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227 マリシアの苦悩と解放。
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――マリシアside――
『お前は姉と比べてなんて劣っているんだ……これ程の家の恥も見たことが無い』
『お姉様に劣っているとはいえ、せめて秀でたものが一つでもあれば可愛げもあるのに』
――そう言われて育ってきた。
私の自尊心はズタボロで、何時もどっちが上、どっちが下と言うのを言われ続けていたと思う。
姉に比べて秀でた物がない。
姉に比べて美しくもない。
姉に比べて――。
それを言われ続けたからか、姉を恨む事はあっても、仲良くする気も起きなくなった。
姉も姉で『あなたは何もできないのね? 何で生まれてきたのかしら』と嘲笑う。
そんな家で過ごしていたら、箱庭師と解ってからはもっと酷くなった。
『無能』『恥さらし』『いなくなるといいのに』と延々と聞かされ、笑われ、私は次第に家では笑わない子供に育った。
箱庭も家には既に箱庭師が居たけれど、私に近寄る事もなく、私も彼に近寄る事もなく。
何時まで経っても箱庭が開かない事、それが理由に婚約の話が来ない事を理由に、更に私は追い詰められて部屋から出ることが無くなった。
そんなある日。気が付けば、リディア様の所へ預けられることが決まっていた。
そこで16歳まで過ごしてから貴族籍を抜けるようにすると言う話があった時は、悔しいと思う気持ちも、何もかも無くなっていた。
何とか虚勢を張ろうとしたけれど、リディア様の前では意味もないもので――。
「私……あと二年此処で過ごせと言われました……。その後で家から貴族籍を抜かせるのだと……言われてきました……っ 役立たずは要らないと切り捨てられたんです」
初めて話した内容だったのに、リディア様は「そうだと思っていたわ」と私の背中を撫でてくれた。
「そうね、貴女に価値が出たら真っ先に利用しようとするような親でしょうし……今のうちにうちの養女になっておくのがお勧めかしら」
「どうせ嫌われているのならそうしたいです……。家にはお姉様がいるから私の事は気にしないでしょうし……」
「では、近いうちにアラーシュ様とお話して、貴女を引き取る事にするわ。年は近いけれどロニエルと一緒にうちの子に! ロニエルもマリシアみたいなお姉様は素敵でしょう?」
「素敵です!!」
「――ありがとうっ」
女は所詮政略結婚の駒に過ぎない。
その駒にすらなれない私は、家を追い出される定めだった。
こんな私を受け入れてくれる所があるのなら、それがリディア様の場所なら、それが良い。
もう自尊心を傷つけられることもなく、言葉のナイフで傷つけられることもなく、ただありのままでも受け入れて貰えるのなら――それが一番私の欲しいものだと知っているから。
「少し、心が軽くなりました。何時もやる気を出して何かしても、そのやる気を何時も奪われていたんです。心にある何かが萎むのが分かるんです……もう傷つきたくない」
「マリシア……どこの時代にも、『毒親』と言うのはいるのね」
「『毒親』……ですか?」
「わたくしの親もそうだったの。わたくしは幸い箱庭を開けていたから、逃げ込んでいただけよ。本当に碌でもない親だったわ。だからわたくし思いましたの。だったらそんな親は要らないし、一人で生きていけるようになろうって。でもその為にはどうしても味方が必要で、その時出会ったのがカイルなのよ」
「そうだったんですね」
「マリシアの味方は箱庭に沢山いるし、わたくしもその一人だわ。もう一人で悩まないで、知りたい事、不安な事は全てぶつけていいのよ? 今みたいにね」
そう言って微笑んでくれたリディア様の笑顔は、まるで包み込んでくれる聖母のようで安心する。
私に価値がないなんて言わない。
私自身を磨き上げて広告塔にさえしてくれると言ってくれる。
磨き上げられた私を両親が売りに出すのは一目瞭然だし、だから本当にリディア様の養女になれるのならなりたかった。
「でも気を付けてね? ダンノージュ侯爵家は恋愛結婚が主なの。政略結婚やお見合いは無いと言っても過言ではないわ」
「そう……なんですか?」
「自分の結婚相手は恋愛で手に入れないとね! 幸い素敵な男性は箱庭には多いわ! それに養子同士なら結婚も可能だし!」
その一言に、クウカが目を見開いて驚いている。
どうかしたのかしら?
「ダンノージュ侯爵家は、自由恋愛が可能なんですね」
「ええそうよ。自由恋愛で結ばれて、しっかりと相手と愛を育めるのなら結婚は了承されるわ」
「そうなんですね……。大きな商家の家になると、貴族と変わらないお見合いが多いんです」
「まぁ、そうなの?」
「オレたちの一番上の兄ちゃんもお見合いなんですよ。愛はその内出来るかもしれないし、出来ないかも知れないけど、跡継ぎを産んでくれればいいって言ってました」
「それはまた、夢も浪漫もない結婚になりそうね」
「俺達は自由恋愛主義なので、父には納得してもらうのには時間が掛りそうですね」
「ナギサさんは結構厳しいのね」
「今でこそダンノージュ侯爵家のお陰で大商家にはなれましたが、色々と苦労はしてきたみたいなので仕方ないです」
「その苦労を一緒に乗り越える妻と上手くいってないと、商売って上手く回らないと思うのだけれど」
「一応父は母の事を愛してはいますよ。じゃないと4人も子供は作らないでしょうし」
「確かに」
そんな会話をしているクウカは私の方を見て、「自由恋愛か」と真面目な顔をしているわ。
どうかしたのかしら?
ナニカを呟いたように聞こえたけれど、それは波の音で聞こえず、ただ弟のナウカがクウカを見て驚いた顔をしていたのだけは分かった。
きっと男にしか分からないことかも知れないわね。
「では、ロニエルとマリシアは我が家の子になると言う事で、これでマリシアの心にある不安は大丈夫そうね」
「はい! 有難うございますリディア様!」
「後は思う存分磨いて、自分が思い描く箱庭を考えられたら最高ね!」
「思い描く箱庭ですけれど、私は女性専用の温泉施設を作りたいです! ダイエットに向いた温泉って何か無いのかしら? いいえ、美肌でも良いわ!」
「そうね。温泉には色々あって、美肌の湯もあれば子宝の湯もあるし、泥湯とかもあるわね」
「「「「泥湯」」」」
「肌がしっとりとするのよ。保湿成分が凄いんですって。全身パックしているような感じかしら? でも洗い流すのは大変そうね。後は、女性は冷えが大敵だから、どちらかと言うと芯から温められるような温泉が良いのかもしれないわ。血行を良くして老廃物を流すの」
「つまり、リディア様の温泉に入るとツヤツヤになるのと同じ感じでしょうか?」
「身体を芯まで温めると、体にたまった悪い物が汗で流れて綺麗になるのよ」
「あの、リディア姉。あの本をマリシアと一緒に見ても良いですか……?」
「ああ、あの本ね。箱庭師なら皆で読んで貰っても大丈夫よ」
「分かりました!」
どうやら温泉の為の秘策になる本があるみたい。
私も色々勉強して、ファビーの温泉に近い素晴らしい女性向けの温泉宿を作りたいわ。
そしたらリディア様のお役にも立てるし、商売としてやっていける気もするもの!
でも商売の事を私がアレコレ考えても、きっと空回りするだけだろうから――。
「リディア様、私がもし素敵な温泉を作れたら、是非売り込んで貰えますか?」
「ええ! 売り込みは任せて頂戴!」
「有難うございます!!」
「ナウカ、俺達も頑張るぞ!」
「兄ちゃん、オレは別に温泉を作りたい訳じゃないけど……でも本は気になるから読む」
「ああ、きっと何かヒントはあるはずだ!」
何かしら、クウカが凄くやる気になっているけれど……。いいえ、私だって負けられないわ!! 私だってファビーに勝るとも劣らぬ温泉を作るんだから!
ターゲット層は女性!
絶対に作って見せる……女性の理想郷!!
『お前は姉と比べてなんて劣っているんだ……これ程の家の恥も見たことが無い』
『お姉様に劣っているとはいえ、せめて秀でたものが一つでもあれば可愛げもあるのに』
――そう言われて育ってきた。
私の自尊心はズタボロで、何時もどっちが上、どっちが下と言うのを言われ続けていたと思う。
姉に比べて秀でた物がない。
姉に比べて美しくもない。
姉に比べて――。
それを言われ続けたからか、姉を恨む事はあっても、仲良くする気も起きなくなった。
姉も姉で『あなたは何もできないのね? 何で生まれてきたのかしら』と嘲笑う。
そんな家で過ごしていたら、箱庭師と解ってからはもっと酷くなった。
『無能』『恥さらし』『いなくなるといいのに』と延々と聞かされ、笑われ、私は次第に家では笑わない子供に育った。
箱庭も家には既に箱庭師が居たけれど、私に近寄る事もなく、私も彼に近寄る事もなく。
何時まで経っても箱庭が開かない事、それが理由に婚約の話が来ない事を理由に、更に私は追い詰められて部屋から出ることが無くなった。
そんなある日。気が付けば、リディア様の所へ預けられることが決まっていた。
そこで16歳まで過ごしてから貴族籍を抜けるようにすると言う話があった時は、悔しいと思う気持ちも、何もかも無くなっていた。
何とか虚勢を張ろうとしたけれど、リディア様の前では意味もないもので――。
「私……あと二年此処で過ごせと言われました……。その後で家から貴族籍を抜かせるのだと……言われてきました……っ 役立たずは要らないと切り捨てられたんです」
初めて話した内容だったのに、リディア様は「そうだと思っていたわ」と私の背中を撫でてくれた。
「そうね、貴女に価値が出たら真っ先に利用しようとするような親でしょうし……今のうちにうちの養女になっておくのがお勧めかしら」
「どうせ嫌われているのならそうしたいです……。家にはお姉様がいるから私の事は気にしないでしょうし……」
「では、近いうちにアラーシュ様とお話して、貴女を引き取る事にするわ。年は近いけれどロニエルと一緒にうちの子に! ロニエルもマリシアみたいなお姉様は素敵でしょう?」
「素敵です!!」
「――ありがとうっ」
女は所詮政略結婚の駒に過ぎない。
その駒にすらなれない私は、家を追い出される定めだった。
こんな私を受け入れてくれる所があるのなら、それがリディア様の場所なら、それが良い。
もう自尊心を傷つけられることもなく、言葉のナイフで傷つけられることもなく、ただありのままでも受け入れて貰えるのなら――それが一番私の欲しいものだと知っているから。
「少し、心が軽くなりました。何時もやる気を出して何かしても、そのやる気を何時も奪われていたんです。心にある何かが萎むのが分かるんです……もう傷つきたくない」
「マリシア……どこの時代にも、『毒親』と言うのはいるのね」
「『毒親』……ですか?」
「わたくしの親もそうだったの。わたくしは幸い箱庭を開けていたから、逃げ込んでいただけよ。本当に碌でもない親だったわ。だからわたくし思いましたの。だったらそんな親は要らないし、一人で生きていけるようになろうって。でもその為にはどうしても味方が必要で、その時出会ったのがカイルなのよ」
「そうだったんですね」
「マリシアの味方は箱庭に沢山いるし、わたくしもその一人だわ。もう一人で悩まないで、知りたい事、不安な事は全てぶつけていいのよ? 今みたいにね」
そう言って微笑んでくれたリディア様の笑顔は、まるで包み込んでくれる聖母のようで安心する。
私に価値がないなんて言わない。
私自身を磨き上げて広告塔にさえしてくれると言ってくれる。
磨き上げられた私を両親が売りに出すのは一目瞭然だし、だから本当にリディア様の養女になれるのならなりたかった。
「でも気を付けてね? ダンノージュ侯爵家は恋愛結婚が主なの。政略結婚やお見合いは無いと言っても過言ではないわ」
「そう……なんですか?」
「自分の結婚相手は恋愛で手に入れないとね! 幸い素敵な男性は箱庭には多いわ! それに養子同士なら結婚も可能だし!」
その一言に、クウカが目を見開いて驚いている。
どうかしたのかしら?
「ダンノージュ侯爵家は、自由恋愛が可能なんですね」
「ええそうよ。自由恋愛で結ばれて、しっかりと相手と愛を育めるのなら結婚は了承されるわ」
「そうなんですね……。大きな商家の家になると、貴族と変わらないお見合いが多いんです」
「まぁ、そうなの?」
「オレたちの一番上の兄ちゃんもお見合いなんですよ。愛はその内出来るかもしれないし、出来ないかも知れないけど、跡継ぎを産んでくれればいいって言ってました」
「それはまた、夢も浪漫もない結婚になりそうね」
「俺達は自由恋愛主義なので、父には納得してもらうのには時間が掛りそうですね」
「ナギサさんは結構厳しいのね」
「今でこそダンノージュ侯爵家のお陰で大商家にはなれましたが、色々と苦労はしてきたみたいなので仕方ないです」
「その苦労を一緒に乗り越える妻と上手くいってないと、商売って上手く回らないと思うのだけれど」
「一応父は母の事を愛してはいますよ。じゃないと4人も子供は作らないでしょうし」
「確かに」
そんな会話をしているクウカは私の方を見て、「自由恋愛か」と真面目な顔をしているわ。
どうかしたのかしら?
ナニカを呟いたように聞こえたけれど、それは波の音で聞こえず、ただ弟のナウカがクウカを見て驚いた顔をしていたのだけは分かった。
きっと男にしか分からないことかも知れないわね。
「では、ロニエルとマリシアは我が家の子になると言う事で、これでマリシアの心にある不安は大丈夫そうね」
「はい! 有難うございますリディア様!」
「後は思う存分磨いて、自分が思い描く箱庭を考えられたら最高ね!」
「思い描く箱庭ですけれど、私は女性専用の温泉施設を作りたいです! ダイエットに向いた温泉って何か無いのかしら? いいえ、美肌でも良いわ!」
「そうね。温泉には色々あって、美肌の湯もあれば子宝の湯もあるし、泥湯とかもあるわね」
「「「「泥湯」」」」
「肌がしっとりとするのよ。保湿成分が凄いんですって。全身パックしているような感じかしら? でも洗い流すのは大変そうね。後は、女性は冷えが大敵だから、どちらかと言うと芯から温められるような温泉が良いのかもしれないわ。血行を良くして老廃物を流すの」
「つまり、リディア様の温泉に入るとツヤツヤになるのと同じ感じでしょうか?」
「身体を芯まで温めると、体にたまった悪い物が汗で流れて綺麗になるのよ」
「あの、リディア姉。あの本をマリシアと一緒に見ても良いですか……?」
「ああ、あの本ね。箱庭師なら皆で読んで貰っても大丈夫よ」
「分かりました!」
どうやら温泉の為の秘策になる本があるみたい。
私も色々勉強して、ファビーの温泉に近い素晴らしい女性向けの温泉宿を作りたいわ。
そしたらリディア様のお役にも立てるし、商売としてやっていける気もするもの!
でも商売の事を私がアレコレ考えても、きっと空回りするだけだろうから――。
「リディア様、私がもし素敵な温泉を作れたら、是非売り込んで貰えますか?」
「ええ! 売り込みは任せて頂戴!」
「有難うございます!!」
「ナウカ、俺達も頑張るぞ!」
「兄ちゃん、オレは別に温泉を作りたい訳じゃないけど……でも本は気になるから読む」
「ああ、きっと何かヒントはあるはずだ!」
何かしら、クウカが凄くやる気になっているけれど……。いいえ、私だって負けられないわ!! 私だってファビーに勝るとも劣らぬ温泉を作るんだから!
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