一人の男が現れる。

 どうやら男が騒動の原因のようで、扉の向こうでは店主がひっくり返っているのが見えた。

 その店主というのがあのゴズで、腕に覚えのあるゴズが倒れているのを見るとこの男も相当に腕に覚えがあると思われた。

 男は壮年で、ほほ髭を伸ばしていて、鋭い目をギロりとラドウィンへ向ける。

 男が一歩、ラドウィンに歩み寄ろうとした所、店内から槍が伸びて男の背へ向けられた。

「うちの人を投げ飛ばしといて詫びも無いのかい?」

 レイナだ。

 愛用の槍を向ける彼女は十年前から変わらない覇気に満ちている。
 しかし、お腹は臨月を迎えて大きく出ていた。
 全盛期の動きは難しいだろう。

 男は振り向くと「妊婦とは戦わん。我が子を慈しめ」とだけ言った。

 レイナもお腹の子を思うと動く訳にも行かず、槍を下げるのだ。

 男はその足でラドウィンの前に立つと、手紙を差し出した。

 ラドウィンは「ラズベルト家か」と手紙の封蝋を見て言う。

 男の名前はラズベルト家三男カインの将軍、グィーゼルと自己紹介した。

 カインは戦力を必要とし、海賊退治で名を上げたラドウィンを招こうとグィーゼルを使わしたのである。

「それにしては穏やかじゃないですね」

 ラドウィンが店をチラと見ると、グィーゼルは謝罪した。

「あの男を投げたのは悪意があった訳じゃない。ただ、お主の名を伝えたらいきなり首根っこを掴まれたのだ」

 正当防衛と言うのだ。

 ただ、ゴズもゴズでラドウィンを守ろうとしただけの話である。

 ラドウィンは首を縦に振る気は無かった。

 そこへアキームが戻って来る。

 アキームはグィーゼルが騎士か何かだと気付くと目を輝かせた。

 なぜこんな所に騎士が居るのだろう。
 そんな興味津々なアキームに気付いたミルランスはアキームを連れて海岸へと連れて行った。

「お父さんは大事な話があるから、邪魔にならない所に行きましょ」

 そうして夜に消えるのだが、闇の中から「あの人、騎士様だよね! なんでお父さんと話してるの!?」と興奮する声が聞こえてくるのだ。

 グィーゼルは「子供とはかくも無邪気なものですな」と笑った。

 ラドウィンも微笑み、「子供というものは争い事を好むものです」と酒を一口飲んだ。

 いつだってそうだったし、ラドウィンもまたそうであった。
 それが世の常でもあった。

 モンタアナの悪ガキ、アーヴルの事を思い出す。
 大人達に反発して蛮族の蔓延る森へ入るなど向こう見ずも良いところだ。

 結局、そのアーヴル達もラドウィンの実力を知ると大人しくなったが。

 とにかく子供とは力に憧れるものだ。
 そして騎士は力の象徴であった。

 それは微笑ましい事である。
 だが、ラドウィンは決して戦場と関わろうと思わなかった。

 故に、ラドウィンは絶対に首を縦に振らない。

 グィーゼルも相当に粘ったがラドウィンの意思は硬く、しぶしぶと引き返す事になった。

「また、訪れます」

 そう言うグィーゼルにラドウィンは笑って「何度来ても同じですよ」と答えるのである。
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