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255 狂い始める歯車⑦
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――マクシミアンside――
メリンダ事件と呼ばれ、世間では有名なってしまった婚約者。
とは言っても、内々でやった婚約だった為、オレの事は外にはバレていないようだった。
今後もバレる心配は無いだろうと悠々自適に新聞を読み漁り、メリンダの絵が出てくる度に部屋の壁一面に飾っていった。
メリンダとの婚約は、老いた父の昔の友人の息子の子供――と言うややこしい関係だったが、一目メリンダを見た時から『この娘は大物になる』と確信していた。
オレの言う『大物』とは『金になる』と言う事でもあるが、事実モランダルジュ伯爵は対した税収もないのに儲かっていたのは、メリンダの力があってこそだと分かっていた。
嗚呼――彼女に依存しよう。
彼女には働いて貰い、オレは自由気ままに生活するんだ。
それにメリンダはとても見目麗しい。観察対象としても十分魅力的だった。
盲目的に彼女に尽くしたけれど、彼女はそれを嫌がって「婚約破棄だわ」と言って出て行ってしまった。
それでもお互いの家の繋がりから婚約破棄はしなかった。
たまにモランダルジュ伯爵からメリンダの様子を書いた手紙が届いていたし、素晴らしい薬を作っていることも書かれていた。
まさかその薬が原因で、メリンダ事件なんて呼ばれるとは思いもしなかったけれど。
無味無臭の恐ろしい薬を作る魔女。
そう書かれている記事を読んだときはワクワクした。
今は箱庭師と逃げていると言う話だったが、その箱庭師も長くは持たないだろうと思っていた。
箱庭師の残留根とは探そうと思えば探すことが出来る事で有名だ。
何処に出たのかも分かりやすい。
そう思っていた矢先、モランダルジュ伯爵がメリンダの手によって殺されたと言う記事を見た時はゾクゾクした。
血の繋がった実の父親でも容赦なく殺す。
なんて素敵な女性なんだ……こういう刺激を求めていたんだオレは!
それからも逃げ続けたメリンダだったが――ある日我が家にメリンダが現れた。
一人暮らしの気ままな生活だったが故に、メリンダの姿を見た者はいない。
屋敷に招き入れると、メリンダの顔を見て驚いた。
あちらこちらに殴られた跡があり、彼女は泣きながら箱庭師に暴力を振るわれていた事を語った。
ある言葉を切っ掛けに、箱庭師は狂ったようだ。
「辛かったね、悲しかったね。でもここには誰も来ないから安心だよ?」
「そうね、そうね、貴方は人を近寄らせないものね」
「必要な物は幾らでも買ってあげるから、また一緒に住もうね?」
「そうね、そうね、もう殴られるのはコリゴリだわ」
「嗚呼、美しい顔が台無しだ……ポーションがあるから使うかい?」
そう言って中級ポーションを惜しみなく彼女に使うと、元の綺麗な顔に戻った。
嗚呼……真っ直ぐなストレートのくすんだ金髪も、濁った池の底の様な目も、やっぱり彼女は魅力的だ……。
そんな事を思いながらも、メリンダの要望はシッカリと聞くことにした。
新薬を作っているけれど実験になる物が居ない。早く実験したいのにと嘆く彼女の為に、馬車を借りて王太子領へと向かった。
新薬は沢山作ってあった様だし、薬を作る為の薬草もまだ残っているとの事で、王太子領で更に追加の薬草を買い、宿屋で愛を深めながら、深夜になるとオレが冒険者に薬を配っていった。
薬を飲んだ相手を観察し、こんな感じだった、あんな感じだったと話していくうちに、新薬はある程度出来上がっていった様で、メリンダも満足した様子だった。
だが、王太子領で沢山冒険者を殺してしまった為、動きにくくなったこともあり、今度は近いダンノージュ侯爵領に向かった。
その間に作った薬は、また別の新しい薬で、ダンノージュ侯爵領にいる冒険者に飲ませて経過を報告した。
だが、ダンノージュ侯爵領の方がメリンダ事件を知っている冒険者が多すぎた為、直ぐにトンボ帰りすることになった。
「嫌だわ、嫌だわ、これでは物足りないわ」
「次は違う領でやってみようか」
「そうね、そうね。ちゃんとしたお薬を作って人々に安らぎを与えないと……。ストレスは人生の大敵だわ。それを無くすためのお薬なのに、命まで奪っていたら勿体ないわ」
「そうだね、勿体ないね。気持ち良くなるための薬なのに死んでしまっては勿体ない」
「強靭な身体を持つ冒険者はいないのかしら? 出来ればSランク冒険者で試したいわ、とっても試したいわ」
「ダンノージュ侯爵領のSランク冒険者には近づけなかったからね。王太子領なら道具店サルビアに二組いるよ?」
「その人たちを使えないかしら? 警戒するかしら? 困ったわ、困ったわ」
そう悲しそうに口にするメリンダの要望は叶えたかったけれど、彼らの元にもメリンダの薬の事は知られているだろうし難しい問題だった。
冒険者は大体が強靭な身体を持っているけれど……その中でもSランク冒険者となると、騙すのも難しい。
うっかりミスったらこっちの首が飛びかねない。
それではオレの楽しみが減ってしまう。
「仕方ない。冒険者だってそれなりに強靭な身体をしているんだ。メリンダの薬がとってもよく効いたから冒険者達は死んだだけで、メリンダの薬をもう少し弱くして、誰もが使える薬になるように調整しよう?」
「そうね、そうね。私が優秀過ぎるのね?」
「その通りだよメリンダ」
「マリシアとは違って優秀だもの、困ったわ、とっても困ったわ。でもマリシアのように愚図になるわけにもいかないわ?」
「ゆっくりでいいんだよ? ゆっくり薬を完成させよう? そしたらフロレンツィの名の許で君の薬を沢山沢山た――くさん売ってあげる」
「嬉しいわ、とっても嬉しいわ!」
そう語りながら王都の外れにある家に到着した時だった。
ふと、人の気配を感じて周囲を見渡したけれど――気のせいか?
「メリンダ、急いで屋敷に入ろう? 一緒に湯あみをしてまずはお酒でも飲みながら愛し合おう」
「マクシミアンも私の身体が大好きなのね?」
「君はとっても最高だからね」
「困ったわ、とっても困ったわ? 避妊だけはしてくれないと、とっても困るわ?」
「大丈夫だよ、まかせてお、」
「そこまでだ」
急に現れた鎧を着た男に、メリンダは悲鳴を上げてオレの後ろに隠れた。
周囲を見渡す前に屋敷のドアも開き、沢山の憲兵達も現れて驚いた途端、「きゃ!」と言う声と共にメリンダはあっけなく捕まってしまった。
「マクシミアン・フロレンツィ。貴様にはメリンダ・モランダルジュを匿った容疑で逮捕状が出ている。そしてメリンダ・モランダルジュには多数の容疑も掛けられている。御同行願おう」
「やめてやめて! 鞄を返して!」
「メリンダ!」
「証拠となる物は既に押収している。直ぐに城に連れて行け!」
何かの間違いだ。
オレとメリンダの繋がりは家同士しかしらないのに!!
家同士……まさかマリシアがオレの事を話したのか???
一度しかあった事のない、あの家で最も似つかわしくない、真っ直ぐとした瞳と、悪魔に心すら売らなさそうな強い瞳が思い出された。
――マリシアめ!!
「酷いわ、酷いわ! 私はみんなのストレスを消す為に薬を作ってあげていたのに! こんなことってないわ!」
「実の父親さえも殺しておいて何を言う」
「あらあら? 薬に実験はつきものだわ? お父様は苦しんでいたから新しい薬を飲ませてあげたのよ? でも私はとってもとっても優秀だから、とってもとっても強い薬ができてしまっただけなの。あれはちょっとした事故なのよ?」
「箱庭師クウカに対しても同じことをしたのか。お前を匿ったが故に。……話にならん、連れて行け」
「嫌よ嫌よ! 私はまだ薬を作り終わってないのよ! まだまだ実験しないといけないの!」
そう叫ぶメリンダはついに口に布を突っ込まれて身体を縄で縛られると、鉄格子の付いた馬車に投げ込まれていた。
そしてもう一つの馬車にはオレも口に布を突っ込まれ馬車に投げ込まれ、馬車は城の裏門から入ると、罪人用の地下牢に一人ずつ放り込まれた。
かび臭く冷たい湿気の漂う地下牢には、ベッドや毛布すらない。
縄も解かれることなく放り込まれた為、口を塞がれたままで声も碌に出ない!
もがくほど縄は皮膚に食い込み血が流れた。
――それから数刻もせず、地下牢から出されると裁判所で罪状を言われ、オレも加担していた為に死罪が言い渡された。
メリンダは公開処刑として斬首刑が決まり、何度も「嫌よ嫌よ!」と叫んでいたが、誰も聞いてくれる奴などいなかった。
「何故私が死なないといけないの? 私はとってもとっても優れているのよ? 優れた人材は生かしておくべきでしょう? だから、私の代わりに妹のマリシアを斬首刑にすればいいのよ! すごくすごく良いアイディアだわ!」
「マリシア・ダンノージュは、君が恐ろしい薬を作る直前に、彼女の生みの母親によってダンノージュ侯爵家のリディアに預けられている。それに、マリシア嬢はリディアの養女に早い内からなっており、君とは既に縁が切れている。縁の切れた者を代わりに殺せと言うその考えも恐ろしい。まるで悪魔に魂を売ったようだ。だからこそ君を最初に匿った箱庭師クウカも殺されたのだろう」
「クウカは役に立たないんですもの。役に立たない人間は殺すのが当たり前ではないの?」
「「「「………」」」」
「でも、いい実験にはなったわ! クウカは意外としぶとかったの! 死ぬ直前まで頑張ってもがいていたわ! きっと今は私の作った薬がよく効いてストレスからも解放されてこの世から消えた筈よ? 私に感謝こそすれど、恨まれる理由はないもの!」
メリンダの言う通りだ。
感謝こそすれど、恨まれる理由などない。
薬の為に尊い命を差し出したに過ぎないのだから。
「君たちには、何を言っても無駄の様だ」
そう言うと裁判は終わり、オレとメリンダは更にきつく縄を絞められ地下牢に放り込まれた。
そして一週間後――。
先にメリンダは公開処刑となった。
様子を見ることは叶わなかったが、綺麗な血しぶきを上げて死んだことだろう。
嗚呼メリンダ……オレの唯一。
オレも今からそちらに行くよ……。
だからあの世に行ったときはまた――。
◆◆◆
――後に、王国全土を震え上がらせたとして後世にも残る『メリンダ事件』は、次のように語られている。
モランダルジュ伯爵家に生まれた長女、メリンダは優れたスキルを持っていたが、そのスキルは己の歪んだ正義の元に悪用された。
実の父親ですら実験動物のように殺し、自分を匿った箱庭師を殺し、最後は内々で決められていた婚約者の元へと向かい、他の領の冒険者を相次いで殺しまわった。
彼女の言う救いの世界は、ストレスのない世界だと言い、彼女の作る毒薬は人を殺害するか、廃人へとする為の薬であった。
しかし、モランダルジュ伯爵家から貴族籍を抜かれ、別の家の養女となっていた彼女の唯一の妹は姉の残虐な手から逃れていたが、その妹が内々で婚約していた事を思い出し、事件解決へ向かう。
メリンダは死ぬまで自分より劣っていた妹を自分の代わりに殺すよう喚いていたが、そのような事は許されるはずはなく、公開処刑は執行された。
後の医師たちによる話し合いで、メリンダこそがストレスを一番抱えていたのではないか。
自分より劣っていると言う妹に負けたくない一心だったのではないかと言われている。
一番ストレスを抱えていたのは、本人だったのではないかと――。
真相は定かではないが、そうでなくては妹に固執した意味が分からないのだと、語られている。
メリンダ事件と呼ばれ、世間では有名なってしまった婚約者。
とは言っても、内々でやった婚約だった為、オレの事は外にはバレていないようだった。
今後もバレる心配は無いだろうと悠々自適に新聞を読み漁り、メリンダの絵が出てくる度に部屋の壁一面に飾っていった。
メリンダとの婚約は、老いた父の昔の友人の息子の子供――と言うややこしい関係だったが、一目メリンダを見た時から『この娘は大物になる』と確信していた。
オレの言う『大物』とは『金になる』と言う事でもあるが、事実モランダルジュ伯爵は対した税収もないのに儲かっていたのは、メリンダの力があってこそだと分かっていた。
嗚呼――彼女に依存しよう。
彼女には働いて貰い、オレは自由気ままに生活するんだ。
それにメリンダはとても見目麗しい。観察対象としても十分魅力的だった。
盲目的に彼女に尽くしたけれど、彼女はそれを嫌がって「婚約破棄だわ」と言って出て行ってしまった。
それでもお互いの家の繋がりから婚約破棄はしなかった。
たまにモランダルジュ伯爵からメリンダの様子を書いた手紙が届いていたし、素晴らしい薬を作っていることも書かれていた。
まさかその薬が原因で、メリンダ事件なんて呼ばれるとは思いもしなかったけれど。
無味無臭の恐ろしい薬を作る魔女。
そう書かれている記事を読んだときはワクワクした。
今は箱庭師と逃げていると言う話だったが、その箱庭師も長くは持たないだろうと思っていた。
箱庭師の残留根とは探そうと思えば探すことが出来る事で有名だ。
何処に出たのかも分かりやすい。
そう思っていた矢先、モランダルジュ伯爵がメリンダの手によって殺されたと言う記事を見た時はゾクゾクした。
血の繋がった実の父親でも容赦なく殺す。
なんて素敵な女性なんだ……こういう刺激を求めていたんだオレは!
それからも逃げ続けたメリンダだったが――ある日我が家にメリンダが現れた。
一人暮らしの気ままな生活だったが故に、メリンダの姿を見た者はいない。
屋敷に招き入れると、メリンダの顔を見て驚いた。
あちらこちらに殴られた跡があり、彼女は泣きながら箱庭師に暴力を振るわれていた事を語った。
ある言葉を切っ掛けに、箱庭師は狂ったようだ。
「辛かったね、悲しかったね。でもここには誰も来ないから安心だよ?」
「そうね、そうね、貴方は人を近寄らせないものね」
「必要な物は幾らでも買ってあげるから、また一緒に住もうね?」
「そうね、そうね、もう殴られるのはコリゴリだわ」
「嗚呼、美しい顔が台無しだ……ポーションがあるから使うかい?」
そう言って中級ポーションを惜しみなく彼女に使うと、元の綺麗な顔に戻った。
嗚呼……真っ直ぐなストレートのくすんだ金髪も、濁った池の底の様な目も、やっぱり彼女は魅力的だ……。
そんな事を思いながらも、メリンダの要望はシッカリと聞くことにした。
新薬を作っているけれど実験になる物が居ない。早く実験したいのにと嘆く彼女の為に、馬車を借りて王太子領へと向かった。
新薬は沢山作ってあった様だし、薬を作る為の薬草もまだ残っているとの事で、王太子領で更に追加の薬草を買い、宿屋で愛を深めながら、深夜になるとオレが冒険者に薬を配っていった。
薬を飲んだ相手を観察し、こんな感じだった、あんな感じだったと話していくうちに、新薬はある程度出来上がっていった様で、メリンダも満足した様子だった。
だが、王太子領で沢山冒険者を殺してしまった為、動きにくくなったこともあり、今度は近いダンノージュ侯爵領に向かった。
その間に作った薬は、また別の新しい薬で、ダンノージュ侯爵領にいる冒険者に飲ませて経過を報告した。
だが、ダンノージュ侯爵領の方がメリンダ事件を知っている冒険者が多すぎた為、直ぐにトンボ帰りすることになった。
「嫌だわ、嫌だわ、これでは物足りないわ」
「次は違う領でやってみようか」
「そうね、そうね。ちゃんとしたお薬を作って人々に安らぎを与えないと……。ストレスは人生の大敵だわ。それを無くすためのお薬なのに、命まで奪っていたら勿体ないわ」
「そうだね、勿体ないね。気持ち良くなるための薬なのに死んでしまっては勿体ない」
「強靭な身体を持つ冒険者はいないのかしら? 出来ればSランク冒険者で試したいわ、とっても試したいわ」
「ダンノージュ侯爵領のSランク冒険者には近づけなかったからね。王太子領なら道具店サルビアに二組いるよ?」
「その人たちを使えないかしら? 警戒するかしら? 困ったわ、困ったわ」
そう悲しそうに口にするメリンダの要望は叶えたかったけれど、彼らの元にもメリンダの薬の事は知られているだろうし難しい問題だった。
冒険者は大体が強靭な身体を持っているけれど……その中でもSランク冒険者となると、騙すのも難しい。
うっかりミスったらこっちの首が飛びかねない。
それではオレの楽しみが減ってしまう。
「仕方ない。冒険者だってそれなりに強靭な身体をしているんだ。メリンダの薬がとってもよく効いたから冒険者達は死んだだけで、メリンダの薬をもう少し弱くして、誰もが使える薬になるように調整しよう?」
「そうね、そうね。私が優秀過ぎるのね?」
「その通りだよメリンダ」
「マリシアとは違って優秀だもの、困ったわ、とっても困ったわ。でもマリシアのように愚図になるわけにもいかないわ?」
「ゆっくりでいいんだよ? ゆっくり薬を完成させよう? そしたらフロレンツィの名の許で君の薬を沢山沢山た――くさん売ってあげる」
「嬉しいわ、とっても嬉しいわ!」
そう語りながら王都の外れにある家に到着した時だった。
ふと、人の気配を感じて周囲を見渡したけれど――気のせいか?
「メリンダ、急いで屋敷に入ろう? 一緒に湯あみをしてまずはお酒でも飲みながら愛し合おう」
「マクシミアンも私の身体が大好きなのね?」
「君はとっても最高だからね」
「困ったわ、とっても困ったわ? 避妊だけはしてくれないと、とっても困るわ?」
「大丈夫だよ、まかせてお、」
「そこまでだ」
急に現れた鎧を着た男に、メリンダは悲鳴を上げてオレの後ろに隠れた。
周囲を見渡す前に屋敷のドアも開き、沢山の憲兵達も現れて驚いた途端、「きゃ!」と言う声と共にメリンダはあっけなく捕まってしまった。
「マクシミアン・フロレンツィ。貴様にはメリンダ・モランダルジュを匿った容疑で逮捕状が出ている。そしてメリンダ・モランダルジュには多数の容疑も掛けられている。御同行願おう」
「やめてやめて! 鞄を返して!」
「メリンダ!」
「証拠となる物は既に押収している。直ぐに城に連れて行け!」
何かの間違いだ。
オレとメリンダの繋がりは家同士しかしらないのに!!
家同士……まさかマリシアがオレの事を話したのか???
一度しかあった事のない、あの家で最も似つかわしくない、真っ直ぐとした瞳と、悪魔に心すら売らなさそうな強い瞳が思い出された。
――マリシアめ!!
「酷いわ、酷いわ! 私はみんなのストレスを消す為に薬を作ってあげていたのに! こんなことってないわ!」
「実の父親さえも殺しておいて何を言う」
「あらあら? 薬に実験はつきものだわ? お父様は苦しんでいたから新しい薬を飲ませてあげたのよ? でも私はとってもとっても優秀だから、とってもとっても強い薬ができてしまっただけなの。あれはちょっとした事故なのよ?」
「箱庭師クウカに対しても同じことをしたのか。お前を匿ったが故に。……話にならん、連れて行け」
「嫌よ嫌よ! 私はまだ薬を作り終わってないのよ! まだまだ実験しないといけないの!」
そう叫ぶメリンダはついに口に布を突っ込まれて身体を縄で縛られると、鉄格子の付いた馬車に投げ込まれていた。
そしてもう一つの馬車にはオレも口に布を突っ込まれ馬車に投げ込まれ、馬車は城の裏門から入ると、罪人用の地下牢に一人ずつ放り込まれた。
かび臭く冷たい湿気の漂う地下牢には、ベッドや毛布すらない。
縄も解かれることなく放り込まれた為、口を塞がれたままで声も碌に出ない!
もがくほど縄は皮膚に食い込み血が流れた。
――それから数刻もせず、地下牢から出されると裁判所で罪状を言われ、オレも加担していた為に死罪が言い渡された。
メリンダは公開処刑として斬首刑が決まり、何度も「嫌よ嫌よ!」と叫んでいたが、誰も聞いてくれる奴などいなかった。
「何故私が死なないといけないの? 私はとってもとっても優れているのよ? 優れた人材は生かしておくべきでしょう? だから、私の代わりに妹のマリシアを斬首刑にすればいいのよ! すごくすごく良いアイディアだわ!」
「マリシア・ダンノージュは、君が恐ろしい薬を作る直前に、彼女の生みの母親によってダンノージュ侯爵家のリディアに預けられている。それに、マリシア嬢はリディアの養女に早い内からなっており、君とは既に縁が切れている。縁の切れた者を代わりに殺せと言うその考えも恐ろしい。まるで悪魔に魂を売ったようだ。だからこそ君を最初に匿った箱庭師クウカも殺されたのだろう」
「クウカは役に立たないんですもの。役に立たない人間は殺すのが当たり前ではないの?」
「「「「………」」」」
「でも、いい実験にはなったわ! クウカは意外としぶとかったの! 死ぬ直前まで頑張ってもがいていたわ! きっと今は私の作った薬がよく効いてストレスからも解放されてこの世から消えた筈よ? 私に感謝こそすれど、恨まれる理由はないもの!」
メリンダの言う通りだ。
感謝こそすれど、恨まれる理由などない。
薬の為に尊い命を差し出したに過ぎないのだから。
「君たちには、何を言っても無駄の様だ」
そう言うと裁判は終わり、オレとメリンダは更にきつく縄を絞められ地下牢に放り込まれた。
そして一週間後――。
先にメリンダは公開処刑となった。
様子を見ることは叶わなかったが、綺麗な血しぶきを上げて死んだことだろう。
嗚呼メリンダ……オレの唯一。
オレも今からそちらに行くよ……。
だからあの世に行ったときはまた――。
◆◆◆
――後に、王国全土を震え上がらせたとして後世にも残る『メリンダ事件』は、次のように語られている。
モランダルジュ伯爵家に生まれた長女、メリンダは優れたスキルを持っていたが、そのスキルは己の歪んだ正義の元に悪用された。
実の父親ですら実験動物のように殺し、自分を匿った箱庭師を殺し、最後は内々で決められていた婚約者の元へと向かい、他の領の冒険者を相次いで殺しまわった。
彼女の言う救いの世界は、ストレスのない世界だと言い、彼女の作る毒薬は人を殺害するか、廃人へとする為の薬であった。
しかし、モランダルジュ伯爵家から貴族籍を抜かれ、別の家の養女となっていた彼女の唯一の妹は姉の残虐な手から逃れていたが、その妹が内々で婚約していた事を思い出し、事件解決へ向かう。
メリンダは死ぬまで自分より劣っていた妹を自分の代わりに殺すよう喚いていたが、そのような事は許されるはずはなく、公開処刑は執行された。
後の医師たちによる話し合いで、メリンダこそがストレスを一番抱えていたのではないか。
自分より劣っていると言う妹に負けたくない一心だったのではないかと言われている。
一番ストレスを抱えていたのは、本人だったのではないかと――。
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