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閑古鳥武器屋休業中
牛歩な恋愛街道
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うっかりルダセイクとハモってしまった。え、いや、でも仕方ないよね?どうしてこの流れで友達?聞いてる限りではどう捉えてもラブだったよ!ライクじゃなくて!ラブ!男同士だけど!もうツッコんだら負けって思っておくさ!
喉まで出掛かっている言葉を必死に抑える俺と、どこか冷めた目を向けるルダセイクに気付くことなく、レオルガさんは更に言葉を重ねていく。
「そう考えれば辻褄が合います。使い魔であるクザリ相手に鼓動が速まったのも、不在時に妙に胸がざわめくのも、クザリが他の輩と喋っているのを見てもやついたのも、駒扱いされて嫌な気持ちになったのも、全部…………友情からくるものだったんですね……!」
…………友情より恋情寄りではと思ってしまったのは、俺だけじゃないはずだ。
「……解決したみたいだし、城を案内しようか、アルジュ」
「えっ?レ、レオルガさんに教えなくていいの?」
「何をだい?」
「いや、だって、あれ絶対友情ではないと思うん、だけど……」
「…………驚いた、それは分かったんだね」
「あれだけ分かりやすかったら、わ……分からない方がおかしいって」
憑き物が落ちたような顔をしているレオルガさんを置いて、すたすたと歩き出したルダセイクの後を慌てて追いかける。
こんな場所でぼっちにされてしまったらたまらない。
「教えてあげてもよかったけど、あの調子じゃ恋だって言っても全力で否定してきそうだったからね。自分で気付かせた方がレオルガのためにもなると思ったんだよ」
「なるほど……」
「──と、いうのは嘘で」
「え」
ぱたり、と閉められた扉。
とんっと軽く肩を押されて、俺はその扉に背中を預ける形になった。
広々とした静かな廊下には、俺とルダセイクしかいない。
そんな静寂の中、ルダセイクの腕が俺を閉じ込めるように伸びてきて背後の扉をこつりと鳴らす。
あれ、なんですかこれ。
俺の逃げ場はどこですか?
何をされるか分からなくて視線をさ迷わせながらだらだらと冷や汗を流す俺に、ルダセイクはくつりと笑みを零す。
「本当は。先にレオルガに恋人が出来てしまうのが悔しかった、って気持ちが大きいかな。自分の恋路はレオルガ達みたく上手くいっていないから、余計にね」
「こ、こいじ?うぇ、あの、え……?」
近い近い近い近い近い顔が近いです魔王様!あれっ、俺、「魔王様」って声に出して呼んでないよね!?
何もしてないのにからかわれる……というか嫌がらせ?されるのは理不尽だ……!
……なーんて、
言 え た ら い い の に !
ああ、チキン野郎から手羽先に進化したい……!
「……まさかとは思うけど、分かってないなんてことはないよね?僕が君を…………好きだってこと」
「ひいいぃっ、手羽先なんて分不相応な夢見てごめんなさ………………、………………………………す、き?」
疑問符と一緒にそう発した瞬間。
ぴたり、と。
時が止まった気がした。
「………………アルジュ」
「はっ……、はいぃっ」
「大切な人だって、言ったよね?」
「いやだってルダセイクの目的はホムラだから、それを売ってる店の店主イコール大切な人……だと、思って…………」
「僕は剣になんて微塵も興味はない。欲しいと言ったのは、君とスムーズに話すためのきっかけに過ぎない。…………それと。君は、僕がところかまわず罰と称して男にキスする奴だと思っているのかい?」
「そ、そんなことは思ってない、けど。いきなりあんなことされたら、からかわれてるか嫌がらせのどちらかとしか考えられないし……っ」
「………………よく分かった。君には回りくどい方法は無意味なようだね。……あと、一つだけ。アルジュは、僕が怖い?」
ぽつりと呟かれた最後の質問にはこれまであった覇気が感じられなくて、俺は思わずルダセイクと視線を合わせてしまった。 至近距離で煌めく瞳には、ただ純粋に知りたいという気持ちが込められているように見えた。
ルダセイクが、怖い?
そんなの、決まってるじゃないか。
「──……そりゃ、怖いよ。何の力も持たない俺なんか、一発で消せる力を持ってるわけだし」
「…………」
「……でも」
「…………?」
「ルダセイクには、小さい頃に命を助けられて、大きくなってからは武器屋としての誇りを護ってくれた。そんな恩人を嫌いになんてなれるわけない。強すぎる力を持ってる所は怖いけど、でも、俺は……ルダセイクの優しいとこは、その、す……好き、だから」
「………………」
「………………」
「………………」
「…………っ!!あっ、い、今のはちが……っ!恋愛感情とかじゃなくて、性格面というか人柄がってことでっ……!」
「……そんなに可愛いことを言って。まさかこの僕にお預けなんて真似、させないよね……?」
Q、魔王様の命令には?
A、逆らえるわけないですね!
──……そんなわけで、俺のセカンドキスは、またしても男で最凶で魔王様なルダセイクに奪われる羽目になった。
優しく触れてくるそれに、初めての時とは違い胸が高鳴ってしまったのは…………気のせいだと、信じたい。
【閑古鳥武器屋休業中】
(オルちゃん、なんだかご機嫌だね)
(ああ。くすぶっていた自分の気持ちに気付けて清々しい気分です)
(え……、何その気持ちって。もしかして俺に対するものだったりして~?)
(……っ!ど……どうして分かったんですか!?)
(だよねー。まさかそんなことはな……、っ、……ええええぇっ!?マジで!?ちょっ、詳しく教えて!)
(……嫌です。お前自身には……言いにくいので)
(大丈夫だって!多分……てか絶対俺もオルちゃんと同じ気持ちだから!)
(そう、なんですか……?クザリも僕のことを、主人ではなく……、と、友達だと思ってくれているんですか?)
(勿論!もう大好き愛してるよオルちゃんっ)
(…………え)
(…………え?)
(最近アルジュがルダセイクを見てもビビらなくなってきたな)
(はい。その代わり真っ赤になってテンパってますけど)
(ま、少し進展したみたいだし、いいんじゃないか?)
(そうですね。ルダセイク君も頑張ってるんですから、そろそろ僕も本気で攻めることにします)
(……?よく分かんねーけど、頑張れよ、メリダール)
(ふふ。頑張りますとも)
(どうしよう……最近ルダセイクのスキンシップが激しすぎて身がもたない……!というか、ル、ルダセイクが俺のことす、すすす好きだなんて今考えても信じられな)
(信じられないなら信じてくれるまで何度でも言ってあげるよ、アルジュ)
(ふぎゃあっ!いっ……いきなり背後に現れて抱きつくのはやめてって、何度も言ってんのに……!)
(アルジュからキスしてくれたらやめてあげるって、何度も言ってるんだけど)
(無理無理無理!そ、そんなの恥ずかしくて出来るわけないじゃん……)
(恥ずかしい?男にキスするのが気持ち悪い、じゃなくて?)
(へ?気持ち悪いなんて思ったことはな……い…………。……すみません前言撤回お願いします)
(了解。拒否権を発動するよ)
(うぁっ、ちょ、どこ舐め……っ!)
喉まで出掛かっている言葉を必死に抑える俺と、どこか冷めた目を向けるルダセイクに気付くことなく、レオルガさんは更に言葉を重ねていく。
「そう考えれば辻褄が合います。使い魔であるクザリ相手に鼓動が速まったのも、不在時に妙に胸がざわめくのも、クザリが他の輩と喋っているのを見てもやついたのも、駒扱いされて嫌な気持ちになったのも、全部…………友情からくるものだったんですね……!」
…………友情より恋情寄りではと思ってしまったのは、俺だけじゃないはずだ。
「……解決したみたいだし、城を案内しようか、アルジュ」
「えっ?レ、レオルガさんに教えなくていいの?」
「何をだい?」
「いや、だって、あれ絶対友情ではないと思うん、だけど……」
「…………驚いた、それは分かったんだね」
「あれだけ分かりやすかったら、わ……分からない方がおかしいって」
憑き物が落ちたような顔をしているレオルガさんを置いて、すたすたと歩き出したルダセイクの後を慌てて追いかける。
こんな場所でぼっちにされてしまったらたまらない。
「教えてあげてもよかったけど、あの調子じゃ恋だって言っても全力で否定してきそうだったからね。自分で気付かせた方がレオルガのためにもなると思ったんだよ」
「なるほど……」
「──と、いうのは嘘で」
「え」
ぱたり、と閉められた扉。
とんっと軽く肩を押されて、俺はその扉に背中を預ける形になった。
広々とした静かな廊下には、俺とルダセイクしかいない。
そんな静寂の中、ルダセイクの腕が俺を閉じ込めるように伸びてきて背後の扉をこつりと鳴らす。
あれ、なんですかこれ。
俺の逃げ場はどこですか?
何をされるか分からなくて視線をさ迷わせながらだらだらと冷や汗を流す俺に、ルダセイクはくつりと笑みを零す。
「本当は。先にレオルガに恋人が出来てしまうのが悔しかった、って気持ちが大きいかな。自分の恋路はレオルガ達みたく上手くいっていないから、余計にね」
「こ、こいじ?うぇ、あの、え……?」
近い近い近い近い近い顔が近いです魔王様!あれっ、俺、「魔王様」って声に出して呼んでないよね!?
何もしてないのにからかわれる……というか嫌がらせ?されるのは理不尽だ……!
……なーんて、
言 え た ら い い の に !
ああ、チキン野郎から手羽先に進化したい……!
「……まさかとは思うけど、分かってないなんてことはないよね?僕が君を…………好きだってこと」
「ひいいぃっ、手羽先なんて分不相応な夢見てごめんなさ………………、………………………………す、き?」
疑問符と一緒にそう発した瞬間。
ぴたり、と。
時が止まった気がした。
「………………アルジュ」
「はっ……、はいぃっ」
「大切な人だって、言ったよね?」
「いやだってルダセイクの目的はホムラだから、それを売ってる店の店主イコール大切な人……だと、思って…………」
「僕は剣になんて微塵も興味はない。欲しいと言ったのは、君とスムーズに話すためのきっかけに過ぎない。…………それと。君は、僕がところかまわず罰と称して男にキスする奴だと思っているのかい?」
「そ、そんなことは思ってない、けど。いきなりあんなことされたら、からかわれてるか嫌がらせのどちらかとしか考えられないし……っ」
「………………よく分かった。君には回りくどい方法は無意味なようだね。……あと、一つだけ。アルジュは、僕が怖い?」
ぽつりと呟かれた最後の質問にはこれまであった覇気が感じられなくて、俺は思わずルダセイクと視線を合わせてしまった。 至近距離で煌めく瞳には、ただ純粋に知りたいという気持ちが込められているように見えた。
ルダセイクが、怖い?
そんなの、決まってるじゃないか。
「──……そりゃ、怖いよ。何の力も持たない俺なんか、一発で消せる力を持ってるわけだし」
「…………」
「……でも」
「…………?」
「ルダセイクには、小さい頃に命を助けられて、大きくなってからは武器屋としての誇りを護ってくれた。そんな恩人を嫌いになんてなれるわけない。強すぎる力を持ってる所は怖いけど、でも、俺は……ルダセイクの優しいとこは、その、す……好き、だから」
「………………」
「………………」
「………………」
「…………っ!!あっ、い、今のはちが……っ!恋愛感情とかじゃなくて、性格面というか人柄がってことでっ……!」
「……そんなに可愛いことを言って。まさかこの僕にお預けなんて真似、させないよね……?」
Q、魔王様の命令には?
A、逆らえるわけないですね!
──……そんなわけで、俺のセカンドキスは、またしても男で最凶で魔王様なルダセイクに奪われる羽目になった。
優しく触れてくるそれに、初めての時とは違い胸が高鳴ってしまったのは…………気のせいだと、信じたい。
【閑古鳥武器屋休業中】
(オルちゃん、なんだかご機嫌だね)
(ああ。くすぶっていた自分の気持ちに気付けて清々しい気分です)
(え……、何その気持ちって。もしかして俺に対するものだったりして~?)
(……っ!ど……どうして分かったんですか!?)
(だよねー。まさかそんなことはな……、っ、……ええええぇっ!?マジで!?ちょっ、詳しく教えて!)
(……嫌です。お前自身には……言いにくいので)
(大丈夫だって!多分……てか絶対俺もオルちゃんと同じ気持ちだから!)
(そう、なんですか……?クザリも僕のことを、主人ではなく……、と、友達だと思ってくれているんですか?)
(勿論!もう大好き愛してるよオルちゃんっ)
(…………え)
(…………え?)
(最近アルジュがルダセイクを見てもビビらなくなってきたな)
(はい。その代わり真っ赤になってテンパってますけど)
(ま、少し進展したみたいだし、いいんじゃないか?)
(そうですね。ルダセイク君も頑張ってるんですから、そろそろ僕も本気で攻めることにします)
(……?よく分かんねーけど、頑張れよ、メリダール)
(ふふ。頑張りますとも)
(どうしよう……最近ルダセイクのスキンシップが激しすぎて身がもたない……!というか、ル、ルダセイクが俺のことす、すすす好きだなんて今考えても信じられな)
(信じられないなら信じてくれるまで何度でも言ってあげるよ、アルジュ)
(ふぎゃあっ!いっ……いきなり背後に現れて抱きつくのはやめてって、何度も言ってんのに……!)
(アルジュからキスしてくれたらやめてあげるって、何度も言ってるんだけど)
(無理無理無理!そ、そんなの恥ずかしくて出来るわけないじゃん……)
(恥ずかしい?男にキスするのが気持ち悪い、じゃなくて?)
(へ?気持ち悪いなんて思ったことはな……い…………。……すみません前言撤回お願いします)
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(うぁっ、ちょ、どこ舐め……っ!)
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