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閑古鳥武器屋番外中
初めての乗馬
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「ありがとうございましたーっ!」
店の前で、ガラガラと遠ざかっていく黒塗りの馬車に向かってお辞儀をする。
この町では滅多に見かけない馬車が店を訪れたのは、数十分前の話だ。
──そう、何を隠そう閑古鳥が咽び泣いていた武器屋に、久しぶりに武器を買ってくれるお客様が現れたんだよ……!
しかも馬車に乗ったお貴族様。最初はどうしようかとテンパってたけど、よくよく考えれば俺は貴族より凄い人と付き合ってた。そのことで冷静になれて、接客も商談もそつなくこなせた、と思う。
それにしても、本当に久しぶりに懐が潤った気がする。
今日はいいことが続きそうだと、ほくほく顔で店の中へと戻ると。
「邪魔しているよ、アルジュ」
にこりと綺麗に微笑む魔王様がいらっしゃいました。
……さっき言っていた貴族より凄い人ってのはこの魔王様、ルダセイクのことだ。
色々……なんかもうほんと色々あって、今は俺のこっ……恋人、でもある。
「腰はもう平気なようだね」
「ばっ……!そ、そんなこと普通に口にすんなっ」
「ここには僕達しかいないんだし、別に問題ないだろう?」
「そ、れでも…………やっぱ、恥ずかしいし…………っ」
「……どうしよう、むらっときた」
「なんで!?」
相変わらずルダセイクの思考回路は難解だ。
ツッコミながらも彼の隣に座ると、頬に軽くキスをされた。ルダセイクいわく恋人同士の挨拶らしいけど、一向に慣れることが出来ない。というか慣れるわけないだろ……!
挨拶だから、俺からもルダセイクにキスを返さなきゃいけないんだよな。ほんと、横暴すぎる……けど、嫌ってわけじゃない。
ぎゅっと目を瞑ってほんの少しだけ頬に触れて、素早く顔を離す。
満足そうなルダセイクがちらりと視界に入って……、余計に照れてしまう。
こんな所を人に見られたら絶対憤死するなぁ、俺…………。
「そういえばさっきの人間は客かい?珍しいね」
「あ、うん。武器コレクターらしくって、マイナーな物を集めてるんだってさ。……でもお客さんもだけど、あの馬車すごかったなー……」
「この辺りではあまり見ない物だからね」
「そうそう。まあ馬車ってか馬?すっごい毛並みが艶やかで触りたかったなって」
「アルジュらしいね。…………そうだね、僕が知っている馬でよければ、今度一緒に乗馬でもしないかい」
「えっ!?で、でも俺、馬とか乗ったことないし……」
「大丈夫、僕が同乗するんだから安心して。……それに、こうやってアルジュと話をするのも楽しいけれど、たまにはデートするのもいいだろう?」
デート、という言葉に俺の顔が一気に熱くなる。う……、うわぁ、なんだか恋人って感じだ。照れるけど、嬉しい。
「うん、た……楽しみにしてる」
「期待に添えられるよう、景色の良いコースを探しておくよ」
──そうして。
確かに景色も綺麗で、ルダセイクと一緒に過ごす二人乗りデートそのものはよかったんだけど。
如何せん、馬が普通の馬じゃなかった。
黒い毛並みはカッコ良くて、引き締まった筋肉が眩しい馬だったんだけど、水の中からは現れないよね、普通。うん、ルダセイクが知っている馬って時点で覚悟しておくべきだったよ……。まあ、最後らへんになると俺も楽しむ余裕が出来たけど。少しずつ魔物慣れしてきているかもしれないと思った、今日この頃だ。
【ベタ惚れ魔王と耐性力アップ町人】
(楽しかったけど、やっぱ乗馬って大変なんだなー。結構揺れるし……セイがいなかったら落馬してたかも)
(……もう乗馬は懲り懲りかい?)
(いや、動物(?)と触れ合えるの好きだし、セイさえよかったら、その……、また乗せてほしいな……?)
(勿論だよ、アルジュ。それならもう少し騎乗スキルを上げておこうか)
(あ……、あれ、ルダセイクさん?どうしてベッドに……?)
(…………さあ、上手く乗りこなせるよう、練習を始めようか)
(きっ、騎乗ってそっちの……!?む、無理無理無理無理そんな恥ずかしすぎること出来るわけな)
(何事も経験、だよ)
(や、やめ……っ、アッー!)
店の前で、ガラガラと遠ざかっていく黒塗りの馬車に向かってお辞儀をする。
この町では滅多に見かけない馬車が店を訪れたのは、数十分前の話だ。
──そう、何を隠そう閑古鳥が咽び泣いていた武器屋に、久しぶりに武器を買ってくれるお客様が現れたんだよ……!
しかも馬車に乗ったお貴族様。最初はどうしようかとテンパってたけど、よくよく考えれば俺は貴族より凄い人と付き合ってた。そのことで冷静になれて、接客も商談もそつなくこなせた、と思う。
それにしても、本当に久しぶりに懐が潤った気がする。
今日はいいことが続きそうだと、ほくほく顔で店の中へと戻ると。
「邪魔しているよ、アルジュ」
にこりと綺麗に微笑む魔王様がいらっしゃいました。
……さっき言っていた貴族より凄い人ってのはこの魔王様、ルダセイクのことだ。
色々……なんかもうほんと色々あって、今は俺のこっ……恋人、でもある。
「腰はもう平気なようだね」
「ばっ……!そ、そんなこと普通に口にすんなっ」
「ここには僕達しかいないんだし、別に問題ないだろう?」
「そ、れでも…………やっぱ、恥ずかしいし…………っ」
「……どうしよう、むらっときた」
「なんで!?」
相変わらずルダセイクの思考回路は難解だ。
ツッコミながらも彼の隣に座ると、頬に軽くキスをされた。ルダセイクいわく恋人同士の挨拶らしいけど、一向に慣れることが出来ない。というか慣れるわけないだろ……!
挨拶だから、俺からもルダセイクにキスを返さなきゃいけないんだよな。ほんと、横暴すぎる……けど、嫌ってわけじゃない。
ぎゅっと目を瞑ってほんの少しだけ頬に触れて、素早く顔を離す。
満足そうなルダセイクがちらりと視界に入って……、余計に照れてしまう。
こんな所を人に見られたら絶対憤死するなぁ、俺…………。
「そういえばさっきの人間は客かい?珍しいね」
「あ、うん。武器コレクターらしくって、マイナーな物を集めてるんだってさ。……でもお客さんもだけど、あの馬車すごかったなー……」
「この辺りではあまり見ない物だからね」
「そうそう。まあ馬車ってか馬?すっごい毛並みが艶やかで触りたかったなって」
「アルジュらしいね。…………そうだね、僕が知っている馬でよければ、今度一緒に乗馬でもしないかい」
「えっ!?で、でも俺、馬とか乗ったことないし……」
「大丈夫、僕が同乗するんだから安心して。……それに、こうやってアルジュと話をするのも楽しいけれど、たまにはデートするのもいいだろう?」
デート、という言葉に俺の顔が一気に熱くなる。う……、うわぁ、なんだか恋人って感じだ。照れるけど、嬉しい。
「うん、た……楽しみにしてる」
「期待に添えられるよう、景色の良いコースを探しておくよ」
──そうして。
確かに景色も綺麗で、ルダセイクと一緒に過ごす二人乗りデートそのものはよかったんだけど。
如何せん、馬が普通の馬じゃなかった。
黒い毛並みはカッコ良くて、引き締まった筋肉が眩しい馬だったんだけど、水の中からは現れないよね、普通。うん、ルダセイクが知っている馬って時点で覚悟しておくべきだったよ……。まあ、最後らへんになると俺も楽しむ余裕が出来たけど。少しずつ魔物慣れしてきているかもしれないと思った、今日この頃だ。
【ベタ惚れ魔王と耐性力アップ町人】
(楽しかったけど、やっぱ乗馬って大変なんだなー。結構揺れるし……セイがいなかったら落馬してたかも)
(……もう乗馬は懲り懲りかい?)
(いや、動物(?)と触れ合えるの好きだし、セイさえよかったら、その……、また乗せてほしいな……?)
(勿論だよ、アルジュ。それならもう少し騎乗スキルを上げておこうか)
(あ……、あれ、ルダセイクさん?どうしてベッドに……?)
(…………さあ、上手く乗りこなせるよう、練習を始めようか)
(きっ、騎乗ってそっちの……!?む、無理無理無理無理そんな恥ずかしすぎること出来るわけな)
(何事も経験、だよ)
(や、やめ……っ、アッー!)
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