今日も武器屋は閑古鳥

桜羽根ねね

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閑古鳥武器屋番外中

勘違いラヴァーズ

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 俺、クザリの主であるオルちゃんことレオルガの第一印象は、ヤな奴、だった。

 お高くとまった雰囲気や高圧的な言動、俺みたいな平凡からすると爆発してほしいくらいの容姿。
 とにかくオルちゃんの全てが気に食わなかった。
 ま、一言でいっちゃえば単なる嫉妬なんだけど。

 そんなオルちゃんは、よく外出する魔王様の分も仕事をすることが多かった。俺は色んな場所に飛んで、その土地の魔物の情勢を見てくるという仕事を任された。他にも仕事はあったけど、大半はそれだ。

 そんで魔力が尽きかけて帰ってくる俺を、オルちゃんはもう少し成長しろと悪態をつきつつ抱きしめてくれる。
 魔力供給は、触れる面積が大きい程早く終わる。体液摂取の方がもっと効率はいいけど、最初の頃はそんなの男同士で気持ち悪いと思っていた。
 そう、最初の頃は。

 ほんと、いつからだろうなぁ。
 ストイックに仕事に取り組む姿、好物の果実水を飲んで微笑む姿、文句を言いながらも俺に付き合ってくれる姿、一仕事終えた俺を不器用に労う姿……、とにかく色んなオルちゃんの一面を見て、いつの間にか好きになってしまっていた。

 体液摂取な魔力供給も是非したい。オルちゃんがとろとろに溶けちゃうくらいのキスをしたい。あわよくば抱きたい。

 ……まあでも、この気持ちを伝えることは多分ないだろう。

 男、しかも使い魔からこんなこと言われたら、どん引かれて契約解除してくるのがオチだ。
 それなら、今の主従関係のままでいた方が何倍もマシだと思う。

 ぶすぶすと焦がすような気持ちを抑えていた、そんなある日。
 今日も今日とて仕事を終えて戻ると、オルちゃんの他に魔王様と人間がいた。やっべ、全然見えてなかった。

 ……それにしても、この人間が魔王様の想い人ねぇ。なんというか……親近感が湧く。平凡、って言っちゃ悪いかもだけど、知り合えたら結構いい友達になれそうだ。

 まあ、オルちゃんの命令通りに部屋に戻って、待機することになったけど。

 暇つぶし程度に、読む気もない本をぺらぺらと捲っていると、がちゃりとドアが開く音がしてオルちゃんが入ってきた。

 あれ……?
 なんだかいつもと違って晴れ晴れとしているような気がする。
 初見の奴にはただの仏頂面にしか見えないかもだけど、ずっとオルちゃんを見てきた俺の目をなめてもらっちゃ困る。

「オルちゃん、なんだかご機嫌だね」
「ああ。くすぶっていた自分の気持ちに気付けて清々しい気分です」
「え……、何その気持ちって。もしかして俺に対するものだったりして~?」
「……っ!ど……どうして分かったんですか!?」
「だよねー。まさかそんなことはな……、っ、……ええええぇっ!?マジで!?ちょっ、詳しく教えて!」

 予想外の展開きたこれ!?
 え、うそ、くすぶってた気持ちとかもうあれしかなくね!?
 恋心ってことでいいよね!?つーかそれしか考えらんねぇし!

「……嫌です。お前自身には……言いにくいので」
「大丈夫だって!多分……てか絶対俺もオルちゃんと同じ気持ちだから!」

 お前自身には言いにくい……だなんて、これもう確定でしょ。
 言うつもりはなかったけど、向こうも同じ気持ちなら話は別だ。

 …………告っちゃっても、いいよな?

「そう、なんですか……?クザリも私のことを、主人ではなく……、と、友達だと思ってくれているんですか?」
「勿論!もう大好き愛してるよオルちゃんっ」
「…………え」
「…………え?」

 ──空気が凍った気がした。

 あ、れ?ともだち?友達?そっかー友達かぁ。オルちゃんってば主従関係とかじゃなくて友達って思っててくれてたんだね、なるほどなるほど。
 でも俺は、友達以上の感情を抱いてるんだよね~あっはっは…………。

 ………………やっべえええええええええええええぇぇぇ!!!!!

 誰だよオルちゃんの気持ちが恋心なんて決めつけた奴!
 俺だよ!!!
 馬鹿だよ!もう契約解除ルート突入だよ!選択肢のところまで戻りたいよ!あああああオルちゃんの反応を見るのが怖い…………!!

「………………クザリ」
「っ、な、何?オルちゃん」
「愛しているとは、どういうことですか」
「……ご、ごめ…………気持ち悪いよな。男の俺にこんなこと言われて」
「違う、そうじゃないんです。愛している、という定義を教えてほしいんです」

 ……あー…………、愛とか恋とか無関心っぽいもんなぁ、オルちゃん。
 契約解除されんならもういっそのこと…………吐き出しちゃおうか、な。

「簡単に説明すんのは難しいんだけどさ……。俺は、オルちゃんを見ているだけでドキドキする。沢山触れたいし、触って欲しいし、ちゅーもしたい。言っとくけど魔力供給のためじゃないから。とにかくオルちゃんといちゃいちゃしたい。……オルちゃんが他の悪魔と話してる時は、仕事だって分かっててももやもやするんだよな。嫉妬深いって改めて気づかされたよ。離れている時は早くオルちゃんに会いたくてたまらなくなる。なんかもうぐだぐだで訳わかんねーだろうけど、オルちゃんのことが好きで……好きすぎてどうしようもないんだよ。俺なりの解釈だけど、好きの最上級が愛だと思うんだ。だから、俺はオルちゃんのことを愛してる。主従愛でも、親愛でも、友情でもなく、恋情として」

 ………………言った。
 言い切った。
 目を見ながら言うのは流石に無理だったけど、伝えきった。

 きっとオルちゃん驚いてんだろーな~……。んでもって、汚らわしい物を見るような目ぇしてんのかな。ま、仕方ないけど。

 諦めの境地に立ってオルちゃんを見やった俺は……、自分の目を疑った。

 予想通り驚いていたオルちゃんだったけど、その顔が林檎よりも真っ赤だったからだ。いつもの色白な肌が見る影もなくなっている。

 まさかの激怒!?と身構えた俺に、オルちゃんの掠れた声が届いた。


「……同じ、です…………」
「へっ……?」
「私も。お前が傍にいるだけで動悸が激しくなって、お前が俺以外の奴と一緒にいるのを見ると嫌な気持ちになります。ルダセイクに駒扱いされた時は本気でキレかけましたし、お前が近くにいないと胸がざわめきます。……私は、この気持ちが友情からくるものだと思っていたのですが。どうやら、違うようですね…………」
「ま、待ってオルちゃん。何その究極のデレ。俺、馬鹿だから自分に都合のいいように解釈しちゃうよ?オルちゃんも、俺のことを好きでいてくれてるって…………」
「…………好きでは、ありません」
「っ……!そ、そうだよな。全く、タチの悪い冗談はやめ」
「あ…………、愛しています、クザリ。す、好きの、最上級……なんでしょう?」
「ろ?」

 真っ赤な顔で、必死に、掠れた小さな声で、そんなことを言われて。

 俺の理性の壁は、本能によっていとも簡単に破壊されることになった。


【デレ期悪魔と直情使い魔】


(ね、今度から魔力供給はちゅーでもいい?)
(…………人目のない所なら)
(やった。へへっ、オルちゃん大好き~)
(何度も言わなくても知っています)
(俺は何度でも言いたいの。……今まで以上に大切にするからね、オルちゃん)
(ふん。……それは、こっちの台詞です)
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