今日も武器屋は閑古鳥

桜羽根ねね

文字の大きさ
10 / 17
閑古鳥武器屋来客中

お菓子な妖精

しおりを挟む
 俺の名前はアルジュ。
 容姿性格共に特に目立ったところがない、平々凡々な町人だ。

 親父の跡を継いでペリトルスという小さな町で武器屋を営んでいるものの、まあ売れ行きはそんなに良いとはいえない。

 今日も今日とて閑古鳥が鳴く店内だけど、昼も過ぎたというのに珍しくルダセイクの姿がない。…………いや、別にルダセイクが毎日ここに来なきゃいけない理由なんてないし、寧ろ最近は違う意味でテンパってばかりだったから有り難いというか。決して淋しいなんて感情は抱いていない、そんなもの浮かんですらいない。

 一人きりの店内で暗示に似た自問自答を悶々と繰り返していると、ふわりと店の中で風が吹いた。

 ルダセイクいわく、この風は誰かが転移してくる予兆らしい。確かに無風地帯で風なんておかしいし、意識してみるとルダセイクが現れる時はいつも風が吹いていた。程なくして現れる人影。俺はてっきりルダセイクだと思っていたんだけど、どうやら違うみたいだ。

 だけど、俺はその人物に見覚えがあった。

「あれ。今日はルダ様いないの」

 巨人のごとき背丈を持つお菓子の妖精、クーロン君。
 眠たげな目で辺りを見渡してルダセイクがいないことを悟ると、クーロン君は残念そうにいつもルダセイクが座っている椅子に腰掛けた。

 いや。
 いやいやいやいや。

 流れ的に帰るところだよね!?
 何で当たり前のように座ってるんですか居座る気ですかお喋りするにしても話しかけづらいんですけど……!

 こういう時こそメリダールに来てほしいのに、店の扉は動く気配すら見せない。
 ……そういえば、そもそもメリダールが来る頻度が最近少なくなっている気がする。いや、俺としてはこれくらいで丁度いいんだけど。うーん、道具屋の仕事が忙しくなってきてんのかな。さくさくと隣から聞こえてくる音をBGMに、そんなことを考え───……さくさく?

 バッと隣を見ると、無表情でクッキーを食べているクーロン君と目が合った。……あれ、確か手ぶらだったはずなのに。

「ん、人間も食べる?」
「へっ?」

 クーロン君が軽く手を振ると、ぽんっという音と共にキャンディが出現した。
それを無造作に放られて、慌ててキャッチする。え、これ貰っていいのか、な?

「あ、ありがと」
「別に礼なんていらない」

 そう言うと、ふいっと視線を逸らしてしまうクーロン君。
 うわー、お菓子の妖精だからこんな力を使えるのかな。菓子好きにはたまらない力だな、うん。

 包装を剥がすと赤色の飴がころりと表れて、反射的にルダセイクを思い出してしまった。…………いやいや、なんて連想してんだ俺!その思考を振り払うように飴を口に含むと、苺の甘い味が広がった。妖精が出した物とはいえ、味は人間の物と変わらないんだな。

「ところでさ、人間の名前はなんつーの?」
「え、俺の?ア、アルジュだけど……」
「そ。俺はクーロン。一応お菓子の妖精」
「あ……、それはルダセイクから聞いたよ。妖精なんて初めて見たんだけどさ、あんまり見た目は人間と変わらないし背も凄く高いしでビックリしたなぁ」
「へぇ、ルダ様から……」
「そういえば、クーロン君はルダセイクの友達なんだっけ」
「クーロンでいーよ。…………そーだね、ルダ様がそう言うなら友達だよ」
「……?何でそんな言い回し……?」
「あれ、気付いてなかった?俺、ルダ様のこと好きなんだけど」
「…………………………は、い?」
「でもルダ様はずっとアルジュのことが好きでさ。それなら仕方ないなって。寂しくないって言ったら嘘になるけど、俺はルダ様が幸せになってくれれば嬉しいから。アルジュ鈍そーだからもっかい言うけど、ルダ様を幸せにしてよね」

 いきなりのカミングアウトに、思考が一瞬停止する。
 え、これ、どう反応すれば……!?というか、クーロンの中ではもうルダセイクと俺がこ……恋人同士だって認識されてんのかな。

 うわ、どうしよう、ここで幸せにしますなんて言ったらルダセイクの告白を受け入れる形になってしまうわけで……っ?

 ──……よし。話題を変えよう!

「そ、それより先にさっ。クーロンから見たルダセイクの話が聞きたいなー……なんて」
「えー……。あんまり長く喋るのめんどいんだけど。……まあいいや」

 超無理矢理な話題転換に何か言われるかと思ったけど、そんなこともなく。
 しかも断られるのを前提で言ったのに了承されてしまった。

 ……や、別に聞きたくないわけじゃないけど。自分の知らないルダセイクの一面があるかもだし。好奇心というか何というか……って誰に言い訳してんだ俺は。

 心の中で一人ツッコミをする俺に構うことなく、

「ルダ様はさ、俺を助けてくれたんだ」

どこか昔を懐かしむような表情で、クーロンはそう切り出した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

あの頃の僕らは、

のあ
BL
親友から逃げるように上京した健人は、幼馴染と親友が結婚したことを知り、大学時代の歪な関係に向き合う決意をするー。

キサラギムツキ
BL
長い間アプローチし続け恋人同士になれたのはよかったが…………… 攻め視点から最後受け視点。 残酷な描写があります。気になる方はお気をつけください。

【完結 一気読み推奨】片想いの相手が「そろそろ恋愛したい」と言ったので、用済みの俺はニートになることにしました。

はぴねこ
BL
 高校生の頃、片想いの親友に告白した。  彼はノンケだったから玉砕して友人関係も終わるものだと思っていた。  もしかすると気持ち悪いと軽蔑される覚悟までしていたのに、彼は「今は恋愛をしている時間がないんだ」と自分の夢を語ってくれた。  彼は会社を興した祖父のことをとても尊敬していて、自分も起業したいと熱く語ってくれた。  そして、俺の手を握って「できれば親友のお前には俺の右腕になってほしい」と言われた。  同性愛者の俺のことを気持ち悪いと遠ざけることもせずに、親友のままでいてくれた彼に俺は感謝して、同じ大学に進学して、大学の頃に彼と一緒にゲームを作成する会社を起業した。  あれから二十年間、本当に二人三脚で駆け抜けてきた。  そして、昨年売り出したVRMMOが世界的に大ヒットし、ゲーム大賞を取ったことを祝うパーティーで親友が語った言葉に俺の覚悟も決まった。 「俺もそろそろ恋愛したい」  親友のその言葉に、俺は、長年の片想いを終わらせる覚悟をした。  不憫な拗らせアラフォーが”愛”へと踏み出すお話です。

成長を見守っていた王子様が結婚するので大人になったなとしみじみしていたら結婚相手が自分だった

みたこ
BL
年の離れた友人として接していた王子様となぜか結婚することになったおじさんの話です。

聖獣召喚に巻き込まれた俺、モフモフの通訳をしてたら冷徹騎士団長に外堀を埋められました

たら昆布
BL
完璧っぽいエリート騎士×無自覚な愛され系

転生エルフの天才エンジニア、静かに暮らしたいのに騎士団長に捕まる〜俺の鉄壁理論は彼の溺愛パッチでバグだらけです〜

たら昆布
BL
転生したらエルフだった社畜エンジニアがのんびり森で暮らす話 騎士団長とのじれったい不器用BL

学園の俺様と、辺境地の僕

そらうみ
BL
この国の三大貴族の一つであるルーン・ホワイトが、何故か僕に構ってくる。学園生活を平穏に過ごしたいだけなのに、ルーンのせいで僕は皆の注目の的となってしまった。卒業すれば関わることもなくなるのに、ルーンは一体…何を考えているんだ? 【全12話になります。よろしくお願いします。】

【短編】乙女ゲームの攻略対象者に転生した俺の、意外な結末。

桜月夜
BL
 前世で妹がハマってた乙女ゲームに転生したイリウスは、自分が前世の記憶を思い出したことを幼馴染みで専属騎士のディールに打ち明けた。そこから、なぜか婚約者に対する恋愛感情の有無を聞かれ……。  思い付いた話を一気に書いたので、不自然な箇所があるかもしれませんが、広い心でお読みください。

処理中です...