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256 狂い始める歯車⑧
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――マリシアside――
当たり前にあった日常を壊すのは、とっても簡単で、当たり前の日常と言うのは、一つ歯車が狂うだけでバラバラに壊れる時計のようなもの。
理由なく疎まれる事も、理由なく卑下される事も、理由なく暴力を振るわれる事も無くなったのに、姉のやったことは、王国民がずっとずっと忘れないだろう大量虐殺。
リディア様の作った『破損部位修復ポーション』でも、脳へのダメージは治すことは困難で、亡くなった方の遺体を解剖したところ、脳細胞が変色していた事も分かった。
ポーションを使ってそれなら、父の脳はどうなっていたのか想像すらできない。
海辺で一人、自分はダンノージュ侯爵家に居ていいのかさえも分からないまま、心にぽっかりと穴が開いたまま、押しては引いていく波を見つめていた。
「マリシア?」
「……リディア様」
「隣、座っていいかしら?」
「ええ、どうぞ」
何とか作り笑いでごまかしつつ、隣に座ったリディア様を見ることも出来ず、海を見つめていると、リディア様はゆっくりと口を開いた。
「私の思い違いでなければだけど……マリシアのお姉さんは、貴女の強さに嫉妬していたのね」
「嫉妬……?」
「なんでも完璧だと言われて育った人は、精神面が弱い部分があるの。メリンダはとても精神面が弱かったのだと思うわ。あの薬を作ったのも、きっと自分が逃れる為だったのかもしれないわね」
「そう……でしょうか」
「弱い人は麻痺すると自分や周囲の事が分からなくなりやすいわ。でも貴女の事だけは執着して覚えていたのが答えね」
「……嫌な姉でした」
「……そう」
「何時も悲劇のヒロインを演じて、家族を味方に付ける姉が大嫌いでした」
「そうなのね……」
「あんな事件まで起こして……死刑になって当然です」
「そうね……」
「最初から最後まで狂いっぱなしで嫌になるっ!」
言葉にすればするほど、涙は溢れて。
思えば思う程、声は震えて。
隣に寄り添って、言葉を聞いてくれるリディア様に抱き着き、声を上げて泣き始めると情けなさと悲しさと寂しさが押し寄せてくる。
――それでも、それでも。
リディア様はずっとずっと抱きしめてくれて、ずっとずっと頭を撫でてくれた。
散々泣いて、散々叫んで、落ち着いたころにはお腹が減って、みんなが心配してくれたけれど美味しい食事もシッカリとれて……泣き過ぎてボーっとする頭は中々治らなかったけれど、リディア様を見ると、優しく微笑んでくれてホッとした。
嗚呼――ここが私の帰る場所。
そう思った途端眠くなってしまって、ナウカに支えられながら部屋に戻るとそのまま眠ってしまった。
眠っている間、ずっと誰かがそばに居てくれたような気がする。
悪いモノではなくて……とても優しい、まるで箱庭の神様に見守られているような感じがしていた。
小さな手がずっと頭を撫でてくれているようで安心して――嫌な夢はそれから見ることは無かった。
朝早く起きた私は、温泉で身を清めてから箱庭の神様の元へと向かった。
何となくお礼が言いたくて、心の底から感謝を伝えると、ナウカがやってきた。
「おはようマリシア」
「おはようナウカ」
「良かった、何時ものマリシアに戻ってるような気がするよ」
「それはきっと、この箱庭とリディア様のお陰ね。ここが私の帰る場所だと思ったら、心がとっても楽になったの」
「そうか」
「生まれてからここに来るまでが異常だっただけよ。此処の優しい空気が普通なんだわ」
「確かに、リディア様の箱庭はとっても優しいね。帰る場所にしたくなるのも分かるよ」
「……ナウカの実家も今は大変だと聞いているわ」
「うん、でもダンノージュ侯爵家や兄の結婚相手が支えてくれていて、何とか持ち直しつつあるみたいなんだ」
「良かったわね!」
「うん、この御恩を必ず返したいと思ってる。恩を仇で返す誰かみたいにはなりたくはないからね」
「……そうね」
「昨日、マリシアが寝てから大変だったんよ。王家からの大口依頼も入ってリディア様とファビーが意気込んで、最後はファビーをフォルが、リディア様をカイル様が抱きかかえる形で解散になった」
「なにそれ、どういう状況なのよ。想像は付くけれど」
そう言って笑っていると、ナウカは昨晩を思い出したのか一緒になって笑った。
「何時もの日常に、やっと戻ってきたってことだよ、きっと」
「ええ、何時までも引きずっていたのは私だったのね」
「そうでもないさ。オレもまだ引きずっている。でも、前に進まないといけないんだ」
「うん、私もそう思うわ。この先何度もきっとめげたくなることはあるわ。でも、その度に踏ん張って前を向くしかないんだもの。それが生きるってことなのよね」
「達観したねマリシア」
「嫌でもね」
「リディア様の弟子はリディア様に似るっていうから、オレ達も気を付けないと」
「じゃあ気を付けるのはナウカに任せるわ。私もドンドン前に行くから」
「今度はオレがマリシアを抱き上げて帰ることになるのか」
「頼りにしてるわ」
「分かったよ」
苦笑いしながらも、一緒に居住エリアへと帰る間、ナウカと今後の話をしながら戻っていった。
今なら胸を張って言えることがある。
私の名は、マリシア・ダンノージュ。
リディア様の弟子であり、リディア様とカイル様の30番目の養女であると――。
当たり前にあった日常を壊すのは、とっても簡単で、当たり前の日常と言うのは、一つ歯車が狂うだけでバラバラに壊れる時計のようなもの。
理由なく疎まれる事も、理由なく卑下される事も、理由なく暴力を振るわれる事も無くなったのに、姉のやったことは、王国民がずっとずっと忘れないだろう大量虐殺。
リディア様の作った『破損部位修復ポーション』でも、脳へのダメージは治すことは困難で、亡くなった方の遺体を解剖したところ、脳細胞が変色していた事も分かった。
ポーションを使ってそれなら、父の脳はどうなっていたのか想像すらできない。
海辺で一人、自分はダンノージュ侯爵家に居ていいのかさえも分からないまま、心にぽっかりと穴が開いたまま、押しては引いていく波を見つめていた。
「マリシア?」
「……リディア様」
「隣、座っていいかしら?」
「ええ、どうぞ」
何とか作り笑いでごまかしつつ、隣に座ったリディア様を見ることも出来ず、海を見つめていると、リディア様はゆっくりと口を開いた。
「私の思い違いでなければだけど……マリシアのお姉さんは、貴女の強さに嫉妬していたのね」
「嫉妬……?」
「なんでも完璧だと言われて育った人は、精神面が弱い部分があるの。メリンダはとても精神面が弱かったのだと思うわ。あの薬を作ったのも、きっと自分が逃れる為だったのかもしれないわね」
「そう……でしょうか」
「弱い人は麻痺すると自分や周囲の事が分からなくなりやすいわ。でも貴女の事だけは執着して覚えていたのが答えね」
「……嫌な姉でした」
「……そう」
「何時も悲劇のヒロインを演じて、家族を味方に付ける姉が大嫌いでした」
「そうなのね……」
「あんな事件まで起こして……死刑になって当然です」
「そうね……」
「最初から最後まで狂いっぱなしで嫌になるっ!」
言葉にすればするほど、涙は溢れて。
思えば思う程、声は震えて。
隣に寄り添って、言葉を聞いてくれるリディア様に抱き着き、声を上げて泣き始めると情けなさと悲しさと寂しさが押し寄せてくる。
――それでも、それでも。
リディア様はずっとずっと抱きしめてくれて、ずっとずっと頭を撫でてくれた。
散々泣いて、散々叫んで、落ち着いたころにはお腹が減って、みんなが心配してくれたけれど美味しい食事もシッカリとれて……泣き過ぎてボーっとする頭は中々治らなかったけれど、リディア様を見ると、優しく微笑んでくれてホッとした。
嗚呼――ここが私の帰る場所。
そう思った途端眠くなってしまって、ナウカに支えられながら部屋に戻るとそのまま眠ってしまった。
眠っている間、ずっと誰かがそばに居てくれたような気がする。
悪いモノではなくて……とても優しい、まるで箱庭の神様に見守られているような感じがしていた。
小さな手がずっと頭を撫でてくれているようで安心して――嫌な夢はそれから見ることは無かった。
朝早く起きた私は、温泉で身を清めてから箱庭の神様の元へと向かった。
何となくお礼が言いたくて、心の底から感謝を伝えると、ナウカがやってきた。
「おはようマリシア」
「おはようナウカ」
「良かった、何時ものマリシアに戻ってるような気がするよ」
「それはきっと、この箱庭とリディア様のお陰ね。ここが私の帰る場所だと思ったら、心がとっても楽になったの」
「そうか」
「生まれてからここに来るまでが異常だっただけよ。此処の優しい空気が普通なんだわ」
「確かに、リディア様の箱庭はとっても優しいね。帰る場所にしたくなるのも分かるよ」
「……ナウカの実家も今は大変だと聞いているわ」
「うん、でもダンノージュ侯爵家や兄の結婚相手が支えてくれていて、何とか持ち直しつつあるみたいなんだ」
「良かったわね!」
「うん、この御恩を必ず返したいと思ってる。恩を仇で返す誰かみたいにはなりたくはないからね」
「……そうね」
「昨日、マリシアが寝てから大変だったんよ。王家からの大口依頼も入ってリディア様とファビーが意気込んで、最後はファビーをフォルが、リディア様をカイル様が抱きかかえる形で解散になった」
「なにそれ、どういう状況なのよ。想像は付くけれど」
そう言って笑っていると、ナウカは昨晩を思い出したのか一緒になって笑った。
「何時もの日常に、やっと戻ってきたってことだよ、きっと」
「ええ、何時までも引きずっていたのは私だったのね」
「そうでもないさ。オレもまだ引きずっている。でも、前に進まないといけないんだ」
「うん、私もそう思うわ。この先何度もきっとめげたくなることはあるわ。でも、その度に踏ん張って前を向くしかないんだもの。それが生きるってことなのよね」
「達観したねマリシア」
「嫌でもね」
「リディア様の弟子はリディア様に似るっていうから、オレ達も気を付けないと」
「じゃあ気を付けるのはナウカに任せるわ。私もドンドン前に行くから」
「今度はオレがマリシアを抱き上げて帰ることになるのか」
「頼りにしてるわ」
「分かったよ」
苦笑いしながらも、一緒に居住エリアへと帰る間、ナウカと今後の話をしながら戻っていった。
今なら胸を張って言えることがある。
私の名は、マリシア・ダンノージュ。
リディア様の弟子であり、リディア様とカイル様の30番目の養女であると――。
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